連載 #4567の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
新しい登場人物 虎間治夫(とらまはるお) 浜野沙羅(はまのさら) 平和田愛子(ひらわだあいこ) 平和田瓜男(ひらわだうりお) 平和田都奈(ひらわだとな) 張元丈(はりもとじょう) 松井直助(まついなおすけ) 倉敷妙子(くらしきたえこ) *名前だけ登場・・・矢古田史朗(やこだしろう)、利根玄造(とねげんぞう)、 浜野百合亜(はまのゆりあ)、浜野麟人(はまのりんと) 「往復四十分。発見時の時間や説明に要した時間を考えても、あと十分を足し ていいとこだろう。君、現場到着時刻は何時だね?」 「十一時十七分であります」 桑田に呼びかけられた巡査は、はきはきと答えた。 「もう一つ。現場まで到着するのに要した時間は?」 「二十分足らずであります」 「結構。さて、須藤さん。僕は普通に話を聞いていて、ちょっと疑問に思いま した。あなたの話の通りだとすると、あなたとこちらの巡査が到着したのは、 午前十一時十分まででなければならない。どんなに余裕を与えても、だ」 そう言い切るなり、桑田は須藤を指さした。 「嘘をついてないと、誓えますか?」 「う……。い、いえ。申し訳ありません。つい、特ダネを手に入れようと、欲 心を出しまして、通報が遅れました」 肩を落として、力なく白状した須藤。 「それが本当だな? 僕はあんたが犯人かとも考えているんだがね」 「とんでもない! 単に十五分ぐらい個人的に調べをしただけで、その他にや ましい真似はしていませんよ!」 「遺体に触ったのかね?」 きつくなった桑田の調子に、黙ってうなずく須藤。 「今後、そのようなことのないように願いたいですな」 「はい。で、でも、触ったと言っても、検視に支障ない程度ですから」 「言い訳はいいですから、どういった風に触ったんですかな」 「まず、首の辺りを触りました。それから、暴行の痕があるかどうかを見るた めに、膝を掴んで、少しばかり足を開かせました。それだけです」 「本当か? 十五分あれば、他にも何かできたんじゃないか?」 「いいえ。遺体の様子を克明にメモしようと懸命でしたから。分かるでしょう? 片手でメモすることのつらさ」 「……まあな。で、他は発見当時のままなんだな。凶器や遺留品に手を着けて いないね?」 「それはもう。身体検査でも何でも、して下さい」 「言われなくても、そのつもりだよ。君、この人を捜査本部へお連れしろ。身 体検査の後、詳しい供述取りだ」 言われた巡査は、黙って須藤の左腕を掴んだ。大人しく引っ張られて行く片 腕の男。 「おい、もっと丁重にしてやれ。ちょっと問題はあるが、障害を持って苦労し ているんだろうからね」 巡査の背中にそう声を投げかけてから、桑田は周辺の捜索をしている捜査陣 の中に、知っている顔を認めた。 「おっ。おおい! 虎間君。虎間治夫君!」 突如、自分の名前を呼ばれた男は、曲げていた腰を伸ばし、声の主を見つけ ようとしていたようだが、それもすぐに終わった。 「あ、警部!」 そうして、足元を注意する様子えお見せながら、男は桑田の所へやって来た。 長身の桑田とほぼ同じくらいの身長。だが、桑田が美男子過ぎる由もあって、 顔の方は十人並に見える。虎間という名前だが、どちらかと言うと、その顔は エラの張った鼠という感じだ。キャラメルを二つ、いっぱいに頬張っているリ スと言い換えてもいいかもしれない。 「どうだい、成果は?」 「いやあ、今のところ、さっぱりです。でも、人が滅多に入り込まないっての は、本当のようですね。ゴミがほとんど落ちていない」 虎間は、自分より年下の警部に向かって、丁寧な言葉を使った。 「それは結構だね。惑わされることなく、捜索ができる」 二人はそれからしばらく、一緒になって捜索に加わったが、犯罪に積極的に 関係ありそうな物は見つからなかった。 