短編 #0168の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
少女は冷えきった手を、ほうっと軽く息を吹き掛けた。 息が白く変わり、手が桜色に染まる。 暖かくなった手を雪の中に手を入れる。 冷たくなる。 息を吹きかける。 手が暖かくなる。 少女は雪の中に手を入れる。 何度も同じ動作を繰り返す少女。 腰を屈めて雪の両手で何かを探し、必死になって雪をかきわけている。 今日は何かいいもの見つかるかな少女はそう思った。 雪を掘り続けていた少女の手が止まり、その顔に笑みがもれる。 なんだろう、これ。雪の間から少女の見たこともない緑色の小さな芽が生えてい た。 可愛い鼻を近づけ、くんくんと匂いをかいている。どうやら悪いものじゃないみ たい。食べられるのかな。少女は考えた。 とりあえずそれを口の中に入れる。含んだとたん少女の顔が歪む。 ぺっと吐き出した。 毒ではないのだが、食べ物には向かないものだったようだ。 最近、少女の周りで見たこともないものが生えてくる。 変わったものを見れるのは楽しいけれど、食べられるものだったらもっと楽しい のにと少女は思う。 雪をかき分け、もっと違うものを探すことにした。 今度は黄色く小さな新芽が見つかった。新芽を傷つけないように器用に掘り出し 口に含む。 少女の喉がなった。これは食べられるものだったようだ。 特別おいしいということもないけれど、おいしくないってこともない。これだと 私でも食べられそう。 それにしても今日はいつもより暖かいみたい。こうやって雪の中を掘るのにもだ いぶ楽になった。昔だったら、地面もかちんかちんに凍って、苔ひとつを探すにも 苦労するのに、今日は簡単に採れた。本当によかった。 あれのせいだろうか。 もうすぐもっといいものが採れるような気がする。あれが来るまでの辛抱。 あれってなんだろう。いいものなのだろうか。少女は小さな頭を傾けて考えた。 少女は少し高い丘に立ち、村を見下ろした。 一面の銀世界。見渡すかぎり白い世界。 少女はこの白い世界で生れ、白い世界しか知らなかった。 少女は村に住んでいた。 村と言ってもそんなに大きくない。 大きな谷にかこまれた小さな村。 毎日の食料を採るのがせいいっぱいの小さな村。 村は絶えず寒さと餓えの恐怖に脅かされていた。 少女たちの村は生と死と隣あわせの生活を強いられていた。 生きているものもいれば、死んでいくものも大勢出ている。村の中でお互いが身 体をこすりあうように暮らしても毎年多くのものが死んでいく。 一度にたくさん生まれる赤ん坊たちもその多くが死んでいった。今日も村で生ま れたばかりの赤ん坊がぜんぶ死んてしまったと少女の耳に入っている。 少女が今まで生きることができたのは生きたいという強力な思いと、自然を粗末 に扱わずうまく対処してきたからだった。 それは少女だけではない。今生き残っているものすべてにも同じことがいえた。 冷たい海からの風を遮る大きな谷に囲まれてほそぼそと暮らす少女の一族。 昔、少女の先祖は谷の外から来たと長老が語る。その頃は夏の時代と呼ばれ、今 よりずっと暖かく過ごしやすかったと長老から次の長老へと語り継がれている。 冬に生まれ、冬に育った少女には夏は何を意味しているのかわからなかった。 夏って食べることができるのかしら。お腹痛くなりそう。少女は長老の話を思い だし軽く首をすくめた。 少女の一族は何かから追われるようにしてこの谷に住みついたそうだ。 少女は信じられなった。 どうして、こんな寒い厳しいところにしか住むことができなかったのかと。 少女は知らなかった。 少女たちがこの谷に追われる原因となった何かが滅んだ後も、冷たい海風を遮っ ている大きな谷が少女たちをここまで生かしてきたことを。 この谷から少女は一度も出たことがない。 おそらく村のものも出たことがないのではと少女は考える。 いつか私はここから出てみたい。 そして外に出ていつかあの大空へ、彼女は長老の話を聞きながら天高く星々をか ける奇妙なあこがれを抱いていた。 少女には気になる少年が一人いた。 後ろから見ているのでその少年の顔はよくわからない。汚い身なりの少年だった。 少年はいつも一人だった。彼の親はとうに死んで、少年一人で暮らしている。な んだか気になった。 ときどき少年と一緒に食料を探したこともある。 少年の横で話すと胸がどきどきと高鳴るのを少女は感じた。 これは、何? もしかしたらこれが恋というものなの。 少女はその少年に淡い思いを抱いているのに気がついた。 そしてその思いを誰にもつげぬまま胸にしまっていた。 その少年と二人だけで遊んでいる。 小さな村に流れる一本の小さな小川、氷を割り下の生き物をとる。 そこにはいろいろな生き物がいる。とって遊んだり、小川の先はなにがあるのか、 少年と語りあう楽しい時間。 そんなある日、あれが近づいて来るのを少女は知った。 それは突然であった。いつものように少女のお気に入りの丘で一人で立っている と、風が少女にささやいた。 あれが来るよと。 少女に囁いたのは風ばかりではなった。地面からも少女の足を伝い知らせてくれ た。 風は少女の鼓膜を通して、耳鳴りという名前になった。 地は少女の身体の足という部分を通じて、おびえという名前になった。 少女は走りだした。 ぐずぐずしている時間がなかった。 少女には時間が残っていなかった。 まっすぐ村に向かって走り出した。 村のものに言葉をかける。少女はできるだけ高いところに逃げるよう言った。 それでも少女の説得になかなか承知してくれない。 少女は懸命に説得した。 あれの影響でくる大きな波のことを。 風の音、地の音が告げる破壊への前兆のことを。 そして何度も大地が揺れ動き、村のものはおびえ、少女のいうことを信じるこ ととなった。 やがて少女の一族は波が届かない高い丘へと移動する。 少女はほっと息をつく。 あの少年はどこにいるのか辺りを探す。 いない。 そんな・・・。 少女は丘を探す。 少女の顔に焦りの色が現れた。 あれがくるというのに・・・。 まさか・・・。 まだあそこに・・・。 少女は来た道を駆ける。 一度来た道を振りかえる。高い方には少女の一族がたたずんでいる。 誰も少女をとめるものはいない。 間に合うか。少女は歯を食いしばり走りだす。 走る。少女は走る。 道がぬかるんできた。少女はつるりとすべった。 少女の身体が坂を転げ落ちる。 ごろごろごろごろ、下へ下へ。 少女の身体が岩にあたる。 痛い。 厚い毛皮に覆われてよくわからないが、傷をおったようだった。 ぺろりと傷口をなめる。 血のあまずっぱい味と泥のえぐい味が口の中で混ざる。 唾を掃き出す。 他にも血が滲み出ているところがないかと調べてみる。 少女のみずみずしい毛皮は泥に覆われていた。 いつもだったら、雪の中転げ廻ってもこんなことないのにね。 泥だらけの姿を見て苦笑する。 早い。思っていたより早くなっている。もう始まっている。 雪が溶けているのだった。あれの影響で雪が溶けている。 いそがないと・・・・。少女はあせった。 走る。走る。まどろしい道。この道を跳んでいくことができたらいいのに、翼 のない少女には跳べることはない。 早くしないと。 まどろこしい思いとはうらはらに、少年のところに辿りつけない。 一緒に上にいきたかったのに・・・・。 どうして・・・・。 走る途中、少女は道端に生えている。実をぷちっぷちっと2粒とった。 見たこともない実、いままでこんなところに生えることのなかった実。 それでも、少女は無意識のうちにその実を取っていた。 右手でぎゅっと握る。 まだ、少女は食べない。 いいものとわるいものを両方含んでいる果実。 口に含むとしたら、ぎりぎりのところまで待ってみるつもりだった。 できるだけ、このままでいたいと少女は考えた。 草原があたりをつつむ。 少女が今まで知っていた銀色の世界はきえ、今は緑色の世界。 あれは少女が思っていたより早く襲ってきていた。 間に合わないかもしれない。もう少し待って、少年に巡りあうまで・・・・・ 少女は祈る。 好きだった少年の顔が脳裏に浮かぶ。 そして一緒に上に上がりましょう。少女は祈りながら駆けていた。 少女は昔少年と遊んだところまでやってきた。 川にはもう氷ははっていない。 当然のことだ。ここにもあれが訪れていたのだから。 少女は少年を探した。 いた。 少年は魚をとっていた。 少年は少女を見て、手を振った。 少女も笑顔で手を振ろうとした。 途中まで手を挙げて、水が流れていく先を見た。 少年も何かを感じたのであろうか、少女が見つめている方向を見た。 風が舞う。 地が鳴った。 少女はあれが来たのがわかった。 少女は大事に持っていた赤い実を二粒、口に含んだ。 ごくんと、一粒呑み込む。 残り一粒は口の中に含んだままだ。 水が襲ってきた。 水が少女の顔にかかる。 水が少女の身体を包む。 少女が水の中に沈む。 水の中で木の葉のように揺れる少年をつかまえ、抱き寄せる。 そして口に含んでいた赤い木の実を口移しで少年に与える。 これでいい。少女は微笑んだ。 少女は時に流されていくんだ。そのまま時の流れに乗れば心配することはない。 少女は目をつぶり胎児のように丸くなる。これからどうなるのか少女は自分た ちの成行を静かに見守ることにした。 深い深い海の底でまどろむような感覚。これ覚えている。少女は思った。 身体が少しむずむずする。あれのせいだと少女は感じた。 少女は静かな気持ちで少年のようすを観察した。 少年の長い毛がすべて抜け落ち、下から黒いつるつるとした皮膚が現われる。 五本の手が一つになり、水をかきわけるのに便利な黒い鰭になる。 地上を自由に歩いていた足も、大きな黒い鰭と変わっていった。 自分たちの姿が変わっていくのを見て、少女には怖いという感覚はなかった。 だた、一つ少女が残念だったのは、上にいくことに永遠にいけなくなったこと だった。それも仕方がない。これも愛してしまった代償なのだと少女は少年を見 て思っていた。 静まりかえった海からなにかが飛び出した。 若い二頭のくじらだった。 くじらたちはしばらく陸のまわりを泳いでいたが、一頭が天高く塩を吹くとも う一頭もさそわれるように塩を吹き始めた。 長い間塩を吹きつづけた後、やがて海の底に消えていった。 その後彼らの消息を知るものはいない。 $フィン
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