長編 #5316の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
なりましたね」 マグナスが、笑みを浮かべながら言った。ブラックソウルが苦笑する。 「やけに楽しそうだな、マグナス殿」 「そうですか?とにかくあなた方や、ガルン殿に黄金の林檎をまかせられないことが よく判りました。黄金の林檎は私が手に入れます」 マグナスの背中に、巨大で白い羽が出現した。マグナスの身体を憑坐として、魔神 ベリアルが降臨しようとしている。マグナスは、とても楽しそうに笑っていた。 「なるほど」 ブラックソウルは納得したように頷く。 「あんたは死ぬ気だね、マグナス殿」 マグナスの身体は変貌してゆく。マグナスの笑みは恍惚とした喜びに溢れていた。 「私はね、ブラックソウル殿」 マグナスの身長は倍以上に伸びて行く。身につけていた衣服は破れ、身体が顕わに なった。その上半身は天使の羽を備えたものであるが、下半身は獣の獣毛に覆われて おり、足には蹄がある。 「奇形としてこの世に生まれてきたのです。私はしゃべることも歩くこともできない 存在でした。その奇形である私は、神託によってベリアル神への生け贄に選ばれたの です」 マグナスは、天使の上半身と獣の下半身を持つ魔神ベリアルへ変貌した。 「全部で十三人の子供が生け贄として捧げられました。私以外の十二人はベリアル神 によって魂を貪り喰われました。そしてベリアル神は私の魂をも喰らうために、私の 中へ入り込んだのですが、そこで予想外のことがおきました。ベリアル神は私の身体 に捕らわれてしまったのです。それは、私が奇形であったことと関係したようです。 そもそも私が奇形で生まれた原因が、ベリアル神を罠にかけるために私の母親へ魔道 がしかけられたことが、原因のようなのですが」 マグナスは輝くような天使の美貌でブラックソウルを見下ろし、語り続ける。 「それは、私にとっても、ベリアル神にとってもつらいことでした。人々はベリアル 神を私の肉体ごと破壊しようとし、何度も私を殺そうとしました。しかし、神の憑坐 である私は切り刻まれても、焼き尽くされても死ぬことができませんでした。私は殺 され続ける運命から逃れるため魔道を学び、いつか大魔導師と呼ばれるようになった のですが、私の望みは常に一つだけでした」 マグナスは美しい天使の笑みを見せる。 「私は死んで開放されたいのです」 マグナス=ベリアルは翼を広げ、空へと舞い上がった。そして、森を目指す。 「やれやれだな、ロキ殿」 一人残った黒衣のロキに向かって、ブラックソウルは語りかける。 「どいつもこいつも勝手なことしやがって、というところですかね、あんたとしては」 「マグナスは、ガルンに殺されることを望んでいる。ガルンがうまくフレヤと黄金の 林檎をコントロールできれば問題ないが」 ロキはいつものように感情を感じさせない声で続けた。 「そうでなければ、少しやっかいだぞブラックソウル」 ガルンに支配されたフレヤは、漆黒の風のように森の中を走り抜けてゆく。ふと、 ガルン=フレヤは足を止める。遠い空の彼方を見上げた。そこに白い翼を認める。ベ リアルであった。 漆黒のフレヤは、剣を抜く。しかし、その剣が振るわれることは無かった。 疾風と化したベリアルが急降下をすると、フレヤを抱きかかえ宙へ舞い上がる。 それは天使に死神が抱えられて、運ばれてゆくように見えた。フレヤ=ガルンは、 あえてベリアルに抵抗していない。 ベリアルはフレヤを抱えたまま、急降下してゆく。ベリアルはあの巨木、黄金の林 檎を封じ込められるという巨木があるところ目差し、飛んで行った。 ベリアルはフレヤを抱えたまま、巨木の根元の地面へ激突する。地面に巨大な穴が 穿かれた。 フレヤは、穴の中から歩み出る。剣は手にしたままだ。ベリアルの姿は無い。フレ ヤはベリアルを求め、あたりを見回す。 突然、気配を感じフレヤは巨木を見た。おそらくその巨木が数千年に渡り蓄えてき たのであろう膨大な量の気、それが地底の最奥で眠る龍が吐息を吹き出したように、 地上へと溢れだして来ている。 フレヤ=ガルンは理解した。巨木とベリアルが一体化したということを。 ざわっ、と枝が揺れる。 巨木は巨獣が身震いするように、震えた。 枝が伸びてゆく。 無数の腕が差し伸ばされるように。 フレヤは鬼神のように剣を振るった。常人には見えない速度で剣は振るわれ、閃光 が走る度に枝が切り落とされてゆく。 木の枝は無数の蛇がのたうつようにフレヤへ群がり、フレヤの身体をとりまいてい った。やがて、剣を振るう速度が追いつかなくなり、フレヤの手や足に木の枝が絡み ついてゆく。 フレヤは、激しい勢いで伸びて行く枝の奔流に呑み込まれた。そのまま枝は生き物 のようにフレヤを抱え上げ、幹にむかって引き寄せてゆく。 全身を封じられたフレヤは為すすべもなく、巨木へと取り込まれていった。フレヤ は巨木の幹へ磔にされた形となる。そしてフレヤの身体に絡みついた枝は、その先端 をフレヤの肉体へ食い込ませていった。