長編 #5264の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
黒い竜の国の森を通りぬけるあいだ、けんちゃんはいろいろな化け物たちに道をふ さがれました。それらは大きなヘビのようだったりコウモリのようだったりカエルの ようだったりクモのようだったり、ときにはそれらが組みあわさったようなぶきみな 姿をしていました。 けんちゃんはなんどもおそろしくて逃げようとしましたが、そのたびに肩にとまっ た黒トカゲにはげまされて、腰に下げたおふとんたたきを化け物たちの目のまえにか かげました。そうするとおふとんたたきは銀色にかがやきはじめます。その光にてら し出された化け物はみんな小さくちぢんでしまい、ごくあたりまえのヘビやコウモリ やカエルやクモになって、けんちゃんの前からすごすごとにげていきました。 「おそれることはなにもないのよ。黒い竜の国の化け物はみんなただおそろしげな影 をまとっているだけ。けんちゃんの勇気が剣をかがやかせれば、それらの影は光のな かに消えうせて、化け物のほんとうの姿をさらけだして見せてくれるわ」 「それじゃ、この森のなかにはこわいものはいないの?」 「けんちゃんがこわいという心で見さえしなければ、ほんとうにこわいものなんかこ こにはいないのよ」 そんなぐあいに黒トカゲにみちびかれて暗い森をぬけ、ようやく黒い竜の国の都に たどりつくまでにながいながい時間がかかりました。そうして黒い空の下黒いなだら かな丘の黒い草地の間の黒い道を歩いて、けんちゃんはとうとう黒い王宮の黒い正門 の前までやってきました。 「なにものだ? ここは竜の女神さまのおられる宮殿だぞ!」 大きな黒いライオンが二頭、けんちゃんの前に立ちふさがって言いました。そのは く力にちょっと逃げだしそうになったけれど、けんちゃんは勇気をだしてふみとどま りました。なにしろあんなに長い長い旅をしてここまでやってきたのです。すごすご とひきかえすことなどできません。けんちゃんはおふとんたたきを頭の上にかかげて 門番にさけびかえしました。 「ぼくは勇者けんちゃん。竜の女神さまにお会いするためにやってきました」 するとおふとんたたきがいちだんとまぶしくかがやきました。黒いライオンたちは その光にてらしだされると、どんどん小さくなっていってとうとう二匹のシャム猫に なってしまいました。 「通らせてもらうよ」 けんちゃんはびっくりしてあとずさりする二匹の猫の間をどうどうと通って王宮の 中に入っていきました。 宮殿は黒い大理石でできたすばらしくりっぱな建物でした。高い天井の長いろうか を歩いてようやくたどりついた王室の大広間のさらにいちだんと高い場所に、七色に 色どられた竜がすわっていました。 「あれが竜の女神さまです」黒いトカゲはそうけんちゃんにつぶやくと、いままでと まっていた肩からすべりおりて、どこへともなく消えてしまいました。 案内してくれていた仲良しのトカゲがいなくなってしまったので、けんちゃんは少 し心ぼそく感じましたが、いつまでもそうしてつっ立ったままでいるわけにもいかな いので、心をきめて竜の女神さまの王座の前に歩いていきました。 「遠い道のりをよくいらっしゃいました。けんちゃん」 女神さまは大きな大きな竜です。その身体をおおっているうろこが七色にかがいて います。その背中からはやっぱり七色にかがやく大きなチョウの羽のような翼がはえ ています。竜の女神さまはその翼をゆっくりと動かしながらそう言いました。 「竜の女神さま。白い竜の国ではみんながあなたがもどってくるのを待ちのぞんでい ます」 「けんちゃん、あなたがあの国の者たちにそう言われてここへ来たことは知っていま す。でも、残念だけれどわたしは白い竜の国にもどることはできません」 「どうして?」けんちゃんは驚いてたずねました。 「わたしはもともと白い竜の国にも黒い竜の国にもぞくさない色さいをつかさどる 虹の竜です。わたしはすべてのものに色をあたえることができます。でもあの白い竜 の国の者たちはじつは心のなかではすべてのものが同じ色であることを望んでいるの です。ひとりひとりが自分がほかのものと違う色であることがこわくてしかたないの です。だからわたしはあの国が作られたときに色をあたえることができませんでした」 「ぼくよくわからないよ」けんちゃんは頭をかかえました。 「でもそれでは自分たちがほんとうに幸せではないということも、あの国の者たちは みなわかっているのです。だからこそ、わたしを白い竜の宮殿にとじこめていつか色 とりどりの世界を作ってもらいたいとねがっていたのです」 虹竜の女神さまはうっすらと笑みをたたえて言いました。 「でもそれはむりな望みです。女神であるわたしは人々がほんとうに望むことをかな えることしかできません。あの者たちがそれぞれちがう色を身にまとうことをおそれ る心をのりこえるまで、わたしは何もできなかったのです」 「それじゃあ、ぼくの旅はむだだったの?」 いままでの苦労を思い、たいそうがっかりしてけんちゃんは言いました。 「いいえ、そんなことはありませんよ。……だれか宮殿の庭からばらを一輪もってき てください」 にじ竜の女神さまは王座の近くにはべる家来のものに言いました。すぐさま一匹の 黒いゾウが黒いばらを一本長い鼻でうやうやしくささげ持ってきました。 「これはこの黒い竜の国のばらの花です」 女神はその葉から花からすべてまっ黒なばらをうけとって言いました。 「けんちゃん、わたしの翼をその勇者の剣でたたいてください」 けんちゃんはおどろきました。いままでこのおふとんたたきを使ったのは化け物た ちをおっぱらう時だけだったからです。虹竜の女神さまの身体をたたいたりしてだい じょうぶなのだろうか? 「心配しないでたたいてごらんなさい」 けんちゃんはおそるおそる王座に登ると、女神さまの大きなチョウの羽のような翼 をおふとんたたきで軽くたたきました。するときらきらかがやく虹色の花粉のような ものがぱっと飛びちりました。そしてそれらの美しくかがやく粉が女王様の手のなか のばらの上にふりそそぐと、みるみるうちに花はべに色に、葉と茎はみずみずしい緑 色に染まっていきました。 「わたしの翼の虹色の粉がふりかかるとすべてのものに色がつくのです。ただそうし てわたしの粉を飛ばすには、けんちゃん、あなたの勇気がこめられた勇者の剣でたた く必要があるのです」 「ぼくの勇気?」 「そうです、けんちゃん。勇気というものはただ高い危険な崖を下りたり、化け物と 戦ったりするためだけのものではありません。ほかの誰とも違った色あいでいつづけ ることも勇気のいることなのです。ばらは赤い花をつけ、ゆりは白い花、ひまわりは 黄色い花をつけます。それは自分がほかの何ものとも違う、この世でただひとつのも のであるという大切なしるしです。だからこそ花は遠くからでもよくめだつし、ある いはそのために誰か心ない者に引きぬかれてしまうかもしれません。でもだからといっ て自分が自分である大切なしるしをすててまで、まわりと同じ色に自分を染めて危険 から隠れることを願ってはいけません。それではあなたをほかの誰とも違ったあなた として本当に大切に思ってくれる者ともけっしてめぐり会えないでしょうから」 「みんなと違う色でいる勇気があれば、あの白い竜の国の者たちも色を手にいれるこ とができるの?」 「そうです。けんちゃん、あなたの冒険はそんな小さな勇気をこの剣にこめるための 旅だったのです。この剣を使えば白い竜の国だけではなく、黒い竜の国もまた美しい 色にあふれた国になることでしょう。わたしがこの世界にいろいろな色を産みだすた めにはその剣がいるのです。けんちゃん、わたしにその剣をくれませんか」 「うん、よろこんで。女王さま、この世界をいろいろな色で染めるためにこのおふと んたたきを使ってください」 けんちゃんはおふとんたたきを虹竜の女神さまにさしだしました。 「勇者よ、ありがとう。それでは剣のおかえしに、あなたがこの世界にしてくれたこ とのへのささやかなごほうびをあげましょう」 こんどは王座の横にいた黒いキリンがぬっと長い首をけんちゃんにのばしました。 見るとその頭の角の上に小さな虹色の箱が乗っています。 「さあ、けんちゃん。その箱を開けてごらんなさい」 けんちゃんは箱を受けとると手の平にのせてそっとフタを開けてみました。 すると、どうでしょう。小さな箱のなかにもっと小さなけんちゃん自身がいるでは ありませんか。小さなけんちゃんは身体をまるめてたたまれたふとんの上で眠ってい るのでした。 「けんちゃん?」どこからか声が聞こえてきます。 けんちゃんは目を開けました。 「ここはどこだろう?」 けんちゃんはおき上がろうとして頭をぶっつけて、そこが押し入れの中であること を思いだしました。 「ママ、帰ったの?」 けんちゃんか押し入れから顔をのぞかせるとママはあきれて言いました。 「どうしたの? けんちゃん。なんだって押し入れの中にいたの……」 「ぼく……寝てたみたいだね。みょうな夢を見たんだ」 「だめよ。そんなとこで寝てたらかぜをひくでしょ?」 けんちゃんはおるすばんをしていてこわくなって、ママのにおいで安心するために そこにいたことを言いませんでした。だって小学校三年生にもなって恥ずかしかった からです。そしてけんちゃんは押し入れのなかで見た夢についてもママに言いません でした。だってとっても変な夢でしたから、誰かに話したらきっと笑われるだろうと 思ったからです。そうしてママがいただいてきた大きなおまんじゅうを食べているう ちにけんちゃんはすっかり夢のことを忘れてしまいました。 でもあくる日になってけんちゃんはもういちどあの夢を思い出しました。ママがふ とんを取りこむときにふとんたたきが見つからないで、けんちゃんにたずねたからで す。 「ふとんたたき?」 けんちゃんはそれをにじの竜の女王さまにあげてしまったのでした。でも、あれは 夢のなかのことだったはずです。 「……ううん? ぼく知らないよ」 「そう。へんねえ? 確かに押し入れに入れたはずなのに……」 そう言って不思議がるママの声を聞きながら、けんちゃんはベランダにでると、干 してあるまっ白な暖かいおふとんにもたれかかって目の下の見なれた景色をながめま した。いいお天気です。青空にきらきら輝くお日さまがすべてを照らしています。庭 の芝生もおとなりの庭のキンモクセイの葉もきらきら輝いています。けんちゃんのも たれかかっているすぐ目と鼻の先でふとんの上を黄色と黒のテントウ虫が歩いていき ます。 「こんなにいろんな色があふれてて……ぼくらの世界はすてきだなあ」 ちらっと目のすみに動くものがあります。けんちゃんがそちらを見ると一匹のトカ ゲがベランダの手すりの間から庭に逃げていくところでした。トカゲはきれいな青緑 色でした。 けんちゃんは上に広がる青い空と白い雲を見あげてにっこりとしました。そうして 思いました。にじ竜の女神さまのくれたごほうびっていったい何だったんだろうな… …?
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