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米艦隊主力の隊列が大混乱に陥ったのを見て、日本艦隊主力はこの機を逃さず 撤収に移った。相手が戦艦だけなら、逃げ切れると踏んだのだ。確かに、その読 みは的中しそうに思えた。重巡部隊の支援を受けて、傷ついた「山城」が後退し て行く。対する米艦隊は、急遽かき集めたために艦隊運動の擦り合わせが不充分 だったブルックリン級を中心に、部隊の混乱が未だに収拾がつかず、日本艦隊が 米艦隊の射程外まで逃げ延びるのは、時間の問題とも思えた。 だが、第41任務部隊も、このまま黙って日本艦隊を見逃すつもりは毛頭なか った。快速の巡洋艦部隊が役に立たないことを悟ったリーは、旗艦「インディア ナ」と駆逐艦だけで追撃を開始したのだ。 「逃がすな! 一隻でも多く沈めろ!」 リーの叱咤を受けて、「インディアナ」の主砲が火を吹く。成層圏まで届く弧 を描いた巨弾のうちの一発が、殿を務めていた旗艦「青葉」の艦尾を刺し貫き、 4軸のスクリューシャフトのうち1本を叩き折り、2本を捻じ曲げて、行動力の 大半を奪い取った。たちまち隊列から落伍した「青葉」に向かって、「インディ アナ」が数隻の駆逐艦を引き連れて迫る。 損害報告を受けて、五藤少将は覚悟を決めた。 「艦長、面舵だ……すまんな」 塩谷功三郎艦長も、五藤の言わんとすることをすぐに悟り、命令を下す。 「青葉」は、艦尾から火の粉と黒煙を激しく吐き出しながら、生き残った左舷外 側のスクリューと舵を使って90度回頭し、接近する米艦隊に横腹を見せた。そ の甲板上では、連装三基の主砲塔と六門の魚雷発射管が、最後の戦闘に備えて慎 重に狙いを定めていた。 1942年11月19日 大本営発表(18日午後3時) ・帝国海軍南洋艦隊は、去る14日、南太平洋ソロモン諸島海域において、有力 なる米国戦艦部隊と遭遇交戦し、多大なる戦果を挙げた。 ・戦果内訳 一.戦艦1隻撃沈、同1隻撃破 一.甲巡2隻撃沈、同1隻撃破 ・本海戦に於ける我が方の損害 一.戦艦1隻大破 一.甲巡1隻喪失、同1隻大破 一.乙巡1隻中破 ・本海戦を、第四次ソロモン海戦と呼称す。 (朝日新聞 昭和17年11月19日 朝刊記事より抜粋) 新聞記事の上では、ソロモン諸島を巡る戦いの中の一つとしてのみ記録された 戦いだったが、実はこの裏で、戦争の帰趨そのものを左右するほどの重大な事件 が起きていた。ガダルカナル島争奪戦の要、ヘンダーソン飛行場に対して行われ た陸軍の第三次総攻撃が、3000人以上の戦死者と行方不明者を出して、また しても失敗に終わったのだった。さらに、問題はそれだけに留まらない。この総 攻撃によって、ガダルカナルの陸軍部隊は、武器弾薬・食糧・医薬品といった保 有物資の殆どを使い切ってしまい、そのうえ支援に投入された輸送船6隻のうち 実に5隻が航空攻撃と潜水艦によって往路で撃沈されるに及んで、1万数千人に 及ぶガダルカナルの将兵への補給が完全に干上がってしまったのだ。 既に現地の部隊では、食糧の調達に支障を来たし始めたところもあるという。 また、医薬品----特にキニーネを始めとする風土病の予防薬はとうの昔に底を尽 き、マラリアを発病して倒れる兵士も続出していた。ただでさえ食糧が不足して 栄養状態が悪いために、本来助かるはずの者までが、為す術もなく症状を悪化さ せて病死している。このままでは、健全な者の中からも栄養失調や餓死に陥る者 が出始める危険まであった。 こうした危機的な状況の中で開かれた大本営連絡会議は、最初から紛糾する様 相を呈した。あくまでもガダルカナル奪回に固執する陸軍と、陸上部隊の撤退を 優先する海軍との間で、意見が激しく衝突したのだ。