「何か、外が騒がしいですわね」 と言って、平和田愛子は夫の茶碗にお代わりをついで手渡した。年齢の割に はすべすべときれいな愛子の手が、夫の片手に包まれるようになる。 「そうだね」 短く答える夫、平和田瓜男。今、彼は昼食の休憩を取っている。美津濃森で 開業医を始めてから、正午からの一時間は休診と決めている。 もっとも、そんなにはやっている訳ではない。当初は午前九時からとしてい た開業時間を、一時間遅らせても、何の支障も出ていない。美津濃森の環境が よいのだろうと、平和田はそんな考えを口にしたことがあった。 「パトカーのサイレンがひっきりなしにしますし。何かあったのかしら」 「さあ……」 平和田は食事時にうるさくされたくないのか、いい加減な返事を繰り返した。 愛子は、諦めたように窓から目を外し、湯呑を口に運んだ。 「もうすぐ夏休みですから、子供さんの検診が増えるわね、きっと。都奈はう るさがるでしょうけど」 明かに話題は変わっていた。しかし、平和田はやはりうるさそうに、耳の辺 りをひくりとさせた。 「……ああ、そうだね……」 それでも、こんな答え方をする。 「……どうかなさったの?」 夫の様子を不審に思ったのか、愛子は幼顔を近付けるようにして、質問した。 「何だか今日はおかしいわ、あなた。朝のお散歩から帰ってから、ずっとムス っとして……」 「そ、そうかね? いや、ちょっと暑さに参ってね。散歩なんかに出るんじゃ なかったよ、全く」 平和田は、顔の周りをなでながら答えた。 「あら、日課になさってたのに」 「夏は、天気をよく見極めないといけないな」 そう言いつつ、汗をかいたのか、眼鏡を取って布で拭く平和田。それから、 娘の話に転じた。 「都奈はいつまで学校なんだ?」 「確か、七月いっぱいは夏期講習とか言ってたかしら。お友達の中には、その 後も予備校の夏期授業を受ける人もいるようですけど……」 「いいじゃないか。あの子の好きなようにさせておけば。強制されるしんどさ は、よく知っている」 平和田は、自分の子供の頃を思い出すかのように言った。 「今日は、早く帰って来るんじゃなかったか? もう試験も済んで、授業はな いだろうに」 「クラブ活動でもあるんですわよ、きっと」 「そうか。でも、夜遅くなるようだと、きちんと言っておかんとな」 「あら? 強制するのは嫌そうな口ぶりでしたけど」 「い、いや。これはだな、都奈の身の安全を思ってだな」 「ま、大げさな言い方。でも、何やかや言っても、パトカーが気になっている のね?」 「……」 妻の問いに、平和田はもはや答えなかった。 平和田都奈は、風に煽られまいというそぶりで、ロングヘアとスカートを押 さえた。 「強い風!」 「でも、これだけ暑いと、もっと吹いてもらいたいや」 と言って、夏に合わせて少々短く刈り込んだ髪に手をやったのは、クラスメ イトの張元丈。詰襟のホックは無論、外している。 彼とは対照的に、真昼のこの日差しの中、きっちりと詰襟を着こなしている のは、同じくクラスメイトで副生徒会長でもある松井直助だ。こちらは季節に 関係なく、高校生らしい髪型をしている。 「校則にないとは言え、人の家を訪ねるんだ。ちゃんとしといた方がいいと思 うな」 直助が柔らかな物腰で注意すると、 「家の前でするから、勘弁してくれよ」 と、丈は閉口気味に言った。 「それにしても、ほんと、珍しい。百合亜が休むなんて」 都奈が言ったように、彼女らは浜野百合亜というクラスメイトの家に、お見 舞いのような形で訪ねるところなのだ。たった一日休んだくらいでお見舞いと は大げさだが、これは彼女らの学級担任の配慮でもあった。担任によると、浜 野家からは夏風邪をこじらせたので欠席するという連絡があったという。滅多 に休まぬ生徒が、こう言っては何だが風邪程度で欠席したのを不思議に思って、 副生徒会長の松井を始めとする百合亜と仲のいい生徒に様子を見に行ってもら った訳である。 