長編 #4736の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「……はあ?」 間の抜けた応答しかできなかった。 しかし、およそ三分後に、少年の言の正しさが立証された。 「どういう理由から、ここだと思ったのだね?」 礼を述べ、小箱を今度は手でしっかりと持ったまま、少年に問うてみた。 「場所を具体的に言ったわけじゃないですよ。飛行機の音を聞いた場所じゃな いかと……」 「では、どうして、飛行機の音を聞いた場所が怪しいと考えたんだ? 教えて くれないか」 寒く闇が続く中を、今度は三人で進む。自分自身は、どこへ向かっているの か分からなくなっていた。 「あなたがこちらの……涼原さんと出会ったあと、ポケットから初めて手を抜 いたのは飛行機の音を聞いた直前でした。ただそれだけです」 「ふむ、なるほど。あのときは周囲が騒がしくなっていたし、落としたのに気 付かなくても無理ないか」 呆気ないほど単純明快な答に、ふつふつと楽しくなった。酔っていなければ、 自分でもこれぐらいは推測できただろうか。ううむ、自信はない。闇雲に探し てとにかく発見することはできても、こんなスマートにはとても行くまい。 「では、僕らはもう行かなくちゃならないので、失礼します」 「ああ、待った」 相羽と涼原の二人が手を取り合って行こうとするのを呼び止めた。無粋だと は思うが、そうせずにはおられない。 「これをその子にあげる約束をしたんだ。受け取ってほしい」 箱を渡そうとすると、戸惑ったように瞬きを忙しなくする少女。少年は「そ うなの?」という問い掛けの目線を向けている。 涼原は首を横に振った。 「約束だなんて、そんな」 「そうかもしれないが、一緒になって懸命に探してくれた君と、君の彼氏の気 持ちに感激したのだよ。さあ」 「いただけません」 「正直なところ、私も嫌な記憶はさっさと忘れ去りたいのでねえ。捨てるのも もったいないし、販売店や職人さんに気が引ける。悪いが、もらってくれない か。似合うこと間違いなしだ」 「……相羽君、どうすればいいの」 困り果てた風に眉を寄せる少女。別に、困らせるつもりはない。喜ぶ顔が見 たくてやっていることなのに。と言って、男が一度あげると約束したものを、 今さら引っ込めるわけにもいかない。 相羽という少年は軽く息をつき、苦笑めいたものを表情に浮かべた。 「悪いのですが、その箱の中身がさっきお聞きした通りの物ならば、遠慮して ください」 「む? 不満かね?」 「いえいえ。それは僕が言うことじゃありませんしね。僕が言いたいのは―― 涼原さんに約束しているんです。将来、僕がハートのペンダントをプレゼント すると」 「――はっはっは! なるほど、同じ物ではまずいな」 こんなに愉快になったのは、しばらくぶりである。ここ数年、大笑いしたこ となぞ、皆無だった。 少年は嘘をついたのだ。その証拠に、少女も目を白黒させているじゃないか。 間違いない。 しかし、いい嘘だ。騙されてやることにしよう。 「分かった。これは引っ込めよう。自分のことは自分で処理するとしよう」 「すみません。お詫びとして、逆に、僕らからささやかな贈り物をさせてくだ さい」 「ほう?」 こいつはますます愉快な成り行きだ。最悪のクリスマスになるはずが、日付 が切り替わった途端、近年にない楽しさを運んできている。夢のようだ。 「嬉しいねえ」 「ただし、歩いていただくことになるんですが、いいですか。ここじゃ、本当 にささやかになってしまいますから」 「うーん、少々厳しいかな。どの程度の時間、歩くんだろう?」 前へと延びる道は、緩やかなカーブを描いていた。 「時間で言うなら十分足らず。そこから先は車で」 「車? 誰が運転するのだね。それに、どこへ行こうと?」 「あそこです」 相羽は、こちらの質問の片方に身振りで答えた。 