特に陸軍は、対米戦におい て主役となっている海軍への嫉妬も手伝って、強硬に撤退に反対した。それどこ ろか、杉山元参謀本部総長や武藤章軍務局長らの発案で、現状からさらに4個連 隊15000人余りの増援の投入まで申し入れてきたのだ。 これには海軍も応じるわけに行かず、双方の主張は全くかみ合わないまま平行線 を辿り、結局、何一つ結論を得られないまま会議は散会となった。 実際、海軍は追い込まれていた。ソロモン戦域に投入した5隻の戦艦は、「扶 桑」を失い、他の4隻も全て傷物となってしまった。二航艦と三航艦は、搭載機 の大半を失って再編成を余儀なくされた。巡洋艦以下の損害も、決して軽微とは 言えない。さらに、貴重な重油を割いてガダルカナルに送りこんだ輸送船も次々 と沈められてしまった。もっとまずいことに、最近になってトラック〜ラバウル 間の航路に米軍のものとみられる潜水艦が頻繁に出没し、独航する輸送船やタン カーを次々と襲っていた。このため、第八艦隊は深刻な燃料不足に陥っていたの だ。追い討ちを掛けるように、復旧なったヘンダーソン飛行場には、B17、B 24といった重爆撃機が多数配備され、連日のようにラバウルに空襲を掛けてく る。これにポートモレスビーからのB25やP38が加わり、そのたびに第八艦 隊の各艦艇は空襲を避けて港外に退避せねばならず、ただでさえ乏しい燃料をさ らに浪費する結果をもたらしていた。 当然、空襲のたびに零戦が迎撃に上がっているのだが、最初のうちこそ、双発 ゆえに動きの鈍いP38の弱点をついて格闘戦でこれを圧倒したものの、相手が 高速とダッシュ力にものを言わせた一撃離脱戦法をとるようになると、零戦の格 闘性能はまるで相手にされず、撃墜率は最近低下の一途を辿っていた。 また、戦闘機乗りの気質も迎撃の効率に悪影響を与えた。元来戦闘機パイロッ トは、「自分たちの相手は戦闘機」だという意識が強い。このため、陸攻の護衛 任務でも、護衛そっちのけで敵迎撃機とのドッグファイトに熱中してしまう者が 少なくない。それでも護衛任務では、敵戦闘機を落とすことが陸攻の安全を高め ることにつながるため、この習性は限定された状況下ではプラスに働いていた。 だが、迎撃任務においては、これは完全なマイナス要因にしかならなかった。 零戦隊がP38に引きつけられている間に、爆撃機は悠々とラバウル上空に侵入 して、爆弾をばら撒いていくのだ。そのため、地上撃破される陸攻や爆撃で失わ れる物資・機材の量がバカにならない。ウェークで鹵獲したブルドーザーを参考 にして、度重なる陸軍上層の妨害と乏しい予算の中、苦心の末ようやく完成に漕 ぎつけ、実地試験のために送られてきた土木作業車の試作機も、到着した当日に 空襲に遭って、輸送船から陸揚げする前にラバウル港の底に沈んでしまった(ち なみに、これをきっかけとして、国産ブルドーザーの開発は完全に中止されてし まった。「被弾に対して脆く、前線での運用に耐えない」という屁理屈が、その 理由だった)。 このようにラバウルの状況は、控えめに言っても深刻と言えるものだった。だ が、年が明けた1月、さらに困難な命令が第八艦隊に下されることとなった。 1943年1月5日 「馬鹿な……駆逐艦で補給物資を運ぶだと!?」 GF本部から命令を携えてきた福留GF参謀長の話を聞いて、三川中将は顔色 を変えた。 「ガダルカナル周辺の制空権は既に敵の手中にあり、通常の輸送船では物資の揚 陸ができないのです。高速で自衛能力もある駆逐艦で、夜陰に紛れて揚陸する以 外にガダルカナルの将兵を救う手立てはありません」 この2ヵ月の間にラバウルからガダルカナルへの航路上で撃沈された輸送船は 大小合わせて8隻、総トン数は26000トンにも達する。これは、トン数だけ で見るなら翔鶴級空母が一隻撃沈されたに等しい。