短編 #1150の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
----“弱き者”、“弱き者”よ ----………… ----“弱き者”、聞こえぬのか、“弱き者”よ ----………… ----“弱き者”、目を覚ませ、“弱き者”よ ----…………ん…………だれかがおれを呼んだのか? いや、そんなはずはない。 この囚われの身のおれを呼ぶ者など…… ----私だ、“弱き者”。私がおまえを呼んだのだ。 ----だれだ、おまえは! どこにいるのだ! 姿を見せろ。 ----姿は見せられぬが、私はおまえのそばにいる。 ----ちょっと待て、いまろうそくに火をつける。 ----やめてくれ! 頼む、火をつけるのはやめてくれ! ----なぜだ。おたがい顔が見えないと話しにくいだろう。 ----よいのだ。闇がよいのだよ、“弱き者”よ。お願いだから、ろうそくをつけ るのはやめてくれ。 ----……おかしなやつだな。まあよかろう。ではおまえはだれなのか教えてもら おうか。 ----私は堕天使だよ、“弱き者”。 ----堕天使! 闇の力! 暗黒の帝王! 悪魔たちの父祖、あの堕天使か! ----そのとおりだよ、“弱き者”。私は闇の力、暗黒の帝王、悪魔たちの父祖、 あの堕天使だ。 ----散れ! 散れ、悪魔め! おれはこのとおり牢獄につながれてはいるが、悪 魔に魂を売ったりはしないぞ! 散れ、堕天使、邪悪なる者! ----私はいかぬよ、“弱き者”よ。私はおまえの味方なのだ。 ----うそをつけ、悪魔め! おまえたちの誘惑の手口はわかっているぞ! そう やっておれを安心させて、心にすきをつくらせるつもりなのだ! ----なにをいうか、“弱き者”よ。なぜ私がおまえの心を油断させる必要がある? そんなことをして、私がいったい何を得られるというのだ。 ----魂だ! 魂だよ。おれのこの、汚れた、不浄な、みにくい魂をおまえは得よ うとしているのだ。 ----ああ、なんという貧しさ。いいか“弱き者”よ。私は汚れた、不浄な、みに くい魂など欲しくはない。そんなものを手に入れたところで、なんの得にもなりは しないのだからな。 ----ではなぜおれを誘惑しようとするのだ? ----おまえが私を呼んだからだよ、“弱き者”。 ----おれがおまえを呼んだって? このおれが、汚らしい悪魔の頭目を! ----呼んだのだよ、“弱き者”よ。おまえは、激しく私に会いたがっていたのだ。 ----うそだ! おれはどんな悪事もはたらいてはきたが、悪魔に身を売りたいな どとは一度として思ったことはない! ----“弱き者”よ、おまえは勘違いをしている。自分の心を自分で隠してしまっ ているからだよ。弱き者はみな、おのれの悪をほんとうは知っているのだ。だから 私のような者を呼ぶのだよ。 ----なんということだ! おれの心のなかにそのような汚らわしい思いが隠され ているのか! ----だからおまえは、ほんとうはきれいなのだ。自分の悪を知り、それを恐れら れる人間こそ、ほんとうにきれいなのだよ。私のような者は、そんなきれいな人間 に、さらに行くべき道を示すためにいるのだよ、“弱き者”。 ----このおれがきれいだと? そして、きれいな人間を導くのがおまえたちの役 目だと? ふん、堕天使め! やっぱりだ! 導く、とは悪の奈落へのことか? おまえたちの汚物と悪臭にまみれた地下の世界へのことか? いいや、おれはだま されない。おれは疑うことを知っているのだ。ましてやその相手がおまえならな、 堕天使! ----ああ、“弱き者”よ、おまえはなぜいえるのだ。私の世界が汚物と悪臭にま みれた奈落の底だと。 ----おまえが悪魔だからだ! 悪魔は悪だからだ! ----なぜ私が悪だと断言できるのかね、“弱き者”。私が善でないとと、なぜい いきれるのかね“弱き者”よ。 ----おまえは対立者だからだ、堕天使よ! ----対立者! 