連載 #4572の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
クルーガが残りの一人に怒鳴る。 「さあ、どうする! ここで俺たちが殺しあっても、お前達には何の得にもな らないぞ! 俺を殺して見ろ、龍の子は帝国の敵になるぞ!」 「おい、クルーガ! それはないだろう!」 クルーガの言葉に驚いたのは、戦闘員よりもむしろリイだった。当の戦闘員 には、何の動揺も見られない。 「知ったことかっ」 戦闘員が短刀を腰だめに構えて突進してくる。 クルーガは軽く舌打ちして、手にしていた短刀を相手の顔面目がけて投げ付 ける。 戦闘員は短刀で軽くそれを弾いた。しかしその瞬間にクルーガは間合いに飛 び込んでいた。 「せぇぇいっ!」 クルーガが気合いと共に、相手の右膝を蹴り飛ばす。鈍い音が不気味に響く。 膝の骨が折れた音に違いなかった。 しかし、今度はそれでは終わらなかった。「ぬぅらぁ!」 攻撃が成功したことによって生まれた隙をクルーガは衝かれた。相手の左拳 が彼の顔面に叩き込まれる。 クルーガは二レード近く吹っ飛ばされた。背中から地面に落ち、積もった落 ち葉が舞い上がる。一方、膝を砕かれた戦闘員も、その場にへたり込む。 「クルーガ!」 一拍間が空いてから、セレナが仰向けに倒れ込んでいるクルーガの元に駆け 寄った。 「危ねえ、危ねえ。もうちょっとで顔の骨が折れるところだった」 そう言うクルーガの鼻と口からは血が吹きこぼれる。それに気付いたクルー ガは乱暴に口もとをこすった。 「血が……!」 「どうってことねえ。それより、今のうちだぞ。早く行こう」 クルーガは、セレナの手を借りて立ち上がった。自分の荷物を拾い上げ、肩 に担ぐ。 「いいのか? とどめを刺さなくて」 そう言ったのはリイだった。クルーガは不思議そうな顔をして彼のほうを見 る。 「何言ってるんだ。こいつらも帝国軍だろ? 命まで奪う訳には行かない。さあ、早いところ出発しよう! ただし、短刀 を持たせとくと危ないから、これは貰っていくがな」 クルーガは戦闘員から短刀を三本、奪い取った。そして、リイとセレナを連 れ、ウォンツ村へ向けて再び出発した。 「結構、いい奴なんだな」 リイが、絆創膏を張ったクルーガの顔を見ながら言う。 「今更気付いたのか……って、もし、連中を見逃したことを言ってるんなら、 見当外れだぜ」 「……?」 クルーガの言葉の意味をはかりかねて、リイが首を傾ける。 「連中、ろくな装備を持っていなかった。こんな山の中、短刀一本も持たずに 取り残されてみろ、そのうち狼か熊の餌食になる」 「まさか!」 リイが息を呑む。 「本当さ。特に熊は、冬眠前で栄養を取りたがっている。まぁ、連中は素手で もちょっとは戦えるだろうが、いつまでもつか。短刀一本、持っているかどう かが運命の別れ道だ」 「おいおい、僕たちも山の中にいるんだってこと、忘れてないだろうね?」 リイは急に不安になったらしく、盛んに回りに視線を送っている。 「心配はいらない。俺は、熊殺しの戦法をちゃんと親父に習っている」 クルーガが胸を張る。 「それを聞いて安心したよ」 しかし、胸を撫でおろしたリイに、クルーガはこう付け加えるのを忘れなか った。 「もっとも、実戦経験は一度もないんだけどな」 〈十七〉 三日後。 道中、熊に襲われることもなく、ようやく彼等はウォンツ村を見下ろせる山 の中腹にまでたどり着いていた。 「とりあえず二人はここにいろ。俺が様子を見てくる」 クルーガはそう言って肩の荷物を下ろし、村の方向に駆け出した。その際に も、音はほとんど立てない。彼の姿はたちまち木々の中に消えていった。 「猿みたいなすばしこさだな」 その後ろ姿を見送ったリイが、呆れ気味に言う。 「猿はないでしょう?」 傍らのセレナが睨んでいる。 「いや、誉めているんだよ」リイが慌てて手を振る。「僕には到底出来ない芸 当だよ。僕みたいなのより、クルーガのほうがずっと工作員に向いているよ」 半刻余りして、クルーガが戻ってきた。 「どうだった?」 セレナとリイが同時に聞く。 「バルメディの騎士が村の人達を見張っている。数は三十人くらいだ。別に建 物に閉じ込めているって訳じゃないが、村の外に出ないよう監視しているみた いだった」 「君の村の人達は『手』を使えるんじゃないのか? それなら、騎士の三十人 やそこら、あっという間に叩きのめせる筈だ」 リイの言葉にクルーガが首を振る。 「そうもいかない。村の全員が戦える訳じゃない。女子供や老人もいるんだ。 人質に取られたら手も足も出ない」 クルーガは苦々しげに言う。 「じゃあ、どうする?」 リイがクルーガとセレナの顔を見比べながら尋ねた。 「リイこそどうするんだ? 成り行きでこんなところまで来ちまったが、俺達 の村がどうなろうと関係ないだろうに」 「手伝うよ、こうなったら」リイが間髪入れずに答える。「バルメディの騎士 を一人でも倒せば、帝国の為にもなるしね」 「いろいろ大変なんだな、工作員ってのも」 クルーガはそう言って笑う。 「しかし、何か策を考えないとな」 「私が行く」 セレナの言葉にクルーガが眉を上げる。 「私がみんなを助けるわ。龍になって−−」 セレナがクルーガに向ける眼差しは真剣そのものだった。だが、クルーガは 彼女の言葉を遮った。 「駄目だ。無謀すぎる。第一、龍になったときに意識がないんじゃ、何をする か判ったもんじゃない」 「いいえ! 大丈夫よ。今度は心の準備が出来ているから、うまくやれるわ」 「そうは言っても、輝光石をどう使えばいいのか判るのか?」 「ゾルムントはあの時、こう言ったわ。『今ここに、石の中に眠る龍の魂と、 汝の血に眠る龍の力を目覚めさせん。魂と力、一つになりて、その真の姿を我 に示せ!』って」 「しかし……」 「じい様達をあのまま放っておくつもり?」 セレナにそう言われると、クルーガには返す言葉がない。 「よし。セレナがそう言うなら仕方がない。だけど、何が起こるか判らないん だ。無茶をするなよ」 余りにも危険な賭けだ、とクルーガは思った。下手をすると龍になったセレ ナが、バレイズやその他の村人に危害を加える恐れが十分ある。それどころか、 村そのものを破壊しかねないのだ。それでも、他に策はなさそうだった。第一、 彼等には様子を見ている暇もない。 クルーガは渋々、懐から輝光石を取り出した。輝光石には再び赤い光が宿っ ている。 「行くぞ、セレナ!」 クルーガはそう言って、輝光石をセレナの眼前に突き出す。セレナが言った 通りの呪文を唱える。輝光石が血の色に光輝き始めた。 そして、赤い光の中から龍が出現した。一度大きく翼をはばたかせた龍は、 弾かれたように上空に飛び上がると、一直線にウォンツ村目がけて突進してい った。 「セレナ、頼むから正気を保っていてくれ」 クルーガはその様子を、祈るような気持ちで見守っていた。 その頃、旧マイーザ王国領・ジカリには、新たに第七騎甲師団二万人が集結 していた。ランディール帝国最強師団と呼ばれる彼等には、国中から集められ た弓矢、弩弓、投石機等が装備されていた。もっとも、その意味を知っている ものはほとんどいなかった。 一方、ベレットにおいては、教導隊の対龍戦訓練が本格化していた。それ用 の兵器開発も全力で行われていた。 彼等は、あくまでも真正面から龍と戦い、勝利することを目標としていたの である。その目標が妥当なものなのか、それとも無謀極まりないのか、この段 階で断言出来るものはただ一人として存在していない。 (つづく) ○一人ツッコミのコーナー ここでは、「飛龍輝光伝1」及び「−−2」のストーリー上で、筆者がうっ かり書き忘れた事象に関して補足します。 Q1 何故、バルメティ王国のセイガル国王は、龍の子・セレナを戦争に投入 するにあたり、誘拐じみた方法をとったのか。実の娘であり、自国領内に住ん でいるのだから、もっと穏やかな方法で協力を約束させられたのではないか。 A1 バルメティ王国はもともと地形的・歴史的に南北に分かれており、都市 化された北部の住民は、山岳地帯に住む南部の住民を軽視する傾向にある。そ のため、北部の首都に住む国王もまた、南部の住民に低姿勢では臨みたくない。 さらに国王の性格としては、芝居じみた陰謀を巡らすのは性に合わない。 Q2 セレナの乗った馬車を追撃するはずだったクルーガとリィは、何故スレ ア湖を迂回してザスラに先回りしたのか。 A2 「追っ手から逃れるべく」と本文中には書いている。実際には「−−1」 の直後、彼らはザスラの工作員達と接触するよう指示されている。そのあたり の描写は抜けている。 Q3 聖都の神殿からセレナを救い出した後、クルーガ達は何故危険の多いウ ォンツ村に戻ったのか。 A3 他に行くところがないから(笑)。当り前と言えば当り前だが、本文中 には一言も触れていなかったりする。 Q4 ランディール帝国には最強部隊が各種存在しているが。 A4 第七騎甲師団は、強力な兵器と訓練された兵士が最もバランス良く配置 されている。教導隊は、戦闘技術の最も優れた者達を集めた部隊である。情報 部第一課は、不正規戦や暗殺に威力を発揮する部隊。もっとも、クルーガ一人 に歯が立たないのは、格闘戦術そのものが未発達なため。
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