連載 #4515の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
空飛ぶ吸血魔人・蝙蝠男(2) バイク雑誌の取材記者を装って、那恵と西 連寺は<空蝉>堀井那恵の病室を訪ねた。二 人とも新聞記者を名乗るには若すぎるが、レ ザースーツとブーツを身に着け、カメラを持 っていれば、雑誌記者ぐらいなら通用する。 しかし、病室にいた看護婦からは、ちょう ど母親が車椅子に乗せて散歩に行っていると いう返事が帰ってきた。そろそろ日も傾くか ら少し待っていればいいと言う声を背に、二 人は病室を出て、病院の玄関先から中庭のあ たりを歩いてみた。 「『脱皮』の後助かる人って、少ないの?」 回りを探しながら、那恵が尋ねた。 「ああ、おれの『抜け殻』も見つかった時に は死んでたよ。状況は君と同じ、モトクロス 中の事故だった」 特に感情も込めずに西連寺が答えた。那恵 は顔を曇らせた。自分が誘拐された時の事を 思い出していた。 「そういえば、この前の蜘蛛男、元は新聞記 者だってさ。事件の最前線ばっかり追っかけ て、たまに犯人と格闘もしたらしい。そんな 時には他の新聞社の記者に特ダネをさらわれ て、警察からは表彰されても、上司からは大 目玉だったってよ」 おどけて話す西連寺に、那恵はくすりと笑 って見せた。 「どこかで聞いたような話ね」 「お。元の顔は知らないけどさ、その顔も、 笑うとけっこうかわいいよ」 「あら、お上手。でも、うれしいわ」 意識を取り戻して以来はじめて、那恵の表 情が緩んだ。 「でも後がいけない。あいつの場合は、恨み を買った犯罪者連中に拉致監禁されて、ばら ばら死体にされたという筋書きだったそうだ」 「それなら検死を受けそうなもんだけど」 「実験さ。ばれずに済むかどうかのね。どの 道脳味噌が抜き取られてるなんて考える検死 官なんかいないさ」 裏庭に回りかけた所で、那恵が足を止めた。 車椅子を押す女性の影が見えた。いざ対面と なると、傍目にもがちがちに緊張しているの が見て取れた。 「お母さん……か?」 西連寺の問いに、那恵が小さく頷いた。 「いいか、君はできるだけ口をきくな。話す のはおれがやる」 「ううん、あたしがやる。それと、わざとら しいから、雑誌記者ってのもなし、ね」 言いながら、那恵が車椅子に向かって歩き 出した。 「こんにちは。お怪我ですか?」 通りすがりの軽い挨拶といった感じで、那 恵が話し掛けた。顔も見た目のからだ付きも 変わってしまっているから気付かれはしない と思うものの、那恵がつい「お母さん」と呼 んで泣き出しそうで、見ている西連寺の方が 不安だった。 「ええ、バイクに乗ってて事故に遭いまして」 那恵の顔を見ても、特に変わった表情は示 さなかった。 「あら、大変。大丈夫だった?」 那恵がしゃがんで<空蝉>の顔を覗きこん だ。<空蝉>がきょとんとした顔で那恵を見 つめ返す。 「ごめんなさいね。その時の影響ですか、頭 を打ったらしくて自分の名前も判らなくなっ て」 母親が<空蝉>の風で乱れたカーディガン を直しながら答えた。 「記憶を喪失されたんですか? お気の毒」 <空蝉>の顔を見つめる那恵の目に大粒の涙 が浮かび、やがて頬を伝って流れ落ちた。 「でも、よかった……生きててよかった」 顔を伏せてしばらく地面に涙を落とした後、 呆然としている母親を見上げて慌てて言い訳 を始めた。 「あ、すみません。あたしの友達もバイクで 事故に遭って、その人、そのまま亡くなっち ゃったものだから、つい……」 いま聞いたばかりの西連寺の『抜け殻』の 最後が言わせた言葉だった。 見知らぬ娘の不意の涙に一瞬戸惑った母親 が、我に返ってハンカチを出そうとして動き を止めた。<空蝉>が手を伸ばして、那恵の 頬の涙を拭ったのだ。 