連載 #4571の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
儀式に参加していた聖アドリス騎士団が、工作員達との戦闘に入った。その 騒ぎを尻目に、ゾルムントは強引に輝光石を奪い取る。 そして、それをおもむろにセレナの鼻先に突き出した。 「今ここに、石の中に眠る龍の魂と、汝の血に眠る龍の力を目覚めさせん。魂 と力、一つになりて、その真の姿を我に示せ!」 ゾルムントが呪文めいた言葉を放つと、輝光石の赤い輝きが一気に増した。 セレナは目を見開き、その光を見つめていた。身体を小刻みにふるわせ始める。 「よし、いいぞ……」 ゾルムントが声を漏らす。次の瞬間、セレナの髪と瞳が瞬く間に真紅に変わ った。 「−−!」 セレナが喉の奥から声を絞り出す。 それに呼応するように輝光石が凄まじく発光したかと思うと、セレナの身体 は赤い光に包まれた。 見る間に、セレナの身体が巨大化し、変様していく。赤い光のせいでその影 しか見えないが、それはまさしく龍の姿だった。 その異常な光景を目の当たりにし、騎士も工作員も戦いの手を止めて、光の 中のものに見入っていた。 「龍の子……。こういう事だったのか!」 クルーガが歯ぎしりする。これではうかつに飛び出せない。 やがて光が収まった時、ゾルムントの眼前には龍がいた。その場に居合わせ た者たちから歓声とも溜め息ともつかぬ声が漏れる。 「やったぞ。これでバルメディは救われる」 コリンズが嬉しそうに龍を見上げる。 「良く聞け、龍の子・セレナ! そなたは、私の言葉一つで龍へと変化する。 そして、そなたを人間の姿に戻せるのも、輝光石を持つ私だけだ! もし、そ の姿で一生を過ごすことを望まぬのであれば、我が命に従え!」 ゾルムントが龍に怒鳴る。確かに、わずか十五歳のセレナに、龍の姿のまま で生きていけというのは余りにも酷な話だった。ゾルムントらしい殺し文句で はあった。 だが、龍と化したセレナには、自分の置かれている状況が良く判らないらし い。翼や尾を確かめるように動かし、長い首を巡らせて周囲を見回している。 そして、騎士達と工作員達のほうに顔を向けた。しばらく値踏みするように 彼等を眺めていたが、やがて腹を波立たせ始めた。 「まずい! 逃げろ!」 龍に関する造詣の深いゾルムントだけがその意味に気付き、喚いた。しかし 彼等がその言葉に反応する前に、龍が口を開け、熱気を吐き出した。 騎士も工作員もひとまとめにして吹き飛ばされる。それと同時に彼等の全身 から発火する。十レードばかり後方に飛ばされた彼等は全員、地面に叩き付け られる前に炭と化していた。 「ひでえな」 クルーガは生まれて初めて、人間が燃えるときの匂いを嗅いだ。 「行くか?」 しかし、リイの問いはクルーガにあっさり却下される。 「まさか。今飛び出しても、あの熱気に燃やされるだけだ」 しかし、このまま指をくわえて見ている訳にもいかない。 (どうすりゃいいんだ……) その時、困惑する彼の視界に、ゾルムントの持っている輝光石の光が飛び込 んできた。 「おい、早く止めろ!」 コリンズが慌ててゾルムントに叫ぶ。 「判りました」 ゾルムントは白くなった輝光石を掲げた。しかし、彼が呪文を唱える前に、 龍の尾が横合いから彼を殴り飛ばした。彼の身体が祭壇の柱に叩き付けられる。 「畜生め」 クルーガが何をののしったのか、リイには良く判らなかった。しかし、クル ーガが林の端から飛び出していくと、間髪を入れずにその後を追った。 飛び出したクルーガは全速力でゾルムントの元に向かった。狙いは手に持つ 輝光石だ。 三レードほど手前で、ゾルムントが気付いた。だが、もう遅い。傷付いたゾ ルムントが剣を構えるよりも先に、クルーガが石畳を蹴っていた。 顔面への蹴り。それをかわそうとゾルムントが身体をひねる。しかしその動 きをさせるのがクルーガの狙いだった。左脚で、ゾルムントの左手の輝光石を 思いきり蹴り上げる。「しまった!」 宙を舞った輝光石は、遅れて駆けつけたリイが受け止めた。 「よし、俺に投げろ!」 クルーガが喚く。リイが慌ててそれをクルーガに投げ付ける。 しっかりと輝光石を受け取ったクルーガはセレナの正面に回り込んだ。 「セレナ! 頼む、正気に、もとのセレナに戻ってくれっ」 クルーガが、祈るような気持ちで輝光石を掲げる。ここで熱気を吐かれたら、 一貫の終わりだ。 龍と化したセレナが、クルーガと見つめ合う。沈黙がしばらくの間両者の間 に流れた。 いきなり、輝光石が発光した。今度は白い光だ。目のくらむ光の中、クルー ガは龍がセレナの姿に戻っていくのを見た。 〈十六〉 その後、クルーガは自分が何をしたのか、はっきり説明出来ない。無我夢中 で、意識を失って倒れ込んでいたセレナを連れ、リイと共に神殿を逃れた後、 聖族が所有していた馬車を奪って聖都を脱出したのだ。丸一日後には国境ぎり ぎりの山中にいた。 聖族の馬車馬は、飛ばしに飛ばしたおかげで完全につぶしてしまった。どの 道山の中は徒歩で進むしかないから、という訳だった。