彼が伸ばした腕は、夜空にうっすらと曲線を滲ませる山へ向いていた。 「あのてっぺんに」 頂上に立つと、本当に天が近くなったような気がした。冬という季節も幸い して、星がよく見える。 「もう始まっているかもしれないな。とにかく、僕らからの……いや、空から の贈り物です」 相羽は手の平を開き、その腕を斜め上にさっと掲げた。 夜空に何の変化もなかった。だが、五秒ほど経過した頃、絶妙のタイミング でそれは現れた。 「おう!?」 流れ星だった。短い光の軌跡を描き、何ごともなかったかのように消える。 「これは」 少年達へ話しかけようとした矢先、また一つ流れ星。そして今度は間を置か ずに三つ目が夜空を走った。 「素晴らしい……」 「流星群て、ご存知ですか? 流星雨とも言うんですけれど」 涼原が空を見つめたまま言った。 彼女の声に顔を向けた自分だったが、慌てて星空へ目を戻す。ただ、そのほ んの一瞬に見えた涼原の表情が、まぶしく感じられた。 「私も多少は知っているが、今頃飛ぶ流星群なんて、あったのか……」 「こぐま座流星群です」 「北極星の方から飛んで来るわけだ?」 「ええ。今年は出現日がクリスマスに重なって、とても楽しみにしていたんで すが――期待以上!」 少女が歓声を上げた。これまでよりも明るく大きな流星が、尾を引いて黒い キャンバスを駆け抜けていく。 それからも、ぽつりぽつりと雨垂れ式ではあったが、流れ星は出現を続けた。 速度は緩やかで、願い事を三度唱えることも可能であるような気分にさせてく れる。 「降るようにとはいかないが、なかなか風情があるね。いや、いい物を見せて もらった。星空を眺めること自体、久々だ」 そう話しながら、自らは思い出に耽っていた。昔……ずっと貧しく、社会的 にも不安定で弱かった頃を思い出していた。 あれは恋人と呼べる初めての女性が相手だったか。 年下の彼女の誕生日は夏だった。プレゼントしたくても、金銭的余裕が全く なかった。 ない知恵を絞り、何か気の利いたことができないかと調べていく内に、彼女 の誕生日が流星雨――やぎ座流星群だったと記憶している――の極大日に重な っていると気付いた。 当日の夜、彼女に無理を言って、学校まで来てもらった。そうして二人きり で、校舎の屋上に立ち、空を見上げた。気象条件が見方をしてくれたおかげも あって、流れ星をいくつも確認できた。彼女は大喜びしてくれたものだ。 夏の夜、風が気持ちよかったのを、おぼろげに覚えている。思い込みかもし れない。 「物や金だけじゃないんだよな」 思わずつぶやいていた。 ムードを台無しにすることを口走ってしまい、二人にすまないと思った。口 を押さえながら彼らの様子を窺うと……仲睦まじく、天体ショーを満喫してい た。無理に恋愛をして気分を盛り上げようというのではなく、あくまで自然体 だ。見ているこちらが気恥ずかしくなるほど、健康的だ。 お幸せに。苦笑をこらえつつ、疲労感を覚え、大きく伸びをした。腰が、背 中が、小さな悲鳴を上げている。つい、声を漏らしてしまった。 「うう」 「――お身体、大丈夫ですか」 相羽と涼原の声がデュエットで心配してくれた。こんなささいなことにまで。 「すみません。僕が無理を言って、歩かせたせいでは?」 「冷え込んできているし……」 天体観測を中断した二人に対し、首を振って応じる。 「いやいや、関係ない。この年齢になると、何もしてなくても身体が勝手にく たびれてくるんだよ」 「そうですか……。とにかく身体に障らないよう休みましょう。車に戻って。 そうだ、魔法瓶。涼原さんが入れた温かい飲み物がある。飲めば、身体に力が 湧いてくるんですが、どうです?」 相羽の勧めに、即座に首肯した。 「飲んで元気になるとしよう」 そして車へと向かう途中、心に思う。 まだまだ。七十を過ぎても、まだまだ面白い世の中だ。 