短編 #1205の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
きりきりきりきり……。 回り始める。 歯車が。 音を立てて。 夢を見た。 会社の歯車になって働くことを厭いません。 面接でそんなことを言って、採用されて。 出社一日目、会社のビルのドアをくぐってみると。 建物の中は歯車でぎっしり。かたことかたこと動いている。 よくよく目を凝らせば、歯車一つ一つに目鼻があって顔があって手があって 足があって……。 社員の人達、全員が歯車になっていた。 ずっと回っている。 回転が悪くなると油を注されて、滑らかに。 みんな一生懸命働いている。 当然、自分も歯車になった。 ある瞬間、僕は気付かされた。この世における、自分の役割というものを。 僕に残された時間は、今日を除けばあと十三日間なんだ。十三日が過ぎると、 僕は終わってしまう。死ぬんだ。終わらない内に、役割を果たさなければいけ ない。そして余裕があれば、やりたいことを全部やらなくちゃ。 時計とにらめっこをして、真夜中、左から右へ針が、時間が、駆け抜けるそ の刹那、僕は行動を起こす。さあ、残りは十三日間だ、三百十二時間だ、一万 八千七百二十分間だ、百十二万三千二百秒間だ、ごめん次の単位は知らない。 一日目、月曜日。暗い内から外に出た僕は、悪人に罰を与えに行った。覚え ている限り、そして時間が許す限り。 バスの中でお年寄りに席を譲らず寝た振りをしていた野球部員、やかましく てスピード違反してた暴走族のグループ、子供に内緒で子猫を捨てた近所のお ばさん、禁煙コーナーで煙草を吸っていたおじさん、飲んだあとのペットボト ルを他人の自転車の篭に放り込んだ女子大生、ガムを道端に吐き捨てた高校生、 同じく道に痰を吐いた三十歳ぐらいの会社員、歩道にはみ出して自転車を停め た小学生やおばさん達、車を走行中に携帯電話を使う大学生、もらったレシー トをすぐ床に放り捨てる買い物客、公園のベンチを占領してる老人。 明け方までかかかって、これだけの人達の家に行き、罰を与えてきた。順位 付けがあって、一番ひどい奴は家に放火した。他にも窓ガラスを割ったり、自 動車のタイヤをパンクさせたり、電線を切ったり、玄関扉の鍵穴に接着剤を塗 り込んだり。一番軽いのは配達の牛乳におしっこを入れるってやつ。みんな、 ばれないようにやった。 朝、眠い目をこすりながら学校に行く。 自分へのご褒美に、したいことを一つやっておこう。今日は学校で一言も喋 らない。先生に当てられてても、どんなに怒られても、どんな楽しいことがあ っても。やってみたかったんだ。 実際にやったら、みんな案の定怒った。でも、変な奴って言われただけで済 んだ。つまんない。 二日目から六日目までは、ほぼ一日目の繰り返し。僕が今まで見かけた悪い 人達に罰を与えて回った。それに対する報酬として、やりたいことを一日に一 つずつ。試験をわざと白紙で出したり、その追試で完璧な答案を作り上げたり、 物凄く高等な質問を先生にぶつけたり、記憶喪失のふりをしたり。 七日目は休息日。家で一日中寝ていた。これまでの六日間で寝不足になって いたし、明日からの六日間は大仕事が待っている。たっぷり休んでおかないと。 八日目、再び、そして僕にとって最後の月曜日。今日から一日に一人、殺し ていかなければならない。それが僕の役割だから。 一人目は一番の親友。殺す理由はなくもないが、恨みってほどでもない。何 故殺すのかと言えば、最大の理由は予行演習。初めてのことには練習をしてか ら取り組まなければいけない。慣れなければいけない。それには、こいつを殺 すのが最も楽だと思う。手頃な実験台。これに成功すれば、残りは滑らかに片 付く。 実際、簡単だった。マンションの最上階に呼び出して、下を覗かせ、背中を ずいと押したら終わっていた。 九日目。考えてみると、今日が最難関かもしれない。担任の先生を狙うんだ が、女性とは言え若いし、力あるし、殺害は小学生には難しそうだ。 それでもつけ込む隙はある。先生は昨日、受け持ちの子が死んだことで神経 が参っていた。だから、自殺する理由、あるいは事故に遭う原因はわざわざ用 意しなくても、大人が勝手に解釈してくれる。 僕は、※※君の転落死について話したいから来てと言い、先生を呼び出すこ とに成功した。場所は学校の屋上にしたかったけれど、鍵を開ける手続きが面 倒らしくて、三階の理科室で我慢した。あとは昨日とほぼ同じ手順を踏んだ。 僕は※※君の転落する様子を目撃したと言って先生の興味を引き、校舎をマン ションに見立ててあれこれと面白い話を聞かせてあげた。窓枠から身を乗り出 すようにした先生の両足を下からすくって、おしまい。 十日目。この日の犠牲者は母親。お風呂掃除のときを狙って、酸性とアルカ リ性、二種類の溶剤を渡してあげた。確実に死ぬかどうか自信が持てなかった ので、母親が倒れたあと、さらにガスを発生させて、三時間ぐらい放置して、 それから一一九番通報した。 十一日目。前が母親だったのだから、次は決まっている。単身赴任先から飛 んで帰ってきた父親を、交通事故に見せかけて殺した。お酒をたくさん飲んで いたのを、往来の激しい道路に突き飛ばしただけだ。無論、僕はその現場にい たんだけど、誰も疑いはしない。 十二日目。欲望を隠すことなく本心を言えば、この日を一番楽しみにしてい た。好きな女の子相手に、好きなことをやれるんだから。どうせ最後にはこの 手で命を奪うのだから、嫌われてもかまわない訳であり、本当に思うがままに 振る舞える。僕のこと心配して家に来てくれた優しい彼女にはすまないけれど、 睡眠薬で眠らせ、色々なこと、凄いことをやってみたあと、洗面器一杯の水に 顔を押し付けて溺死させた。これだときれいな死に方をさせてあげられると思 ったから。まあまあ、きれいだった。 十三日目。最後の日だ。最後に殺すのは言うまでもない、僕自身。ただ一つ、 問題なのは前の日に殺した彼女の身体をどうにかしないと。置いていたら、僕 の仕業だと分かってしまう。たつとりあとをにごさず。 僕の両親の葬式に集まった親戚の人達が帰るのを待って、ゆっくり彼女を平 らげようかと考えてたんだけど、そんな時間はないと分かった。親戚のおじさ んおばさん達、なかなか帰らないの。お節介だ。 仕方がないので、夜の十一時までじっと我慢して、みんなが僕はもう寝たと 思った頃にやっと行動を起こす。隠しておいた彼女の身体を背負って、窓から 抜け出るのは骨が折れた。そのまま明るい方を避けて、山道を辿り始めた。 と、こういう小説を書き終え、僕は眠りに就く。 そんな夢を。 見た。 音を立てて。 歯車が。 止まり始める。 ……きり、きり、きり、きり。 ――終
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