短編 #0175の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
机の上に配られたテスト用紙を前に、その日、僕の目標としていた百点が、頭の中で ぐらぐらゆれた、その瞬間だった。百点に挑戦する何時もの緊張がゆるんだ。 僕はいったい誰のために何を勉強しているんだ、父や母は、僕の顔を見るとテストの 点は? そして、一流大学を出なくちゃあ、一生人に使われて、下っぱで苦労するぞ、 だ。 父は市役所へ勤めている。父より偉そうな人も、お金持ちの人も、たくさんいるみた いだが、父ぐらいになれたら、いやすこしましになれたら、それでもいい。 昨夜父は僕に勉強しろ明日はテストだろうと言いながら、尋ねてきた中学校の同級生 という人と酒をのみながら楽しそうに話していた、それは大声で、楽しそうにだ。授業 をさぼって学校の裏の川で鮒やどじょうを追っかけていたこと、次の時間、先生に叱ら れて教室の後に立たされた。あれはきらいな算数だった、だけどきらいな算数がわかっ たような気がしたのはあの時間だけだったなァと笑いとばしてた。中学の楽しかった思 い出は、授業を抜け出して遊んだこと、先生を怒らせたこと、立たされたこと、それし か無いようだ。それでは僕の思い出は百点しか残らない、百点が思い出なのか、父くら いの年になって、同級生と百点の話で酒を飲む、かっこうがつかないや、それょりそん なんじゃあ尋ねてきてくれる友達もできない。友達ってのは、そんなのとちょっと違う 。 僕には友達がいない。受験問題で、点数とスピードを競争している仲間、みんな競争 相手だけだ。考える時間は無駄、頭のなかへ詰め込んだ記憶をたどって回答スピードを 競うばかりだ。自分で考える、自分の発想、そんな勉強はない。もっと自分の力で道を 開いていく、算数や理科、社会、国語の面白さを楽しめる、そんな授業や勉強があって もいいと思う。だから時々いやになって、保健室へ行きたくなる。保健室の先生はお姉 さんみたいで好きだ。「頭が痛い」と、言うと、にゃっと笑って、僕を腰掛けさせて額 に手を当てる、「そうね、少し休めば、すぐに治るわ」と、言って、ベットに寝かせて くれる。そして飾ってある鉢植えの花などの話をしてくれる。この花は綺麗でしょう、 一日おきに水をやるの、水はやり過ぎても駄目やらなくても駄目、花の気持ちを分かっ てやらなくちゃあ・・・。 「おい、隆、何をぼんやりしている!」 いきなりとんできた先生の声が僕の方向をくるわせた。よし今日は零点だ。 社会科のテスト、〇×、五つの問いの中から正解一つに〇、二十問あるから一つが五 点だ。これは難しい、白紙の零点ならたやすいが、急にファイトがわく、すべて不正解 に〇だ。鉛筆を熱心に走らせた。 先生はきまって時間五分前になると、できた人は先生の机の上において、静かに外へ 出てもよい。と、言う。今日も同じだった。僕は、静かに立って、テスト用紙を先生の 机の上において外へ出た。何時も感じたことの無い、快感というか、なにかドキドキす るものを感じながら、零点をとれる自信が湧く。 三日後の社会科の時間にテストを返した。僕には返してくれず、職員室へ昼の休み時 間に来るようにと、先生は言った。 職員室へ行くと先生はお茶を飲んでいるところであった。黙って先生の傍らに立つと 、先生は、上目使いにギョロリと僕の顔を見てから、机の上に置いてある僕のテスト用 紙を叩いた。 「こ、これはなんだ、わざとやったんだろう、そうに決まっている。でたらめに丸をく れても五点や十点はとれるはずだ」 見るとゼロ点だ、僕は内心やったと思った。その気持ちが顔に出たのか先生の指先が 震えて額の横に青筋が走ったような気がしたとたん、先生の声が高くとんだ。 「先生をなめるんじゃあないぞ!」 一瞬あたりが静まり、職員室にいた先生方の目が僕に向けられた。 「お前の根性はこんなにひん曲がっているのか、よし、担任に言って内申書に詳しく書 いておく、これからは内申書のウエイトが大きいからな、A高校への進学は駄目、B高 校も無理だろうな、そう言うふうに根性の曲がったのはD高校? 帰れ」 僕は先生に叱られることは覚悟していたが、こんな叱られ方をされるとは思ってもい なかった。これでは僕の将来を先生が勝手に決めているような気がしてならない。懇談 会だ三者懇談だとよくやるが、先生と母が勝手に話していて、僕の将来なのに二人で勝 手に決めている、口をはさもうとすると、お前には分からないんだから、先生の言うこ とを聞いて、親の言う通りにしてさえいれば間違いないんだからと。 担任では ないが、先生を怒らせてしまった、これで僕の一生が変わる、そんな事があっていいの か。 その日授業が終わると僕は一人教室に残された。教室の掃除が終えて、仲間が帰った 後の教室は静かだ、部活に出るものは少ない、多くは急いで帰って塾へ行く。西に傾い た太陽が、窓ガラスを通して足元を照らす。穏やかな秋の暖かさだ。ずいぶん待たされ たような気がした。担任の先生が現われた。見ると驚いたことに、その後にうなだれて 母が従っている。母は教室に入ると、小走りに僕の傍へ来るなり僕の頭を平手で叩いた 。その母の目に涙が光っていた。そして母は先生に向かって深々と頭を下げた。 「申し訳ありません、よく言聞かせますから、今回だけはなんとか穏便に、お許しをお 願いします」 母の涙を見たとたんに僕も母につられて立ち上がると先生に向かって深く頭を下げた 。 「まあ、今回は、初めてのことだし、反省しているようだから、いいでしょう。目をつ むるとしましよう」 先生は僕が頭を深く下げたことで反省していると思ったのだ。僕は母の涙に分けも分 からず母のすることと同じ事をあわててしただけだ。なんで母は涙を流すほど悲しいの か僕には分からない。母は続けた。 「有難うございます、どうか宜しくお願いします、内申書のことも宜しくお願いします 」 母は深く、そしてぺこぺこと何遍となく先生に頭を下げ続けた。 「では、以後こんなことの無いように。今回だけ。いいね」 担任の先生は、念を押すふうに言って、教室から出て行った。母は先生を見送ってか ら振り返るとまた僕を平手で叩いた、が、母の手の先が僕の頭をかすっただけだ。僕の 背は母よりそれ程に伸びてしまっていた。 母は顔を押さえて涙声で言った。 「 高校進学前のこんな大事なときに、お前はなんて事をしてくるんだ」 母は苦手だ涙を流すから、父は怒鳴るから僕も反発して、「うるさい」とかなんとか 口走って逃げ出せるが、母の涙は嫌いだ、もう何も出来なくなる、どうしたらよいかま ったく分からなくなる。 僕は走れ走れコウタロウ、じやあない、よそ見をさせずに尻を叩かれて、百点ゴール めざして一着で走りこまされるななんて。 どいつもこいつもわかっちゃあいねえ。親も先生も、家も教室も、だから保健室へ行 きたくなるんだ。 保健室の先生は別だが、ほんとに、どいつもこいつもわかちゃあいねえ。
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「短編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE