長編 #5317の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
エリウスの問いに、ロキが答えた。 「おまえは王の指輪を持っているな」 「うん」 「それを使え。理屈は、おまえがメタルギミックスライムからバクヤを救った時と同 じだ。ただ、フレヤに渡すものは、おれがおまえに渡す」 「ちょっと」 エリウスは、困った顔になってロキを見る。 「どうやってフレヤに触れるの?あの黄金に光っている木のところまでいく訳?」 「それではだめだ」 ロキは水鏡を指さす。 「ここへ入れ。ここからフレヤのところへいける」 エリウスは目を丸くした。 「ええーっ、水の中に入るの?」 ロキは無表情で答える。 「表面だけだ、水に見えるのは。その奥はアイオーン界に繋がっている。アイオーン 界を通じて、黄金の林檎のある空間へ行ける。とにかく中に入れば黄金の光が見える から、そちらへ向かえ。その光の中に入り込めば、フレヤに接触できる」 「へーえ」 エリウスは、緊張感のかけらもないのほほんとした顔で、水鏡に歩み寄る。まるで 水遊びをする子供のような気楽さで、ひょいとその水の中へとエリウスは飛び込んだ。 バクヤはやれやれと首を振る。 「大丈夫か?あいつ」 そう問われたヌバークは肩を竦めた。 「私に聞かれても困るが」 「そりゃそうやけど」 ロキは歩きだした。バクヤが問いかける。 「どこへ行くんや?」 「この城の地下だ。そこに天空城を動かすシステムの心臓部がある。そいつを動かす」 「へえ?」 バクヤは理解できなかったが、それ以上問うても無駄と知り階段を降りていくロキ を見送った。 エリウスは水の中を通り抜けた。一瞬奇妙な幻惑を感じたが、あっという間に水を 抜け、自分が虚空に放り出されたことを知る。 南の海を思わせる、青さに満ちた空間であった。上も下も果てしない青い空が広が っており、自分が壮大な虚空に浮いているような気がする。 しかし、間違いなくエリウスは落下していた。自分がこのまま落下していくとどう なるのかは判らなかったが、ただ落下しているだけでは目的地へ辿り着けない気がす る。 とりあえず、エリウスは糸を放ってみた。魔繰糸術は作動したが、糸を絡める先が 無い。とにかく、手当たり次第糸を放ち、ひっかかるものを探す。 突然、糸が何かに絡みつき、落下が止まった。大きく振り子の運動が起こり、エリ ウスは青い虚空の中をぶらぶらと揺れ、やがて止まる。 「黄金の光なんてないじゃん」 一言愚痴を漏らすと、エリウスは糸を手繰って昇ってゆく。やがて頭上に金色の光 が現れた。その光の中に糸は続いているようだ。 「あれかあ」 エリウスはため息をもらす。 それは巨大な樹の根であった。複雑に絡み合い、雲のように不定形なそれは、黄金 の光を放ちながら青い虚空に浮いている。 「あれに触ればいいのかな」 ロキは城の螺旋階段を降りて行き、最も深い地下に辿り着いた。そこは薄暗い空洞 になっている。足下には、神秘的な青白い輝きを放つ湖がある。 ロキは湖をのぞき込む。表面は青白い光を放っているが、その奥は濃紺の闇に包ま れていた。そして濃紺の闇の中を銀色の光が走っている。それは深い青色の宇宙を、 無数の流星が飛び交っているように見えた。 ロキは黒い衣服を脱ぎ捨て、均整のとれた彫像を思わせる裸体を顕わにする。その 美しいといってもいい裸体に、無数の線が走った。ロキの全身は深紅の格子に覆われ る。そして、ロキの身体は細かな断片に分解されてゆく。ロキは幾百もの小さな立方 体に分割された。その微細な立方体たちは空中を浮遊し、湖の中へと入って行った。 湖は青白く輝く表面に微かな波紋を起こし、小さな立方体たちを受け入れて行く。 立方体は、深い紺色の湖の底へと沈んでいった。 分解されたロキの入り込んだ湖の奥深く、紺碧の空間の中で銀色の光によって幾何 学模様が構築されていく。それは明白にあるパターンを持ち、幾何学的な巨大図形を 造り上げていった。 湖はやがて銀色の光に満たされる。 エリウスは青い虚空の中を、黄金色に輝く樹の根に近づいてゆく。それは、近づい てみると、青い海に浮かぶ一つの島に思えるほど巨大であった。 それは複雑に絡み合う巨大な臓物のようでもあり、壮大な迷路のようでもある。エ リウスは上下の感覚が薄れてきている為、巨大な金色の雲の中へ落ちていくような気 にもなった。 エリウスは、やがて樹の根のすぐそばにつく。指輪をした左手でその根に触れよう とした。 「待て、王子」 突然、声をかけられ驚いてエリウスは振り向く。そこにいたのは、ロキである。 「えっとお、ロキさん。なんかずれてるけど?」 虚空に浮かぶロキの裸体には格子が走っており、ときおりその格子の線で分解しそ うになる。ロキはいつもの無表情で言った。 「気にするな。それよりその樹の根にふれてはいけない。それは、分解されたベリア ルの死体だ。そこに触れると、おまえもベリアルに取り込まれる」 「えーっ」 エリウスは慌てて手を引っ込める。 「そんなのあらかじめ言っておいてよ」 「私とて万能では無い。アイオーン界でもベリアルがフレヤを取り込んでいるとは思 わなかった」 エリウスは、ちょっと不機嫌な顔になる。 「じゃあどうするのさ。打つ手無し?」 「斬れ」 ロキは無造作に言った。 「おまえの無敵の剣、ノウトゥングでベリアルの死体を斬るんだ」 「そんなむちゃな」 呆れ顔で抗議するエリウスを、ロキが遮る。 「心配するな、中のフレヤが傷つくことは無い。やれ」 エリウスはふーんとうなると、ノウトゥングを抜いた。刀身が半ばで断ち切られた その剣を、エリウスは無造作に振る。 凍りつくような真冬の光を放つ刃が、青い虚空を切り裂く。黄金の光を放つ樹の根 は、ため息をつくように少し揺らいだ。 ごっ、と音をたてて樹の根は二つに割れた。その中心に、白く輝くフレヤがいる。 真白き姿に戻ったフレヤは、生まれたばかりの赤子のように、身体を丸めて虚空を 漂っていた。眠っているように、瞳は閉ざされている。 ロキの身体が、一瞬震えた。その裸体は格子の線で分解し、微細な無数の立方体と なる。そしてその立方体は、エリウスの耳の穴からエリウスの脳へと入り込んでゆく。 『行け、王子』 エリウスの頭の中で、ロキの声がした。エリウスは青い虚空の中を、真白き巨人フ レヤめがけて鳥のように飛翔する。 ロキが頭の中に入ることによって、エリウスはアイオーン界を自在に飛ぶことがで きるようになっていた。風のように早く飛翔するエリウスの両脇で、切断された樹の 根が再び閉じようと動き始める。 エリウスは巨大な壁が両側から迫ってくるように感じた。エリウスはもう少しでフ レヤの所に辿り着きそうだ。しかし、両側から迫る樹の根もぎりぎりのところまで来 ていた。切断された樹の根は、無数の腕が伸ばされるようにエリウスへと迫ってくる。 エリウスの身体に樹の根が触れる寸前に、エリウスの指輪がフレヤに触った。エリ ウスは、自分の頭の中からフレヤの中へとロキが移動するのを感じた。
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE