長編 #5250の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
けんちゃんは、どこにでもいる男の子です。いつもはとても元気な小学三年生です。 でもいまけんちゃんは泣きべそをかきながらおふとんたたきをもって押し入れの中に かくれています。なぜでしょう? じつはけんちゃんはひとりでおるすばんをしているのです。近所の家でお通夜があっ てけんちゃんのママはそのお手伝いのために暗くなってから出かけたのでした。いつ もはいっしょにいるお姉ちゃんは修学旅行がかさなってしまったので昨日からいませ ん。お父さんも夜おそくまで会社から帰ってこないでしょう。それでけんちゃんはたっ たひとりでおるすばんをしなければならなくなったのでした。 いつもお姉ちゃんといっしょのけんちゃんにとって家の中でひとりでおるすばんを するのは初めてですから、とても心細かったのです。ずいぶん前に日が暮れて窓の外 はまっくらです。なんだかこわいものが闇のなかからのぞいているような気がします。 けんちゃんは窓の外を見ないようにしてすばやく家中のカーテンをしめました。でも そうしてもまだカーテンの向こうに何かがいるようです。使っていない暗い部屋やろ うかのすみにも何かいるのではないかと思えて不安でしかたありません。あとで叱ら れるだろうなと思いながらもけんちゃんは家中の明かりをつけてしまいました。 でもそれでも物音ひとつしないしんとした家のなかにいるとだんだん心ぼそくなっ てきます。ママ、早く帰ってこないかなあ。もしもママがるすのときにどろぼうが入っ てきたらどうしよう? そう考えるとこわくていてもたってもいられません。どうし てもこわくてしかたがないので、けんちゃんはとうとうお母さんのおふとんの入って いる押し入れの中にかくれてしまいました。そうしてお母さんのにおいをかいでいる と少し安心できるし、そうすればなにかこわいものが家に入ってきても見つからない ですむと思えたのです。そうしていったん押し入れに入ってしまうと、けんちゃんは こんどはこわくて外にでられなくなってしまいました。ママ、早く帰ってきてよう。 もしものときのためのおふとんたたきをしっかりとにぎりしめて、けんちゃんは押し 入れのなかではんぶん泣きべそをかきながら息をひそめていたのです。 けれども、いくら押し入れの中で待っていてもママはなかなか帰ってきてくれませ ん。おふとんがあたたまってママのいいにおいがします。長い間おびえていた疲れも でて、けんちゃんはそのうちに押し入れの中でうとうとねむってしまいました。 「もし、もし……」小さな声でけんちゃんを呼ぶものがあります。 「う〜ん、誰? せっかく、いい気もちで寝ていたのに」 けんちゃんは目をこすりこすり言いました。 「起きてえな。けんちゃん」 見ると、まっ白なとかげが一匹おふとんのあいだから顔をだしています。 「なんだ? とかげくんか」けんちゃんはもちろん生まれてはじめて物をしゃべると かげというものを見るのですが、なぜかぜんぜんこわくありませんでした。だってそ のとかげはアニメに出てくるような親しみのある顔つきでしたし、なによりけんちゃ んの手のひらに乗るぐらいの大きさしかなかったのです。 「ぼくは勇者をむかえに来たんよ」白とかげはそう言いました。 「勇者? ぼくは勇者なんかじゃないよ。だれかとまちがえているんじゃないの?」 「いいや、まちがえやないです。けんちゃん。あんたこそぼくの探していたお人です」 「まさか……ぼくが勇者でなんかあるものか。おるすばんしていても押し入れのなか にかくれてるようなこわがりなんだから。ドラクエなら勇者になったことあるけど、 あれはゲームの中のことだけだし」 けんちゃんは少し照れ笑いしながら答えました。勇者なんて呼ばれるのが恥ずかし かったからです。 「いいえ、勇者はテレビゲームの中だけやちがいますう。ぼくらの国ではずっと昔か らけんちゃんは勇者として知られておるんです」 「なんかへんだなあ……。そういえばきみはぼくをむかえにきたといったね」 「そうです。勇者であるあなたをむかえにきたんです。どうぞいっしょにぼくらの国 に来てください」 「そう言われても、どうやっていけばいいのかわかんないよ」けんちゃんは白いと かげの小さな顔をながめながらつぶやきました。 