これを受けて、徴用船舶の運 行を管轄する軍令部船舶管理課は、ガダルカナルへの輸送船の投入を渋るように なっている。 「確かに駆逐艦は高速だが、輸送できる量など微々たるものだぞ。爆雷と魚雷を 降ろしても、積める物資はせいぜい4、5トンがいいところだ。これでは、重火 器はおろか、食糧弾薬や医薬品を送るにも事欠くのではないか?」 「不毛な作戦であることは重々承知していますが、今はこれ以外に方法はありま せん----ガダルカナルに孤立した一万名以上の将兵を救う手段は」 堂々巡りの議論はなおも30分近くに渡って続いたが、結局三川は折れざるを えなかった。彼自身、ガダルカナルの将兵が孤立したのは、第八艦隊が無様な戦 をしたからだ----という自責の念に駆られていたのだ。 そしてこの決定が、ソロモンを巡る戦いに新たな転機を招くことになる。 1月9日深夜 ソロモン諸島 ニュージョージア島東方沖 甲板上や艦内の空所に、ドラム缶や木箱などに詰められた物資を満載してラバ ウルを出港した朝潮級駆逐艦9隻を護衛していたのは、田中頼三少将麾下の第二 水雷戦隊と、第三水雷戦隊だった。第三水雷戦隊は、先日の海戦で沈められた 「鬼怒」に代わって、新鋭軽巡の「阿賀野」を旗艦に迎えている。護衛艦隊の駆 逐艦はいずれも特型----ワシントン軍縮条約の申し子とも言える、小型の船体に 重武装を施した艦だった。 旗艦「球磨」の艦橋で、田中司令は暗い海上に目を凝らし、気を揉んでいた。 率いているのがいつもの水雷戦隊だけなら、これほど敵影に神経質になることは ない。例え戦艦部隊と鉢合わせしようとも、必殺の雷撃で仕留めて見せる自信が ある。 しかし今回は、魚雷を降ろしている上に可燃物を満載した駆逐艦を護衛しなが らの隠密行だ。敵艦隊と出くわさないに越したことはない。 だが、航海艦橋に据えられた逆探----レーダーの電波を探知して、敵の位置を 測定する----からの報告を受けたとき、田中は一戦交えずにガダルカナルへはた どり着けないことを悟った。 「逆探に感! メートル波の出力増大中。距離、およそ38000!」 「とうとう見つけたぞ、ジャップめ……この私から、まんまと隠れ仰せられると でも思ったか」 旗艦の軽巡「ブルックリン」の艦橋で、哨戒任務中の第二二任務部隊司令官ダ ニエル・キャラハン少将は、獲物を前にした肉食獣のような壮絶な笑みを浮かべ た。レーダーから、敵艦隊発見の報告を受けた直後である。 米軍がガダルカナルに上陸した直後の9月、夜間に日本艦隊の殴り込みを受け て、キャラハンは乗艦「ボイス」を失った。転覆した給油艦から流出した燃える 重油を浴びて、全艦丸焼けにされてしまったのだ。キャラハン自身は軽い火傷で 助かったものの、乗員の7割が、猛火に包まれ、一酸化炭素などの有毒ガスが充 満する艦内から脱出できずに戦死し、真っ黒く焼け爛れた「ボイス」は、そのま ま廃艦処分となった。 このことは、それまで海軍のエリート中のエリートと呼ばれ、故キンメル提督 の後継者と目されていたキャラハンが、その経歴において初めて味わった挫折だ った。上層部による直接の処罰こそなかったが、人並み以上に高いキャラハンの プライドは、いたく傷ついた。彼にとっては、それは耐え難い屈辱だったのだ。 (今に見ていろ……あの屈辱を、何十倍にも増幅して叩き返してやる……) 復讐に燃えるキャラハンは、漆黒の闇に塗りこまれている窓の外に視線を向け た。まだ姿は見えないが、その先には確かに、憎き日本艦隊がいる筈だった。 ------------------------------------------------------------------------ Vol
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