連載 #4570の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
〈十三〉 一方、翌日遅くにザスラに到着したセレナ達は、専用の豪華な宿舎に泊まる ことになった。聖族とバルメディは表面上は友好関係にあるから、聖族、及び 聖グラス騎士団連合に所属する騎士達は彼等を丁重に扱っていたのだ。 「どうしてこんな事に」 セレナは、余りにも身分不相応に思われてならない立派な部屋を所在なげに 歩き回りつつ、小さく溜め息をついた。この数日のうちに起こった様々な出来 事のせいで頭が混乱しているのが自分でも判っていた。なんとかしなければ、 と思うものの、どうしていいのかまるで判らなかった。 「セレナ様……」 ティアの言葉にセレナが我に返る。 「お風呂が沸いているそうです。旅の垢を落とされてはいかがですか?」 「……ありがとう。ティアはいつも優しいのね」 「いえ、そんな」 ティアが恐縮してみせる。 (どこまで本気なのかな) ティアに言われるままに風呂場へ向かうセレナは内心、そう呟いている。彼 女は気付いていた。ティアが自分を見張っている事に。 具体的にどうこう、という訳ではない。ティアが時折見せる目の動きが、セ レナの心に引っ掛かっていた。 それは、例えるならクルーガが魚や獣を追っている時の目と良く似ていた。 神経が張り詰めている、それも怯えているのではなく、何かを狙っている時の 目だ。 (私よりも、強いのかな) セレナも、見よう見真似でウォンツ村に伝わる格闘術を覚えていた。並みの 女性が相手なら一撃で昏倒させる自信がある。しかし、ティアにそれは通じそ うになかった。 (絶対に、油断しないことね) セレナは自分に言い聞かせた。 〈十四〉 神殿の敷地は一ヘレード四方ほどあり、その周囲は水濠に囲まれている。建 物自体は北寄りの位置に東西に広がる形で建っている。そして、その他の敷地 の大部分は植林された針葉樹におおわれている。 儀式を行う際には、南の正門から敷地に入り、南北に伸びる石畳の道を進ん で神殿に向かう事になっていた。 クルーガ達の敷地内への進入自体は、内応者の存在もあって容易だった。夜 間、警備が手薄な地点の濠を渡り、木々の中に潜んだのだ。 「我々の足を引っ張るような真似はせんでくれよ」 ドーティの言葉がクルーガの脳裏に甦る。彼等地元工作員達もまた、それぞ れが好位置と判断した場所に潜んでいるはずだった。 「くそっ」 濃緑色の服を着て、茂みの中に偽装するクルーガが拳を握り締める。 絶対に、助けてみせる。戦争の道具になんてさせるものか。 「あんまり気合いを入れ過ぎると、後で疲れるよ。儀式が始まるまで、まだま だ時間がある」 リイがなだめるように囁いた。 〈十五〉 やがて、夜が明け、太陽が昇り始めた。 「確か、輝光石授与の儀式は、正午からだったよな」 クルーガがリイに聞く。木々の中に潜り込んでから、もう三刻以上経過して いる。 朝になってから、俄然警備の騎士が増え始めていた。忍耐を強いられるとは いえ、夜のうちに潜り込んだのは正解だった。夜が明けてからではとても進入 出来なかっただろう。「ああ、そうだよ」 そう答えるリイは、クルーガの姿を見て目を細めた。クルーガは完全に茂み と化していた。 やっぱり山育ちはひと味違うな、とリイは思う。それほどクルーガの偽装は 完璧だったのだ。たとえ一レード先にいても、それと知らされていなければ、 そこに人間がいるとはとても思えないだろう。 「じゃあ、そろそろ……」 クルーガがそう言い掛けた時、神殿の中から人が何人も出てきた。 「始まるぞ」 石畳の道からも、規則的な音が聞こえてきた。隊伍を組んだ騎馬が立てる音 だ。 やがて、彼等の姿が、クルーガ達のいる場所からも見えてきた。 二十騎ほどの騎馬の隊列。その真ん中には二つの輿。いかにも神聖な儀式と いった雰囲気を発している。 「いた!」 クルーガが呻き声に近い声を漏らす。セレナの姿を発見したらしい。 「どこに?」 「後ろのほうの輿」 リイの問いにクルーガはぶっきらぼうに応じる。リイは言われた場所に目を 凝らした。