連載 #4731の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
新しい登場人物 野辺(のべ) 後藤丹座(ごとうたんざ) 江口ひろみ(えぐち) (麻薬、ね……) 桑田は少なからずショックを受けた。 それはしかし、高校生が麻薬を扱っているかもしれないという疑惑のためで なく、恋人の故郷が汚されるような感じがしたからだ。 「情報源は確かなのかな」 「ええ。これから念のため、少年課に確認を取ります。少しぐらい、噂として 耳に入ってるでしょう」 「分かった。そのまま続けてほしい。これだけ?」 「今のところはそうです。何かあったら、なるべく知らせますから」 電話が終わった。桑田は元の部屋に引き返した。 「失礼をしました。さて、何か動機に思い当たりませんでしたか?」 「いいや」 麟人の返事は変わらなかった。 「そうですか。分かりました。ところで……大きなお世話とは思いますが、ご 家庭の方はうまく行ってたでしょうか?」 「……どういう意味だね」 「矢古田先生にかかっておられたでしょう、百合亜さんは。情緒不安定でした か。それがどこから来たのか、と気になりましてね」 「私達のせいじゃあない」 断定的な口調だった。 「家庭はすこぶる円満だったと」 「ああ、そうだとも。親子の断絶なんてものもなかった。私達はできる限り、 あの子と会話をした。刑事さんは知らんだろうが、あれほどできた子は滅多に いるもんじゃない!」 「お気を悪くされたのなら、お詫びします。でも、疑問は残ります。そこまで よくできた百合亜さんが、どうして情緒不安定になったのか。何故、殺されね ばならなかったのか」 「……分からない」 麟人は苦渋に満ちた面を下に向けた。 「百合亜は強盗か何かに、運悪く殺されてしまった……。それぐらいしか思い 浮かばない」 「可能性は否定しません。が、考えてみてください。一昨日は百合亜さんが、 あなた方に嘘をついてまで外泊しようとしていた。そんな特別な日に限って、 運悪く暴漢に襲われたとは、偶然性が強すぎやしませんか」 「……」 言葉を探す風な浜野夫妻に対し、桑田は続けて聞いた。 「ついでにお聞かせ願えますか。どうして、百合亜さんは嘘をついてまで、外 泊しようとしたのか。思い当たる節はありませんか?」 「……分からんよ。悪い友達はいなかったはずだ」 そこまで答えると、麟人は癇癪を起こしたように立ち上がった。 「一体、いつまでここで油を売っているのかね? 色々と聞かれても、私達は 何も知らんのだよ! 娘が何故あんな目に遭わされなければならなかったのか、 誰が犯人なのか、そういったことを調べるのは、君達警察の仕事だろう? 違 うかねっ」 桑田は上目遣いに浜野家主人を見た。 隣に座る虎間は、どうしたものかと複雑な色をなしていた。 「……その通りです」 言って、桑田は視線を浜野沙羅に合わせた。 「本日はここまでとしておきましょう。また分からないことがあったら、話を 伺わせてください。頼みましたよ」 「……」 「さあ、行こう」 虎間を促した桑田だった。 壇上の校長が、沈痛な表情を見せていた。 「一学期も今日一日というときになって、全校の皆さんに、大変悲しいお知ら せをせねばなりません」 運動場に居並ぶ生徒達に、ざわめきはほとんど起こらなかった。何も知らな い者は騒がないだろうし、噂を耳にしている者は覚悟ができていたからだろう。 「……二年一組の生徒で、我が校の生徒会長でもある浜野百合亜さんが、亡く なりました。昨日、遺体で見つかったのです」 さざ波程度のざわめきが、ちらほらと起こった。主に一年生に多いようだ。 知らなかった者にとっては衝撃的であるに違いない。 「何が原因で亡くなったのかは、まだ明らかになっていません。ですから、生 徒の皆さんは動揺することなく、また、無責任な風評を流すことなく、思慮深 い行動を取るよう、切に願います」 別の意味でのざわめきが起こる。二年生のいる辺りだ。 「他殺なのに何も触れないのかよ」「絞殺だって聞いたぜ」「レイプされてい たんじゃねえの?」といった囁きが、じわじわと広がる。 「静かにせんか! おら!」 生活指導の後藤が、ハンドマイクを通して一喝した。 わずかな間を置いて、しんとなる。 それからも校長は、当たり障りのない話を続けたあと、夏休みの生活に結び 付け、気を緩めることのないよう、美津濃森高校の生徒として、自覚を持って 生活してほしいとしめくくった。 一学期の終業式が全て終わったところで、最後に、先の生活指導の教師が壇 にかけ上がった。 「あー、浜野百合亜さんの事件について、何か知っている者は放課後、職員室 に来て、各担任に申し出るように。それから、事件に関しては何事も学校の外 部に漏らしてはならない。分かったな?」 後藤の話っぷりは威圧的だった。 またざわめきが起こる中、全校生徒は解放された。 「どうなってんだよ」 教室に戻る途中、張元丈は都奈をつかまえた。 「誰が喋ったんだ?」 「私だって知らないわよっ」 振り返りざま、きっ、と相手を睨みつける都奈。 「昨日一緒だった私達の誰も喋ってなんかいないって信じてる」 「……それは、俺だって信じたいさ」 やや気圧されたように、丈は声のトーンを落とした。 「しかし、噂になってるということは、誰かが喋ったってことだぜ」 「確かにそうだけど……私達の他に、事件を詳しく知っている人がいるのかも しれないし……ひょっとしたら」 次の言葉を言い淀む都奈。 「何だよ」 「ひょっとしたらだけど、犯人かもしれないなって……」 「犯人? 百合亜を殺した奴が……学校の中にいるってことか?」 