連載 #4617の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
新しい登場人物 守谷笠子(もりやりゅうこ) 「いいともいいとも。僕が食べるんだ。君が食べていけない法はないよ。どん どん、遠慮せずに食べたまえ。ただし、捜査に支障を来すことのないように」 「はい、それはもちろん」 「それと、くるみパンは自費で賄うこと。いいね?」 「はい」 うれしそうに返事した武南の目の前では、虎間が「どこにも似た者はいるも んだ」とばかり、笑いをこらえていた。 武南と桑田のやり取りを、苦々しそうに見ていた女刑事は、自分の番が来る と、ちゃんと表情を切り替えてこんな挨拶をした。 「私は守谷笠子です。しっかりとした捜査と素早い解決を目指し、精進します。 どうぞ、よろしくお願いします」 そして深々と頭を下げる。アップされた栗色の髪が搖れた。 「これはこれはご丁寧に。女性だからといって、遠慮する必要はありませんか ら、どんどんパワーを発揮してもらいたいものです」 「正にその通りですよ、桑田警部」 そう言ったのは、武南。彼は続けた。 「こちらの守谷刑事は、ご覧のように細身で、ちょっと化粧をした可愛い方で すが、腕っぷしは強くて、柔道・空手共に有段者の腕なんですよ」 「何を言ってるのよ! 犯罪の捜査に携わる者として、当然だわ」 頭に響く、キンキン声になって、守谷が抗議した。北勝を除く男三人が、顔をしかめ ている。 「まあ、これから一緒に捜査をしていくんだから、仲良くやりましょう。ああ っと、もう一人、こっちには無粋な男がいますんで、紹介したいな。早く来て くれるといいんだが」 桑田が笑顔で言ったところで、部屋のドアが静かに開けられた。 「おお、グッドタイミングだ。こちらが鑑識のエキスパート・尾関篤彦さん、 えっと四十六歳でしたかな」 部屋に来た途端、紹介されてしまった尾関は、戸惑いを隠せないでいる。 「北勝警部補です」 「武南案次です」 「守谷笠子です」 次々と挨拶されて、応対におおわらわの監察医。やがて、桑田のせいだと思 い当たったか、きっ、と彼の方をにらみつけた。 「恐い顔をしていないで、皆さんに報告してあげてもらいたいな。その間、僕 はアップルケーキをいただくとしよう。だいたいのところは聞いただろうから」 言い切ると、優雅な手付きでフォークを操り始める桑田。 いらいらした感情が顔に出ていたが、尾関は辛くもそれを飲み込んだようで、 報告を始めた。 落ち着いたものの、時々取り乱す浜野沙羅に、都奈達はすっかり困り果てて いた。大人と子供の立場がまるで逆である。 「百合亜は確かに、矢古田先生の家に泊めてもらうと……」 かすれ声で、百合亜の母は言った。 「ちょっと待って下さい。矢古田先生というのは誰なんですか? ウチの高校 に、そんな先生いたかしら?」 都奈の言葉は、最初は夫人に、ついで友に向けられたものとなっていた。 「いや、いない。誰なんですか?」 「そう、そうでしたわね。学校のお友達には、話さないようにしていたんだわ」 ちょっと迷い顔の浜野沙羅。しかし、やがて思い切ったように口を開いた。 「これは秘密にしてたんだけど、実はあの子……百合亜は情緒不安定みたいな とこがあって、お医者さんにかかっているのよ」 「え? じゃあ、矢古田っていうのは……」 「精神科のお医者さんよ。矢古田史朗先生。精神科医なんて大げさに聞こえる かもしれないけど、要はカウンセラーなのよ。精神的なね」 彼女の口調には、言い訳めいたところがあった。 「百合亜にそんなところがあったなんて……。そりゃ、感情の起伏が激しいな って、ときどき感じたけどな」 丈がため息でもつくかのように漏らした。 話が、あらぬ方向に行きそうになるのを、松井直助がとどめる。 「百合亜さんが矢古田先生の所へ行くと言ったのは、どんな状況でです?」 「えっと……。五時だったかしら、百合亜が学校から帰って、着替えてからま た出かけようとするなので、聞いてみたら、矢古田先生の家に泊めてもらうか ら、夕食はいらない。