連載 #4569の修正
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〈十一〉 二つの軍勢が対峙していた。赤色の旗を掲げた軍勢はおよそ五千人。一方、 青い旗の軍勢はその三分の一程度でしかない。 先に動いたのは青軍だった。楔型の陣型を組んだ青軍は鳥が羽を広げたよう な陣型を取っていた赤軍の中央に突っ込んだ。 それは赤軍の思惑通りの機動だった。赤軍の両翼の隊が突出して青軍の退路 を断つ。だが、どこか動きが鈍い。 一方、青軍は機敏だった。後方をふさがれた青軍は何事もなかったかのよう に中央部に突撃を敢行、余りに激しい攻撃を受け、赤軍中央部の隊は見る間に 崩れ出した。 後方を取った赤軍部隊は盛んに青軍の後部を叩くが、青軍は巧みにその攻撃 をあしらって包囲を突き破った。 こうなると展開は一方的だった。予想外の事態に混乱した赤軍は青軍の集中 攻撃によって各個撃破されていった。 「やはり、軍隊における最良の戦力倍増要素は経験、そういう事かな」 ランディール帝国軍情報部第二課課長・ジーン=ギシンは小高い岡の上から 戦闘の一部始終を観戦した上でそう結論付けた。 ランディール帝国・ベレット高原。 ここには帝国軍技術研究開発本部(通称・技本)が広大な敷地を占めて置か れていた。技本は文字通り、新兵器の開発や新戦術の研究を行う部署であると 同時に、新兵の訓練所でもある。赤軍の五千人は入隊して半年の兵士達、一方 の青軍は帝国最強をうたわれる戦闘技術教育指導隊、通称「教導隊」の猛者達 であった。いくら三倍の兵力を持っていても新兵ばかりの赤軍が勝てる相手で はない。 「さて、そろそろ仕事をするか」 ギシンは副官を連れ、その場を離れた。彼は情報部の司令官であるバク=ジ ェイフォン直々の命を受け、技本第八課を訪れる事になっていた。 技本第八課は対龍課とも呼ばれ、恐らくリムリースで唯一、龍との戦闘を研 究している部署であった。バルメディ王国が龍を戦争に用いようとしている事 が明らかになった今、帝国軍の大多数の人間が存在自体を知らなかったこの部 署は、ここ数日のうちに脚光を浴びる場所になっていた。 第八課の建物は、少々大きな農家を徴用して使用しているような呑気な雰囲 気を持っていた。建物の脇には畑が作られ、軒先には洗濯物が物干し縄にかか っている。 玄関先で彼を出迎えた第八課の主任・クオ=ヘイヨーは老人と読んで差し支 えのなさそうな風貌を持った男だったが、ヘイヨーは愛想よくギシンを奥の研 究室に招き入れた。 「大体の事情は伺っております。何をお話すれば良いですかな?」 「対龍戦の実際を知りたい。私を含む多くの者は、龍戦について、いや、龍そ のものについて、感覚的な知識以外、何も知らない。上層部は今大騒ぎになっ ている」 「ははぁ、なるほど。それはそうでしょうなぁ」 ヘイヨーは、どこか冷笑に近いものを口もとに浮かべてうなずいた。ギシン は多少の反発を覚えたが、これまでに第八課に対して与えられていた評価を考 えると、理解できないものではなかった。 「まず、一口に龍といっても、四種類に大別出来ます。飛べるか飛べないか、 そして、龍と竜のどちらか」 竜と龍の違いは、魔道の力を持っているかどうか、である。持っていれば龍、 持っていない場合は竜と呼ばれる。龍を倒すのは、竜に対するそれより何倍も 難しい。そして龍は人間の言葉を解するとも言われている。 「かの救世英雄伝の屠竜騎士・スウェルドが倒したのは地竜、すなわち飛べな い竜だったと、我々は考えています。そうでなければ、魔道を使えぬ人間が勝 てたはずがないですからな」 「なるほど。それで、具体的に竜を倒す策は研究されているのか」 「当然です。それが我々の仕事ですからな。まず、敵がさきほど申し上げた四 種のうち、どれかによって大きく変わってきます。飛竜であれば、飛び立たせ ないようにするのが最も肝心な点です」 「それにはどういう意味がある?」 「竜の鱗は大変堅く、並みの弓手の放つ矢では貫くことは出来ません。弩弓で あればあるいは鱗を打ち抜けるやも知れませんが、すばやく飛び回る飛竜が相 手ではそれもままならぬかと」 「道理だな。それでどうする?」 「はい。漁師が用いる投網を応用し、飛竜の翼をからめとります。これは相手 が地竜であった場合にも有効です。竜を相手にする際に最も気を付けなければ ならないのは機動力ですから。動きを止めれば、後は弩弓、あるいは陶器製の 容器に詰めた硫酸を投石基で雨あられと叩き込んでやればよいのです」 「そうはいっても、竜は口から火や毒素を吐くだろう?」 ギシンが、話の筋が予想と若干違っていることに失望しながら尋ねた。彼は 子供じみた願望であることは自覚していたが、それこそスウェルドの使った槍 のような、伝説の武器の話でも聞けるかと思っていたのである。 「その点についても考慮しています」 ヘイヨーは奥の倉庫から見慣れないものを持ち出してきた。両腕を広げたほ どの長さの太い綱の両端に、子供の頭ほどの大きさの石が結び付けられている。 「タングルーム王国の最北部に住む部族が使う武器で、連中はこれをボーラと 呼んでおります。本来これは馬の足に絡み付かせるものだそうですが、我々は これを使って竜の口を塞げると考えています」 「口に絡ませて、か?」 ボーラを手にしたギシンが聞く。 「左様でございます」 「これで本当に勝てると思うか」 「敵にもよりますでしょうな。後は戦う場所も問題かと。巨大な竜が動きを制 限される森の中であればかなり戦えるでしょうが、見晴らしのよい平地であれ ば、恐らく勝ち目はありますまい。もちろん、こちらがどの程度の戦力を投入 するかにもよりますでしょうが。ただ、一つ申し上げておきたく思いますのは ひとつの攻撃ではかすり傷程度の打撃しか当られなくとも、それが連続・集中 すれば致命傷になりえます。人が戦場でどのような死に様をさらすものか考え ればお判りでしょう」 心臓を射抜かれる、頭を切断される、矢に塗られた毒が全身に回る、あるい は刀傷からの出血等、兵士は様々な要素によってたやすく死ぬ。ヘイヨーは、 それが龍にも当てはまる、そう言っていた。 「意外と戦術家なのだな。ただの龍研究家という訳ではないということか」 「恐れ入ります」 「それはそうと、先ほどから竜、竜と言っているようだが、敵が龍であればど うする?」 ギシンの問いにヘイヨーはしばらく黙っていたが、やがて、 「余り、考えたくもない話でございますな」 とだけ言った。彼にとっては、竜と龍はそれほど差のある存在であるらしい。 「まあ、よい。そなたは過去の文献から龍の強さを類推しているに過ぎん。こ の世に魔道が存在していた頃のな。魔道が絶えて久しい今日、竜と龍にさした る違いもあるまい。よし。そなたが示した作戦に従い、計画を立てよう」 ギシンはそう言って、ヘイヨーに対竜戦用の兵器、すなわち弩弓、投網、ボ ーラ、及び硫酸その他の毒物入りの陶器製投石弾の大量生産を命じた。 「兵器工厰の生産は、全てそれらに切り替える。他の課から技術者を何人か引 っ張っても構わん。とにかく出来るだけ早く数を揃えるんだ」 ギシンはヘイヨーに、帝国軍情報部司令・ジェイフォンの名のもとにそう厳 命した。当時の帝国軍情報部は、そのような横暴にも似た行為が許されるほど の権力を誇っていた。「兵器はともかく、それを扱う兵士はいかがいたすつも りで。竜を眼前にしてまともに戦える勇者はそれほど多くはありますまい」 ヘイヨーが当然の疑問を口にする。 「あてはある」 「と、言いますと?」 「帝国軍最強の精鋭集団、教導隊だ」 ギシンは自信ありげにそう言い切った。 そこに、外に待たせていた副官がやってきた。 「何事か?」 「はっ、情報部第一課からの使者と名乗る者がギシン様にお会いしたいと」 「エイジャーが差し向けてきたのか?」 ギシンが首を傾けつつ聞く。情報部第一課のゴウ=エイジャーは現在、龍を 操ると言われる「龍の子」の少女・セレナ暗殺の任務を受けてバルメディ王国 に侵入している。 「使者の名は聞いたか?」 「ゾム=ドーウェル、と」 「そうか」 ギシンはわずかに口もとをほころばせた。ドーウェルは情報部第一課の中で は珍しく大局的な視点も持っている優秀な男で、以前ギシンはかなり露骨な手 を使って彼を第二課に引き抜こうとした事がある。その時はエイジャーがそれ に気付き、ジェイフォンにねじこんだ為に失敗に終わったのだが。 (エイジャーめ、どういうつもりだ?) ただの使者であれば、彼ほどの男を使うはずがない。何が裏があるはずだっ た。 (恐らくは、しくじったのだ) ギシンはその経験と知識、そして直感力からそう推理した。 〈十二〉 聖都の東の町・ザスラ。ランディール工作員の隠れ家。 聖族が住む神殿の四方には、その加護を求める形で街が作られている。ザス ラもその一つである。この街はスレア湖に面しており、船で来る人々が神殿に 向かう際、必ずここを通る事になる。従って、聖都の周辺の街の中でも有数の 都市として知られていた。 クルーガとリイは追っ手から逃れるべく、スレア湖の南側の山伝いにザスラ に入っていた。そしてここに来ると同時に、他の工作員らと共に情報収集を開 始していた。 「どうやら俺たちには運があるらしいね。先回り出来たみたいだし」 港へ行ってきたリイが嬉しそうに言った。隠れ家には、地元の工作員が十人 ばかり集まっていた。彼等は表向きはクルーガとリイを歓迎しているように見 えた。彼等のもたらした龍の子に関する情報により、工作員達に活躍の機会が 与えられたからだった。しかし、本心ではどう思ってるかは判らないな、とク ルーガは思っている。態度の端々に、よそ者を遠ざけたがっているような雰囲 気が感じられたからだった。 「セレナさん達は船でこっちに来る事になっていたらしいんだけど、風待ちで まだ向こうに足止めを食っているらしいよ」 リイの言葉にクルーガがうなずく。 「こっちも情報を掴んでる。なんでも、神殿で『輝光石』とかいう聖族の秘宝 をセレナに渡すとかで、儀式をやるそうだ」 「輝光石?」 リイが聞く。 「龍の子が輝光石を手にすると、龍を呼び出す事が出来るらしい」 地元工作員の一人がリイの問いに教える。「我々としては、なんとしても龍 の子に輝光石を渡さないようにしなければならない」 「その為にセレナを助け出す」クルーガが言葉に力を込める。「問題は、いつ、 どこで、ということだが」 「神殿で決行する予定だ」 地元工作員が言う。 「しかしそれは危険すぎます。港に着いた直後なら、連中も油断しているかも 知れないですし−−」 リイが戸惑いながら言う。神殿に乗り込むのは、いくらなんでも無謀に思え た。 「いや。それでは困る」 それまで黙っていたザスラ工作員の長・リマル=ドーティが口を挟む。 「何故です?」 クルーガが上座にいたドーティのほうを向く。 「聖族の手元に輝光石が残っている限り、我々の不安は消えないからだ」 「しかし……」 クルーガが絶句する。そういう方向で話を進められるとは、彼には予想外だ った。 「龍の子の奪回よりも、輝光石の破壊を第一目標にしたいのだよ」 「……」 言葉に詰まっているクルーガの様子をドーティは肯定していると思ったのか、 彼はさらに追いうちを掛けた。 「聖族の行う儀式に、我々の仲間が一人参加する事になっている。彼の手引き で神殿の敷地内に進入出来る。我々は輝光石の奪取、あるいは破壊を目的とす る。リイ、クルーガ。君達が龍の子の奪回を計るのは構わないが、我々の足を 引っ張るのはやめてくれよ」 「畜生。あそこまで言わなくたっていいだろうに」 二人に与えられた部屋に戻るや、クルーガが毒づく。 「仕方がないよ。俺たちは所詮よそ者だからね」 「そういうお前はどうなんだよ。別に俺は独りでもセレナを助けて見せるつも りだけど」 「無論、協力するさ。ここまで来て、引き下がれない」 リイは精悍な顔をして断言した。 −−続く
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