AWC コロンブスの卵 5     永山


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#2176/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  92/ 9/21   7:57  (129)
コロンブスの卵 5     永山
★内容
 荒木田の内には、音楽に対する色気が、ゆらゆらと沸き上がってきていた。
無論それは、中西の自殺という出来事に触発されただけなのだ。理由も言わず
にバンドをやめ、そして今度、理由も言わずに死んでしまった中西俊男を恨め
しく思う気持ちもあったが、あの意味不明の日記を見せられると、何とかこれ
を解読したいという感情が起こった。その内容によっては……。
「今まではさっぱり分からなかったんだけど、ある人に聞いたら、置き換え法
ていうのがあるんだって」
「ねえ、何してるの?」
「置き換えって何のことだ?」
「また来てるのか。うるさいな、関係ないことだよ」
「ある文字を他の記号で表すやり方さ。暗号の中では、一番簡単なもの」
「そんなことしてる暇があんだったら、ギター、弾いてよ」
「正次にそんな知識があるとは意外だなあ」
「そんなことだって? 俺達には重要なんだ!」
「さっき言っただろ、友達に聞いたんだ。ほら、推理小説ばっかり読んでる、
本山って」
「じゃ、何やってんのか教えてよ。じゃないとどんだけ重要なのか、分かんな
いよ」
「ああ、それでか。で、その置き換え方式とやらで、この日記の意味が分かる
のか?」
「ああ、もう、うるさい! 頼むから、向こうへ行っといてくれよ。だから女
って」
「いや。……ひろ、うるさいのは君も一緒だよ」
 若生は高橋の質問に答えてから、しょうがないなといった調子で、荒木田に
注意した。
「だってよ、こいつが」
「女の子をつかまえといて、こいつとは何よ」
 田中素美礼が、わざとらしく頬を膨らませた。
 夏休み中だというのに、どこで聞きつけてくるのか田中は、荒木田達が日記
解読のために学校に出て来る日には、たいてい来ていた。
「つかまえただぁ? 俺がつかまえたんじゃない。そっちが勝手につきまとっ
てんだろうが」
「つきまとわれるのは、慣れてんでしょ? 女の子嫌いのクセに、女の子に人
気あるんだから、荒木田君は」
「分かっているなら、つきまとうな! 俺は女が嫌いなの!」
「ギター弾いて。荒木田君以外のギターじゃ、歌えないのよ、あたし」
「嫌だって、前から言ってるだろうが。それにな、先輩に向かって『荒木田君
』とは何だ。ああ、『あたし』ってのもやめてくれ。『わたし』だ」
 イライラがつのっている荒木田は、つばきを飛ばしてまくしたてた。息が上
がってしまっている。
「……言い合いは終わった?」
 若生が、ゆっくり聞いた。高橋の方は、呆れて物も言えないらしい。
「俺としちゃあ、とっくの昔に終わらせてるつもりだけどね!」
「そんなぁ」
 ほっとくとまた始まると思ったか、若生は間を空けずに、次の言葉を挟んだ。
「ねえ、ひろ。とりあえず、何をしているか、教えていいんじゃないか」
「どうして? これは俺達だけの問題だ」
「さっきまでみたいに、うるさくされるよりはマシだよ」
「そう来なくちゃ。若生さん、賢い!」
 田中は手を叩きつつ、そう言った。
「……高橋は?」
「俺? 俺は別に構わないぜ」
「じゃ、教えようか。中西の日記の解読をしてるんだよ、俺達」
 極めて不親切に、荒木田は答えてみせた。
「……中西って、確か、コロンブスのメンバーだった……」
「そう。引越しで抜けたのはこいつだよ。その中西が自殺したんだ−−」
「知ってるわ。新聞、丹念に見てるんだから、あた、じゃなくて、わ・た・し」
「それで、遺されていたのがこれ。写しだけど」
