連載 #4683の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
新しい登場人物 西門卓(さいもんすぐる) 松井風見(まついかざみ) 張元英道(はりもとえいどう) 張元夏江(はりもとなつえ) 秀美(しゅうび) 利根勇也(とねゆうや) 黒木(くろき) 山藤礼夫(さんとうれお) *名前だけ登場・・・松井平太(まついへいた)、高井戸喜子(たかいどよし こ) 「パープー、パープー、パープー……」 聞こえるか聞こえないかの小さな声で、口をぼそぼそさせている。背の高い その男は、頭の上に大きな懐中電灯を掲げ、夜道を歩き回っていた。街灯もな い山道のこと、頭頂部を輝かせた若い彼は、どこを見つめているのか分からな い目をぎらぎらさせて、ふらりふらりと歩いて行く。上から光をあてられたそ の顔は、奇妙にまん丸な目と、突き出た唇が強調されている。 彼は西門卓、二十七才。燈台生なるあだ名で、美津濃森の人々には呼ばれて いる。昼間は普通なのだが、夜になると懐中電灯を頭の上に載せ、歩き回るの だ。その原因は、兄を交通事故で亡くしたためのショックとされている。 彼は、誰か観客がいるかのように、同じ行動を繰り返している。 「パープー、パープー、パープー……」 都奈の父・平和田瓜男は、妻の愛子と共に、娘を出迎えた。 「どうしたんだ? 電話で遅くなると言ってきたと思ったら、パトカーで送っ てもらったりなんかして」 「うん……。友達が事件に巻き込まれて……」 着替えてから、都奈は疲れを感じつつ、説明を始めた。部屋で鏡を見たとき、 肌の色が悪いなと思った彼女だったが、実際に喋る段になって、疲れを実感し ているのだ。 「浜野百合亜、浜野さんて知ってるよね?」 「ええ、面談に行ったときに、成績上位の子だって、よく耳にするわね」 愛子が思い出すように答えた。成績に関連づけた記憶が少し気にかかる都奈。 でも気にしないようにして、続ける。 「その子が、今日、珍しく休んだから、私とか他に三人で、様子を見に行った の。そうしたら、警察の人が来てて、百合亜らしき女の人の遺体が見つかった って。確か、湖の洞窟でって言っていた」 都奈は端折って話しながら、何か現実感が伴わないでいた。最初に聞いたと きは、あんなに涙が溢れたのに、今、警察関係の人間が目の前から消えると、 夢から覚めたような気分になっているのだ。 母親は、手を口にあて、ほっと息をついた。 「じゃあ、昼間、聞こえたパトカーの音、それだったのね。湖の方が騒がしか ったから」 「そ、それで、どうやって殺されたんだね?」 不意に声を荒げた父親に、都奈は違和感を覚えつつも、 「そこまでは教えてくれなかった。全ては明日の新聞でって」 と答えた。 「そうかい……。このこと、学校は知っているんだろうか?」 「分からないけど、刑事さん達の話を聞いてたら、多分、学校の方にも調べに 行ってるみたい」 「ふぅ。とにかく、無事に帰って来れてよかった。夏休みが近いからといって、 あまり出歩いちゃいかんぞ。きちんとした生活をなさい」 それを言うなら、夏休みになっても、じゃないかしら。 変に冷めた気分で、都奈は父親の間違いを指摘した。もちろん、心の中だけ であったが。いつも医者らしく、論理的な喋り方をする父が、どことなくおか しいのを、都奈は心の奥の方で感じ取っていた。 「丈! どういうことだ?」 張元英道は、丈が帰って来るなり、怒鳴りつけた。長身でがっしりした体格 の彼が、太い眉をいからせて怒鳴ると、迫力がある。 店先からバイクを仕舞おうとしていたところに、パトカーが来て、甥が降り て来たのだ。権力に対する反発心が強い英道は、興奮せずにはおれなかったの かもしれない。 「そんな、怒鳴らなくても。丈君、ゆっくりと説明してくれればいいのよ」 英道の妻、夏江は優しそうな笑顔を丈に放った。元モデルだっただけに、背 がすらりと高く、スタイルもそんなに崩れていない。そのしなやかな指が、丈 の頬の辺りをなでた。 「やめてくれよ。くすぐったいから」 夏江とはあまり打ち解けられない丈は、軽くその手を払った。