連載 #4665の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
新しい登場人物 浜野百合亜(はまのゆりあ) 八神憲代(やがみのりよ) 八神半吉(やがみはんきち) 捜査本部である部屋には、桑田真祐警部を筆頭とする五人の刑事が顔を揃え ていた。 「親御さん達の様子、どうでしたか?」 そう言った虎間に対して、桑田は首を振った。 「自分の娘だと確認し、すっかり取り乱してしまっている。遺体を抱きかかえ んばかりにね。その感情は分かるし、僕は止める気はさらさらないから、その ままにして離れたんだ」 「じゃ、残された係官は災難ですね」 「どうしてだい?」 その問いには答えず、虎間はかすかに肩をそびやかした。が、それもすぐに 厳しい態度に戻る。 「そうだ、尾関さんが言ってたんですが、犯人の身長については断定できない、 とのことです」 「被害者より高いか低いかってやつ?」 「はい。被害者の背後から首に紐を巻き付け、背中合わせに抱える、いわゆる 地蔵背負いで締め殺した場合もあり得ると」 「つまり、犯人像は相変わらず五里霧中という訳だ。他は?」 「いえ、特には……。より詳しい結果は明日に、正式な報告書はさらに一週間 かかるという話でした。あ、変質者の線は薄いと、武南刑事が言ってました」 そう言われて、今度は武南が口を開いた。 「はあ、これは北勝警部補とも話し合った結果なんですが、ここ美津濃森は新 たな別荘地として開発が進行中の土地ですから、変質者や浮浪者の類は一掃さ れてしまった観があるんですよ。まあ、一人二人はいるのですが、アリバイが あったり病気になってたりで、まず犯行は不可能と思われるんです」 桑田は軽くうなずくと、他の二人−−北勝、守谷を含めた四人を見渡した。 「被害者が地元の高校生と決まったおかげで、ある程度の方針は立ったと思う。 変質者の線が薄くなったのであれば、学校関係、家庭関係の二つに絞れる。明 日から、北勝さんは武南君と共に学校関係をあたってもらいたいんですが、よ ろしいですかな?」 「いいですとも」 いつも通り、短く答える北勝。武南にも異存あろうはずがない。 「結構。僕は虎間君と一緒に、家族の方に聞こうと思っている。ついでに、あ の矢古田とかいう医者の線もね。これで、被害者の死ぬ直前までの行動が浮か び上がるだろうし、容疑者も同様に絞り込めると思う」 「私はどうなるのでしょうか?」 唇を突き出すようにして発言する守谷。 「守谷さんには、巡査や婦警さん達と協力して、凶器の行方を追ってもらいた いな」 と言って、髪をいじる桑田。ペースを乱さないタイプである。 「はい……」 守谷の方はやや不満そうに、桑田の言葉を受け入れた。 「さて、今夜の僕と虎間君が宿泊する場所なんだが、どこかいいホテルはない かな? 新たなる名別荘地として開かれつつあるここならば、期待してもいい んでしょうね」 そんな桑田の物腰に対し、北勝は真面目に答えた。 「それでしたら……」 忙しそうに動き回っていた八神憲代は、裏口から女子高生が入って来たのを 機に、ほっと安堵の息を漏らした。 「よかったわ。妙子ちゃん、ちゃんと来てくれたのね。いつも早めに来るあな たが、どうしたのかと思ってたのよ」 「すみません」 「謝らなくていいから、すぐに着替えて、出てちょうだい。他のバイトの子、 みんな休んじゃって、きりきり舞してたとこなの」 「はい」 倉敷妙子は素直に返事して、正従業員の間を駆けて行く。 その後ろ姿を見送ってから、憲代は束ねてある髪を少し気にして、また厨房 に入った。彼女はレストラン「湖畔邸」の女主人。レストランと呼ぶには小規 模だが、丸太小屋風の造りが受けて、繁盛していた。この辺りが開発されれば 一層、繁盛するであろう。 ウェイトレス姿になった妙子は、早速、扉をくぐって来た男に接した。 