連載 #4514の修正
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空飛ぶ吸血魔人・蝙蝠男(1) 「なんで家に帰っちゃいけないのよ!」 那恵の声が室内に響いた。 西連寺直人に『グランマ』の許から救出さ れた堀井那恵は、西連寺たちの本拠地に連れ て来られた。そこで西連寺たちのリーダー・ 織部雷人に紹介された。織部は四十代半ばの 元生物学者で、生体改造兵士開発にも携わっ ていた。自らも試作段階の生体改造を受けて いる。 織部は、那恵が誘拐されてから既に3ヶ月 が経過していること、『グランマ』が世界的 組織であること、バックには内外の巨大企業 が付いているらしいこと、自分たちが『グラ ンマ』の脱走者で構成されていること、『グ ランマ』を倒すために協力して欲しいことな どを那恵に話した。それに対して那恵が、自 宅に帰ってゆっくり考えたいと申し出たとこ ろ、自宅には帰らない方がいいという答えが 帰って来たのだ。 訳のわからないことに巻き込まれて怪物の ようなからだにされ、どこともわからない場 所に連れて来られ、その上自宅には帰るなと 言う。那恵の神経は限界近くまで疲弊してい た。いま必要なのは、安息なのだ。 那恵が長机に両手を突いてパイプ椅子から 立ち上がろうとするのを織部が制した。 「君の脱走はすでに『グランマ』の組織全体 に伝わってるころだ。当然立ち寄りそうな所 に網を張っている。君の自宅や家族は真っ先 にマークされてるはずだ」 「それなら私の両親や兄弟も危険だわ」 「わざわざ世間を騒がせるようなことを『グ ランマ』がやると思うかね? 何かことが起 きない限り、きみの家族は安全だよ」 「私を誘拐したことだって、十分世間を騒が せると思うけど?」 言われて織部は西連寺の方を見た。西連寺 が目を閉じて軽く首を振る。 「そうか、まだ直人の方から説明してないみ たいだね」 「説明?」 織部に促され、西連寺が話し始めた。 「実は……世間的には君は誘拐なんかされて ないんだ。いや、世間的だけじゃなく、肉体 的にも、と言った方がいいかな」 那恵が怪訝そうな顔をした。 「どういうこと? あたしは現にここにいる じゃない」 「それを説明する前に、生体改造兵士の製作 過程を教えると、まず、脳と脊髄にベクター を送り込んで、そこを中心に遺伝子の組み替 えを始める。それがうまくいったら、元のか らだから改造された脳と脊髄を取り出して、 倍溶液に移し変えるんだ。『グランマ』の連 中はこの作業を『脱皮』と呼んでる。これで、 記憶と運動能力は元の人間のものを利用でき るし、改造後のからだの回復力は君も知って のとおりだから、からだ全体を改造するより 期間が短くて済む」 那恵の顔が見る見る青ざめていった。気味 悪そうに自分の手やからだを眺めている。 「……それで、『空蝉』の……『抜け殻』の 元のからだの方は?」 那恵の声は重かった。 「からだに残った脳と脊髄の一部を高速で培 養して、元の脳の記憶物質をある程度複製し て戻してやって、さらってきた場所の近くに 捨てる。まず助からないし、万一助かったと しても、ほとんどの誘拐は事故に見せかけて るから、脳や動作に異常があってもその事故 の影響だと思われる。『脱皮』の時の手術痕 をそれらしく見せかけてるし」 西連寺は感情を込めずに淡々と語った。し かし、両手は固く握り締められ、微かに震え ていた。 「そんな……」 那恵はパイプ椅子の背凭れに半ば倒れるよ うに背中を預けた。 「でも、家族に会えば、わかるわ。あたしが 本物だってこと、わかってもらえるはずよ」 「そこの壁に鏡がある。見て来給え」 織部が那恵の背後の壁を指差した。おずお ずと立ち上がり、壁に向かう。 「嘘!」 鏡を覗き込んだ那恵が叫んだ。鏡に映って いたのは、確かに那恵に似てはいるものの、 別人の顔だった。強いて言えば、少し成長し、 目つきがきつくなった顔つきと見えなくもな い。 「君の遺伝子は基本的には同じだが、既に改 造されてるし、倍溶液の中で筋力強化のため の様々な刺激を与えられながら今のからだに なったんだ。元の顔つきとも違ってるし、肉 体的特徴も変わってるはずだ」 那恵の目から涙がこぼれ出した。その場に 両膝を突き、両手で顔を覆ってすすり泣いた。 ショックだった。飛び切りの美人という訳で もないが、愛着のあった顔だ。それが知らな いうちに別の顔にされている。それだけでも 『グランマ』は許せなかった。 「私の……元のからだは? もう死んじゃっ て、焼かれちゃったの?」 ひとしきり泣いた後、那恵が尋ねた。 「いや、奇跡的に助かって、今は病院だ。も っとも、『脳に損傷を受けて、記憶と運動能 力が著しく損なわれている』ことになってい るが」 織部が答えた。那恵の表情が少しだけ緩ん だ。 「一目だけでも会えないかな。そしたら、あ なたたちに協力するわ」 「やめた方がいい。辛いだけだぞ」 「こんな中途半端な気持ちじゃもっと辛いわ。 お願い」 「おれが付いて行きますよ、織部さん」 西連寺が申し出た。 「この調子じゃ、ここを抜け出してでも会い に行きそうだ」 「今は向こうも警戒を強めてるだろうから、 できればもう少し時間を置いた方がいいんだ が……」 「お願いします。自分の目で確かめたいんで す。このままじゃ、今の現実を受け入れるこ となんてできない」 「君が接触しようとしたことが判れば、君の 家族が危険にさらされる事になる。それだけ は十分認識しておいてくれよ」 那恵の真剣な眼差しに、諦めたように織部 が言った。 「ありがとうございます!」 那恵が深々と頭を下げた。
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