夏江の表情が 曇るのを、目の端で認めたが、丈自身の心中は、それどころではなかった。 「……恋人がいなくなった気持ちって、伯父さん、分かる?」 そんな風に切り出して、丈は経緯を全て、包み隠さずに話した。話をし終わ るまで、伯父と伯母は黙って聞いてくれていた。 「……そうかあ。おまえがよく話していた百合亜って子が……。何だってまた」 「それが分からないんだ。警察は今日、動き出したばっかりだからかしれない けど、やってることがとろいんだ。もし、警察が見つけられなくても、俺は絶 対に許さない」 「人様に迷惑かけなきゃあな、俺はおまえのやり方に口は出さんよ、丈。だが な、一応、気を付けるんだ」 「何を?」 丈は、事態を理解してくれた伯父を見上げた。 「警察ってとこは、死んだ人間の関係者の気持ちなんて、まるで考えてねえ。 それどころか、おまえを容疑者扱いするかもしれん」 「俺を? 何で?」 「仲が悪くなったんじゃないかって、勘ぐるような奴らなのさ。気を付けるに 越したことはない」 伯父に言われ、丈はようやく、自分の置かれた立場を解した。 自分では、自分が百合亜と不仲になるなんて絶対にないと分かっていても、 それを他人に分からせるには、困難が伴うかもしれない。が、例え、そんな容 疑者の立場に追い込まれようがそうでなかろうが、張元丈は犯人を突き止めよ うと決心していた。電話で百合亜が事件に巻き込まれたと知らされてから、ずっと思っ ていた。 最後に送り届けられた松井直助は、極めて分かりやすく、簡潔に事情を説明 した。聞き手は唯一人、母親の松井風見である。 「そうなの。また私は、あなたが悪い友達に引き込まれて、どこかへ連れ歩か れているのかと考えちゃったのよ」 「そんなんじゃないって」 「学校にも電話しようかと思ったぐらい」 「まさか。そんな大げさに考えなくていいよ、僕のことは。問題は、浜野さん なんだ」 「もう、面倒は警察に任せておくべきです。危ないことに首を突っ込んで、勉 強に支障が出たらどうするの?」 「そんな風には考えられないよ」 「また、この子は。それがいいとこなんだけどね、直ちゃんの。でも、浜野さ んって確か、ウチの工場を買収しようとしている会社の人でしょう? そりゃ、 いい値で買い上げてくれるんだったら、こちらもいい顔するけど、今のままじ ゃ、どうなることか」 「母さん! それとこれとは話が別だよ。……そう言えば、父さんは?」 「まだ工場。あの女と一緒に、遅くまで対策を練るんだって」 風見は顔をひそめた。濃い化粧のためか、しわの出方が奇妙であった。 直助の父の名は、松井平太という。小さな家具製造工場の所長として、それ なりの財を築いたが、その彼と彼の家族は、現在、利根玄造と浜野麟人の会社 から立ち退きを要求されている。しかし、平太は反発している。多くの従業員 を抱えたまま、工場を手放せば、従業員の働く場所がなくなってしまうからだ。 そこで、ある女性を秘書兼カウンセラーとして雇い入れた。それが、風見の 言っていた『あの女』、高井戸喜子である。香水のきつい彼女は、そのお高く 止まった態度から、松井風見には疎まれていた。 「家のことを考えるのは当然だけど、外に出たら露にしないでよ。間違っても 不幸を笑うような真似はしないように……」 「それくらいの世間体、私にだって分かってるって」 直助は、そう言う母を、なおも心配そうに見つめた。 ゆったりとした、しかしどこかせわしないテンポの曲が、よどんだ空気の中、 流れていた。 ”……もう 雛は 鳴きはしない 欲という名の えさをあげても もう 種は 芽吹きはしない エゴという名の 水をあげても……” 舞台の上では、ちょっと日本人離れした声とスタイルの美人が唱っていた。 美女とも美少女とも形容しかねる年齢で、小悪魔的な魅力と言えば一番近いだ ろうか。 が、それも化粧の魔力故のようで、素顔は少女に近いかもしれない。そう思 えば、誘惑するような身振りも、どこか取って付けたようなところがある。 名前は「秀美」と書いて「しゅうび」と読ませる。 