AWC やはりキッパリ忘れていたが   久作


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#2625/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ
★タイトル (gon     )  05/01/10  02:21  ( 66)
やはりキッパリ忘れていたが   久作
★内容
タバコのライター懸賞、1個だけ当選。20口ぐらい送ったので、まぁ人並みの確率ぐ
らいでしょうか。年末に賞品が届いていたが、以前に結果は報告すると云いながら(予
告通り)今までキッチリ忘れてました。

ところで島鵆月白波って明治前半に成立した実録物を読んでいたのだけれども、気にな
る箇所があった。実録物だから、「実録」を銘打った文芸作品、良いところ平家物語と
か軍記物と同レベルの創作に過ぎないが、事実と符合する所もあるって、厄介者だ。
稀代の美女にして悪女、お虎こと大坂屋花鳥が刑死する直前辺り、天保の改革に於ける
娘義太夫大量検挙事件(今でいえばアイドル歌手が派手な格好をしているって罪で一斉
検挙され刑務所に入れられるってこと)を載せ、さも牢名主であった花鳥のもとに放り
込まれたげに書いている。
近世芸能に奇妙なほど詳しかった(娘義太夫に関する論説も数多あり)岡本綺堂は、自
身創作の捕物帖(探偵小説ですな)で、花鳥を取り上げ、入牢させられた娘義太夫が、
次々に花鳥の性的虐待を受けたと記す。夜伽をさせ、相手になったアイドルには翌日、
鰻を馳走したとまで書く。
あれ? と思った。花鳥は確かに作中描く如き凶悪犯罪を連ねたとされる女性だ。遊女
として勤めていた大坂屋に放火したとされ女牢に入れられた。しかし詮議の上でも(即
ち拷問しても)証拠をあげられずに、八丈島に遠島と決まった(本来なら放火は死罪
)。でも八丈島で如何したものか、島抜けに成功。あんな遠い島から、生還する。悪事
を働いていたが再び捕らえられ、再び女牢に入れられる。しかし不思議なことに、当時
は、凶悪犯の方が死刑執行までの時間が長い。上記実録物なんかでは、凶悪犯の方が牢
(雑居房)内で恐れられ、即ち其奴さえ掌握していれば牢内秩序を整えやすいため、長
生きできるものだと云う。事実レベルでは実録物なんざ転居とするに足らぬが、こうい
う感覚面での記述には、頷く所が多い。そうだったのかもしれない。
花鳥は9年ほど入牢した挙げ句、刑場の露と消えた。天保12年4月のことである。美
女の誉れ高かった二十代後半、落語なんかでは刑に臨み婉然と微笑んだとか、どうせ斬
られるならばと首斬り山田浅右衛門を所望し、講談なんかでも美々しく装った花鳥を、
折からの雨に傘を片手に浅右衛門が片手打ちに斬首したとか何とか、堂々たる悪女ぶり
を見せている。
そして問題は名和弓雄「拷問刑罰史」雄山閣(昭和62年初版/へ性6年7版)だが、
此処にも花鳥は、入牢してきた娘義太夫すなわち美少女アイドルたちを喰いまくったと
ある。岡本綺堂の捕物帖と同様記述である。綺堂の近世芸能誌にカンする造形の深さ
は、誰とても認める所だし、こりゃぁテッキリ、転居があると思った。しかも「拷問刑
罰史」一応は考証本であり、事実を伝える所も多い。故に私は根拠となる史料があるか
と、渉猟の旅に出た(いや単に、お隣の香川県立図書館とか広島県立図書館に行っただ
けぢゃが)。しかし、なかなか見つからない。オカシイなと思っているうち、史料とは
いえぬが前出実録物に行き着いた。
あれ??? 花鳥を天保12年の【4月】に処刑!!! 此処で、やっと気が付いた。
水野トンチンカン忠邦の「改革」とやらは、確かに天保12年辺りから始まっている。
けれども、娘義太夫の検挙は【11月】ぢゃなかったか? 以前に読本で取り上げたか
ら何となく覚えてたんだが、4月に処刑された花鳥が、11月に入牢したアイドル美少
女たちを性的虐待した? 間尺に合わん。だいたい、自分が喰ったアイドル美少女たち
に鰻を食わせたって所で気付くべきであったのだ。組閣の大命を受けながら海軍の抵抗
で内閣を後世できなかった清原奎吾は、気だけそそられたとの意味を込めて「鰻香内閣
(マンコーナイカク)」と呼ばれた。鰻を食わしてもらったとは、当然、鰻の香をかが
されたものである。落語にだって、鰻の香りで飯を食う話がある。鰻は鰻香、マンコー
だったと知れる。美少女アイドルたちは花鳥にマンコーを喰わされたのである、って遊
びかよ! 畜生っ! 此処で気付けば20時間ばかり無駄にせずに済んだものを。
如何やら、捕物帖と考証本の連係プレーに引っ掛かっちまったようだ。けっこう時間を
浪費したんだが、うぅむ。しかし綺堂の虚妄とまでは確定していない。他の時に入牢し
たアイドル美少女が毒牙にかかったをズラして創作作品に取り込んだ可能性だって、ま
だ残っている(「拷問刑罰史」の記述にはイーワケの余地もなかろうが)。

上記の如く、なかなか世の中、剣呑である。しかし、今回最大の教訓は、人は己の信じ
たがるモノを信じようとする、ってこと。私も眉唾と思いつつ、かなりの時間を浪費し
た。これほど刺激的で濃厚エロな話題でなかったら、途中で諦め、時間を浪費すること
もなかったろう。花鳥により美少女アイドル性的虐待事件を、事実だと信じたかっただ
けのことだ。まぁ、時系列からの事実確認を怠ったが故の初歩的ミスなんだが、期間に
して一ヶ月ほど、実質二十時間ばかりは棒に振った。

さて、人は思いたいように思う。私だって上記の如き失態をしでかして生きているのだ
が、義務教育を一応は修了している故に、途中で誤解をとくこととなった。皆様には当
たり前の上の当たり前だろうが、なかなか凡俗には難しいときもある。

人は思いたいように思う。どうも、そんな失態をしでかすは私だけではないようだが
(笑)気付くが早ければ早いほど、疵は浅くて済むものだがなぁ。失敬。





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