短編 #1222の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
■コップ半分の殺意 [解決編] ほっと安堵の胸をなで下ろしたのも、つかの間だった。 警視庁の立花という警部が、突然私のところへやってきたのだ。面倒くさそ うに逮捕状を私に示すと 「白根河健吾を殺害した容疑で逮捕する」と冷ややかに言い放った。 「白根河さんは自殺だったのでしょう?」 反論しかけた私を立花警部は自信に満ちた冷たい目で見返してきた。 ――何か私は致命的なミスをしたのか? 背筋を冷たい汗が流れる。 「コップだよ」 それだけ言うと立花警部は写真を取りだした。あの応接室の写真だった。飲 みかけのコップが2個、テーブルの上にある。ひとつは白根河の、もうひとつ は私のコップ。それぞれにクラブソーダが残っている。「鑑識で調べたら毒は 両方のコップに入っていた。変じゃないか? 自殺するつもりならわざわざ相 手のコップに毒を入れる必要はない。自分のコップにだけ入れればいい」 立花警部の口調はぶっきらぼうだったが確信に満ちていた。 その瞬間に私は自分の計画の破綻を自覚した。 ――なんということだ。白根河は私のコップから直接飲まなかったのだ。た ぶん遠慮して半分だけ自分のコップにクラブソーダを移し替えたに違いない。 そしてそれを飲んで死んだ。だから、両方のコップに毒入りのクラブソーダが 半分ずつ残ったというわけだ。 「それにもうひとつ。ご覧の通り、写真のコップには半分くらい飲み物が残っ ている。つまり、ふたりとも飲み物を飲んだという形だな。ところが困ったこ とにコップには白根河の指紋しかない。あんたの指紋がないんだな」 立花警部は眉ひとつ動かさないで続ける。 「あんたはクラブソーダを飲まなかった。なぜか? それは毒入りだと知って いたからだ。つまり、コップに毒を入れたのはあんたということだ。あの部屋 は西日が射して暑かったらしいな。あんたは自分で自分のコップに毒を入れ、 自分が席を外した隙に、喉の渇いた白根沢があんたのコップの中味を飲むよう に、わざわざあの部屋を使ったんだろ。そうすれば自殺ということでかたが付 くからな。受付の瓜生清美があんたの指示であそこに白根河を案内したと証言 したよ」 立花警部が封筒を取り出した。 「被害者の内ポケットに入っていた。あんたに見せようと思って持ってきたら しいが、あんたはどうやらこれを読まなかったらしいな」 それは手紙のコピーだった。白根河建設が公共工事の談合を告発する内容で、 宛先は公正取引委員会長となっている。 ――そういえば、応接室で白根河が内ポケットから何か出しかけた。てっき り賄賂だと思って止めたけれども、あれは賄賂なんかではなくてこの手紙だっ たのか。 私は唇を噛んだ。 「この手紙が発端となって、談合した会社には強制捜査が入る予定らしい」 「とうことは、市の合同庁舎建設の入札は・・・」 「ああ、談合に唯一参加してなかった白根河建設にいくなあ」 [コップ半分の殺意 − 了] 作者お断り:本編は「ポケットミステリー通信」1999年11月3日号に掲 載されたものに加筆訂正をしたものです。
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「短編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE