連載 #4631の修正
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<習作> ドキュメント「戦士達の証言B」 「反響波発振を確認。方位、三○○。距離、三五○○。高度差二三○。駆逐艦 規模です。後方にもわずかに共鳴反応あり」 魔道長・グロック=サルケルド一尉が報告する。 ランディール帝国通商破壊飛行巡洋艦「モーラッド」が、水の流れによって 作り上げられた谷の一つにその船体をひそませていた。 反響波とは反響石を用いて放射される魔道力である。これは全ての物体に反 応し、反射して戻ってくる性質を持つ。その反射具合から、その方向に何かが あるかどうかを測定する方法だ。一方、共鳴石を使った場合、魔道石の類であ れば確実に反応をかえしてくる。しかしどちらにしても、発振した位置を特定 される危険がある。 駆逐艦が反響石を使って魔道波を放っているのは、こちら−−つまり彼等に とっての敵−−が魔道を一切封止した状態で空中に浮遊している可能性を恐れ たからだろう。 しかし、谷底に着底している「モーラッド」を発見することはできなかった ようだ。そして逆に「モーラッド」の測定手が、彼等が派手に撒き散らした反 響波を捉えたのだ。 「後ろのは輸送船だな。よし、二隻とも頂く。五・七・十三・一五番各噴射口、 全開。右舷傾斜開始」 艦長・グロス=ジラーティ一佐が張りのある声で命じる。 液化昇華石が塩水と反応して気化する音が響く。それとともに船体が右舷側 に傾く。その傾きが二十度に達した。 「よし、噴射量二分の一。反響波は捉えているな?」 「はい」 「艦首・艦尾各砲に弾込め。弾種・反響波追尾弾。砲術長、距離、六百レード になった時点で射撃だ」 自ら伝声管を使い、彼の後方に陣取る砲術長・ビッシュ=モーマー一尉に命 じる。 「了解」 彼はすぐ様伝声管に飛びつき、彼等のいる位置からは下後方にある艦首砲の 砲手に命令を伝えた。 「艦首砲、目標、前方の飛空艦。撃て!」 鈍い振動が艦に響く。艦首の二連装砲から、艦対艦噴進弾が白煙を曳きつつ 飛翔していく。 それは担当砲術魔道士の意思通りの孤を描きつつ、敵艦に命中した。 「着弾を確認。高度を下げていきます」 「いいぞ。つづいて艦尾砲、撃て!」 艦尾砲から発射された二発は輸送船目がけて飛び去った。これも命中した。 ジラーティ艦長が淡々とした口調で言う。 「さて。対艦機が来る前に位置を変えよう。五・七・十三・十五の各噴射口は 噴射停止。九から十二番までを全開。浮上する」 サバリアス南部。ヴィットリ風軍基地。 護送船団が通商破壊艦に襲われて全滅、との報を受け、基地はいっきょに慌 ただしくなった。 基地の状況は良くなかった。 その時点で、基地にある飛行艦のうち、何とか出撃できそうだったのは、サ バリアス皇国風軍飛行駆逐艦「ガンブレイズ」ただ一隻だけだった。 その「ガンブレイズ」にしてからが、機関不調で船渠にその身を横たえてい るのを、無理やりに引き出そうとしているような状態だった。度重なる戦闘に よって多くの飛行艦が沈み、傷付いているのだ。 「今日は休みだったんじゃないんですか」 戦務長ベルチ=シーリング大尉に、同郷の後輩である見張り員・ディンク= エイバー軍曹が聞く。私服姿だ。 「状況が変わった。『はぐれ狼』が出た」 「何なんです、それ?」 「なんだお前、知らんのか? ランディールの通商破壊艦だ。最近タグラス山 脈に出没して、タングルームからの輸送船を襲ってやがるんだ」 「あーあ、今日は派手に騒ぐつもりだったのになあ……」 エイバーは明日の朝まで休暇の予定だったのを、無理やり連れ戻されたのだ。 「さあ、ぼやぼやしとらんと、行くぞ」 縦穴式の半地下式船渠の通用口をくぐり、舷側扉を通って船内に入る。 「全く、こっちの都合も考えてくれればなぁ」 「無理いうな。第一、我が軍の戦況は良くないんだ」 定員三十四名の「ガンブレイズ」は、出撃時間までに帰還しなかった三名を 残し、夕闇迫る大空へと出港していった。 −−「モーラッド」 「敵艦発見、駆逐艦級です」 サルケルド魔道長が報告し、ジラーティ艦長が応じた。 「後方、同高度から撃つぞ。浮上する。気嚢、注気。主噴射口、水力二分の一」 船体が地面から離れ、ゆっくりとした速度で弧を描きつつ上昇を開始した。 「無誘導でいけるだろう。艦首砲、照準!」 モーマー砲術長が吠える。 −−「ガンブレイズ」 エイバー見張り員は後部見張り所で、夜空に視線を送り続けていた。月は無 く、わずかな星明かりだけが頼りだった。 「ん?」 闇の中、一瞬、闇よりもさらに暗い物体が動いた気がした。彼は慌てて双眼 鏡を構え直した。 「いた! 後部見張り員より艦橋へ。敵艦発見、本艦の真後ろ、同高度ですっ! 距離、一・五ヘレード!」 