「電話でいいのになあ」 最初は、好きな百合亜の家に行けるとあって喜んでいた張元丈も、暑さのせ いか、次第に愚痴っぽくなっている。 「プリントがたくさんあるから届けてやれって、先生が言ったんだから、しょ うがないじゃない」 「そう言うけどね、平和田さん。いっつもバイク転がしてる人間の身にもなっ てくれよ。通学以外の用途は許可、なんて変な校則のせいで、えらい迷惑だぜ」 多少、おどけた口ぶりの彼の横で、くすくす笑ったのは、今までほとんど喋 っていなかった倉敷妙子という女生徒。小柄で、あまり冴えない眼鏡をしてい る彼女は、引っ込み思案で通っているが、百合亜との仲はクラスで一番いいと 言ってもよい。 ちなみに、都奈は学級委員長、丈は副委員長という立場もあって、こうした 役目をしている訳だが、百合亜との仲ももちろんよい。 下手な言葉で言ってしまえば、浜野百合亜は全校のアイドル的存在である。 一クラス二人という異例の形で松井直助と共に、クラス代表として生徒会長選 挙に出た彼女は、彼さえも押し退けて会長に選ばれた。一つのクラスに正副会 長がいるとなると、やっかむ連中がいてもおかしくないのであるが、それがほ とんど皆無だったのも、突き詰めると百合亜の外見と内面のよさかもしれない。 すらりとした、しかしそれなりに豊かな身を制服に包み、漆黒の髪を胸元に 垂らした彼女は、普段はとても控え目で大人しい。しかし、言うべき意見があ ればその印象的な紅色の唇から透き通るような声ではっきりと正し、また心動 かされること−−それが喜怒哀楽のいずれであれ−−があると、切れ長の目か ら涙を溢れさせる。控え目さと感情の激しさが、百合亜の魅力の大きな一つと なっているのは間違いなかった。 「ぐずぐず言ってたら、着いたわ」 妙子が言った通り、浜野家がすっかり見渡せる位置まで彼女らは来ていた。 「前にも見たけど、大きいな」 丈は感心した様子だ。 百合亜の父・麟人は、利根玄造なる男と共同の形で不動産業を中心に、事業 展開している。このところ売り上げは落ちているが、それまでに築いてきた資 産はかなりのもので、白く大きな洋風建築に住むのにふさわしい。 その妻の浜野沙羅は、派手派手しい美人といった容姿で、誰の目にも気にな るほどの化粧の濃さが目立つ。貴金属類や宝石が大好きらしくて、少なくとも 家の中では本物を身につけているという。その容貌・性格は、娘に遺伝されな かったようで幸いだろう。 「誰が押す?」 インターフォンのことである。 「とりあえず、僕が……」 みんなが敬遠する中、松井直助が押した。 「はい、どなた?」 「あの、百合亜さんの同級生の、松井直助といいます。今日、百合亜さんが欠 席したので、色々と届け物をしに。それと百合亜さんの様子を……」 「何ですって? 百合亜は学校に行っているはずです」 緊張した金切り声が伝わって来る。 あっけに取られた表情の直助が、よく事情を聞こうとインターフォンに向か って話しかけようとした途端、玄関が勢いよく開けられた。 「どういうことなの?」 飛び出して来た派手な洋服の中年女性が、凄い顔つきで生徒達を見据えてい る。 「ですから、今日、百合亜が学校を休んで……。先生の方には夏風邪で休みま すって連絡があったそうなんですけれど」 驚いて話せなくなったらしい副会長をおいて、都奈が説明した。しかし、百 合亜の母親・沙羅は落ち着きなく身体を行ったり来たりさせ、 「そんなはずはなくてよ! 百合亜は昨日から矢古田先生の家に泊めてもらっ て、今朝はそのまま直接、学校に行っているはずよ。もちろん、そんな電話、 学校にかけてません!」 と叫んだ。 「ちょっとおばさん、もう少し落ち着いて話していこうよ。何だかさっぱり分 からない」 張元丈が低い声で言うと、「おばさん」という言葉に少しむっとした様子の 浜野沙羅であったが、どうにか落ち着きを取り戻したようだった。 −続く
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