掴みかからんばかりに、また声を大きくした丈。 都奈は落ち着いた態度のまま、人差し指を唇の前に持って行く。 「し。−−可能性を言ってみただけ。不用意に口にするような話じゃない。も っとよく考えてみないと」 「……犯人を見つけるつもりか」 「そうよ。自分の手じゃ無理だろうけど、警察に協力して、できる限りのこと をしてあげたい。百合亜のためにね。そうでもしないと、私……悔しくてたま らない。百合亜が……かわいそう」 突然すぎる悲報に昨日までで出尽くしたかと思っていた涙が、急にわき上が ってきた。都奈は瞼を押さえた。 「も、もう、いないなんて」 「泣くなよ」 丈の声は裏返っていた。 「俺まで、また泣きそうになる」 「……それでいいじゃない」 二人は会話をやめて、静かに教室に向かった。 戻ったところで、松井直助と顔を合わせることができた。生徒会副会長の彼 は、百合亜の代わりに様々な仕事を負わされている。終業式でも、生徒会長の 代役として壇上で話をしていった。 「事件のこと、おまえが言い触らしたんじゃないよな」 「ああ、それ。僕もおかしいなと考えていたんだ」 「誰だと思う?」 都奈が聞いたところで、クラス担任の江口ひろみが来てしまった。 「あとでね」 全員、自分の席に着く。いつもなら多少は騒がしいものだが、今朝は違って いた。 江口の顔色はよいとは言えなかった。胸元に届く髪が、今日ばかりは彼女を 幽霊のように見せる。 「さて」 自らを冷静にさせようという風に、教師は言葉を切った。 「本来なら、浜野さんのことを話さなければいけないのですが、まだ、浜野さ んの亡くなった状況がよく分かっておりません。ですから、事件についてあれ これ言うのは適切ではないと思います。先ほどの集会のとき、指示があったよ うに、知っていることがあれば、私のところへ申し出てきてください。また、 これも指示がありましたが……学校の外で、例えばテレビ局や新聞記者の人が あなた達に話を聞こうとするかもしれません。それには一切、応じないように してください。取材は全て、学校側が一括して受けます。もしこの注意を無視 し、いい加減な話を喋ったとしたら、あとで困るのは、自分になるかもしれな いと、肝に銘じておくように。 じゃあ、次に」 「それだけですか」 声が上がった。 都奈だった。彼女に視線が集まる。 「それだけとは、どういう意味ですか、平和田さん」 江口は目尻をつり上げ気味に応じた。気に入らないと言うよりも、生徒の反 応を恐れている雰囲気があった。 「何も言えないっていうのは、学校の方針でしょうから、先生に抗議したって 仕方ないんでしょう。私達もとりあえず我慢できます。だけど、せめて百合亜 −−浜野さんのために黙祷をするぐらい、あっていいんじゃないですか。殺さ れたんです、彼女!」 都奈の言葉に、江口は明らかにはっとした。 教室の中も、軽いざわめきが起こる。自分達のクラスメートが殺されるとい うショッキングな事件に心を奪われ、当たり前のことがないのに気付かないで いた。その虚を突かれた思いから生じたざわめき。 「終業式のとき、当然、黙祷すると思ってました。でも、なかった。信じられ ませんっ」 「それは……事件の全貌がはっきりするまでは、浜野さんのご冥福を祈るに祈 れないから」 そこまで口走って、江口は大きく首を振った。 「いえ、ごめんなさい。平和田さんの言う通りね。学校も動転してしまってい たから……。今からでも遅くなければ、浜野百合亜さんのために祈りましょう」 「−−お願いします」 都奈は一つ、しゃくり上げた。そしてすとんと腰を落とし、両肘を机につく と、手を組み合わせた。 「みんなもいいわね……。浜野さんの不慮の死を悼んで、一分間の黙祷を行い ます。−−黙祷」 うつむく張元丈は、拳が震えるのを止められなかった。 校長室で待たされていた刑事二人−−北勝と武南−−は、扉の引かれる音に、 改めて表情を引き締めた。 「お待たせしました」 恰幅のよい、しかし顔色の悪い中年男性が入ってきた。 彼は部屋を横切ると、北勝達から見て、右手に腰を下ろした。校長の椅子で はなく、黒いレザーのソファだ。 「校長の野辺です」 「美津濃森警察の武南と申します。こちらは私の上司で」 「北勝です」 武南の言葉に続けて、北勝は短い挨拶をした。 「言うまでもなく、今日、伺ったのは、こちらの生徒さん、浜野百合亜さんが 殺害された件の関連です」 「はあ。私どもも困惑しておるところです」 無理矢理に落ち着かせたような目を、野辺は見せていた。 「我が校の生徒が殺されるなんて、想像もできません……」 「浜野さんについて、校長先生はよくご存知でしたか?」 武南は最初に、肝心要の点をただした。ここでノーの返事があるようだと、 校長に重ねて尋ねるのはほとんど無意味になるかもしれない。 「把握はしていたつもりです」 慎重に言葉を選んでいるようだった。 「一生徒を校長先生が知っているのには、何か理由があるんでしょうかね?」 「何しろ、浜野さんは生徒会長でしたから。とてもよくできた生徒でしたし」 校長の答に武南と北勝はうなずき合った。 「ということは、他の生徒からの信頼も厚かったんでしょうね」 「それはもう、絶大なるものがあったと言って過言でないでしょう。ですから、 犯人がうちの生徒であることは、絶対にあり得ません」 「分かっていますよ。でも、生徒同士の関係には、色々と難しいことがあるも んでしょう。例えば、浜野さんにボーイフレンドがいたかどうか、とか」 武南は苦笑してみせながら、校長の表情を観察した。 −続く
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