「なにぃ! ケツにつかれたってのか」 彼の報告に、艦橋の先任士官・ワイス=ベイラー大尉が頓狂な声を発する。 しかし、艦長・アシュリー=スサ=ラモナーグ少佐はそれを疑って再確認させ るような無駄な時間を使わなかった。 「全気嚢、強制排気! 露天噴射口、全力噴射!」 再び後部から報告が入る。 「敵艦、発砲!」 「早く降りろ、急降下だ!」 −−「モーラッド」 ジラーティ艦長は敵艦が沈み込む様を見て舌打ちした。噴進弾が駆逐艦の上 を素通りして飛び越えていく。 「せめて反響追尾を行っておけば」 飛行艦戦の鉄則は、敵の上に位置すると、そして先手を取ることである。攻 撃力に比べて防御力が弱くならざるを得ない飛行艦は、先に噴進弾を相手に命 中させるかに全力を注がねばならない。初動をしくじったジラーティ艦長は嫌 な予感がした。 −−「ガンブレイズ」 「全気嚢、注気急げ! 船底噴射口、全力噴射!」 ラモナーグ艦長は制動をかけるために、さきほどとは全く逆の命令を下した。 「ガンブレイズ」は山の木々の数本をへし折ってようやく停止した。 「よし、全速前進! ただし輝光石は使うなよ」 「ガンブレイズ」は昇華気体を噴射しながら、地面を這うような高度で逃走 に移った。 −−「モーラッド」 「艦尾砲、照準。共鳴追尾!」 ジラーティ艦長の声が艦橋内の空気を張り詰めさせる。彼は、今度は魔道力 を用いて照準精度を高め、さらに誘導を行う腹づもりだった。 「魔道共鳴波放射。反応を確認。方位一六五。距離九一二」と、サルケルド魔 道長。 「照準完了」と、サルケルド魔道長。 間髪入れずジラーティ艦長が叫ぶ。 「撃て!」 −−「ガンブレイズ」 「魔道念波を逆探知」 「今度は必中を期すつもりか。まあ、そう考えるだろうな」 ラモナーグ艦長は余裕のある口振りで言った。だが、それを聞いている周囲 の者たちは気が気でない。 「敵艦発砲!」 艦橋脇に張り出した見張り台に出て後方を監視していたシーリング戦務長が 悲鳴めいた声で知らせる。 「後部要員に伝達! 欺瞞片放出」 そう命じつつ、自ら操舵輪を握るラモナーグ艦長は艦を左に急旋回させた。 −−「モーラッド」 「敵艦後方に強力な魔道反応」 「ガンブレイズ」が空中に散布した偽瞞片とは、砂利状の魔道石のことであ る。これは一か所にまとめられている際には強く反応しないが、適度な間隔が あくと、一つの巨大な魔道石に似た反応を起こす。 「ええい! 敵は左に舵を切ったぞ。追尾出来てるか」 「あぁ、いえ、二発とも後方の魔道反応に誘導されました」 ジラーティ艦長が厳しい声で聞く。統制盤に埋め込まれた魔道石に手をかざ しつつ、サルケルド魔道長が答える。 前方で爆発が二回。 ジラーティ艦長は自らの大腿を殴りつけた。 「ちくしょうめ。やつめ、屁をこきやがった」 その間に敵艦は尾根の間に入り込んだ。その尾根の向こうにも、手前のより も頭一つ高い尾根が見えているから、敵艦は溝にはまり込んだ格好になったは ずだ。ただし、旋回は可能だろう。 「奴が頭をどっちに向けているかが問題だ。こちらを向いていた場合、尾根の 間を覗き込んだ途端に噴進弾を食らう羽目になる」 ジラーティ艦長が、ブログナ副長に言った。経験の浅いブログナ副長に、飛 行艦戦のこつを教え込んでいるような節がある。 「尻を向けていた場合、また逃げられるかもしれませんし」 ブログナ副長は自信無げに呟く。ジラーティ艦長が無言のままなので、気ま ずく思う。 「どうすればよいでしょう」 ブログナ副長は正直に聞いた。 「ふむ……。上から行こう。このまま前進して尾根を越え、奴の頭を押さえる」 「押さえてから、どうします? 真下に噴進弾は撃てませんよ」 モーマー砲術長が口を挟む。 彼の懸念はもっともだった。旋回式の噴進弾発射器の俯角が余りに深い場合、 噴進弾が筒から滑り落ちてしまう。 「噴進弾である必要はない。爆雷攻撃でいく」 ジラーティ艦長がにやりとした。 −−「ガンブレイズ」 敵艦が反響波を撒き散らしながら前進してくるのを、「ガンブレイズ」の魔 道測定手・シーア=ヤックアード准尉がはっきり捉えていた。 「連中、山越えしてくるみたいです」 「予想通りですね、艦長」 ベイラー先任士官が感心したように言う。実は「ガンブレイズ」は「モーラ ッド」が向かってくる側の山の斜面に、頂上を向く態勢で着底していた。 「まあ、どっちから来ても対応出来るつもりの構えだったが、不意打ちを食ら いたくなけりゃ、俺でも同じようにするだろうな」 「で、墓穴を掘る訳ですか」 ベイラー先任士官の言葉に、艦橋要員の数名がかすかに笑い声をあげた。 「噴進弾発射管、装填完了しています」 と、シーリング戦務長。 「うん。前方の見張りを厳にせよ」 6−8へ
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