短編 #1266の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
男は変な思いにとりつかれていた。 世の中すべてがゼンマイ仕掛けで動いているように思えて仕方がないので ある。男自身でさえも、ゼンマイ仕掛けでできているのではないかと毎日思 い悩んでいた。 男の住んでいる所は白い建物の中、何人かの人間と一緒に仕事をしている。 まわりの者に不安な話をしていても、気のせいだと言って、適当に相槌を打 つだけで相手にしてくれない。仕方がないので、毎日医者から薬を貰ってい る。人の話を聞いたり、薬を飲んでも、男は体がゼンマイでできていると思 いは深まっていくばかりだった。 一年、二年と白い建物の中での平穏な生活は続いていく。そして血色のよ い皮膚の下には血液を流すプラスチックの管が縦横に通っている。有機質の 代わりに無機質のゼンマイが大量に積め込まれているとまわりの人間に話す のである。まわりの人間は話しを聞くことを嫌がった。男は1度話しだすと、 相手が何を言おうと疲れて寝てしまうまで、延々と何時間でも続けるのであ る。そのため男は白い建物の中では浮いた存在になってしまっていた。 あるとき、男は人を殺すことを決心した。殺すことで、男の体はゼンマイ 仕掛けでできているのか、血のかよった人間かの問いに何らかの答えが出る と思ったのだ。それに今のままでは男は狂いそうだったのである。 まず、男は作業所においてあるナイフを手に入れた。それを大事に自室に 隠した。 男は若い人間はまだ将来があるから止めにした。それから同年輩の人間も 力で負けるかもしれないから止めにした。そして男は昔からいる老人を標的 に決めた。老人はいつも古めかしい本を小わきに抱えている。中には何が書 かれているのかわからない。若くても同年輩の人間でもよかったのだ。老人 が白い建物にいたからこそ人間を殺す計画を立てたのである。男女の間柄に 恋わずらいという言葉があるが、男は老人に殺人わずらいしていたのだった。 老人は人間の代表であると男は感じていた。こいつを殺してしまえは今人間 の格好をしている者すべてはゼンマイ仕掛けか本当の人間か知ることができ ると夢想するようになっていた。 こうして、男は手に入れたナイフで老人を殺し、老人は動かなくなった。 老人は最後に安堵の笑みを浮べたように男には見えた。それも確認する暇は なく、ピーピーとカン高い笛の音で男はまわりの人に取り押さえられて独房 に入れられてしまった。 男は満ち足りた気分だった。老人は人間だった。つまり男もゼンマイ仕掛 けではないとわかったのである。老人を殺してようやく安堵の微笑みを浮べ ることができた。 しかし、その微笑みも長くは続かなかった。男は独房の中で、老人が持っ ていた古ぼけた本を見たのである。それは老人の日記だった。それには 「私は最後の人間である。どうしても寂しくて仕方がないので、ゼンマイ仕 掛けの人間を作り、感情を持たせ、白い建物の中で一緒に働いている」と書 かれていた。 >
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