「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」 「いや、客じゃないんだ。店長、呼んでくれないかな」 不精髭をはやした男は、虚ろな調子でこう言った。 「は……はい。しばらくお待ち下さい……」 妙子は一瞬、何かよくない質の人かしらと思ったが、それにしては物腰が優 し過ぎると感じ、結局、八神憲代を呼びに行くことにした。 「憲代さん、あの男の人が、憲代さんを呼んでくれって……」 妙子は入口の方向を見やりながら伝えた。 「え?」 そう言った憲代の方は、男の姿を確認した途端、硬直してしまったかのよう に、身じろぎしなくなった。 「……あの人ったら、表から……」 妙子への説明なしに、憲代は駆け出す。何事かと思って、倉敷妙子も後から そろそろとついてきた。 「……やあ」 男が疲れたように右手をかざし、挨拶するのを、憲代は呆れた様子で、両手 を腰にやった。手の水気が白い前かけに染み込む。 「やあ、じゃないわよ。今日なら今日と言ってくれたら店、閉めといたのに」 「いや、実は昨日、出たんだ。どうしようかと迷ってる内に、野宿だよ……」 男は細い目を一層細め、頭をかいている。 「あの、憲代さん。この人は?」 「ああ、妙子ちゃん。びっくりさせてごめんなさいね。来たばかりなのに悪い んだけど、今夜はもういいわ。店、閉めちゃって。今いるお客さんはしょうが ないけど」 答えてもらえないまま、妙子は奥に戻り、みんなに憲代の言葉を伝えた。 やがて、元の制服に着替えた妙子が、店の片隅の二人席で話している憲代の 横を通りすぎて、 「失礼します」 と挨拶したとき、女主人は質問に答えてくれた。 「ご苦労様。ほんと、わざわざ出て来てくれたのに、ごめんなさいね。この人 がしょうがないんだから……。説明する義務があると思うから言っちゃうけど、 この人、私の旦那なのよ」 憲代は、「旦那」にアクセントを置いて言った。 「旦那……さん……?」 「八神半吉です。すまんことをしたようで」 不精髭の男は舌足らずな言い方だったが、深く頭を下げた。 合流した平和田都奈、張元丈、松井直助の三人が再び浜野家に到着したのは、 午後六時を過ぎた頃だった。まだ明るいものの、三人は家の方に連絡を入れて おいた。 「じゃ、じゃあ……やっぱり、本当なんですか?」 都奈は張元ら二人から聞いて覚悟していたが、改めて婦警から話を聞かされ ると、自然と涙が溢れ出した。 「ええ。私は、詳しくは、聞かされていないのだけど、こちらの、お嬢さんら しい、娘さんが、湖の洞窟辺りで見つかったと」 婦警は緊張しているのか、詰まりながら話す。 「もうすぐ、こちらの御主人や、警部が、戻って来ると思うから」 「それまでいていいですか?」 都奈に負けないぐらい目を赤くした丈が、変に高い声で言った。最後の方は、 かすれて相手の耳に届かなかったかもしれない。 「え、ええ。構わないと思うわ……よ」 どう対処してよいのか困惑気味の婦警が、自信なさそうに答えたところで、 玄関の方が騒がしくなった。 「**さん、夫人の様子は? それに靴が増えてるみたいだけど」 若い男の声が、都奈の耳にも聞こえた。冒頭に婦警の名を口にしたらしいが、 騒がしくて聞き取れなかった。 「桑田警部。沙羅さんは今、ベッドでお休みです。それから、この子達は浜野 百合亜さんと同じ高校の生徒さん達だそうです」 「ほう。じゃ、君は夫人の方を見てあげていてくれたまえ。事情聴取は向こう でやるつもりだったんだが、御主人の精神的安定を考えてこちらに戻ったんだ。 ま、落ち着くにはまだ時間がかかるだろうから」 桑田は、意気消沈した様子の浜野麟人を手で示すと、都奈達の方を向いた。 「こちらの皆さんに、話を聞くとするかな。僕は桑田真祐。事件を担当するこ とになった警部だ。こっちは、虎間治夫君」 紹介された虎間という刑事は、黙って頭を軽く下げた。 