長編 #4750の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
大きなデコレーションケーキをみんなで片付けたのを始めとして、調理部ら しく全員で料理の一つや二つも(スパゲッティとクリスマスプディングだけど) 作ったり、罰ゲーム付きでトランプを楽しんだりと、時間的には短かったもの の、会は大いに盛り上がった。 そして町田の両親が帰宅する頃、お開きに。 「物騒だから、みんなを送ってやってよ」 挨拶をし終えてから、町田が相羽に言った。相手の顔をじっと見据え、どこ となく命令口調だ。 相羽の方も遅刻の負い目をまだ引きずっていると見え、至極簡単に首肯した。 「えっと、どういう順番がいいんだろ?」 「そんな、悪いわ」 純子がそう言ったのを覆い隠す勢いで井口と富井が反応した。 「やった!」 「どうしたらいいのかなあ。一番近いのは私だけれど」 町田の家から最も近いのは富井。それだけ早く『送られてしまう』のが惜し いといったところか。 「相羽君の家に近いのは誰のとこよ? それを最後にすれば?」 町田が他人事のように捲し立てた。手は取り散らかったテーブルの上をこま めに片付けている。口と手、どちらも働き者だ。 「うーん、私と純子、同じぐらいじゃない?」 井口が首を傾げて、純子の意向を伺う風に見やってきた。 「そうよね。学校に近いのは久仁香の方だけど」 純子は相羽の様子を気にしながらも、そう答えておいた。 そこへ、手をはたきながら町田が口を挟む。 「じゃ、郁の家からはどっちが近いんだっけ」 「多分、私」 と、片手を肩の高さに上げる井口。町田はよしよしと二度うなずいた。 「これで決まりね。最短距離はうちを出て、最初に郁、それから久仁、最後に 純となるわけよ」 示された結論に、純子は眉を寄せた。 (何だか相羽君に悪い……みんなにも) ちょっぴり残念そうなのは、富井も井口もほぼ同等か。 そして相羽は……すでに背中を向けて玄関に向かっていたので、純子達から はその表情がよく見えなかった。 ともかく、オレンジ色に墨を溶かしたみたいな空の下、町田宅を出た四人は ゆっくりと進んだ。相羽が自転車を押しているせいもあるが、何よりもお喋り に力が入っているからだ。 「雪、今年は結局積もらなかったね。ざーんねん」 富井が空を見上げ、全身を大きく伸ばした。相羽を挟んで富井のちょうど反 対側にいる井口が、にやにやしながら指摘する。 「寒いの、苦手なくせに」 「雪はいいのっ。ロマンティックな雰囲気、いいじゃないのー」 「それぐらい分かるわよ。郁江は家の窓から眺めて喜んでいるタイプ」 二人のやり取りに、相羽は頬をほころばせているようだ。 純子も同様だが、相羽の微笑とは少し意味合いが違う。 (郁江も久仁香も牽制し合っちゃってるのかな。それとも嬉しくて、はしゃい じゃって、相羽君に話し掛けられないでいる?) 富井の家が迫ってくると、さすがに井口も遠慮したのか口数が減り、穴埋め みたいに純子に話し掛けてくる。自然、相羽と富井が会話する格好となる。こ の辺り、共同戦線はきちんと守られているらしい。 「郁江ったら、しあわせそーだね」 純子は井口に、くだけた口調でささやいてみた。 仕方なさげにうなずき、井口は手を拝み合わせる。 「このあとは、私の番だから。純子、察してね」 「もちろん、分かってますって」 指でOKのサインを作って応えた。 富井にしても井口にしても、別れ際は名残惜しさとそれまでの楽しさとが相 半ばして、せめぎ合っているように見えた。締め括りの言葉はともに「メリー クリスマス」、それに「よいお年を」だった。 そして相羽と純子の二人きりになった今、にぎやかな雰囲気が去って、お互 い言葉少なになった。心なしか、冷え込んできたように感じる。 「プレゼントのときは参った」 いきなり相羽が喋り出した。純子は聞き逃すまいと耳当てをずらす。聞こえ 方に大差はないが、気持ちの問題。 「突然、あんなこと話し出すなんて。全部打ち明けるのかと焦ったな」 「別にあなたが焦らなくても」 くすくす笑って、純子は耳当てをうなじに掛けた。 「でも、ごめんね。話を合わせてくれてよかった」 「まあね……母さんも市川のおばさんも望んでるしさ」 「おかげで私、デビューしたんだっていう実感が全然ないわ」 「全然てことはないでしょ」 「ん、そりゃあちょっとはね」 純子が指先に息を吹きかけると、相羽が心配げな口調で聞いてきた。 「寒くない?」 「うん。平気」 微笑みとともに答えたが、すっかり暗くなっていたから相手の目にちゃんと 映ったかどうか、定かでない。 「急ぐんだったら、自転車の後ろに乗るという手もあるけど」 「ううん、いい。あなたこそ、急ぎたいんじゃない? 私なんか放って、行っ ちゃっていいんだからね」 「命令されたって、そんなことしないよ。急ぐ用事もないし」 「お家でお母さんが待ってるんじゃ……」 「はあっ。それが、また仕事でいないんだ。困ったもんだ、ははは」 相羽の笑い声はすぐにやんだ。 「……純子ちゃん?」 うつむく純子に、相羽は上半身を傾け、覗き込む風にした。 純子は面をゆるゆると左に向け、相羽を見つめた。 「今夜、一人ぼっちなの?」 「まさか。母さん、ちゃんと帰って来るよ。九時頃には」 「それまでは一人なのね……」 不用意な一言を後悔して、純子は涙ぐみそうになっていた。鼻をすすってこ らえる。 「あれ? やだな、悲しい顔しないでよ」 相羽の明るい調子の声が聞かれた。 「ごめん。こんなつもりじゃなかったのに。同情ひいてるみたいな言い方にな っちゃったか」 「……」 「慣れてるから気にしないで。母さんはきちんとしてくれてる。たまには子供 が我慢しないと、罰が当たるよね」 「どうして言わないのよ」 立ち止まり、相羽の方を向いて、胸の高さまで持ち上げた両手に力を込める 純子。 「え? 何を」 相羽は驚いたように口を丸くしていた。わずかに行きすぎてから自転車のブ レーキを掛けると、まだ少し滑った。 二歩、スキップして並ぶ純子。 「今夜一人になるって知ってたら、私達、ずっと一緒にいてあげた」 「……そりゃどうも」 「私、本気よっ。大きなケーキを食べてもらっても、これじゃあ意味がないじ ゃない! 私達じゃ不足でしょうけど、でも一人よりはずっと楽しいはず」 「――ありがとう。でも、僕自身のことで、みんなに迷惑かけられるもんか」 「迷惑じゃないよぉ」 首を左右に激しく振った純子。それはいやいやをするさまにも似て、声はく ぐもっている。前に掛かった髪を乱暴にかき上げた。 まだ垂れ残る髪に、相羽の指先が伸び、そっと戻しにかかる。 「だから、そんな顔しないでくれ。頼むからさ」 「あ、あなたが悪いんじゃないの。今日ぐらい、素直になって」 「……それじゃ、素直になったとして……これから君の家にお邪魔してもいい かい?」 「え」 「一人で留守番するのは淋しいので」 暗がりに慣れるようにと凝視すると、相羽の表情が浮かんできた。まただ、 また冗談を言ってるんだ。 冗談だったら、こちらも笑顔で断ればいい。 でも、たとえそんなことでも純子は先ほどの自分の発言を否定するような真 似はしたくなかった。ついでに付け加えるなら、言い負かされた風になるのも 癪だ。 「来てよ。いいわよ」 挑むような口調で、思い切る純子。相羽は口元から笑みを消し、いつものぼ んやり目つきになった。内心の慌てぶりを隠しているのかもしれない。 「……まじ? こんな時間にいきなり訪ねるなんて、親が許さないだろ、普通」 「あなたのところとは普通以上のつながりがあるんじゃない? おばさまのお かげで色々な体験させてもらった。そのお礼にもならないけど、招待したい。 ご飯、一緒に食べよ? うちのお父さんやお母さんも絶対に反対しないって」 勢いに任せて純子は宣言し、胸を張った。初めのくさくさした感情は薄まり、 浮き立つように楽しくなってきている。どんどん弱り顔になる相羽を見るのが 楽しいのか、それとも他の理由からかは分からない。 「母さんに連絡しとかないと」 「すればいいじゃない。おばさま、携帯電話を持ってるんでしょ?」 「確かに。しかし……」 「嫌なの? 遠慮してるの?」 純子の確認に対して、相羽は即座に首を水平方向に振った。 「そんなことない。たださ……嬉しくて、泣いてしまいそうなのが恐い」 言い終わり、純子から顔を背ける相羽。そのまま黙って歩き始めた。自転車 のペダルが外灯の光を反射する。 一瞬遅れて純子もあとを追う。程なく横に並んだ。 「泣いたっていいじゃない。笑わないよ、私。こんなことで喜んでもらえたら、 いつだって」 「ありがとう。でも」 「まだそんなこと言う? こっちも早く連絡して一人分多めに作ってって頼ま なきゃいけないのよっ。さあ、サンタからのプレゼントだと思って、素直に受 け取って。ほら」 右横からするりと前に走り出た純子は一八〇度向きを換え、とうせんぼする ように両腕を広げた。 ブレーキが短く声を上げる。 「分かった。ありがとう」 相羽はすっきりした物腰で、三度目の「ありがとう」を口にした。 「これまでで最高のクリスマスプレゼントだ」 −−『そばにいるだけで 31」おわり
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