「まあ、この子」 車椅子を挟んで那恵の向い側にしゃがみこ んだ。信じられない出来事を見たように、那 恵の顔を拭く自分の娘を凝視した。 「ないてる、かわいそう」 <空蝉>がたどたどしく言った。 「喋った! この子、喋ったわ! あなた、 聞いたでしょ。喋ったのよ、この子が喋った!」 母親が興奮して<空蝉>を抱きしめた。 「え、それじゃ今まで言葉も?」 「そうなんです。ひとことも喋らなくて……。 それどころか、私や主人の顔を見てもどんな 表情も浮かべた事がなかったのに。ああ、那 恵、那恵ちゃん」 <空蝉>に頬擦りしながら母親が感涙にむせ っている。 「そうだったんですか。でも、よかったです ね」 那恵も嬉しそうに笑いながら母親の顔を見 た。 「ええ、ええ、ほんとに。あなたのおかげで す。見ず知らずの方の涙に、この子も心を動 かされたんですわ。ありがとうございます。 ありがとうございます」 不意に那恵の顔から笑みがはげ落ちた。車 椅子から離れようとするみたいに急いで立ち 上がる。 「あの、それじゃ、あたしこれで失礼します。 娘さん、お大事に」 「あ、ちょっと。お名前だけでも」 「いえ、あたしただの通りすがりですから。 さよならっ。直人、行くわよ」 そばに立っている西連寺の腕をひったくる ように掴んで、那恵はその場を去った。西連 寺が振り向くと、母親はこちらに向かって何 度も頭を下げていた。会釈を返しながら、那 恵に引きずられていく。 病棟の裏側まで来ると那恵は西連寺に向き 直り、西連寺の上着の襟元を両手で掴んだ。 潤んだ目で、西連寺を睨んでいる。そのまま 西連寺を壁に押し付け、胸に顔を埋めて泣き じゃくった。西連寺は片腕をそっと那恵の背 中に腕を回した。もう一方の手で那恵の髪を 撫でてやる。 「辛いよなあ」 西連寺が呟いた。 「やっと会えた母親に『見ず知らず』なんて 言われたんじゃなあ」 那恵がわっと声を上げた。 「だけど、お母さんの気持ちも判るよな。判 ってやれるよな」 那恵が西連寺の胸の中で小さく頷いた。 「織部さんが行かせたがらなかったのも、程 度の差はあれこうなると判ってたからなんだ」 また微かに頷く。 「さて、それじゃちょっとだけ厳しい現実に 戻ろうか」 え、と那恵が顔を上げた。 「もうちょっとこのままいさせてやりたいん だけどね。向こうにはこっちの都合は関係な いらしい」 西連寺が那恵を抱いて横に飛んだ。空にな った空間に黒いものが襲いかかった。壁に両 手両足を着いて一瞬停止した後、真横に跳ね た。そのまま日暮れ空に舞い上がる。 夕焼けの中に人の姿が浮かび上がった。両 腕は見えないが、からだの左右で薄く大きな 膜が動いているのが判る。 「鳥? 蝙蝠?」 「蝙蝠男だ。厄介なやつが来やがった」 起き上がって走り出しながら西連寺が説明 した。 「気を付けろ。あいつに咬まれると、操り人 形になっちまうぞ。以前おれたちのメンバー が何人かやられてる」 「吸血鬼?」 「血を吸う時に牙から麻薬を注入するんだ。 すると思考能力を奪われた上、特定の音に敏 感になって、あいつの超音波指令の言いなり になるらしい」 逃げる二人の背後から蝙蝠男が急降下して きた。西連寺と那恵が離れた。 蝙蝠男は那恵に狙いを絞って攻撃を仕掛け た。西連寺が援護しようとするが、上空から の攻撃では、急に方向転換されたら逃れよう がない。病院の中で飛び道具を使う訳にもい かず、那恵が捕えられる瞬間に何とかするし か手は無さそうだった。 那恵は地に伏せ、地を蹴り、横に飛び、後 ろに転がって蝙蝠男の急降下攻撃を避け続け た。最初は単調に振り子のような降下を繰り 返していた蝙蝠男だったが、次第に最下端か ら上昇する時に方向を変え始めた。
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