「それはかんたんです。目をつぶってこうとなえればええんですう。『ぼくは白い竜 の国に行きたい』」 けんちゃんは目をつぶりました。そして言われたとおりのじゅ文をとなえました。 するとだれかか押し入れの戸をいきなり開けたように、まわりがぱっと明るくなり ました。そして同時にからだの下のおふとんも消えてしまいました。まるでベッドか ら落っこちたときのようにけんちゃんは自分がふわっとちゅうに浮いたように感じま した。 「勇者よ! ばんざい、ばんざい、ばんざい!」 気がつくと、けんちゃんはどこもかしこもまっしろな世界にいました。いっしゅん、 けんちゃんは去年の冬に家族みんなでいったスキー場にいるのかと思いました。でも 空気はあたたかくて土や花や草のにおいがします。それなのに空も白、大地も白、木 や草花までがまるで雪をかぶったようにまっ白です。けんちゃんのまわりを取りかこ んでいるこの世界の動物たちもあの白とかげと同じようにみんな白い身体です。白い ライオン、白いゾウ、白いキリン…そんな動物たちがけんちゃんのまわりにむらがっ て、いっせいに歓迎のあいさつを叫んでいるのです。 「さあ。はよ勇者の剣をかかげて……」いつのまにかあの白いトカゲが肩の上にのっ ていて、耳もとでこっそりとささやきました。 「剣?」けんちゃんはおどろいて自分の手もとを見ました。けんちゃんの手にはまだ おふとんたたきがにぎられていました。 「これ、剣じゃなくおふとんたたきだよ」 「それが勇者の剣ですう」 けんちゃんは困ってしまいました。とはいえまわりの動物たちは期待をこめた目つ きでけんちゃんを見つめています。しかたない、何をしないよりもましだと思って、 けんちゃんは、手にしたおふとんたたきを天に向けました。するとどうしたことでしょ う。おふとんたたきが銀色にまぶしいほど光りだしたのです。 「おおお、これこそ勇者のあかし! よくやった白トカゲよ。ようやく伝説の勇者を 探しだしてきたのだな!」 白いライオンがほえるようにさけびました。 「はい、ようやくお連れいたしました」トカゲはけんちゃんの肩の上でふかぶかと頭 をさげました。 「よくぞまいられた。勇者よ」ライオンは動物たちの輪から一歩進みでて、そうけん ちゃんに話しかけました。 「ここはいだいな竜である女神さまにおさめられた国でした。しかしつい先だって、 われわれの王宮から女神さまが力づくでさらわれてしまいました。犯人はとなりの 『黒い竜の国』の者たちです。それいらい、ごらんのとおりわれわれの世界からは色 という色が失われてしまったのです。世界に色がもどらないかぎり、わたしたちは幸 せに暮らすことができません。『白い竜の国』の住人であるわたしたちには『黒い竜 の国』に入っていく力はありません。そこで勇者であるあなたにぜひとも女神さまを 救い出してきていただきたいのです」 けんちゃんはびっくりしました。みんなは自分のことを勇者と呼ぶけれど、けんちゃ んはただの男の子でとくべつな勇気も力もありはしません。それに『黒い竜の国』な んていかにもこわくておそろしそうではありませんか。 「おねがいします。けんちゃん」 「だって、『黒い竜の国』なんてどうやって行けばいいのかわからないし……、それ に力づくで女神をさらっていってしまうような、そんな強い連中とどうやって戦えば いいのかもわからないよ」 けんちゃんはなんとか勇者としての役から逃げだそうと、あれこれ言いわけをしま した。 「それはだいしょうぶです。『黒い竜の国』へはそこにいる白トカゲがご案内しま す。敵があらわれたら、あなたが持っているその勇者の剣でおいはらえばいいのです。 ……白トカゲよ、勇者の道案内、たのんだぞ!」 「おまかせください。さあ、とっと、とっとと行きましょう。けんちゃん!」トカゲ はけんちゃんの肩のうえで叫びます。動物たちはふたたび 「勇者よ! ばんざい、ばんざい、ばんざい!」 と叫びます。 けんちゃんはしかたなく白い空の下白いなだらかな丘の白い草地の間の白い道をは るか遠くの白い森めざしてとぼとぼと下っていきました。
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