連載 #4517の修正
★タイトルと名前
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空飛ぶ吸血魔人・蝙蝠男(4) ようやく『グランマ』の戦闘員を片付けて 病院の裏山を探していた西連寺が、二人を見 つけた。麻薬物質で正常な意識を持って行か れているらしい那恵の白い肢体に、黒々とし た蝙蝠男の手が這いずり回っていた。 「『白壁に蝙蝠』か。しゃれにもならん」 呟きながら西連寺が上着の内ポケットのナ イフを探った。構えた瞬間、那恵と目が合っ た。投げるタイミングを外し、構え直す間に 那恵が蝙蝠男を押した。蝙蝠男が身をかわし た。ナイフは蝙蝠男の頭は外したものの、左 の翼の端を突き破った。 藪を飛び出して蝙蝠男に蹴りを放った。反 射的に空に逃げようとした蝙蝠男の左の翼が、 ナイフの傷から裂け目を広げ、失速した。足 に西連寺の蹴りが当たった。鈍い音がして、 蝙蝠男の左足の膝が逆方向に曲がった。 再生のために蝙蝠男が身動きできない間に 奪回しようと、西連寺が那恵に近づいた。そ れに気付いた蝙蝠男が叫んだ。 「くそ。変身しろ、ワイルドキャット。そい つを生け捕りにするんだ。二人とも『グラン マ』に連れていき、再調整する」 西連寺を冷ややかに見ていた那恵の顔が変 化し始めた。顔だけではない。全身に変化が 表われていた。耳の先端が尖り、鼻面が迫り 出し、全身を褐色の体毛が覆い始めた。胸か ら腹にかけては乳房を除いて白い毛が生え、 股間の逆三角形の黒い体毛が際立った。 一分も経たないうちに、西連寺の前に人間 山猫が出現した。顔付きは猫に似て猫よりも 獰猛。だが、虎や豹に比べればあまりにも猫 に近かった。 「行け、ワイルドキャット」 蝙蝠男の声を合図に、ワイルドキャット・ 那恵が西連寺に飛び掛かった。しなやかな動 きだ。人間の時のスピードとは段違いだった。 変身形態は、生体改造兵士の能力を最大限に 引き出せる。 ワイルドキャットの右手の爪が西連寺を上 から襲った。スウェイで避ける。左頬と上着 の胸の心臓の上の部分に四本のストライプが できた。西連寺は見切ったつもりだったが、 ワイルドキャットの攻撃の速さは予想を遥か に上回った。この程度の傷で済んだのは、生 け捕りにしろという命令のおかげだ。でなけ れば、完全に引き裂かれていた。 蝙蝠男に操られているワイルドキャットに 説得は無駄だろう。かといって、動きを止め るためには致命傷を与える以外にない。もっ とも、今の西連寺が致命傷を受けることはあ っても、与える可能性はゼロに等しい。バイ クまで戻れば勝機は出てくるが、それには先 ずワイルドキャットの追撃をかわさなければ ならない。 西連寺があれこれ策を考えている間も、ワ イルドキャットの攻撃は続いた。林の中の木 の幹から幹へと飛び移り、上下左右前後どの 方向からも西連寺に牙や手足の爪を飛ばして くる。西連寺の背後に別の木のある所を狙っ ているので、西連寺がかわしてもすぐに体勢 を立て直して、背後から攻めてきた。林の中 にいる間は、反撃のチャンスさえなさそうだ った。 西連寺はワイルドキャットが幹を蹴る瞬間 を狙って、一歩前へ踏み出した。次の瞬間、 踏み出した足をさげ、反対方向へ全力で移動 した。西連寺が前に出ると思って仕掛けたワ イルドキャットは、西連寺から大きく離れた 空間を飛んでいた。西連寺は林の外、病院の 方に向かって退却を始めた。 間を置かずにワイルドキャットが後を追う。 西連寺は枝を折り、石を転がしてはワイルド キャットを攪乱した。しかし、距離は見る見 る詰まっていった。 病院の塀を乗り越えようとした所で、遂に 西連寺はワイルドキャットに捕まった。両肩 を掴まれたまま、2メートルほどの塀の内側 に頭から落ちた。起き上がろうとからだの向 きを変えたが、そのままワイルドキャットが 馬乗りになって両腕を掴み、押さえ込んでき た。 見上げると、小ぶりな乳房の上に牙を剥い た山猫の顔が乗っていた。体重だけなら西連 寺の方が上なのに、上に乗ったワイルドキャ ットはなまじの力ではびくとも動きそうにな かった。ワイルドキャットの牙がじわじわと 迫ってきた。 「ひぃっ」 近くで女の悲鳴が上がった。ワイルドキャ ットが顔を上げた。 「うわっ」 今度は男の声だ。 西連寺も顔を上げた。車椅子の両脇に中年 の男女が立っていた。男の方に見覚えはなか ったが、女は那恵の母親だった。仕事帰りの 夫を病院の外で待っていたらしい。ワイルド キャットの姿を認めるなり、二人そろって車 椅子の前に立ち塞がった。 その反応に、ワイルドキャットが体を起こ した。 注意の逸れた相手から逃れるのは、大して 困難ではなかった。腕を捻り足で地面を蹴っ てワイルドキャットのからだを浮かせ、自分 の背中を軸に向きを変えた。足をからだの間 に差し入れて巴投げの形で腹を蹴り、那恵の 両親と逆方向に投げた。宙を舞ったワイルド キャットがくるりとからだを捻って奇麗に着 地する間に、跳ね起きて身構える。 「早く。お嬢さんを連れて逃げるんだ」 「あ、あなたはさっきの……」 母親が西連寺に気付いた。 「おれのことなんがどうでもいいから、さっ さと避難してくれ」 背後に気を取られている隙を狙って、ワイ ルドキャットが突進してきた。肩をぶつけて 止めようとしたが、上体を沈めたワイルドキ ャットが両足に抱き付いてきて、そのまま押 し倒された。さらに、西連寺の鳩尾を踵で踏 み付けて飛び越えていった。西連寺は腹を抱 えて身を捩った。内臓が破裂しているのか、 口からは血を吐いている。 ワイルドキャットが両親の前に歩み寄った。 「く、来るな。近寄るんじゃない。おかしな 恰好をしおって」 父親は、ワイルドキャットの姿を、仮装か 何かだと思っているらしい。壁に置き忘れて あった竹帚を手にして身構えた。なおも近づ くワイルドキャットに振り降ろす。 その攻撃を左手で受け流し、右の掌底で弾 き飛ばした。父親は地面に後頭部を打ち付け、 起き上がりかけて力尽きた。 母親が、車椅子を背に両手を広げた。 「だめよ。この子だけは。やっと喋ってくれ たんだから。『お母さん』と呼んでくれたん だから」 しかし、ワイルドキャットの腕の一振りで、 母親は病棟の壁にぶつかり、そのままくずお れた。 ワイルドキャットが車椅子の<空蝉>を見 つめた。<空蝉>もワイルドキャットを見て いた。特に恐がっている様子はない。しゃが みこんで、<空蝉>に顔を近づけた。肩を抱 き、頬擦りした。 しばらくして立ち上がったワイルドキャッ トは、腹を押さえて立ち上がろうとしている 西連寺の首筋に手刀を浴びせた。意識を奪っ ておいてから両腕で抱き上げ、塀を飛び越え る。そして、蝙蝠男の待つ林の奥に向かった。
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