長編 #4754の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
純子は申し訳なく思う一方で、関心を強めもした。 (ピアノをやめた理由、何かあるんだ……。相羽君は音楽が得意なくせして、 嫌いって言っていたけれど、関係あるのかしら?) 新学期初日は一段と寒さが増していた。空気がぱりぱりしている。 そんな寒さから逃れて純子が教室に入るなり、富井がぱたぱたと近寄ってき て、新年の挨拶をここでまた交わした。 「なーに、それ。不細工な手袋……」 続いて、富井がずばり言った。純子の手元をしげしげと見やる。 「純ちゃんにしては、服ともあまりマッチしてないみたいだしー。まさかお手 製とかだったりして」 「手製は当たり。でも、私が編んだんじゃないの。クリスマスプレゼントとし てもらったんだー」 問題の手袋を外し、椅子に収まりながら純子は答えた。 するとこの手の話に敏感な富井は案の定、にぎやかに反応を起こす。 「クリスマスプレゼントって? 誰、誰からもらったの?」 「冷静になってよ。もしかして郁江、男子からもらったんじゃないかって考え てない?」 「もっちろん」 「男の子で編み物をする人は、相当少ないと思うけれど」 「あ、そうか。そうよね。じゃあ、誰?」 「椎名恵ちゃん。かわいいよね、私なんかのためにわざわざ編んでくれて」 「はあ、何だぁ。期待して損しちゃった」 勢いをなくして、肩を落とす富井。膨らみつつあった風船が一気にしぼんで いくのを思わせた。 「それでさあ、前から気になってたんだけど、あの子、男の子にはほんっとー に興味ないのかしら?」 「そうでもなかったわよ」 にこっと応えるのと同じくして、純子は視界の片隅で教室に入ってくる相羽 の姿を捉えた。 「相羽君、おはよう」 純子の言葉に富井が振り向き、同じように「おはよう」と声を掛ける。 「おはよ」 短く言うと、相羽は眉間の辺りを指で揉む仕種をして、うつむき加減に自分 の席へ向かった。 この程度のやり取りを交わすのが普通なのかもしれない。しかし、純子には いつもと比べて物足りなく感じられた。 (もっと話をしてもいいのに) 視線の先で、相羽は早速、友達から宿題見せてくれと取り囲まれていた。 純子と富井が嘆息していると、不意に後ろから話しかけられた。 「イブのときはごめんなさいねえ」 「――白沼さん」 腕組みをする白沼は、歯を覗かせて笑っていた。日焼け跡あとのおかげで歯 の白さが際立つ。 「何のこと?」 「あら、決まってるじゃない。相羽君を引き留めちゃったことよ。私のつまら ない怪我に責任感じて、優しくしてくれてね。いいって言ったのに」 「はあ」 「早く謝りたかったのだけれど、あのあとすぐに旅行に出ることになっていた から。電話でするのも失礼と思ったし」 「そんなに気にしてたわけじゃないから。ねえ、郁江?」 「う、うん。最終的には来てくれたし、相羽君」 白沼の態度に警戒心を抱きつつ、純子と富井は応えた。 「じゃ、許してくれるのね。ああ、よかった」 最初から用意していたみたいに、淀みなく言った白沼。組んでいた腕を解き、 手を合わせて喜びを体現している。 「ところで、クリスマス会は楽しかったのかしら」 「えっと」 答に窮してしまう。白沼の質問の狙いが掴めない。正直なところを伝えると 不機嫌になるかもしれないし、嘘をつくほどのことでもないだろうし。 「プレゼントの交換やったんだけど、純ちゃんのが凄かったのよ」 富井が嬉々とした調子で始めた。深く考えず、素直に返事している様子だ。 一方、白沼は「ふうん」と気のない相槌。やはり聞きたいことは、相羽関係 のみに絞っているのだ。 ところが。 「音楽ディスクの『そして星に舞い降りる』をくれたんだけどぉ、何と、鷲宇 憲親のサイン入り。