「……あれか」 セレナは見慣れない衣装に着替えさせられて、輿の中に座らされていた。 「聖族の正装かな」 「知るか、んな事。畜生、セレナにあんなことさせやがって」 騎馬の隊列と輿は、神殿の正面にある祭壇の前で止まった。輿が地面に降ろ され、コリンズとセレナが石畳の上に立つ。 セレナの両脇には、白い鎧を身につけた騎士が二人、いかにも彼女を外敵か ら守るかのようにぴったりとくっついている。しかしそれが、セレナが妙な行 動を起こさないように目を光らせているのは明らかだった。 「今は駄目だよ、クルーガ」 リイは、クルーガが今にも飛び出してしまいそうな気配を察して声を掛ける。 「判っている。心配するな」 そう言うクルーガの内心は憤りに満たされている。このまま、何も出来ない ままに儀式が終わってしまうことを、彼は何よりも恐れていた。 セレナは、騎士達に追い立てられるように祭壇の上に昇った。落ち着かない 様子で辺りを見回している様が痛々しい。 居並ぶ聖族の中から、紫色の衣装をまとった一人の男がセレナの前に進み出 た。聖族の長である。 「セレナ=コーンヴェルよ」 「……はい」 セレナは小さな声で答える。 「我等はそなたを聖族の一員であることを認める。その髪とその瞳が何より、 その事実を雄弁に物語っている」 彼はおごそかにそう宣言して、台に乗せた輝光石をセレナの目の前に差し出 した。 「さあ、龍の子よ。受け取るがよい。我等がそなたを一族として認めた証だ」 もちろん彼の言っていることは大嘘だ。聖族が、誇りを出来るかぎり損なわ ぬように体面を取り繕っているに過ぎない。 セレナは震える手で輝光石を手に取った。聖族の長は無表情のまま大きくう なずき、列に戻った。一人残されたセレナはどうして良いか判らず、その場に 立ち尽くしている。 「なにやってるんだ?」 クルーガが目を凝らす。視力には自信のあるほうだが、細かい動きを観察す るには距離が遠すぎた。 セレナの元に、コリンズとゾルムントが歩み寄った。ゾルムントの手には小 刀が光っている。聖族の中には彼等の行動の意図に気付いた者もいたが、それ をやめさせようとはしなかった。 「なにを……」 怯えるセレナを前に、ゾルムントが無表情のまま言い放つ。 「手を出せ。これより、龍との血の契約を行う」 そう言うが早いか、セレナの左手を取り、その人差指に小刀の刃を当てた。 セレナの指先から血がしたたる。そして、彼女が右手に持っていた輝光石の 上に数滴落ちた。 すると、輝光石全体が次第に血の色に染まり、赤く輝き始めた。 ゾルムントはその様を満足げに見ていた。「これで、血の契約は完了した。 この輝光石の魂はセレナ、そなたと同化した」 「魂と同化……?」 言葉の意味を理解できず、セレナはそう呟く。 「さっそく、龍を呼び出してみてくれぬか」 コリンズがゾルムントに頼んだ。 「この場で、ですか?」 「聖族の方々も、一目龍を拝んでおきたいだろうからな」 そういうコリンズ自身が好奇心を抑えかねていることは、ゾルムントにはす ぐ判った。しかし、特に断る理由もない。 「判りました。……輝光石を渡せ」 ゾルムントがセレナに迫る。しかし、本能的に危険を察知したセレナは逆に それを両手でしっかりとつかみ、後ずさった。 「おい!」 騎士がセレナの後ろに回り込み、逃げ場を失わせる。 突如、林の端から喚声が沸き起こった。クルーガ達よりも北側に隠れていた ドーティ達が、セレナ目がけ、いや、セレナの持つ輝光石目がけて突進してい く。 「無茶だ! なんだってこんな間の悪い時に飛び出すんだ」 クルーガが吠える。しかし、ドーティにしてみれば仕方のないことだった。 彼は、この儀式が持つ意味を知っていたのだ。そして、これから何が行われよ うとしているかも。彼等の目的は、龍が姿を表してしまう前に、輝光石を破壊 することだった。それには、今飛び出すしかなかったのだ。 クルーガが立ち上がった。こうなっては偽装など意味がない。 「行くぞ! このままじゃあ、セレナの命が危ない」 −−続く
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