連載 #4615の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
港は市場の南側だ。 「うまく追い込めるか……」 動きが早い。じりじりと距離を離される。勝手気ままに店を荒らしているとしか 見えない。 ルースの読みが違っていたら? みすみす捕らえるチャンスを逃すのだ。手を伸ばせば、本気を出せば届くような 気がするのに。 また跳んだ。 木箱の崩れる音が聞こえる。高いジャンプだ。 高いジャンプは滞空時間が長い。 跳んだときに、撃ち落とせるか? 市民を傷つけるわけにはいかない。勝負は一瞬だ。 懐を探る。 小さな川石を収めた革袋がある。 一つ取り出した。親指の腹で丸みを確かめる。 固く小さな石つぶてだ。 目測で距離を計る。 こちらも動いている。標的も動いている。いけるか? 当てる自信はあった。走りながら、鳥を撃ち抜いた事もある。足に打ち込めば動 きを押さえられるだろう。それからゆっくり捕まえればいい。 ルースは何か言うだろうが、早く捕まえるに越したことはない。 人の流れを読み、敵影を追う。静かに狙いを付ける。走る速度をほんの少し、落 とした。 跳ねた。 「当たれよっ」 親指で石を弾く。目が合った。 嘲笑った。 血が飛び散った。 「あっ……!」 マイラは転倒した。 額に痛みが走る。視界が朱で染まった。 頬にべっとりと血が流れる。冷たい。 生臭さが鼻を突く。手の甲で顔を拭った。 「これは……」 顔に生肉が張り付いていた。 肉屋で掠めた血も滴る新鮮な肉。まだ血抜きもしていないのだろう。掌で肉は血 を流し続けた。 革手袋が血に染まる。額は少し切れたようだ。 そして『飛び魚』は姿を消した。 遠くで騒ぎは続いているのだろうか。 道に座り込んだ彼女には聞こえない。人々の喧噪にかき消される。 怒りよりも呆気にとられて手中の生肉を握り締めた。 がり。 硬い感触がある。 指で探ると撃ったはずの川石だった。白い丸みが骨に似ている。 「遊ばれた……この私が?」 追い込むどころか、捕まえるどころか、撃ち込んだ石を受けられ、撃ち返された のだ こちらが怪我をしないようにか、驚かせようとしてか、ご丁寧に肉と一緒に絶妙 のタイミングで。 ルースが何と言うだろう? 前髪からしたたり落ちる獣の血を眺めてマイラはため息をついた。 1 六行目、七行目、二行を一段落でまとめた方がよい。「無人の野のごとく」 違和感を感じた。 2 十七行目 目を見ることができるのなら、顔を見ることもできると思うのだ が・・(アラビア風の衣装なら、目だけ見ることも可能) 3 五十行目 「手を伸ばせば、本気を出せば届くような気がするのに」 手を伸ばせば届くような気がするのに OR 本気を出せば届くような気が するのに どちらかにすべき。 ルースは見ていた。マイラが仕掛ける様子なのも、仕掛けて失敗したのも一部始 終。 「なんてこった……」 責めないが、少々情けないかもしれない。相手を侮りすぎている。 失敗は読めていた。 止めることもできたのに止めなかったのはルースの意地が悪い。 「相手の実力が計りきれないときは、むやみに手を出すなと教えたのに」 見えない相手の実力を、マイラで計ったのだ。 『飛び魚』がマイラで遊んでいる間に、ルースは手頃なマントを買った。鮮やか に白い神官服は目立ちすぎる。 背の低さも幸いして、彼は完全に波に紛れていた。 「これで僕を見失ってたら、奴もそれまでの器ってことか」 マイラを余裕でもてあそんだ。未だ師に及ばないが、彼女はルースの教え子の中 で、もっとも優秀な一人だ。王都生え抜きの正神官と言えるだろう。 それを翻弄する一少女……。 さて、その師匠をどう切り抜けるか。 敵は予想通り、旧市街に向かっている。 盗みも止めた。服地を扱う店にもぐったと思ったら、出てくるときには買い物帰 りのおかみさん風に化けている。 盗んだ荷物は頭の籠の中だろう。うまく布でくるんで、取り澄ました足取りだ。 マイラと待ち合わせた旧市街の門を抜けたときは、日もずいぶんと傾いていた。 まだ人影はまばらにある。夕餉に急ぐ母子連れや、家路をたどる男たち。すぐ後 ろまで、土砂は迫っているというのに。 一月ほど前にこのティシュトリヤ山が起こした山津波と、なぜか同時に起きた森 の火事で、ここにあった家々は壊滅的な被害を受けた。 背中に山と森の恵み。前には豊かな海の恵みとうたわれたエサウの街は、その半 分を失ったのだ。 ティシュトリヤ大公のお膝元でもあり、大公家の多大な援助を受けつつ新しい市 街を造りつつあるのだが……。 山から切り出した石を組んで建てるエサウ風の家を造るには、あまりにも被害は 甚大だった。 仮組の天幕、土を掘って建てる木の家。間に合わせの処置とはいえ、いかにも頼 りない。家を失った住民は溢れ出し、危険な旧市街に戻ってきた。 