連載 #4758の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
小学2年生の音楽の時間に、〈絵日傘〉という唱歌を教わった。 順番に一人ずつ立って歌った時、私は自分でもびっくりするほど上手に歌うことが でき、みんなから 「女の子のような奇麗な声だ」 と褒められて、突然目が醒めたような気がした。 『絵日傘』 桜咲いたよ花の道 絵日傘廻して踊りましょ トントロ踊ればハラハラと お袖にこぼれて散りました。 音楽だけでなく他の学科や日常生活においても、私はこの時突如人間が変わったよ うな気がする。それまでの自分は幼児期のおとぎの世界に住んでいて、全てが朦朧と した霧に包まれていたのが、〈絵日傘〉を歌った瞬間から、大人の心理状態に変わっ たのである。誰にでもそういうはっきりした区切りがあるものかどうかは知らぬが、 とにかく私の場合、この時点を境に急に周囲が現実的となり、向上心や意欲・見えや 思惑といった複雑な大人の意識に目覚めたようである。 それ以後、私は自分の学力、殊に歌唱力を密かに自負するようになった。 4年生になったある日のこと、数人の友達が音楽室から帰って来て、口々に賛嘆の 声を上げながら一人の少年を取り囲んでいた。 入学して間もないその少年Aは、学・芸ともに優れた秀才とは聞いていたが、今し 方先生のピアノ伴奏で、唱歌や童謡を何曲も、ものの見事に歌ってのけたらしい。 もともと私の声はガサガサしていて、高音部を歌う時、顎を上げ、喉を絞めつけて しまうが、聞けば、Aは自在に裏声を操って軽々と、しかも美しく歌い上げたと言う ではないか! 私は烈しい嫉妬を覚えた。 6年生の秋に校内音楽コンクールがあり、私たち小学生は、課題曲〈牧場の朝〉と 自由曲を各々1曲ずつ独唱した。 勿論私のライバルはAである。私の自由曲は〈お父さんが居ない〉、Aの歌った自 由曲は何だっただろうか? その頃変声期に入っていた私は、かすれた声で息苦しそうに、やっとの思いで歌い 終えたものだが、Aは元気一杯の歌声で、すこぶる高評だった。 50年を経た今日、Aの多方面に渡る活躍には私など遠く及ばないが、小学生の当 時、既に彼の才能と人気は着実に高まっていったのである。 『牧場の朝』 1、ただ一面に立ちこめた 牧場の朝の霧の海 ポプラ並木にうっすりと 黒いそこから勇ましく 鐘が鳴る鳴るカンカンと 2、もう起き出した小屋小屋の 辺りに高い人の声 霧に包まれあちこちに 動く羊のいく群の 鈴が鳴る鳴るリンリンと 3、今さし昇る日の影に 夢から覚めた森や山 赤い光に染められた 遠い野末に牧童の 笛が鳴る鳴るピーピーと。 『お父さんが居ない』 お父さんが居ない トン トン コトリ 水車の音も 寂しい晩だ ホー ホー ホー ホー フクロウが鳴くに おかあさん もう 寝よう。 私は中学生になっても長い長い変声期が続き、このまま永久に歌えなくなるのでは ないかとさえ思った。 話は少し横道に反れるが、40歳代になって私はひどく喉をいため、思うように歌 が歌えなくなったことがある。他にもちょうどその年齢頃に、喉を患って困ったとい う話をよく聞くことからして、もしかすると、人間には第2変声期というものがある のかも知れない。 いずれにしても、子どもの声から若者の声、そして中年から老人の声へと、人の音 声は徐々にあるいは急激に変わって行くので、それはどうしようもないことである。 盲学校は中途失明の年長生徒が多いので、流行歌がよく歌われる。 高校生になって俄然、私も歌謡曲に熱中し、春日八郎や三橋美知也の歌を好むよう になった。乏しい小遣いの中から買った10数枚のSPレコードは、今も大切にしま ってある。 アルバイト先から通学する道々、鼻歌で〈裏街夜曲〉 〈月夜烏〉 〈街の灯台〉 などを練習したものだが、プロの歌手たちの声の美しさ・呼吸の長さ・小節の巧みさ には感服する他なく、いくら練習しても彼らに遠く及ばないので、さすがプロだけの ことはあると諦めつつも、半ば尊敬・半ば嫉妬の念を抱くのだった。 言わば高校時代の私は、歌謡曲が唯一の趣味だった。昭和30年前後における〈歌 謡曲の第2黄金期〉といわれた頃のことである。 当時はカラオケという物がなかったから、友達にギターやアコーディオンで伴奏し てもらって、送別会などによく流行歌を歌ったが、私は舞台度胸がなく、すぐに上が ってしまうたちなので、満足に実力の出た試しがなかった。 ただ1度、大学を卒業するさいの記念録音と称してテープにふきこんだ〈別れの一 本杉〉は比較的上手に歌うことができたが、これもたまたま、その前日に寮祭があっ て飲み過ぎ、声をからしてしまっていたのが、かえって歌に味を添えたのかも知れな い。 最近カラオケ ブームで、誰もが気軽に流行歌を歌う世の中になったが、私はもう あの頃ほど熱心に歌謡曲を研究する元気がない。しかも近頃の流行歌がどうも私の好 みに合わないのは、おそらく年齢差に基づく『フィーリング』とかの違いによるので あろう。 --------------------------------------------------------------------------
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