 若生が紙を示した。
「何、それ? 日本語?」
「見た目は日本語じゃないよ。けれど、何かの法則を見つければ、日本語にな
るはずだけどね」
「まだ分からないって訳だ」
「そう気軽に言うけどね、これはさっぱり分かんないよ」
 高橋は頭をひねってみせた。
「そうかなあ。簡単に解けそうだけど」
 事も無げに言う田中。
「誰かさんがうるさくしてて、考えられなかったんだ!」
「ちょっと、もう少しよく見せて」
 荒木田を無視して、田中は続けた。
「出てくるのは、1〜5の数字と、九、十の漢字。アルファベットがえーっと、
F、G、C、E、D、H、Aか。順番に列べるとACDEFGHだよね。Hだ
け小文字だわ」
 横では、若生が新しい紙に、田中の言うことを書き出している。
「あ−−ね、ね。これが解けたら、ギター弾いてくれる?」
「何だよ。それとこれは別だろう」
 荒木田は少しだけ、目付きを鋭くした。
「だけれども、この内容いかんじゃ、バンドを再開するようなことを言ってた
じゃないか」
「ばかっ! 余計な口を聞くな、高橋」
「ええ? やってくれるの?」
「だー! やるにしても、おまえのためにじゃない。俺達だけでやるんだ」
 荒木田は同意を求めるために、若生や高橋の顔を見た。すると、若生が鉛筆
の端で額をコンコンと叩きながら、ふっと言った。
「でも、ギターがいないね」
「俺がいるじゃないか。ボーカルだって、俺がやってやる」
「それだけど、ひろ。前からギターに専念したいって言ってたじゃないか。だ
からさ、この際ボーカルに−−」
「それから先を言うな! こいつがつけあがる!」
 元ミルキィウェイのボーカルを指さしながら、荒木田は叫んだ。
「−−何だ。そんなことを言うってことは、ひろだって、考えていたんじゃな
いの?」
「わっ、ホント? 嬉しいなっ」
「……嫌だ。絶対、女と一緒にはやらない」
「−−そうっ! あーぁ、やだやだ。女に負けたからって、いつまでもうだう
だウダウダと根に持って」
「俺はそんなこと、言ってんじゃない。男の俺達だけで、やって行きたいんだ
よ」
「じゃあ、何で、他の人を捜そうとしないのよ! 中西さんの抜けた大きな大
きな穴を埋めてくれるような人を! わたし、聞いたんだから。捜そうともし
ないで、バンドをやめるって決めたって」
「どうして、そんなことまで知ってい−−」
「どうでもいいでしょ、そんなの! 本当に情熱ってものがあればね、女でも
男でも、必死になって見つけようとするはずよ。夢のためにはね!」
 ずきっと来るものがあった。だが、それを顔に出す訳にはいかない。
「……行こう、正次に高橋。結局、こちらの田中素美礼さんと一緒にいちゃあ、
日記の謎が解けやしない」
 さっと立ち上がり、部屋を出る荒木田。それを追いかける二人。唯一人の一
年生で女子は、その場に立ちすくんだ。
「何よ、逃げるの? 本当に荒木田君て、コロンブスね! せっかく、自分が
見つけた新大陸を、ずっとインドだと信じてたんだから!」


「いいのか、荒木田」
 高橋が後ろを振り返りながら、心配そうにと言うよりも興味深そうに聞く。
「何が?」
「何がって……。まあいいか」
 頭をかく高橋。
「考えてみれば、わざわざ学校に来ることなんてなかった。少し遠いけど、市
立図書館に行こう」
 荒木田は本心を隠して提案した。
「学校の図書室の方が、勝手が分かっていて、使いやすいんだけど」
 若生は笑いながら言うと、さっきの紙をポケットに押し込んだ。
 二人とも、少なくとも今は彼女の話を蒸し返すまいと考えているらしい。例
え、魅力を感じているにしても。
「何トロトロ歩いてんだ? 早く行こうぜ!」


−続く




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