私、びっくりしちゃって」 富井のこの話に、白沼は敏感に反応を示した。 「鷲宇憲親て、あのミュージシャンの?」 「当然。他にいないよー」 「どうやって手に入れたのよ。彼、何年か前から滅多にサインしなくなったっ て、有名でしょうが」 丸くなった鉛筆の芯を電動鉛筆削り機で尖らせたみたく、白沼の表情が一瞬 にして険しくなった。 気配に圧力を覚えたのか、富井は純子に目をくれた。 「純ちゃーん」 一つうなずき、白沼へと顔を向ける純子。 だが、説明しようとして、はたと考え込む。 (クリスマス会のときは、相羽君のお母さんが『ハート』のコマーシャル製作 に携わっていた関係でお願いしたらうまくいったという風に話したけれど、こ れは郁江達みんながおばさまの仕事や私がモデルやってること知ってるから通 用するわけで……白沼さんには色々詳しく話さなくちゃいけなくなる) 黙っていると、白沼が棘のある口調で急かしてきた。 「何よ。私には言いたくないの?」 「ううん、そんなことない。あのね、白沼さん。相羽君に聞いてくれたら分か るわ」 そう返事してから、後悔の念がいくらか起きる。自己嫌悪を多少交えて。 (これって、ずるくない? 相羽君だって説明に困るかも) しかし言ってしまったものは取り戻せない。 白沼はすぐさま相羽に聞きに行くようなことはせず、純子に対して疑問を呈 した。 「どうして相羽君が知ってるわけ?」 「関係あるもの。しょうがないじゃない」 「あなたの口から聞けないのには、何か理由があるのかしら」 「そ、そんなことないけど。ただ、どうせ相羽君に確かめたくなると思うから、 それなら初めからあいつに聞いてもらった方がいい。うん、手間も省けるし」 後ろめたさがなくはない。故に、妙に饒舌になった。 「そう」 首を斜めにうなずく白沼。分かったという意志表示と小首を傾げたい気持ち とが入り混じった結果、こんな仕種になったのかもしれない。 「分かったわ」 最終的に白沼の口からこの言葉を聞けて、純子はほっと身体から力を抜いた。 その隙を衝いて、白沼が思い出したように付け加える。右の人差し指を立て て、純子達に向けてきた。 「もう一つ。私が頼んだら涼原さん、鷲宇憲親のサインを持って来られる?」 「……あはは。分かんないわ。聞いてみなくちゃ」 固まったような笑みで返しながら、相羽のいる方を指差した。 まだまだ不満そうな顔付きの白沼だったが、らちがあかないと見切って、相 羽へと近付いていった。 宿題を見せている彼はこちらには背を向け、後頭部に両手を組んで暇そうに していた。 学期始めの席替えで、純子は久しぶりに相羽のすぐ隣になった。教室のちょ うど中央辺り、教壇から見て相羽が右で、純子が左に位置する。 「ほら、見て。唐沢君の前が白沼さんだって。大丈夫かなあ?」 相羽の二の腕辺りを指でちょんちょんと突っついた純子。 ところが、声がなかなか返ってこなかったので、廊下寄りの一列目にある唐 沢らの席から、視線を戻した。 「相羽君、聞いてる?」 「聞いてる」 その割には愛想のない物言いをする相羽は、右手で頬杖をつき、窓の向こう でも眺めているようだ。他には、特に何をする風でもない。 「だったら、もう少し……」 「仲がよくないと言ったって、取っ組み合いの喧嘩をするわけじゃあるまいし。 心配するほどじゃないでしょ」 ようやく滑らかに喋り出したが、相変わらず顔を純子から背けたままである。 不審を抱かせるのに充分な態度だ。実を言うと、新学期が始まった当初からこ んな調子がずっと続いているのだから、なおさら。 「ちょっと。あなたねえ、おかしいわよ」 先ほどよりは強く、相手の腕を揺さぶる純子。相羽の頭がゆっくり揺れた。 「そんなことないよ。それより涼原さん。この時間はもう終わったんだから、 どこかに行かないの?」 