連載 #4678の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
死への恐怖が無い訳ではない。 だがこの卑しい男共に、媚び諂う事をシンシアのプライドが許さなかった。 もちろん、盗人などをしているシンシアの方にも負い目は有る。が、それ以上 にこの男達が汚い商売をしている事を、シンシアは知っていた。彼らから盗むこ とは、シンシアにとって正義であった。 だから、ここで命惜しさで男共に頭を下げる事は、自らの正義を否定する事と 同じに思われたのだ。 しかし堅く目を閉じ、自分の頭が地に転がる場面を思い浮かべた時、恐怖のあ まり泣け叫びそうになった。そして、嘗て父親同様だった人物の最期の言葉が頭 ↑「父親同然」の方が語感がよい? を過ぎった。 「どんな事が有っても、生き抜け」 だが、その言葉にこれ以上従うことは出来そうにない。 振り下ろされる剣の風を首筋に感じた瞬間、シンシアは死が現実の物になった と思った。 その直後、頭上で大きな金属音が聞こえた。続いて剣が地に刺さる音と、他の 何かが落ちる音が聞こえ、シンシアは自分がまだ生きている事を知った。 恐る恐る開けた目には、シンシアの首を斬り落とす筈だった剣が、地に突き刺 さっているのが映った。そして、やや離れた所に金貨の詰まった袋が数枚をまき 散らした状態で、落ちていた。 「だ、誰だ」 叫ぶ男の声には、明らかに狼狽の色が見えた。 シンシアの首を斬り落とす筈だった剣に、飛んで来た何かが当たってはじき飛 ばされて、パニックに陥っている様だった。 「その娘、俺に譲ってはもらえないか?」 野次馬の輪の中から、一際目立つ戦士姿のラルムが現れ、男の恐怖は増長され たのだろう。 「な、なん、なんだとぅ」 声を振るわせながら、それでも必死に虚勢を張ろうとしていた。 「ア……アニキ………金、だ」 男が振り向くと、巨漢の相棒が地面にばら捲かれた金貨を拾い集めていた。 「ど、どけ」 金貨に気付いた男は、相棒の手から袋ごと金貨をひったくり数え始めた。 「ひい、ふう、みい、よ………十五、十六………すげぇ」 「どうだ、それでは不服か?」 ラルムに声を掛けられ、男は一瞬びくりとしてから、まだ地に両手をついたま まのシンシアの首に下がるペンダントを、ちらっと見た。 ↑この節、客観描写で始まったのが、ここ辺りから商人の視点になっている 或いはあのペンダントには、この金貨以上の価値が有るかも知れない。だがそ れを手に入れたところで、金に換えるのは難しいだろう。今時、装飾品に高い金 を出す余裕の有る者など、そうそう居るものでは無い。 それにあの戦士、かなり腕が立ちそうだ。 男は実のところ、剣の腕前はたいした物では無かったが、相手の技量を見抜く ことには長けていた。 だからこそ、汚い商売をしながら今日まで生きて来れたのだ。 ここはこの金貨でシンシアを売ってしまうのが得策。男はそう判断した。 「よござんす、これで手を打ちましょうや」 途端に腰を低くした男は、卑屈な程の笑みを満面に湛えた。 「いえね、私だって本気でシンシアを………おっと、この娘の名前ですがね、首 をはねる気は無かったんですよ。毎度毎度悪さばかりするんで、ちょいとばかり お仕置きをしてやろう、と思いまして。 けどねぇ、ご覧になってた事と思いますが、この通り頑固な娘で。この後どう したものかと、考えていたところなんですよ。 お見受けしたところ、戦士様はかなりの人格者のようで。 どうやら旅の途中のご様子。ならばご存じないかも知れませんが、このザッカ の街では盗人は捉えた者がその身柄を自由に出来る、って決まりが有るんですよ。 ですから今、シンシアの身柄は私の物なんですがね………戦士様の並々ならぬ 熱意を感じました。喜んでシンシアの身柄、お譲り致しましょう」 身振り手振りを交えて、男は一気に話した。 「商談成立………だな」 そう言うとラルムはシンシアの元に歩み寄り、右腕を掴むと半ば強引に立たせ た。 