フレヤの身体の中を細かな枝が這い回り、フ レヤはあたかも木の一部となったかのようだ。 フレヤの動きは完全に止まる。その瞳は閉じられた。 巨木は一瞬、揺らいだ。その葉は少しずつ金色へと変わってゆく。巨木=ベリアル は、黄金の林檎のエネルギーを吸収し始めた。 巨木は暁の光を浴びているように、少しずつ金色の光を放ち出す。 「見ろあれを」 黒衣のロキは、森の一角を指さす。巨木が金色の光を放っているのが見える。 「ガルンはフレヤのコントロールに失敗した。やっかいなことになるぞ」 ブラックソウルは苦笑する。 「おれにはたんに、黄金の林檎のコントロールがガルンからベリアルへ、移っただけ のように見えるが」 「いや」 ロキは無表情のまま言葉を続ける。しかし、その瞳には焦燥の色があった。 「黄金の林檎はヌース教団の持つ秘技をラフレールを通じて盗み取ったガルンである からこそ、まがりなりにも暴走せずコントロールできていた」 ごおっ、と凄まじい地鳴りが起こった。立て続けに細かな振動が、天空城を襲う。 「ベリアルでは無理だ。というよりも、既にベリアルは扱いきれないエネルギーを吸 収し、やつの最大の望みであった死を手にいれたはずだ」 「なんか随分困った状況にしてくれたみたいだねぇ」 やたらとのんびりした声がした。ブラックソウルは驚いて振り向く。美しい顔に、 のんきそうな笑みを浮かべた青年が立っている。 「エリウス王子か、それに」 エリウスの後ろにはバクヤと魔導師ヌバークが立っている。 「よお、また会ったな。ブラックソウル」 バクヤは野獣の笑みを浮かべて、ブラックソウルを見つめた。ブラックソウルはや れやれといった顔になる。 再び、地鳴りがあった。無数の亀裂が空中庭園の地面に走る。森の数カ所が陥没し ていた。天空城は揺れ動きながら、崩壊し始めている。 「で、どうするよ、王子」 ブラックソウルはうんざりした表情で言った。 「おれとヴェリンダとやるのか。そこのお友達に敵を討たせるために。多分ロキ殿は 傍観するだろうから2対3ということだな。しかし」 ブラックソウルは肩を竦める。 「そうしている間にこの天空城が崩壊するのは間違いない」 「どうしようか、考えているんだ」 そう答えたエリウスはものを考えているとは到底思えない、茫洋とした表情をして いる。 「僕は別に構わないんだけどね、ここで死んでも。バクヤに敵を討たせてあげれるな ら」 ブラックソウルはため息をついた。 「王子、ようするにおまえはこう思っているんだろう。たとえここを生き延びたとこ ろで、おまえの帰る世界はあのくそったれた王国の中だ。そこで生きてゆくくらいな ら、ここで死んでもいいと。しかしな、」 ブラックソウルは獣の笑みを浮かべた。 「おれがその王国を破壊してやるといったらどうする?」 エリウスは無邪気といってもいい笑みを浮かべた。 「神々の約定はどうするの」 「神々ごと破壊するのさ、王国を」 エリウスは、楽しげにくすくす笑った。 「へえ、面白いね。でも信じられない」 ブラックソウルの瞳に苛立ちの色が浮かぶ。神経は研ぎ澄まされ、エリウスが手に 提げたノウトゥングに注意を向けている。 「そこまでする理由はないでしょ、あなたに。あなたは神々の約定に縛られてないじ ゃん」 「おれもテリオス王の子だとしたら?」 エリウスはけらけらと笑った。 「面白いこというねぇ」 「おれはおれの父親を知らない。おれの母親はオーラの貴族、デリダ家の娘だった。 おれの母親はおれを孕んだ時、父親はテリオスだと主張した。証明された訳ではない が、まだ王になっていなかったテリオスが放浪中におれの母親と交際していたのは事 実だ。おれの母親は、結局デリダ家によって狂人として扱われ幽閉される。そのうち に本当に狂ってしまったようだがね。おれはかろうじて、殺されずに済んだ。事実は ともかくおれの母親が幽閉されたのは、クリスタル家と結びつきの強いデリダ家とし ては、対立する王家であるアルクスル家の世継ぎテリオスと関係を持っているように 見られるのは、危険なことだと判断した為だ」 「それで?」 エリウスは無邪気な笑みを見せて尋ねる。 「それがどうした訳?」 「おれの血もおまえと同じで、神々の約定に縛られたものという訳さ。判るだろ、お まえには」 エリウスは肩を竦めると、振り向いてバクヤに語りかける。 「とりあえずここを生きて脱出するというのは、どうでしょうか?」 「なんやてぇ」 バクヤはむっとした顔になる。 「一応さあ、僕に借りがあったはずだよね、バクヤは」 「むぅ」 バクヤは唸った。エリウスが宥める。 「アルケミアで魔法に対抗する方法を身につけるのに、協力してあげるからさ」 バクヤは肩を竦めた。 「ま、ええやろ。おれが死ぬのはかってやが、おまえらを巻添えにしていい理由はな いからな」 エリウスは美しい顔で微笑んだ。バクヤは思わず頬を染める。 「じゃ、僕は何をしたらいい?」
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