雨でも降れば、いつ再び起こるかわからない山津波。それでも住み慣れた家屋に 人は戻ってしまう。危険すぎて、取り壊しすら出来ないというのに。 本当にエサウが立ち直り、この市街が取り壊されるまで、人々は危険と隣り合わ せのこの場所で暮らしてゆくのだろうか? 崩れかけた窓に灯りがともる。 『飛び魚』が道に浮かび上がった。 気付いているのかいないのか、落ち着いた足取りだ。 崩れた家や倒木に身を隠し、後を追う。 間はかなり開いている。深い夕暮れの中でも、ルースの視界は揺るがない。亜人 種である彼の特性の一つだ。 彼の身分証明には『ルース・リンクス 一角エルフ種:亜人』と書かれている。 老けない。長寿。運動能力に優れる。記憶力抜群。そして額には一本の角。ずい ぶん前に角は削り落としてしまったが。 亜人種は数が少なく貴重な存在なので、どこの神殿、王宮でも引っ張りだこにな る。 人に混じって奉職する者はさらに少なく、こういった現場の司法神官など危険な 職に回されることはほとんどない。ルースは例外中の例外だ。 その能力をフルに生かして、獲物を追う彼は、小さな猟犬のようだ。逃げられる 者は、いない。 マイラは門で待っているだろうか。 日はとっぷりと暮れ、人影も消えた。こんなはずれの場所では無理もない。 足が速まっている。ルースも合わせる。 残酷な爪痕はすぐそこまで迫っている。形のある建物など無いに等しい。わずか に基礎や、玄関の階段がそれと知れる瓦礫の山だ。 (隠れ家は森の中か?随分と危険な) それとも、大きな地下室でもあるのだろうか。いや、それではいざという時の逃 げ道がない。掘り進むには、大地が安定していない。いくらなんでも崩れてくるだ ろう。 (いやな感じだ……気付かれたか) 勝負を決めようと、人気のない場所までおびき寄せられたか……。 マイラを笑えまい、と、マントの下の鉄杖を握りなおした。 とたん。 『飛び魚』がふいと消えた。 夕暮れに溶けたか?いや、穴に落ち込んだか。突然消えた。 膝までに崩れた石垣を越えたとたん。 見逃したはずはない。 「地下か!」 駆け寄るような真似はしなかった。 しばらく待ち、傍らの石塊を投げてみる。 聞き耳を立てるが音はしない。逆に背後から音がした。 「門で待てと言ったのに」 確かめずにつぶやく。 「申し訳ありません。思ったより早く着いてしまって」 尾行の気配は感じなかった。 「どうやってここを?」 「門のそばに門衛の詰め所がありまして、そこから見ていました。物陰に見えなく なってから見当をつけて来たらいらっしゃったので」 「尾行されてないだろうな」 「おそらくは……。『飛び魚』の仲間が彼女以上の力を持っていた場合、自信はな いです」 「結構。慢心は己の最大の敵だと学んだな」 「見てましたね……?」 「ああ。その血の理由ならね」 服の血はどこでか拭ってきたが、小さな傷の血は固まって額を飾っている。マイ ラはその長身を窮屈そうにかがめてルースに付き従った。 「奴はあそこで消えた。 石の残り具合を見ると、元は富裕な商人の館ってところだろう」 「意外ですね。地下室ですか」 「罠の可能性も捨てきれない」 背をぽんと叩く。 「つきあいますよ。踏み込みましょう。逃げられて元々」 「逆にやられるとは考えないわけか。 相手を侮るなよ。今度は生肉ぶつけられるくらいじゃすまないかも知れないぞ」 「私とあなたで?」 足音を隠すまでもなく、二人は楽しげに笑い、崩れた石垣を越えた。 かかとで地面を蹴る。鉄板がくわんと鳴った。 「地下室だな。穀物倉庫か」 鉄板で無造作に蓋されている、錆びた取っ手に壊れた鍵が下がっていた。穀物の 神の護符が刻まれている。 マイラが取っ手に鉄杖をかけ、ぐいと引く。 本当にあっけなく、蓋は開いた。 「……」 何も飛び出して来ない。武装した盗賊も、磨かれた槍も、矢も、何もだ。 黒々と湿っぽい入り口が口を開けている。灯りはない。 二人は目を合わせた。 「先に行く。五つ数えて後に続け。気をつけろよ」 「見張りはどうします。後から蓋されたら……」 乾いた木ぎれに火をつけて、入り口から落とした。床を三回だけはねて、静かに 燃えている。 「中に奴は絶対いる。人質にして出してもらおう」 「楽天的ですねえ」 ルースは急な階段を慎重に進んだ。マイラは周囲を油断無く見張る。 木が燃え尽きた。 息を殺して周囲を伺う。 仕事だけれどわくわくする。獲物を追う小さな犬のように。 湿った暗闇がゆらいだ。マイラの持ち込んだ蝋燭で。背中の後ろにマイラの鼓動 と息づかいが聞こえる。 「相変わらず用意がいいな」 小さな灯りで、闇はいっそう深まった。 天井からしたたり落ちる地下水の滴。 積み重ねられた木箱には何が入っているのだろう。黴と埃のにおいがする。
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