「痛い、痛てぇな、この野郎。あたいをどうするつもりだ、放せ」 シンシアはその腕を振り解こうと抵抗した。だがラルムは全くそれを意に介さ ず、シンシアを引いて行った。 「いらっしゃいまし」 ラルム達が宿屋に入ると同時に、それを待ち受けていたかの様に主人の声がし た。 「一晩泊まりたい。部屋は空いているか?」 「はい空いておりますが………一部屋で宜しいので?」 頭の禿上がった五十がらみ主人は、ラルムに腕を捕らわれたままのシンシアと、 後ろに控えたリアの顔を交互に見比べながら言った。 「ああ、一部屋でいい」 「あの、大変失礼とは存じますが。まさかシンシアの為に、お手持ちを使い果た されたのでは………。あ、いえいえ誤解なさらないで下さい。それならそれで、 仰って頂ければ何とか致しますので。シンシアの命を助けて頂いたお礼でござい ます。ですから、ええ、あの、その娘に、どうか乱暴な事だけは………」 どうやらこの主人も、先程の野次馬の中にいたようである。 それにしても、このシンシアという盗人娘は、意外にも街の者達に人気が有る ようだ。 「心配は無い」 そう言って、ラルムが僅かに首を振って促すとリアが前に歩み出て、主人に銀 貨を一枚手渡した。三人が一泊するのには、充分な額である。 「レディア銀貨だが、使えるだろう?」 「はい、もちろんでございます。レディア製は物が確かですから、今でも充分に。 では、お部屋にご案内致します」 ラルム達の前に立って主人は食堂になっている一階を横切り、その奥に有る階 段を上った。 「それではごゆっくり。何かご用が有りましたら、わたくしは一階の方に居りま すので」 二階の突き当たりの部屋にラルム達を案内すると、そう言って主人は下へと戻 って行った。 「それでは私は食糧の買い出しに行って参ります」 部屋に入って一息付く間もなく、リアが言った。 「無理をするな。せめて食事をして、体力が戻ってからでもいいだろう」 「いえ、私はもう大丈夫です。それに明日は早くに、出立しなければならないの でしょう?」 ちらりと、リアはシンシアの顔を見た。 「では、行って参ります」 「あの子、気を利かせたんだろうね」 リアが立ち去ると、それまで不機嫌そうにベッドに腰掛けていたシンシアが、 初めて口を開いた。 「気を利かせた?」 「そうさ。それにしてもあんた………」 「ラルムだ」 「ふーん、別に名前なんてどうでもいいけど。一体、どう言うつもりなんだい。 あんな可愛い子がいるのに、その前で別の女を買うなんてさ」 「リアは妹だ」 シンシアは少し驚いた様な顔をした。 「妹? らしくないね、あんたら兄妹。まあ、いいけどね」 そして抱きつく様に首に手をまわし、ラルムをベッドに座らし、自分もその横 に座る。 「あんたには礼をしなくちゃ、ね。命を救ってもらったんだから」 ラルムの頬に自分の頬を寄せて、甘い声で囁いた。 「あんただって、私の身体が欲しかったんだろう。でなきゃ女一人にあんな大金、 払えないものね。この………ド助平野郎!!」 そう叫ぶと、シンシアはバネが弾ける様に素早く立ち上がった。その手には、 ラルムの腰に有った筈の大剣が握られている。 「ふん、あたいを甘く見ないで欲しいね。あたいを抱きたがる助平野郎は、てめ ぇ一人じゃ無かったさ。おかげで、こういう状況には慣れちまって。未だあたい を抱くって光栄に、預かった野郎はいないのさ。あんたも命が惜しければ、諦め な」 シンシアは凄んで見せたが、ラルムの大剣はあまりにも重すぎた様だった。両 手でしっかりと握っているにも関わらず、切っ先は地に付いたまま、持ち上げる ↑部屋の中だから、床では? 事が出来ていない。 その様子を、ラルムはおかしそうに見ていた。 「なんだい、あたいがこの剣を使えないと思って、馬鹿にしているのか」 ラルムの表情に気付いて、シンシアは腹を立てた様だ。 むきになって、剣を持ち上げようとする。ぷるぷると震えながら、僅かに切っ 先が上がった。だがシンシアの力では、それが精一杯だった。すぐに力尽きて、 ガツッと鈍い音と共に剣先は床を叩いた。 「その剣は女が扱える様な代物ではない。俺は別にお前を抱くつもりで、奴等か ら助けた訳ではない。だから、安心して剣を返すんだ」 ラルムはなだめるように言った。が、それがかえってシンシアの癇に触ったら しい。 「へん! 気取りやがって。何様のつもりだい」 手に負えぬと分かった剣を床に叩き付けると、シンシアは部屋を飛び出そうと した。 それまでは落ち着き払っていたラルムは、突然疾風の如き素早さで立ち上がり、 シンシアの腕を掴んだ。 「クソったれ、やっぱりあたいの身体が、欲しいんじゃないか!」 キッとラルムを睨み付けるシンシア。だが当のラルムは、シンシアを見ていな かった。その厳しい視線は、ドアの外に立つ者へ向けられた。 「何者だ」 「私ですよ、お忘れですか戦士様」 そこには人懐っこそうな笑顔を湛えた、中年の男が立っていた。ラルム達が街 に着いた時に、リアに水を恵んでくれた商人だった。 「あんたか………一体何の用だ?」 「実は私も、広場での事を見て居りました。シンシア、あんたいい人に助けても らったね。感謝しなくちゃいけないよ」 男はシンシアに対して、親しげに話し掛けた。しかし、シンシアはそんな男を 怪訝そうに見返す。 「あんた、最近街に来た商人だね。あたいは、あんたの事をよく知らないんだよ。 あんまり馴れ馴れしい態度をとるんじゃないよ」 「おやおや、それは。戦士様、ちょっとお邪魔してよろしいでしょうか?」 そう言うと、男はラルムの返事も待たずに部屋に入り、窓際の椅子に腰掛けた。 「私もあの騒ぎを、野次馬として見てましてね。その際、シンシアさんのペンダ ントも遠目にですが、見ることが出来まして」 「だから、何だって言うんだい」 ラルムの腕を振り解いたシンシアは、腕を組んで男の前に立った。 「はっきり言いましょう。私に譲って欲しい。五千、いや一万ディア出しましょ う」 「ふざけんなよ! こいつはあたいを育ててくれた………」 「ちょっと待った」 興奮して今にも飛び掛かりそうなシンシアを制し、ラルムが前に出た。 「貴様、何者だ?」 「はあ、私はしがない旅の商人で御座いますが」 質問の意図が分からない、と言った様な顔で男は答えた。 ラルムは男の目を睨み付けたまま、床に捨て置かれたままの剣を拾い上げた。 「最初に会った時の口振りでは、街に随分と詳しい様だったが。今のシンシアの 話しだと、貴様がこの街に来たのは、つい最近だと言う」 「ほう、確かに少し不自然かも知れませんねぇ」 男はラルムの指摘に対し、特に取り繕う事もせず、その矛盾を素直に認めた。 「まさか貴様、『闇の者』か」 「だとしたら、如何なさいますか? ラルム・ザダック・ラドウ様」 答える代わりにラルムは剣を振るった。 「あ、あんた………なんて事をするんだい! この人殺し」 男の首が宙を舞うの見たシンシアは、震える声でラルムを非難した。だがその ラルムは、まだ剣を構えたまま床に転がった男の首と、椅子に腰掛けた身体を交 互に睨み付けている。 「まだ殺してはいない様だ」 シンシアはラルムが狂っているのだと思った。 そして恐る恐ると、男の身体と頭を見た。或いはラルムが現れなかったら、あ の野盗崩れの男共の手で、自分が辿っていたかも知れない姿と重ね合わせながら。 だが何か不自然な気がする。思ったよりも、男の身体も頭も出血していない。 こんな物なのだろうか。 ↑このフレーズ、いいですねー。 「ひっ!」 ラルムの視線の先を追ったシンシアは声にならない悲鳴を上げた。床に転がっ た男の首が、シンシアの目が合った瞬間、ニヤリと笑ったのだ。 「心配頂いて光栄ですよ、シンシアさん。でもね、私はこのくらいの事では死に ませんから、安心して下さい」
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