長編 #4733の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
テーブル上に突っ伏した形で眠ってしまったマリアに、駿の手で毛布が掛けら れた。それより先に二人の子どもたちは、悠歩も手伝っていま布団の中で夢を見 ている。 「あんまり、こども向きの話じゃなかったかな」 三本目になる煙草をもみ消しながら、悠歩は言った。 「かも知れませんね」 答える駿の指は、マリアの目からこぼれた涙を拭っていた。 「けどな、クリスマスを楽しい気分で過ごす人間なんて、本当はそう多くいない かも知れないんだよ。それを肝に銘じろ、なんて大仰なことは言わないが、記憶 の角にでも留めて欲しくて、な」 煙草の火が完全に消えたのを確認すると、悠歩は重くなってしまった腰を上げ る。 「お帰りですか、悠歩さん?」 「ああ」 「けれどもうこんな時間ですよ。泊まっていって下さいよ」 「有り難いが、五人が寝るには窮屈だろう。この部屋は。水入らずを邪魔する野 暮でもないしな」 「いや、でも」 「バイトもまだ終わってないんだよ。俺も働かないと、食って行けないから」 引き止める駿へ、悠歩は笑ってみせる。それから自分の荷物の中を手探り、包 みを三つテーブルへ置く。 「これは良太、こっちが美璃佳か………これはマリアだな。駿、お前の分はない ぞ」 「分かってますって。でも、すいません、こいつらにまでプレゼントを頂いて」 「気にすることはないさ。これが俺の仕事なんだ………しかしこの制服は、どう にも目立っていかんな」 赤いコートを身に纏う悠歩は、心底憂鬱であった。 「思い出しましたよ、悠歩さん。デニス・ラングレイって画家がいたのを」 「スラムから消えたデニスとマリィが、どこでどうしていたかは俺も知らん。そ の国に民主議会が誕生したのは翌年の六月だけどな。とにかく、それから五年後 だ。とあるサロンで発表された『柔らかき木漏れ日の中愛する者たちの肖像』と 題された絵が話題になった。それが十八歳になった、デニスの作品だ」 「えっと、確か三人の女性とを描いた絵じゃありませんか?」 「そうだ。絵のモデルは彼の妻と双子の娘………後に男の子にも恵まれたそうだ が」 「妻って、もしかして」 「マリィ………マリィ・レイコード、いやもう当時はマリィ・ラングレイとなっ ていたけどな」 ぶかぶかの赤い帽子を被りながら、悠歩は笑う。 「何か少し、救われた気がしますね」 「それからデニスは、画家として認められた。家族やこどもの姿を好んで描く画 家として。いまではかの国で、ラインバルト・デトリックと並び称されているよ」 悠歩は荷物を担ぎ上げようとして、ふと思いとどまり、その中から何かを取り 出した。 「こいつは、俺の宝物でな。滅多に人には見せないんだが………駿、特別に見せ てやる」 悠歩が手にしていたのは、粗末な額に収められた一枚の水彩画だった。額の粗 末さに対し、中の絵も無数のしわが寄り傷みが激しい。けれど描かれたものは、 見る駿の心を惹きつける。 一人の少女と、その膝に乗った小さな女の子の肖像。 「この絵って、もしかして………」 駿の質問に、悠歩は言葉を返さず、ただ、にいっと笑うだけだった。 「さてそろそろ行かないと、駐車違反でレッカー移動でもされてたら大事だ…… …けど、そりの駐車違反なんてあるのかな」 腕時計を見遣った悠歩は、急ぎ足でドアへ向かった。が、その途中で足を止め る。 「そうそう、救いになるかどうか知らないが、こんな話もある。デニスの二人の 娘な、ヨーロッパ中で活躍する歌姫になったんだがな」 「はい?」 「その名前が、ルウとレナって言うんだ」 駿は少しだけ安心したように微笑んだが、悠歩はそれを見ていなかった。最後 の台詞を言った後、すぐにドアを出てしまったからだ。 物語の中と同じように、その日、その街のクリスマスは白い雪にて演出された。 ロマンチックな気分に浸る者たちは、それもまたクリスマスを盛り上げる誰か の演出と思っただろう。街に響いた鈴の音を。 翌朝、目を覚ました子どもたちの多くは、枕元のプレゼントに喜んだ。両親と 言う名のサンタクロースのプレゼントに。 ただその一部が本物の、いや本物に雇われたサンタクロースが配ったものと知 る人は少ない。それ以前に雇われサンタクロースが、きちんと仕事をしたかどう かも怪しい話であるのだが………
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