短編 #0173の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
休日に僕は広い公園の芝生にいた。すべて力をぬき寝ころんだ姿勢で空を仰いでい る。目を綴じてもまぶしいので、右前腕で目のあたり一面を覆う。とたんに心地よい 脱力感が襲ってきた。 眠りにはいる一歩手前で、なにげなく目を細く開けると、白い鳩が僕のすぐ隣で見 えた。再度眠ろうとして、はっとした。 どうも様子がへんだ。まず動かない。いや動いた。ほんの微かに力なく羽を震わせ た。僕は慌てた勢いで起きあがり鳩を抱きかかえる。適度な質量と温もりが僕の肌に おちる。鳩は首を傾げるようにして、僕をのぞき込んだ。目と目があう。 親父とお袋の荒々しい声が僕を責めたてる。僕はおびえた鳩を胸にしっかりと抱き かかえた。 「親父がなんと言おうとも、俺はこのエリサと結婚するんだ」 2日間の介護のかいあって、どこが悪かったのかは分からないが、鳩はもうじゅう ぶんに元気を取り戻している。まだ飛ぶ事だけはできない。 「そんなバカなことをいう奴があるか! 鳩と結婚するなんて」 親父の目が赤い。お袋はとうとう声を上げて泣きだし親父にすがった。 「しかたないだろう。俺はこのエリサを愛しているんだ。それはエリサも同じだ。 俺には分かる。言葉は交わせないが、見つめあえばすべて意志が通じあうんだ。な。 いいだろう。いや反対されても、俺はもうそう決めた。どうしても反対するのなら、 俺はこの家を出ていく」 クウ、クウ、とエリサが嬉しそうな声を発した。 実際、自分でも不思議としか思えないくらいだ。冷静な心は、人間と鳩という立場 を理由に繰り返し葛藤させる。けれどエリサの愛らしい顔を数秒みつめるなら、少し の頭痛を携えていいようのない切なく恋しい感情が僕のからだすべてを覆いつくして しまう。僕はエリサを力いっぱい抱きしめた。エリサが苦しそうな声をあげ、俺はや っと力を少しぬく。そして今朝、結婚を決意した。 その晩は、僕とエリサ、僕の気持ちを知った親父とお袋、それに弟までもが、どん よりとした気持ちで床につき、泣いた。いつまで経っても眠れない。乾いた時計の針 の音が、僕の意識を刻み続けた。 朝になり、目が覚めて驚いた。隣にしらない女性が眠っている。 けれど僕は彼女がエリサだとすぐに認識する事が出来た。彼女はおぼろげに目をあ ける。 「おはよう」 僕が声をかけた。 彼女は、幸せそうな微笑みのあとに、おはようとまだ少し眠たげにささやいた。け れどそれらすべてが当たり前のごく自然な朝だった。 親父とお袋に彼女を紹介すると、彼らは昨日の悪夢から一変した状況に歓喜の声を おおげさにあげた。 鳩は諦めたのか、と尋ねられて、僕は何も答えなかった。 彼女は、二人のまえで行儀良く挨拶し、その日一日ともに過ごした。エリサは親父 の肩をもみ、お袋の料理を手伝い、掃除をした。 こころも容貌と同じくらいに綺麗で透き通っていた。 一年後。 結婚式を前日にひかえて、僕らはあの公園にいる。彼女が人の姿をとって以来、僕 は意識して彼女が鳩だった話題をさけていた。 すべてガラスに思えて恐かったのだ。 僕は彼女に問いつめていた。彼女はじっとうつむいたままでベンチに座っている。 そして動かない。 「なあ。どうして話してくれない? 君は確かに鳩だったはずだ。俺は君を看病し たことをよく覚えている。それなのにどうして?」 「……」 夜は何も喋らない。時々遠方での犬の悲しげな鳴き声が耳にはいる程度だった。 「わかったよ。もういい。君はきっと俺を愛していないんだ」ほんの軽い気持ちで 脅迫的な言葉を僕は口走った。その刹那に僕は脳髄のどこかで、今までとても大切に あつかってきたなにかが音もなしに崩れたのを感じた。錯覚だと心に願い、唱え、叫 んだ。ほんの僅かな沈黙。 彼女がしぼんでゆく。スローモーション。けれど僕はなにも口に出来ないでいた。 彼女の姿がやがて鳩にかわった。 僕が慌てて彼女に触れようとしたとき、エリサはゆっくりと僕の右頬をかすめるよ うに飛翔した。 蛍のような光の尾が彼女に続いているように見えた。まだ続くスローモーションの 支配。 僕の頭は何も思考できない……身体はすべての力を奪い去られている……僕はから っぽになった。血液の流れだけがいやにはっきりと認識できた。 いつだって僕と彼女との間には、透明すぎるガラスの境があって、こちらからあち らへゆくことも、彼女のほうからこちらへくることも出来なかった。 じゅうぶん分かっていたんだ。一年という時間がそれを教えてくれていたんだ。ど うにか認めようと努力しつづけていたんだ。けれど僕には心細すぎた。 縮まったと幸福を感じた立場は、あの日から少しも変化はしていなかった。彼女が 無理をしつづけ僕に近づいていただけ。 もう少しで平安だったのに、蓄積された苦しみがほんの僅かな衝撃により限界に達 してしまった。彼女はもうどこにもいない。どこにも、いない。 僕はもう僕じゃなくなった。 (僕はどこで過ちをおかしたのだろう? あの日か。いやあの日か。いやあの日か。 それとも僕が生まれたときか? 僕が形成された時か? もうそんなことはどうだっ ていい) 高層ビルの屋上で、エリサが消えた日のことを回想する。想いは遥か彼方、春の世 界で浮遊しはじめた。僕と彼女と子供の三人で手をつなぎ歩いている。あたたかい。 とても。 とても。 眼下でうごめく光は小さい。街は眠らない。 (僕は鳩になろう。鳥になろう。そして君とこれからはずっと一緒に暮らそう) κει
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