だから、こんな私が流れ星に「長生き」を願っても、笑ってかなえてもらえ るかもしれない。 ――おわり 註.こぐま座流星群の極大日、本当は十二月二十二日頃です。 ※以下α。読後感が変わる可能性大ですので、読まれる方は心の準備をどうぞ。 作者自身の感想は、「なかったことにした方がいいかな」です。(^^;) あれやこれやと世話になった上に、家まで送るという申し出にも甘えた。だ が、少し散歩したい欲求が起こり、家の近くで下ろしてもらった。それから礼 の言葉を盛んに交換して、二人と別れた。 気持ちがよかった。空気は寒くとも、暖かい気分に浸れる。 ぶらりぶらり、小径を行く。残念ながら流星群はもう閉店の時間帯だったが、 しきりと上を見て、探してしまう。 「とうとう見つけた。僕は運がいいようだ。灯台下暗し、探しましたよ」 不意の声に振り返った。探されていたのは、星だけではなかった。自分自身 も探されていたのだ。 相手の顔を見て、その名をつぶやく。 「地天馬さん。その……すまなかった。迷惑をかけたようだ。いや、これから もかけるだろう」 「おっと、その前にほんの少しだが、安心させて差し上げますよ。雉牟田奈江 は死んでいない。助かった」 「……そうだったのかい……」 複雑な心境だった。 しかし、喜ぶべきなのだろう。自分は人殺しにならずにすんだ。自分が惚れ た女も助かった。 「それに、彼女自身、あなたの身を心配していた。自殺でもするんじゃないか とね」 「……何という……。ひどい目に遭わした私を……心配していたのか」 意志に反して、嗚咽が溢れてきた。こんな、おいおいと泣くのも大変に久し ぶりであった。 どのぐらいの時間、感情を高ぶらせていたのか分からない。 どうにか落ち着けたところで、相手に聞いてみた。 「いきなりあんな電話をもらって、さしもの地天馬さんも度肝を抜かれたので はないかな?」 あなたが私を拘束できたら自首するという意味のことを、数時間前に伝えた のだった。うむ、夢でも見ているようだ。酒は抜けたのに。 「ご期待に添えなくて申し訳ない。答は、いいえ。突然、人を殺してしまった という電話を受けるのは、これで三度目でした。かつての依頼者からのケース は、あなたが初めてでしたけどね」 にこりともせず、だが、どこか優しい口調で探偵は言った。 「推理して、私の居所が分かったのだろうか?」 「推理と試行錯誤は、途中までしか通用しなかったな。最終的には運がよかっ ただけのこと。自宅近くで張っていたら、これだもの。参りましたね」 地天馬探偵は、悔しそうに言った。 「あなたの性格や、起こったことに対する心理変化を見越して、考えを組み立 てた結果……突発的に人を殴り倒してしまい、一時的には逆上したかもしれな いが、電話を入れてくるぐらいだから、あの時点では落ち着いていたと見るべ きだ。わざわざ挑戦的な発言をしたからには、逃げ隠れするにも知恵を使うだ ろう。そうなると最も有力な行動は、全く見知らぬ場所、それもにぎやかな人 混みの中へ埋没するかのごとく逃げ込む、これだ。あとは、あなたの所持金が いくらなのか、おおよそ見当がついていたし、逃亡に際して新たに罪を重ねる タイプでもないと信じて、盛り場を虱潰しに当たったわけです。 そして実際に、あなたの足取りを掴みましたが、僕はひと足もふた足も遅か ったようですね。『リ・サイクロン』を出たあと、どこをどう巡っていたんで すか。今後の探偵業のためにも、教えていただきたいものだ」 地天馬はようやく笑みを見せた。 「もちろん、話す」 どことなく、ほっとした心地になりながらうなずいた。 「信じてもらえるか不安だが、まあいい。とても清々しくなれる子供達に会っ ていたんだよ、地天馬さん。まず、二人の名前はね……」 ――終
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