短編 #1137の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「例えばさ、人が死んだ時になんで葬式なんてやるんだろうって、昔から不思議に 思ってたんだ。どんなに豪華な事をしようが、どんなにたくさんの涙を流してくれ たとしても、死んだ本人にはもう関係のないことなんだよね。私の祖父も神なんて 信じてない人だった。でも、お坊さん呼んでさ、大勢の人たちが来てさ、それは立 派な葬式だったみたい……私は小さかったからあまりよく覚えてないんだけど。そ んな無駄な事にどうして人は金や時間を費やすのだろう、そんな事を思ってた」 「たしかにさぁ、神さまになんか縁がない人間なんかにとっては、意味のないこと かもしれないし、死んだ後の事なんて誰にもわかりゃしないよ。でもね、何かに意 味を見つけようってところが、人間ってもんじゃない? 無意味だって思うのは、 意味を見つけられない人の言い訳だと思う」 「言い訳でも構わないよ……でもね、人の死にそんなに意味なんてあるんだろうか? 一個体の生命活動の停止なんて、地球上のシステムから見たら些細な事じゃない」 「些細な事ってさぁ……わたしには大げさに考えているようにしか思えないよ。死 は身近にあるからこそ、そこに意味を見つけようとするんじゃないかなぁ」 「死んだらそれは無をでしかないよ。人間の記憶のシステムは、肉体があってこそ 機能するんだから。あんたまで魂が記憶を持つとか言わないよね。私は前世とかそ ういうのを持ち出すのって、嫌いだから」 「わたしはね、死んだ後、自分がどうなるかなんて考えてないよ。だけどね、その 人が死んだとしても、その人の記憶がわたしに刻まれていることは確か。わたしは それを無視できるほど強くない。だから、死というものの意味を考えようとするん じゃない。形式張ったお葬式ってのは、たしかにわたしも嫌いだけどさ、だけどそ れに意味がないとは思わない。誰かが亡くなって、それに意味を考えようとするの に、やっぱりそういう儀式ってのは必要じゃないかな。心の整理するために、隙間 を埋めるために、悲しみを癒すために……そして、その人が生きていた事を再確認 するために。わたしは宗教的な意味なんてどうでもいい、一人の人間としてそうい うことを考えたいから」 「それでも私は自分が死んだら葬式なんてやってもらいたくないな」 「気づいてる? それって、自分の死に対して何らかの意味を考えてるって事だよ」 「……そうかもしれない。でも、本来は意味なんてないことなんだよ。何かを考え ようってするところが人の悪い癖なんだよ」 「思いこもうってするのは、簡単なんだよ。これは一般論、誰かさんがそうだとは 断定しません」 「ふふ……逃げ方がずいぶんうまくなったじゃない」 「逃げてるはどっちだか……」 「なに?」 「なんでもない。あ、そうだ。わたしが死んだらさ、お墓に花ぐらいは持ってきて よね、葬式には無理に出席しろなんて言わないからさ。んーそうだなぁ、できれば デイジーなんかが希望だけど」 「茜がそう簡単にくたばるようには思えないけどね。でも、たとえ花を持っていっ たとしても、死んだあんたにはなんの意味もないんだろうけどね」 「わたしには、意味はないかもしれない。でも、藍はこう思うはずだよ『ああ、あ の子はデイジーの花が好きだったんだなって』。それは、わたしが確かに生きてい たって証にもなるんだよ」 「あんたはなんでそんなに生きていた証にこだわるの?」 「生きてるから」 「単純すぎるぞ、その答え」 「他に答えようがないよ。じゃあ、藍の言い方をマネれば、それが心に刻み込まれ たシステムの一部だから……かな?」 「全然真似てないって、科学的根拠が省略されてるんだけど」 「むずかしいことなんてわかんなーい」 「こら、逃げるな」 「いいじゃん、藍だってむずかしい事はわたしには説明してくれないんだから。そ うだなぁー、一つだけ確実に説明できることがあるよ」 「何?」 「わたしは忘れないから。わたし自身の記憶の機能が衰えない限り、誰かさんの生 きていた証は刻み込まれているんだから」 「……そんな意味のないものなんか……」 「意地でも忘れてやらないから」 (了)
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