ただ、その馬を殺して 馬肉を食料とする案はリイの強固な反対で却下された。 工作員という裏の顔を持つリイも、もともとは都会の人間、屠殺を見るのに は慣れていないのだった。それをクルーガは責める気にはなれない。もっと大 事な問題を抱えていたからだ。 セレナは二刻余りも意識を失ったままだった。目を覚ました後も、自分が何 をしたのか良く覚えていなかった。ただ、ひどく破壊の衝動に駆られたような 気がする、と言うだけだった。 「そのほうが良かったよ。あれをちゃんと覚えていたら、きっと自分が嫌にな る」 険しい山肌を先頭に立って登っているクルーガが言う。細い山道には、分厚 く落ち葉が体積していて、足を踏み出す度に渇いた音を立てる。 「なによ、その言い方。気になるじゃない。私、一体何をしたって言うの?」 「知らないほうがいいですよ」 後ろにつくリイが代わりに答えた。そしてクルーガのほうを見る。 「それにしても、クルーガは強いなぁ。あれは、一体何だ?」 リイが拳を突き出す真似をする。クルーガの使った格闘術の事を聞いていた。 「何だ、って言われてもな。俺たちは単に、『手』と呼んでる」 「『手』?」 「俺たちの村に伝わる武術さ。隣村のザイレスの連中と戦う為に編み出された。 村の中でも、家ごとに微妙に技の種類とかが異なる。俺は、親父にこの『手』 を仕込まれた」 「すごいんだな。隣村と戦う為の格闘術か。恐ろしく実戦的だな。クルーガは 村一番の使い手か?」 リイの問いをクルーガは笑い飛ばした。 「そんな訳ないだろう。俺より強い奴は、ウォンツ村にも、ザイレス村にもい くらでもいるぜ」 そう言ってから、クルーガは立ち止まって振り返った。セレナと目が合う。 「セレナも、結構やるぜ」 「本当に?」 「嘘よ。私のはただの真似ごとよ」 セレナが慌てて首を振る。 「いいや。小さい頃は俺も随分泣かされた」 「へぇー! それだったら、自力で脱出出来たんじゃないですか?」 大げさに感心するリイを見て、セレナが頬を膨らませる。 「もう。……でも、まさか助けにきてくれるなんて思わなかったわ。目が覚め た時はびっくりしたもの。今までの事が全部夢だったのかと思ったわ」 「ああ、全く。夢だったら良かったのに。そしたら、こんな山道を延々と歩く 必要もなかったのに。セレナは行きは馬車だったからまだいいけど、俺たちは 往復だぜ」 「まぁ! 私だって大変だったのよ。大体−−」 「静かに! 誰か来る」 クルーガが抑えた声で警告する。山道の向こうから姿を表したのは、以前ク ルーガとセレナをウォンツ村近くの川で襲った戦闘員、つまり帝国情報部第一 課の生き残りだった。「あの時の黒装束、ランディールの戦闘員だな」 反射的にクルーガが構える。「『手』の八法」と呼ばれる八つの構えのうち、 「二法」の型だった。両方の拳を腰だめに引くこの構えは、多数の敵からの同 時攻撃に対応する為のものだった。利き腕を作らぬよう、左右の腕を同じ様に 鍛えられた「手」の使い手は、左右から迫る二人に対して、同時に拳を繰り出 せる。達人になると、さらに足も同時に使い、三人まとめて相手に出来る。 クルーガと戦闘員達の間に緊張が走る。 「待てよ、クルーガ。君はもう帝国の味方じゃないか」 「あ、そうか」 リイの言葉にクルーガが構えを解く。 「僕はリイ=ショウバ。ランディール帝国情報部第二課所属の工作員だ。敵じ ゃない」 リイが笑顔で黒装束に近づく。しかしクルーガは、黒装束達の殺気が全く薄 れていない事に気付いた。 「リイ、危ない!」 黒装束の一人が短刀を振るった。リイの鼻先をかすめる。 「うわっ」 リイは後ろに飛びのき、木の根に足をとられて尻もちをついた。 「何をするんだ! 味方だって言っているだろう!」 クルーガがリイの前に立った。 「第二課の者に、どうこう言われる筋合いはない」 黒装束の一人がでそう言いつつ、他の二人と連係して間合いを詰め始める。 「おい、待てよ! 貴様は龍の子がランディール軍を襲わなきゃ、文句はない だろう?」 「俺達は、命に替えても龍の子を殺すよう命ぜられている。問答無用だ!」 いきなり、戦闘員の一人がクルーガに斬りかかってきた。クルーガはそれを 上半身の動きだけでかわし、逆に相手の右腕をとって地面に投げ付けた。さら に腕をひねる。グキリと嫌な音がした。肩の間接が外れたのだ。戦闘員は痛み に耐えかねて短刀を取り落とた。クルーガは素早くそれを奪う。 「こいつ!」 もう一人が大上段から短刀を振り降ろす。クルーガは奪った短刀でその一撃 を受け止めた。 「うぐっ」 呻き声。短刀同士がぶつかったのとほぼ同時に、クルーガの右膝が黒装束の 腹にめり込んでいた。さらにクルーガは、腹を押さえた戦闘員の後頭部を、短 刀の柄で殴りつけた。戦闘員は蛙を押し潰した時のような声を出して昏倒する。 「凄いや……」 リイがそう声を漏らす。相当な腕だとは思っていたが、精強を以って鳴る情 報部第一課の戦闘員を子供扱いにするほど強いとまでは思っていなかった。 −−続く
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