連載 #4682の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「ほう、斬るのですか? 妹を」 グァーバが楽しそうに言う。 ラルムの背後に廻りながらも、自ら攻撃を仕掛ける気配は無い。実の兄妹の対峙を 最後まで楽しもうというつもりの様だ。 「リア、正気に返れ………さもなくば」 ゆっくりと妹に対し、剣を構えてラルムは言った。だがその言葉に嘲る様な笑みで 答えると、リアもまた短剣を構えた。 「申し上げたでしょう。そこに居る娘は、あなたの妹であって妹では無い。私の術に 依って、もう一つの私の身体となったのだと」 グァーバとリアが同時に同じ科白を口にした。 「例えばほら」 そう言うと、突然リアはその手にしていた短剣で、己の左腕を斬り付けた。赤い鮮 血が吹き上がり、リアの上半身を染め上げる。 「こんな事も思いのまま。ああ、もう一つの私の身体と申しましたが、その娘が受け た傷は、私へのダメージにはなりませんから、念のため」 己の血が己を染めて行くのに、リアは相変わらず笑みを浮かべたままだった。 そんな妹の狂気を見ながらも、ラルムは表情を変えなかった。 「止むを得ん。リア、兄の手で逝くことをせめてもの情けと思え」 剣を構えるラルムの腕の筋肉に力が込められた。その筋肉に込められた力が、今正 に解き放たれ様とした瞬間、シンシアがラルムの左腕に抱きつく様にして、それを制 した。 「馬鹿な事、言ってんじゃ無いよ! 何がせめてもの情けだい。つまんない恰好をつ けるんじゃないよ。妹を斬る!? そんな事、あたいがさせやしないよ」 対峙するリアに注意を遣っていたラルムは、このシンシアの行為は予想外だった。 だがその事で生じた隙はほんの一瞬、並の敵であれば付け入る事など不可能な程の時 間。ラルムは瞬時にして、シンシアを腕にぶら下げたまま体勢を立て直していた。 たがラルムが相対していたのは並の敵では無かった。 もとよりラルムには遠く及ばないまでも、それなりを鍛錬を重ねていたリアである。 しかも今は、傀儡師の術によって遥かにその能力を増している。 脅威的な素早さで手にした短剣を、ラルムの心臓めがけて繰り出してきた。しかし ラルムも錘となっているシンシアの体重を、まるで感じないかの様に、それを横にと かわす。 しゅと音を立てて、短剣がラルムの脇腹を掠めて行く。その部分の革鎧が ぱっくりと裂けた。リアの突きが如何に鋭い物であったかが伺い知れる。 それだけ力を込めた一撃がかわされたのに関わらず、リアは体勢を崩す事は無かっ た。それどころか、全くステップすら踏まずに方向を変え、再びラルムを攻撃しよう とした。 しかし次の一撃は、僅かにラルムが先んじた。 シンシアのまとわり付く左手を離し、右手一本で重い剣を操る。 振り返ったリアの鳩尾辺りに、剣の柄を打ち入れる。声もなくリアはその場に倒れ 込んだ。 「こ、殺したのかい」 疑問と非難の入り交じった様なシンシアの質問には答えず、ラルムは倒れたリアを 右手だけで抱き抱えた。 左腕にシンシア、右腕にはリアと剣を抱え、ラルムは廊下へと飛び出した。傀儡師 には目もくれずに。 タタラ だが廊下へと一歩踏み出しただけで、ラルムは踏鞴を踏んだ。 燃え盛る炎には、僅かな隙間さえ無かった。その中を両手に女性を抱えたまま、強 引に進んでも無事に外へと辿り着く可能性は無いだろう。 「無駄ですよ。あなた方は皆、ここで死ぬのです」 傀儡師の声。それはラルムの腕の中から聞こえてきた。 そして恐ろしいまでの冷たさにラルムは気づいた。ラルムの腕を濡らすリアの血は、 まるで井戸水の様に冷たかった。 「ラルム!」 シンシアも異変に気づいたのだろう。ラルムに警告の声を発した。 しかし遅かった。 いや、例えもう少し気づくのが早かったとしても、対応しきれたかどうかは疑わし い。その攻撃はラルムの腕の中から繰り出されたのだから。 「くっ」 右足に走る激痛。 リアの短剣が、ラルムの足に深々と突き刺されたのだった。 ラルムはリアを室内へ放り投げ、その場に膝を着いた。 「甘い………甘いですねぇ、ラルム様。その娘はもう、貴男の妹では無いと言ってい るのに」 今度はリアの背後に立つ、傀儡師自らが口を開いた。 「ふん、この場を凌げれば、元に戻せると思ったのか? クソ野郎が」 傀儡師の言葉から慇懃さは消え、おそらくはそれが本性であるのだろう、粗暴な言 葉使いが姿を現す。 「言ったろう、こいつの身体は俺の一部になったんだとよ。考えても見ろ、貴様等が 喰ってその血肉の一部になった魚を、元に戻して海に帰せるか? 同じ事なんだよ」 そう言うと、侮蔑の眼差しでラルムを見た。 「何を偉そうにぬかしてるんだ! 結局は全てを人任せにしているだけの、憶病野郎 が」 心配そうにラルムの傷を覗き込んでいたシンシアが、傀儡師を罵った。 「まずは女、貴様から殺してやる。ラルム、貴様等の希望が潰えるところを、しっか りと見ているんだな」 傀儡師の言葉が終わらないうちに、リアは短剣を構え、シンシアめがけて跳んだ。 『お兄さま、私を止めて』 ラルムの頭の中にリアの声が響く。 もはやリアは助ける事が出来ない。仮に可能性が有ったとしても、今この瞬間にそ れを模索しているゆとりはない。 リアとシンシア。妹とレディアの未来。 辛い選択であっても、ラルムには迷う事は許されない。リアもまたこの旅に出た時 から、覚悟はしていた筈である。 その覚悟を示したのだろうか。シンシアめがけて飛び掛かろうとしているリアが、 ほんの一瞬、ラルムを見て小さく頷いた様に見えた。 炎は部屋をも包んでいた。 しかしシンシアは熱さを感じない。全ての神経は自らの身に振り下ろされようとし ている短剣へと向いていたからだろう。 武器を持たぬ身に、それを防ぐ手立てはない。 その早さには、避ける時間も無い。 シンシアは己の胸に短剣が突き刺さる場面を想像し、覚悟をした。 が、予想した時間を遥かに越えても、短剣はまだシンシアの胸には届いていなかっ た。 からんと音を立てて、リアの手から短剣がこぼれ落ちた。 「ごめんなさい、お兄さま」 リアは小さく微笑んでいたが、その目からは涙が流れていた。 「馬鹿な! 我が術に堕ちた者に意識が戻ったと言うのか」 傀儡師の叫びは、何処か的外れのように聞こえた。 「いつもいつも、迷惑を掛けてばかり………。今度の旅でも、決して足手まといには ならないと、約束したのに」 「気にする事は無い………お前が………リアが悪い訳では無いのだから」 剣を伝わり、妹の血がラルムの手を濡らす。その血は暖かかった。確かな温もりだっ た。 「私はもう、お兄さまの………そばには居られ………ませんが、どうかレディアを」 「分かっている、何も心配するな」 だんだんと息も切れ切れになっていくリアの顔に、初めて会った頃の九歳のリアの 顔が重なる。 『結局、最後の最後に守ってやる事が出来なかった』 「お母さまと、天国から………見守って……います」 もうリアの声は殆ど聞き取ることが難しくなっていた。 「お兄さまと………いた…時間………リア…は………幸せで………した」 リアは息絶えた。 第一章(8)へ続く
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