明日もそのまま学校に行くと言って、出て行ったのよ」 「そんなに簡単に許可されたからには、矢古田先生の家に泊まるということは、 今まで何度もあったのですか?」 「ええ。でも、考えてみると、それまでは矢古田先生から電話なり何なり、連 絡があって泊まるって形になっていたのに、昨日はそうじゃなかった……」 「すぐに、矢古田先生へ聞いてみた方がいいわ」 口を入れたのは、都奈。それで初めて気付いた様子で、浜野沙羅は電話のあ る方へ向かった。 間もなく通じたらしく、夫人は緊張した声で、話しかけ始めた。それがすぐ に、うろたえたやり取りとなり、夫人の返事は最後には、「はい、はい」と言 うだけになっていた。 「どうなったんですか?」 「そんな、そんな話は聞いていないと」 蒼白になった顔で、浜野沙羅が答えた。 「じゃ、じゃあ」 「昨日は百合亜と会っていないっておっしゃるのよ。ああ、どうしましょっ!」 ありふれた日常生活の中で聞けば滑稽な叫びだったが、今の彼女ら彼らにと っては、極普通の会話であった。 「矢古田先生は、どうすると言ってるんです?」 異常事態にすっかり戸惑っている高校生の中で、辛うじて松井直助が言った。 もはや、誰もが冷静ではなくなりつつある。 「仕事を切り上げて、来てくださるとおっしゃったけど。ああ、どうしたらい いのかしら」 「ぼ、僕らには判断できません。まず、あの、お父さんに連絡をするのが先決 と思います」 普段なら、「御主人」という言葉が、高校生の彼らでも浮かんでくるであろ うが、今はそうはいかなかった。 「そ、そうね。ありがとう。あの、あなた達も心当たりに行ってみてくれない かしら」 「もちろん、そうします」 その場の勢いもあっただろうが、張元丈が力強く応じた。 「……という訳で、現時点で、被害者の身元を示すような手がかりは見つかっ ていません」 尾関の大まかな検死報告の後、虎間が被害者の衣服・持ち物及び、周囲の捜 索結果を報告し終わった。 「靴下のY・Hを除いてね」 桑田が付け加える。 「犯人像としては変質者の線が強いようですが……」 武南が切り出した。桑田警部と北勝警部補の両者の顔色を窺うような具合だ。 「ともかく、被害者の身元確認が先決ですよね」 「そのようだね。犯人像の絞り込みは正式な検死が済んでからでいいでしょう、 尾関さん?」 寡黙な北勝に代わって、桑田が言った。尾関は表情を変えずに答える。 「そうだろう」 「では、変質者並びに挙動不審者に網を張るぐらいにとどめて、被害者の身元 確認に専心できる訳だ。ま、年の頃から言って高校生の可能性が高い。もちろ ん、大学生の可能性も残ってはいるが」 そこまで言ったとき、守谷が口をはさんだ。 「大学生じゃないわ。近頃の大学生が、あんな薄い化粧で済ましているはずが ないもの」 「ふん。多少、偏見が入っているものの、彼女の意見は的を射ていると思うん だが、どうだろう虎間君」 「ああ、はい。そうだと思いますね」 「結構。次に、夏休み前だという状況を考えると、地元の高校生である確率も 高いと思う。言っては何だが、この美津濃森にちょっと遊びに足を運ぶ若いの がいるとは思えない。さて、地元の人間だとしたら、僕達よりも北勝さん、あ なた方こちらの人達の方が、よく知っていると思うんですが」 「それはそうでしょうな」 「どなたかこちらの警察の関係者で、あの被害者を見かけた者がいないもんで しょうかね? 彼女が物凄い不良であるか、あるいは物凄い親切な人間で、印 象に残っているという場合ですね」 桑田の言葉に北勝はうなずくと、武南の方を向いた。武南は、何も言われて いないのに、部屋の外に飛び出して行く。 「どうしたのですかな?」 「北勝警部補の考えは、武南刑事にすぐ通じるんですわ」 北勝の代わりに守谷が答えた。 「高校の通学路にある駐在所勤務の巡査に、話を聞きに行ったんだと思います」 「それはまた、時間がかかりそうですね」 「いえ。とりあえず、第一発見者の通報を受けた巡査がいましたでしょう? 彼がそうなんです。現場に一番近い高校について」 「ほほう。それは偶然……、いや、必然とも言える訳か。こうなると、被害者 の彼女が、何かしら特別な子であってほしいな」 そうこう言っている内に、桑田にも馴染みになった例の巡査が顔を見せた。 武南も一緒である。 「彼が、申し上げたい話があると言ってますので、連れて来ました」 「ふん。で?」 桑田が目を向けると、巡査は前と変わらぬ緊張した面持ちのまま、答えた。 「実は、発見当初から引っかかっていたのですが、何分、滅多にない強殺事件 に気が動転してしまっていたのか……」 「くどくどしい言い回しは結構。早く言ってくれないか」 「はあ。今回の事件の被害者、どこかで見たと思っていましたら、武南刑事に 指摘され、ようやく思い出したのであります。彼女は、美空高校の生徒かと思 います」 「どういう根拠で、そんな結論を得たんだい?」 「彼女は非常によくできた高校生でありまして、何度か人助けをしています。 私が勤めております駐在所に、迷子になった幼児を連れて尋ねたり、落し物を されて困っている老人に付き添って来たりと、色々ありました」 「ふん。いい人だった訳だ。じゃ、名前の方も分かるかい?」 桑田はあまり期待しない風に聞いたのだが、彼が思ってもいない答えを巡査 は返してきた。 「上だけですが、浜野だったと思います。駐在所の方に、ひょっとしたら記録 があるかもしれません。あまり、何度も訪れてくれるので、名前を聞いておこ うかなと思いまして、一度聞いたんです」 「それは凄いな、君。仲々優秀だよ」 「ありがとうございます」 桑田の誉め言葉に、戸惑いながらもうれしさを隠し切れない様子の巡査。 「ところで、その優秀な君に尋ねたいんだが、どうしてそこまで印象に残る、 そう、僕から見ても美少女のあの被害者に、すぐに気付かなかったんだろう?」 「それは……。多分、制服を着ていなかったからだと思います。それまで、私 が会った彼女は、学校帰りのためかいつも制服を着ていました。それが実に清 楚な雰囲気で、何とも言えず固定化されたイメージを持ってまして……」 巡査の喋る言葉は、次第に訳が分からなくなった。 「うん、なるほど。つまり、私服の彼女、浜野某を想像できなかったと、そう いうことだね?」 「そうであります」 「ふん。もういいよ。よく思い出してくれた」 そう言われて、巡査は大きく礼をし、退室して行った。 「彼は凡庸だが、仕事熱心で記憶力がそれなりにあるのがいいね。ま、僕ほど の記憶力ではないけれども。これはしかし、大きな収穫だ。早速、電話しても らいたいな、武南君。いや、女性の方がいいかな」 桑田はちょっと考える顔つきになって、やがて守谷を見た。 「あなたの声でも、女性の方がいいだろうなあ。守谷さん、できるだけソフト に、美空高校に電話してもらえませんか。浜野某の身元を確認するんです」 「結構ですけど、どうして女性の方がいいと?」 「いや、どうせ、最初から警察だと明かさねばならないでしょうからね。いき なり男が、不躾な言い方で『おいこら』と問い質すよりも、女性の方がいいだ ろうってね。もし、学校とは無関係だと分かったときも、角を立てずに話を収 束できるでしょう」 桑田の気取った言い回しに、守谷は納得したのか呆れたのか、ともかく黙っ て番号を調べ、続いてプッシュフォンを押し始めた。 相手の方も女子事務員が出たのか、幾度かけたたましいやり取りがあって、 ようやく守谷は送受機を置いた。 「間違いないようですね。浜野百合亜という女生徒がいるそうなんですが、今 日は無断欠席しているらしいです」 「百合亜ね。Y・Hとも符合する。これは浜野家に確認を取るべきだな。そち らの番号、分かってます?」 「もちろん、聞いておきました」 「結構。では、すぐに電話してくれたまえ」 命じられた守谷は、再びプッシュフォンを手に取った。メモを見ながら押し ていく彼女の表情は、押し終わったところで変化を見せた。一度フックに指を かけ、またボタンを押し直す。それでも表情の変化はそのままだった。 「話し中です。桑田警部」 −続く
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