「さて、あまり時間を取る訳にもいかないだろうから、手短に自己紹介を頼む よ」 「あ、はい」 桑田の刑事らしからぬ言動、そしてその容貌を目の当たりにして、張元丈や 松井直助は、面食らってしまっているようだ。それは都奈も同じだった。 「私、平和田都奈といいます。百合亜とは同じクラスです」 「張元丈です。彼女とは……一番親しい友達だったと思っています」 都奈に続いて、丈は言葉を選ぶようにして言った。次は松井直助。 「松井直助です。今日は、先生に頼まれて、浜野さんのお見舞いに来たんです」 「お見舞いとは?」 桑田は両手の指を組合せながら、質問を飛ばしてきた。 「今日、浜野さんは学校を休んだんです。滅多に休まない優等生の浜野さんが 夏風邪で欠席なんて珍しいという訳で、先生が心配して僕達にプリント類や連 絡事項を託されたんです」 「ほう。本当に、いいお嬢さんだったみたいだね、浜野百合亜さんは。しかし、 その口ぶりを見ると、君達も昨夕からの彼女の行動は知らないのかな」 「はあ。知りません」 松井が答えた。都奈も丈と目を合わせるようにしてから、桑田の方を見てう なずいた。 「それでは聞きたいんだが、彼女のことをよく思っていなかった人なんて、い る?」 「いる訳がない!」 叫んだのは丈。と同時に、彼は立ち上がって、右の拳を震わせていた。 「どんな目に百合亜が遭わされたか知らないけどな、恨まれるなんて、絶対にない! 決まってるさ!」 「おっと、そう興奮しないで。感情のみで行動すると、損をする。何も百合亜 さんにどこか悪い点がなかったどうか、なんて聞いてないんだ。彼女が素晴ら しい生徒、あるいはかわいい女の子だったが故に疎ましく思うとか嫉妬すると かいった人物はいなかったかっていう意味さ」 「……」 桑田になだめられ、黙ったまま丈は腰を下ろした。うつむいたその表情は、 髪に隠れてよく窺い知れない。 代わって答えたのは、松井。 「逆恨み……というのも入りますか」 「その通り」 「……あの」 松井は何か言いかけようとしたが、途中でやめてしまった。 「何だね?」 「いえ、何でもありません」 今度は、都奈が口を開いた。 「……百合亜は、ちょっと感情の起伏が激しかったんです。それで、街なんか 歩いていても、ほんの僅かな不正っていうか、悪い行いを見逃せない性格みた いで」 「どういうことかな?」 「つまり、その、例えばバス停で列を守らない人がいると、百合亜は食ってか かるみたいにして注意するんです」 話している途中、都奈は、自分が百合亜について現在形で話しているなと意 識した。 「もし、相手の人がかっとし易い人だったら、何かトラブルに巻き込まれる可 能性もあるのかなって思うんですけど」 「そうか。なるほどね。いや、実は、変質者とか浮浪者の線はないという判断 を下して、百合亜さんの人間関係から調べていたんだが、ちょっと改めないと いけないかもしれない。そんな場面が想定できるのなら、普通の市民だって、 容疑者足り得る訳だ」 最後には虎間に呼びかける具合いで、桑田は言った。 「ああ、もう時間も遅いな。両親が心配しているだろうから、帰っていいよ。 また話を聞くかもしれないから、そのときは頼むけど」 「百合亜。百合亜には、会わせてくれないんですか?」 丈が、できるだけ押さえようとした声で聞いた。 「うん? 難しいな。今は警察の方に安置させてもらっている。なるべく早く、 お葬式に出せるように、返したいと思っているが」 「……解剖ってやつをするんですか?」 丈の口調は、反感を無理に潜めたような響きがあった。 「犯人を捕らえたくないのか?」 桑田の答え方に、都奈は感謝した。丈の気持ちを考えた、適切な答え方だっ たと思える。 「ああっと。さすがに暗くなっている。こんな事件があった直後に、高校生の 君達だけで返す訳にはいかないな。送らせよう」 −続く
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