「『しゅうび』は相変わらず、一風変わった魅力を醸しているな」 客の一人、利根玄造はいやらしい笑みを浮かべた。唇は、琥珀色の液体で濡 れている。 「あのコの素顔、見たことないでしょう? あまりに純情なんで、驚くわよ」 店のオーナーである黒木が、小声で楽しそうに口を挟んだ。ぐるりと回り込 むようにして、玄造の前に座る。オーナーと言っても、玄造の出資で自分の店 を持たせてもらっている立場だ。店の名は「リップ」。 店内の暗さのせいもあるだろうが、黒木の肌は年齢からは想像できないくら い、きれいに見えた。大きく露出した肩からうなじにかけての線は、男の客な ら誰もが色気を感じよう。髪の色は名字の通り、漆黒だ。 「まあ、俺は愛する妻がいるからな。あてがうんなら勇也の方にしてくれ」 「兄さんよぉ、五十二にもなる弟に、あんな子供を相手にさせる気かい。冗談 もほどほどにしてもらいたいやね」 玄造の弟、利根勇也が甲高い声をあげた。店のそこここから舌打ちが起こる。 「ほら、静かにしろ」 兄に注意され、勇也は大きな眼鏡を外し、レンズを拭いた。近眼の彼は、汗 をかくようなことがあると、いつもこんな態度をとる。 ふと、店に風が吹き込んできた。ドアが開いて、一人の身体の大きな男が入 って来たのだ。男は黒い上っぱりを引っかけ、黒いジーンズに黒い靴、さらに は黒サングラスをしている。要するに、黒で身を包んでいる。 髪は完全には剃り込んでないものの、モヒカン刈りに近い。目はぎょろっと しており、にらみを常に効かしている感じだ。鼻はさほど高くはないが、とん がっている。口は蛇のそれを思わせる。拳には数カ所、傷跡が見える。 「レオが来たわ。少し、離れさせてもらうわね」 黒木は利根兄弟に笑いかけると、入って来たばかりの男−−山藤礼夫の方へ 足を向けた。 「首尾はどう?」 「ん? まあまあってとこだな」 礼夫はうなるように答えた。 「ポリ公がうろちょろしていて、やりにくいったらないぜ」 「お疲れ様です。ホテルは手配しておきました」 桑田らを迎えに来た武南は、第一声を元気よく発した。夜型の生活に慣れて いるのか、今の方が昼間よりも活力に溢れている。 「それはありがとう。で、高校の方はどう?」 「駄目でした。とにかく、詳しい話は明日になりそうです。マスコミ関係の発 表には同意してもらってます。暴行を受けていた点をぼかしてほしいという条 件付きですが」 「いかにも、だねえ。ふん、どうせ、どこからかばれるものさ。隠してもしょ うがないのに」 桑田は車内灯の下、髪を整えながら言った。 「それで、親御さんはどうだったんですか?」 「ああ」 桑田は、力の入っている武南をおかしく思いながら、説明は虎間に任せた。 「夫人は横になったまま。麟人さんの方もショックが大きくて、結局、話は明 日に持ち越しになりましたよ」 「ははあ、そちらもでしたか。では、矢古田なんとか先生の方は?」 「色々と診察した書類があるそうだから、それをまとめてもらって、これも明 日ということに」 虎間はため息混じりに答えた。それを見た桑田は、 「そう悲観するばかりじゃないよ。被害者の同級生から話を聞けたんだ。知ら なかった情報も聞けたしね」 と言った。 「例えばどんな?」 「そうだねえ、武南君。被害者の性格だ。彼女の性格は、ちょっとした悪事も 見逃さないというものだったらしく、これは、そこいらの通りがかりの人間で さえ、容疑者になり得る可能性を示している。それから、被害者のボーイフレ ンドらしき男子生徒も現れた。ちょっと、調べてみる価値はありそうだ」 「出て来るもんですね。動機ってのは」 「それだけ複雑になっている時代なのかね、今は。それから、学校に被害者が 休むという電話があったらしいんだ。無論、偽電話で、誰がかけたのか分かっ ていない。これも重要な手がかりになりそうだよ。……おやおや、婦警クンは 何も知らずにおねむのようだ」 後部座席を振り返った桑田は、虎間によりかかるようにして眠っている婦警 を見、苦笑した。 −続く
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