連載 #4706の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
5 「これはいったい……」 プロトに案内されたところは、さっきの神殿の裏山から入る別の 入口の近くにある小部屋だった。そこにもきらきらと輝く水晶玉の ようなものをちりばめた遺跡があり、中でも一抱えもある玻璃窓の ようなものが私の目を奪った。壁から完全に離れた箱にはめ込まれ た窓の中に、ルースとレックスの動き回る姿が見えたのだ。 「すごいだろ。この地下道の中を散歩してるときに偶然見つけたん だ。僕も初めて見たときはは肝をつぶしたよ」 プロトが得意げに話した。 「これはたぶん、伝説の中に出てくる『もにた』とかいうものだわ。 こんなに鮮明に見えるものだったのね」 驚きのあまり、口調が乱れてしまっていることに気づかなかった。 遺跡と聞くと目の色を変えるルースの気持ちがわかるような気がす る。 「ほんとにこの遺跡は生きてるんだわ」 「お山が噴火したせいなんだ」 「ティシュトリヤ山の噴火?」 もにたから片時も目を離さずに尋ねる。 「うん、実はここを隠れ家にしようと言い出したのは僕なんだ」 「ここはプロトが噴火のずっと前に見つけたの」 ケイラが補足した。 「その時には動いてなかったのね?」 「うん。レックスたちと初めてここに入ったとき、トップス……お ばちゃんの足を蹴ったあの子が暗いって泣き出したんだ」 「それで、レックスがあやしながら、明かりが欲しいって言ったの。 そしたらちょうどそのとき地震が起こって……」 「急に天井の灯りが点いたんだ」 わたしの頭に『ユニット』という言葉が浮かんだ。 「まさか……あれこそ伝説のはず」 伝説によれば、遺跡を制御する能力を持ったユニットというもの が存在するという。しかし、これまでそれらしいものが見つかった ためしはない。見つけたものはそれこそこの世を支配することも可 能だろう。 だが、レックスのあの力、あの動き、増大する能力、とても人間 ともエルフとも思えなかった。しいて言えば、わたしの師匠のルー スに近いものを感じる。ルースは古い一角エルフの種族だと聞いて いる。角は昔切り落としてしまったらしい。 確かにルースの能力はほかの神官長と比べてもずば抜けていた。 ただ、それは体術に限ったことで、遺跡の水晶玉を光らせる能力や 伝説・伝承についての記憶力ならば、ルース以上の神官長はいくら でもいる。ルースがユニットとは思えなかった。 わたしはレックスの動きを見逃すまいと、もにたにかじりついた。 「あの子、ルースと闘いながらだんだん強くなってるみたいだわ」 二人の動きを見ながらつぶやく。 「レックスって頭いいのよ。施設ではじめて会ったときにはまとも にしゃべれなかったのに、あたしたちと話してるうちにみるみる言 葉を覚えていったの」 「まともにしゃべれなかったって?」 「まるで赤ちゃんみたいだったの」 「でも、あの子十三、四歳ぐらいでしょ? それまでどうしてたの かしら?」 「噴火の前のことは覚えてないんだって。気が付いたらお父さんが ティシュトリヤ山から助けだしてくれてるところだったって言って たわ」 「お父さんがいたの? それなのにどうして施設に?」 「お父さんってのはレックスがそう思ってるだけだと思うの。アロ ザおじさんは子供いなかったもん」 どこかで聞いた名前だ。ケイラの話が思考を中断した。 「ひどい話なのよ。アロザおじさん、噴火の二、三日後に崩れた建 物の下敷きになっちゃって、レックスが助けを呼びに行ったんだけ ど、言葉がわかんなくてうろうろしてるうちに施設に入れられちゃ ったの。ようやく話がわかって戻ってみたら、アロザおじさん、も う死んでたって。それで施設に逆戻りよ」 ようやく思い出した。 「アロザおじさんって、もしかして漁師のアロザ?」 「おばちゃん知ってるの?」 「名前だけね。それじゃ、噴火のときにアロザが山で拾った女の子 って……」 「レックスだよ」 噴火とともにあらわれた巨人、その噴火のさなかに洞窟で眠って いた少女。しかも、見つかったときにはまともにしゃべれなかった のに、ほんの数日で普通に会話し、ひと月も後にはわたしを挑発で きるほどになっている。こちらの技術は見る間に自分のものにでき て、危機に陥ればまだ隠されている力を発揮する。 いまさらだが、レックスがただの少女のはずはない。 「ルース、危ないっ」 もにたの中で、レックスの短剣がルースの背中に突きささった。 鉄杖でレックスを退けたものの、内臓が傷ついているらしく、口か ら吐血している。 「プロト、ここからあそこへはどうやって行けばいい?」 「行ってみても、おばちゃんじゃ今のレックスにはかなわないよ」 「ルースを助けなきゃ。お願い」 「こっちよ」 ケイラがわたしの手を取った。部屋を出て回廊を走る。しばらく 行くとさっき動いた壁のところに出た。 「あなたたちはここにいて。危ないから」 「おばちゃんも気をつけて」 「ありがとう」 広間に入ると、鉄の筒を振りまわすレックスがルースを追い詰め ていた。短剣は背中に刺さったままで、切っ先が胸から突き出てい る。 飛礫を取り出してレックスに放った。簡単に打ち落とされたが、 ルースの逃げる時間は作れた。 「おばさんと交代かい、坊や? なんなら二人がかりでもいいんだ よ」 レックスは余裕だった。短剣をルースに突き刺したことで勝利を 確信しているようだ。悔しいが確かにわたしでは力不足だし、手負 いのルースにも勝ち目はない。 「マイラ、これを抜いてくれ」 ルースがわたしのそばにやってきた。 「でも、抜いたら出血で危ないですよ」 「いいから。刺したままだと傷がうまく治らないんだ」 「そんな早く治るわけが……」 「さっさとやるんだ、マイラ=ジェネリーズ」 神殿付属学院長だったときの口調だ。 「は、はい」 柄に片手をかけ、布を持ったもう一方の手で傷口を押さえながら 一気に引き抜いた。さっき刺されたばかりとは思えない重さだ。見 ると、短剣に肉片が付いている。もう癒着が始まっていたのだ。放 っておいたら体の一部になっていたかもしれない。 「よし、下がっていてくれ」 ルースが鉄杖を構えて一歩前に出る。 「死にぞこないが止めをさして欲しいのかい」 レックスが鉄の筒を振りあげた。 「望みどおりにしてやるよ」 筒を鉄杖で受けたルースは、レックスの腹に蹴りを入れて距離を 取った。両手を伸ばして鉄杖をからだの前に立てる。口の中で何事 がつぶやきはじめた。 次の攻撃に移ろうとしたレックスの動きが止まった。手足を動か そうとしているらしいが、体が小刻みに震えるだけだった。額には 脂汗を浮かべている。 「きさま……何を……した」 ようやくレックスが口を動かした。それだけでもかなり消耗する ようだ。 「止まれ、と命じただけさ。危ない場面で力が増大するのは君だけ じゃない」 ルースもけがのせいだけとは思えない汗だった。見えない火花の ようなものが二人の間を行き交っているみたいだ。間に入ったら体 を引き裂かれるのではないかとさえ思えた。 「ぐおお、きさまなんかに……」 レックスが呻く。二人の間にはまったく何も見えなかった。ただ にらみ合っているだけなのに、レックスは動きを封じられていた。 「ルース、レックスはティシュトリヤ山の噴火のときに漁師のアロ ザに拾われた例の女の子です」 もしさっきの思い付きが当たっているとしたら、レックスを封じ ているのはルースが遺跡の水晶玉を光らせたのと同じ力ということ になる。やはりレックスは遺跡の一部なのかもしれない。 「やっぱりそうか。『飛魚』が跳梁しはじめたのも噴火の後だと言 ってたから、そんな気はしてたよ」 「だったらどうした」 レックスの右手が少しだけ前に出た。大量の汗が床に滴る。ルー スの腕にも力がこもり、再びレックスの動きが止まった。 「ちくしょう……あたしの腕だろ。動けよ。動いてくれえ」 レックスがそう叫んだとたん、岩と岩がぶつかるような大きな音 とともに広間全体が揺れた。 「きゃあ〜」 「レックス、おばちゃん」 プロトとケイラの悲鳴が聞こえた。慌てて背後を振り返る。広間 の外の回廊の壁が崩れ、その下の床にプロトが腹這いになっていた。 ケイラの姿は見えない。まだ揺れの続いている床を走ってそばに行 くと、ケイラが崩れた壁の向こうに落ちて、その腕をプロトが支え ていた。 壁の向こうは空洞で、床の端がそのまま絶壁のように真下に続い ている。暗くて底までは見えない。その闇の奥から地鳴りとも巨大 な獣の咆哮ともつかないうなりが聞こえた。音の源は少しずつせり 上がってきていた。 「ケイラ、つかまって」 急いでひっぱりあげて腕に抱いた瞬間、目の前に巨大な鉄の柱が 生えた。うなりの主はこいつだった。こちらに向かって倒れてくる。 ケイラを抱えたままプロトの手を取って飛びのいた。さっきまでわ たしたちのいたところに柱が横たわった。 「急に後ろの壁がなくなっちゃったの」 ケイラがわたしにしがみついて泣きじゃくった。ショックが大き く、自分で歩くのは無理みたいだ。 再び柱が起き上がり、こちらめざして進んできた。今の柱のほか にも三本の柱が壁を壊して出現した。広間に逃げるしかなかった。 「ルース、ここから逃げないと危険です」 二人はまだにらみ合っていた。レックスの動きは封じたものの、 背中を刺されているルースにとってもそれが精一杯のようだ。 重い衝撃を伴った音響とともに回廊の入り口が崩れ、四本の柱が 広間に入ってきた。それが広がって持ち上がる。 「掌みたいだ」 プロトの言うとおり、まさに巨大な掌だった。鉄の柱は指だった のだ。 「遺跡の暴走です。ルース、早く避難しないと」 「暴走じゃない。レックスが動かしてるんだ」 「あたしが?」 ルースの言葉はレックスにも意外だったようだ。 「そうだ。君が腕に動けと命じたからあの腕は動いたんだよ」 「ばかな。ぜんぜん意のままにならないじゃないか」 「慣れてないからね。あの腕は生まれたばかりの赤ん坊と同じだよ」 プロトがつまずいた。足が床のひび割れに挟まっている。腕が接 近してきていた。プロトは腕を見て呆然としている。ケイラも脅え て動けない。あの重量相手に何の効果もないとわかっていたが、プ ロトとケイラを上から抱いてかばうしかなかった。背中に風圧を感 じた。腕がわたしたちの上を旋回していた。 「だめ、あんた、止めて。あたしを止めたようにあの腕を止めて」 レックスがルースに救いを求めた。 「僕には無理だ。君が止めるんだ、レックス」 腕が天井の明かりを遮る中、レックスの絶叫が響いた。わたしは からだの下の二人を抱きしめて目を閉じた。 うなりがやんだ。 目を開けて顔をあげると、ルースがわたしたちの真上の指を支え ていた。レックスは床に倒れている。 「マイラ、早くそこをどいて」 わたしはプロトの足をひび割れから外し、二人を抱いて指の影か ら逃れ出た。ルースが後ろに下がると指が地面を打った。 「ルース、早く脱出しないと」
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