言いながら、頬杖の格好を解いた相羽。やっと振り向いてくれるのかと思い きや、今度は腕枕を作って顔をうずめてしまった。目は左右とも閉じられたま まだったと見受けられる。 「変なの。ここは私の席ですよーだ」 「――ぐぅ」 いびきみたいな音が聞こえたが、どうもわざとらしい。 純子はふと思い当たって、聞いてみた。 「眠たいの? だったら大人しくしてる。はっきり言ってよね」 「そうじゃないんだ。疲れてるわけじゃなくて……とにかく、今はそっとしと いてほしい」 「何かあったのね?」 相羽の要望とは逆に、声量を上げた。次の瞬間にはまた下げる。 「――家のこと? おばさまが関係してる? それとも……道場で面白くない ことがあったとか」 「心配してくれるのはありがたいんだけど。そういうんでもないから」 相羽は右手を小さく持ち上げて、ひらひらと振った。 純子の心配する気持ちに、別の感情が加わった。 (何よ。いつも、どんどん話しかけてくるくせに。気に入らないことがあるん だったら、すぱっと言ってほしいわ) よほど口に出してやりたかったが、机に突っ伏している彼の姿に、今はやめ ておこうと考え直した。 「部活には来るんでしょう?」 「どうしようかな」 「来なさいよ。私も行くんだから」 「……うん」 曖昧な声音ながらも返事を聞き届け、純子は席を立った。 午前十一時過ぎ。早い放課後を迎えて、クラブ活動の時間。と言っても、調 理部を含めた多くの部は今学期の方針を始めとする連絡のみなので、すぐ終わ る。そして当然のように雑談へと移行。 「今度、お芝居観に行こうよー。カムリンの舞台初挑戦」 「ああ、何かCM流れてたね。私らと変わらない、あんな若さで舞台までやる んだ。題名は……」 「『ウェインベルク発22:00』よ。芙美ちゃん、覚えときなさい」 「そんな大層なことかいな」 富井の言い種に、口をへの字にする町田。 「だいたい、まだ先でしょ?」 「いいの。早い内に決めときたいじゃない。ねー、相羽君もどう?」 「ん?」 手帳に何か書き込んでいた相羽は、しかと聞いていなかったようだ。起き抜 けみたいにぼんやりした顔を起こす。 「何の話?」 「お芝居を観に行かないかって」 純子が説明すると、相羽は振り向くことなしに、ただうなずいた。 「内容によりけり。富井さん、詳しいみたいだね。教えてよ」 「ぜーったい、気に入るよー。列車を舞台にした殺人事件の話なんだから」 「へえ、ミステリーなんだ?」 興味を示して、詳しく聞こうとする姿勢になる相羽。そんな彼に、富井と井 口が代わりばんこに話していった。 (……私も少しなら知ってるのに) 相羽の背中を見つめながら、内心、ぷんぷんしている純子。知らない内に、 唇を尖らせてしまっていた。 (今朝から何なのよ。相手をしてくれないなんて、今までなかった……喧嘩し たとき以外は) その頃のことを思い起こす。 (いつもちゃんと理由があったわ。今日のこれも、相羽君が不機嫌になる原因 が何かある? 分かんないよ) 思い当たる節は全くなかった。学校が始まる前に相羽と会ったのは初詣のと きだが、その際に相羽は楽しそうにしていた。無論、純子とも極普通に言葉を 交わしている。 (初詣は関係ないみたい。それならば……電話。相羽君のお母さんから電話を もらって、色んな仕事の話をしたけれど、まさかあれが原因? おばさまから 話の内容を聞いて、怒っているとか……。でも、私、何か変なこと言ったかな あ。詳しく覚えてないわ。第一、今になってまた仕事のことで文句言われるな んて、おかしい。決着してたはず) もしあの電話がきっかけならとんだお門違いだわ――と、憤慨したくなる。 −−つづく
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