連載 #4575の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
陣地の奥のほうに張られた天幕に集まったんだが、王女様を間近で見たのは その時が最初だったな。もう夕方だったと思う。敵の何十度目から攻撃を撃退 してすぐだった。 俺は最初、出来るだけ隅っこのほうでじっとしていようと思ってた。まあ当 然だな。俺が口だし出来るような場所じゃない。 だけど、王女様とその側近が示した今後の作戦についての話の筋が見えてく ると、俺は思わず文句の一つもいいたくなってしまったな。王女様ははっきり と、逆襲を提案していたんだ。 冗談じゃないと思ったぜ。分かるだろう? 俺たちがそれまでなんとか持ち こたえられてたのは、防御に徹して、陣地から絶対に飛び出さなかったからな んだ。数の上じゃ、向こうのほうが断然多いんだ。それを逆襲だなんて、信じ られるかい? 実際、ライアス一佐も猛反対した。しかし王女の命令は絶対、だって、意見 は聞き入れてもらえなかった。 実はライアス一佐は三日前に逆襲案を提示していた。その時の敵はかなり消 耗していたんだ。物も、人も。しかし、三日のうちに状況は全く変わっていた。 向こうには補給が届いた。しかしこっちにはろくな武器や食料も届かなかった。 これは俺の推測だが、王女様は誰かにいらぬ知恵を吹き込まれたんだと思う。 王家の名誉がどうこう、勲功がどうこう、ってな。いるんだよ、そんな奴がど こにも。馬鹿馬鹿しい話だろう? 王家って言ったって、もう帝国の属領に過 ぎないのに。 ん? ああ、そうだ。大体見当はついてる。でも、ここで名前を言うわけに はいかないね。まあ、ヒントはやってもいいかな。その御方は今も王女様のそ ばにいる。それで、あの戦争に従軍した人間っていやあ、限られる。そっから 先は推測してもらうしかない。 俺は自分の持ち場に戻って、小隊長四人を集めて作戦を説明し、それを部下 に伝えるように言った。小隊長と言っても、みんな代理ばっかりだった。だが、 そんな経験のない奴等でも、これが無謀である事は良く判っていた。 みんな文句をたれたが、俺が「王女様直々の御命令だ」って言ったら、みん な納得してくれたよ。いや、心の中では納得出来るはずがないんだ。それは俺 もよく判っていた。俺自身納得していなかったんだから。 フラッガの中隊は夕食を摂っていた。これが最後の食事になるかも知れない、 という暗い雰囲気がただよっていた。 「しっかし、どうなりますかね」 干し肉をかじっていた兵士が呟く。 「どうということはないさ。敵がいつものように攻めてきたら、いつもの調子 でそれを受け止め、……逆襲さ。潰走する敵を盾にする格好で押し返していっ たら、こっちは損害をうけないまま、敵陣に雪崩れ込める」 フラッガは投げやりな調子で応えた。内心では、冗談じゃない、やってられ ない、と思っている。 「よく出来た作戦だと思いますよ」第二小隊の隊長が言う。「ちゃんとタマや 兵士を補充してくれるのであれば」 「問題はそこだ」 フラッガが吐き捨てる。戦闘終了後彼等に与えられたのは、ボウガンの矢が 一人当り五本程度でしかない。そのうち新品は半分もなく、大部分は戦場から 回収してきたものだ。ひどいものになると、折れたロングボウの矢をボウガン 用に作り直したものまであった。 さらに、予備の兵士はほとんどが司令部に止め置かれたままで、各中隊にま で回ってこない。完全充足時における定員が二百五十名であるはずの彼の中隊 は、今や百七十四名に減少している。その中には、平時であれば重傷に分類さ れるものも含まれている。 フラッガは言った。 「ライアス一佐が全力迎撃命令を出した理由が判ったよ。そうでもしなけりゃ、 敵を抑え切れなかったからなんだ」 「自分もそう思います。その状況で逆襲なんて、無茶ですよ」 しばらく沈黙が続いた。 「この星空を見るのも、今日が最後かも知れないな」 誰かがぽつりと言った。その言葉につられてフラッガも頭上を見あげた。 そこには無数の星が瞬いていた。魂を吸い取られるかと錯覚するほどの美し さだった。 美しい。彼は初めてそう思った。そしてこの光景を見るのはこれで最後にな るのかも知れないという思いは、耐え難いほどに彼の心を痛め付けた。 「死んだら星になるなんて話を信じる歳じゃあないが、こんな景色を見ちまう と、人間がつまらないものに思えてしょうがないな。でもまあ、つまらないな りに、やるしかないな」 彼の言葉に、兵士達も同意する。 「そうですね。どうせ明日限りの命なら、思い切り派手に暴れて散らしましょ う!」 もし、あの作戦計画が実行されていたら、まず俺達の師団は壊滅してただろ うな。そして俺もここにはいなかっただろう。 え、どうなったのかって? 簡単なことさ。次の日の朝っぱらに帝国の方面 司令部から軍使が来たのさ。停戦協定が結ばれた、戦争は終わった、ってな。 もっとも、夜明け前から起き出して敵を待ち構えていた俺達がそれを知った のは随分時間がたった後だったけどな。何しろ、俺たちの前にいる敵がそれを 知っているかどうか判らないんだから、戦闘態勢を解く訳にはいかなかったん だろう。 俺達は敵が攻めてきたら、いかに敵を多く倒し、派手に死んでやるかと、そ ればかり話し合っていた。今考えると滑稽だけれども、その時は本気だった。 そのうち、昼になっちまった。俺達も何となくおかしいとは思ったけれども、 誰かが「敵が大規模な攻勢を計画している」って話を言い出したおかげで、緊 張感は薄れなかった。 だから、見張り員が敵発見の合図を送った時には、心臓が潰れそうになった。 見ると、丘の上に確かに騎馬兵がいて、こっちに向かってくる。ああ、俺の人 生も終わったな、って思ったもんさ。 ……まさか、それが停戦協定を受諾した旨を伝える軍使だとは、夢にも思わ なかった。俺は投石機隊もロングボウ隊も撃たないのをタマ切れのせいだと勘 違いして、思わず射撃命令を出すところだったんだ。よくみりゃあ、それが隊 伍を組んだ騎馬隊じゃないって事くらい、すぐ判りそうなもんだけどな。よっ ぽど緊張して、舞い上がってたんだろう。その事を思い出すと、今でもちょっ と恥ずかしいけどな。 これでお話は全部だ。べつに教訓でもなんでもない。ただ、そういう事があ ったというだけさ。 ……。そりゃ、王女様に対する忠誠は本物だ。俺だけじゃない。一○八師の 将兵全員、その点だけは間違いない。……ただし、俺にはどうも納得できない。 なにがって? 王女様への評価さ。 別に王女様を無能よばわりしている訳じゃない。その点ははっきりさせてお く。しかし、しかしだ。王女様には軍事に関する知識もセンスもまるで無かっ た。それが悪いことだとは決して言わない。王女様なんだから。 そんな訳でだ、そんな王女様を「戦乙女」と呼んで、女神様みたいに扱うの はどうも、個人的に納得出来ないんだ。それは俺一人だけなのかなぁ。あの夜、 最後の星空を目に焼きつけておこうと思った者なら、誰だってそう思うんじゃ ないかな。 おわりに 彼の話に疑問を覚える向きも多いかと思う。特に、オーリアスの出身者にと っては、耐え難い話であろう。帝国にその名を武勇伝と共に語られる戦乙女が 実は無能だったと、誰が信じられよう? しかし、帝国が故意に英雄を作り出そうとしていた事実も否めないのである。 そして真実は一つとは限らない。信じたい現実を信じて、生きたい現実で生き る。その精神が現在を生きる術なのかも知れない。 (おわり) =*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*= ・「『うち文』計画浮上セズ」来春発行予定!(笑) 「講談社ファンタジーノベル大賞・五百万円を狙う」計画が、ふとしたきっ かけでスタートしてはや一年。ごく内輪の企みは、いかにして第三者、第四者 を巻き込んで泥沼化(!)していったのか。そして計画はどこまで進んだのか。 その答えはこの本の中にある。 「飛龍輝光伝」完結編や、基本案その一「抄伝・侍の翼」、そしてリムリー ス大陸攻防史等、ボツを含めた設定資料が満載。 他にも「隼姫の唄」「ジョアン王女のおはなし」等、書き下ろし作も多数掲 載予定。これ一冊で「うち文」の全てが判る! =*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*= 永山註. これで二度目の註(訂正)になるが、上記の文章中、「講談社ファンタジー ノベル大賞」ってのは間違い。日本ファンタジーノベル大賞は新潮社。なお、 集英社のファンタジーロマン大賞はコバルト関連の賞と統合され、新たにロマ ン大賞(長編)とノベル大賞(短編)の二つになった。
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