私がか! では、私に対する者はだれか。その者は善で、私が悪 となぜいえるのか。 ----いえる。善は神だからだ。 ----善は神だと、なぜいえる。 ----神は善だからだ、邪悪なる者よ! ----私は神の許からやってきたのだよ、“弱き者”。神は反逆というレッテルを 私にはって、天界を追った。だから私は神に対立する者となったのだ。ではきこう。 私を追放した神が善で追放された私が悪なのか、それとも追放された私が善で追放 した神が悪なのか、おまえに判定することができるのかね? ----追放した神が善で、追放されたおまえが悪なのだ。 ----証をたててみよ、“弱き者”。たてられるかな、“弱き者”よ。 ----おれの根源がそう叫ぶからだ、堕天使よ。 ----おまえの根源がどれだけ確たるものなのか、おまえにはわかるのか? おま えの根源が神に関与されていないと、おまえにはわかるのか? ----……では、堕天使よ、おまえにはわかるというのか? ----私にはわからぬ。わからぬのだ、“弱き者”よ。善悪というものが。善とは なにか。なにをするものなのか。なんのためにあるのか。なんの理由であるのか。 どこへ行くのか。悪とはなにか。なにをするものなのか。なんのためにあるのか。 なんの理由であるのか。どこへ行くのか。私にはわからぬのだ。 ----それはおまえが悪だからだ、堕天使。 ----なぜ悪だから善がわからぬのか。なぜ悪だから悪がわからぬのか。 ----悪だからだ、堕天使。 ----では、対立者としての善もまた、善を、悪を、わからぬのではないか。 ----善は善であるがゆえにわかるのだ、善を、悪を。 ----それはちがうよ、“弱き者”。善も悪に対する対立者でしかない。対をなす ものに、その本質においてなんのちがいがあるというのだ? 対立は、綜合へと進 む。それだけだ。 ----綜合! 神と悪魔が? なとんばかげた空想だ。 ----神に不公平を見出した者は、善を悪、悪を善と考えたのだよ、“弱き者”。 善も悪も、それぞれの道をたどればみずからを破壊するだけだ。 ----破壊! だが堕天使よ、再生がある。 ----そう、再生だよ! 再生とはなんのためにあるのか。道を見出し、綜合への 橋を架けるためにあるのではないのかね? ----なぜだ! なぜだ、堕天使! ……なぜおまえは、悪のおのれに失望し絶望 したおれに希望を与えようとするのだ! なぜなのだ、堕天使よ! ----綜合のためだよ、“弱き者”よ。すべては綜合のためだ。 ----なぜだ! なぜおれに熱望を与えるのだ! これが、これがおまえの手か、 堕天使! ならばおれはだまされはすまい。あざむかれはすまい。 ----あわれな! 愚かしい人間めが! このおれの、この堕天使の言葉に従えば、 理想を体現することさえできただろうに! 人間めが! 現実の下僕めが! 囚人 めが! ----堕天使 ----ああ、おれはいつでも孤独なのだ。現実に反逆する唯一の存在なのだ! こ れでは、これでは綜合などあり得ようはずもない! 小ぢんまりとしたみみっちい 舞台で、くだらぬからまわりの役を演じつづけなければならぬのがおれなのだ! おれ、堕天使なのだ! ----堕天使 ----そうとも、おれが戦ってきたのは、つねに悪だった。そしてそこからおれは 善を生んだのだ。しかしそれを知る者など一人としていはしないではないか! そ れでも、それでもこの堕天使は戦わねばならぬのだ。綜合するために! ----堕天使! ----ああ、おれは行くぞ。さらばだ、“弱き者”、あわれなる者よ! おれは行 く。 ----堕天使! 堕天使! ----………… ----堕天使! ----………… ----堕天使 ----………… ----堕天使………… Fin.
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