連載 #4534の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
真っ暗な時が、何時間も俺の頭を占領していたらしい。俄かに寒さを覚え た時、俺は自分のくしゃみで意識を取り戻した。 「?」 あれ? 何で毛布が掛かってンだ? がばっと勢い良く起き上がると、慌てて辺りを見渡した。 通りの砂の上ではないことは確かだ。第一、俺はベッドの中にいる。どう やらここは誰かの家の中らしい。狭いながらもきちんと掃除が行き届いてい て、テーブルの上の、花が生けられた花瓶に女の気配が感じられた。気が付 くと、腿の傷も消毒されて包帯なんぞ捲かれているし、足首の添え木も捲き 直され、湿布さえ当てられている。 ベッドを降りようと片足を降ろしたとき、唐突にドアが開いて、薪を両手 一杯に抱えた、十五・六の娘が入ってきた。 「あ、起きたの。御免ね。寒かったでしょ?」 彼女は早口でそれだけ言うと、暖炉に薪をくべ、火を付けた。 さらっとした栗色のショートヘアが、象牙色の角と、よく動く丸いグレー の瞳に似合ってる。燃え上がった暖炉の火で火照った頬に、外したマフラー を軽く当てると、彼女は俺を振り向いて微笑んだ。 「治安隊が探してるわ。外にはまだ出ないほうがいいわよ」 「あんたが・・・・やってくれたのか?」 腿の包帯を指差すと、彼女は軽く頷いた。 「何か食べる? 大した物はないけど・・・・」 彼女の言葉に腹の虫で答えると、彼女はくすっと笑ってドアの向こうに消 えた。 ベッドを降り、陽の光を照り返している窓から外を伺うと、ここが街から 離れた猟師小屋か、森番の小屋である事が判った。窓を開けて身を乗り出し、 辺りを見回すと、納屋のお国単車とライフルを見つけた。 「艦から二隻とも出航したわよ」 声に振り向くと、彼女は湯気の立つ皿とパン篭をテーブルに載せ、部屋の 隅にあった椅子を持ってくると、俺を呼んだ。 空きッ腹に厚いスープを流し込み、ようやく人心地付くと、差し向かいに 腰掛けた彼女が、大きめのミルクカップを両手で包むように持ったまま、俺 をまじまじと見つめているのに気付いた。 「なに?」 「あなた、あの大きな艦の人?」 「ん」 「あの艦、隊商船じゃないみたいだったけど・・・・」 「ああ、何か、ハードゥラの戦の時の戦艦らしいよ」 「戦艦なの!?」 彼女はただでさえ大きな目を更に大きく見開くと、ミルクカップをテーブ ルに置いて身を乗り出してきた。 「何で戦艦なんか・・・・」 「判ンねぇ。俺の兄貴分が先代の権利を買い戻したんだ。都へ行くって言っ てたな・・・・。あ、美味いよ。このスープ☆」 「ふゥん」 彼女は頷くと、なぜか厳しい表情で考え事をしていたが、急に目を輝かせ ると、再び身を乗り出してきた。 「ね、私も乗りたい☆ 都へ行ってみたいの」 「密航する気か?」 「うん。お願い☆」 彼女は愛らしい仕種で手を合わせて見せると、バチッとウィンクを飛ばし、 俺の警戒心を物の見事に剥ぎ取ってしまった。 ま、いーか。飯も御馳走になったし、可愛いし、何たって命の恩人だ。そ の願いを聞かない訳にはいかない。俺は心なしか緩んだ頬を締まりのない笑 いでごまかすと、食器を片付け始めた彼女に「御馳走サン」と空になった皿 を差し出した。 「俺、ルゥジィ。あんたは?」 「セシルっていうの。よろしく☆」 と言う訳で、俺たちは手早く出発の支度をすると、セシルが知っていると 言う、山を一つ越えた支流から谷へ出ることにした。街にはまだ治安隊がう ろついてるだろうが、森の奥までは入って来ないだろうと言う彼女の考えか らだ。 小屋を出るとき、彼女は銀色に光る小さなトランクを一つ持ってきた。こ れだけはどーしても持って行きたいらしい。女の子は複雑である。TDライ フルを含めても、それほど重いものでもないので俺はさして気にも止めず、 セシルと一緒に単車の後ろへ載せると、谷へ向けて出発した。 「あんた、独りで住んでたのか?」 「うん」 少し高度を上げて森の上へ出ると、山の大気に冷やされた風が、頬にチリ チリぶつかってくる。振り向くと、もう街は見えなくなっていた。 「家族は?」 「母さんは、死んだわ。私がまだ小さい時に・・・・」 「・・・・ふーん」 セシルの声はなぜか表情がなく、親父さんは。とまでは聞き兼ねた。マジ で密航したがってるんだ。人に言えねぇ事の一つや二つはあるだろ。俺はこ れ以上詮索するのは止めにした。 やがて森が途切れ、更に標高が高くなると、厚い氷河がこびりついた山褶 が現れ、龍が鋭い爪で抉り取ったような尾根が迫ってきた。 俺は頂上近くの岩に単車を止めると、荷物をしっかりと積み直し、少しも う少し高度を上げると、支流の谷へと一気に降下し、そのままの勢いで俺た ちの艦を追った。
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