空中分解2 #3064の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
喫煙所に行くと、ちょうど、宮本さんが、一服を終わった所だった。宮本さんは、 瓜実顔で色が白くてソバカスがあって、統一教会の山崎浩子と荻野目洋子を足して 二で割った様な感じだ。前々から憎からず思っていたし、俺と同じパスカル人材セ ンターから派遣されているので、気が合うのだ。花田さんも好きだが、宮本さんも 好きだ。あれかこれか迷っていて、何時までも結婚しない『結婚しないかもしれな い症候群』、或いは、琴錦、だ。 「もういっちゃうの?」と俺は甘ったれた声を出した。 「だって、武、うるさいもの」と言いつつも、椅子を立つ気配はない。 「今、平気だよ」と言って、俺はつまらなそうに煙を吐いた。 「元気、ないみたい、って言ってもらいたいみたい」と宮本さんは俺の顔を覗き込 んだ。 「完全に落ち込んだ」 「ボーナスの事でしょう」 俺は、思い詰めた様にタバコの火種を見つめて、我慢も限界だ、という感じが熟成 した頃に「俺達さあ」と言うと、足を組み替えて、彼女の方を向いた。「こんな事 していても、どうにもならない様な気がする」 「こんな事って?」 「派遣社員なんて何の保証もないし」と言うと、俺は再び、つまらなそうな顔をす る。 宮本さんは、タバコの入っている巾着を、空中に投げては、キャッチしている。俺 の為に、慰め言葉を探しているのだ。 「人間なんてさ」と宮本さんが言った。「生物だよ」 「ナマモノ?」 「保証なんてないって事。正社員だって、病気になれば終わりよ」 俺は、健康保険も国民健康保険だから三割負担だし、厚生年金にも雇用保険にも入 っていない事を思い出して、ますます不安になった。 「胃のすみっこに、癌の一センチも出来たら、おんなじだよ」と宮本さんが言った。 そんな事になったら健康保険もへったくれもないなあ、とは思う、が、しかし。 「しかし、そこまで考えないと駄目?」と俺。 「でも、そうでしょ?」 「言われてみれば、そうかも知れない」 「先の事なんて、考えたってしょうがないよ。人生サンライズサンセットだし、明 日は明日の風が吹くし、人間万事さいおうが丙午だし、レットイットビーだよ」 ポップコーンの機械か?前々から用意してあった台詞に違いない。俺は、宮本さん を見た。 「ケセラセラだよ」と宮本さん。 ケセラセラとは何の事だか解らなかったが、敢えて説明を求めない。 「少しは気楽になった?」と言って、宮本さんは俺の肩を、とんとん、と叩いた。 「うん」と俺はうなずいた。 実際、俺は、ずっと気楽になった感じがしたのだ。 どうも俺は先の事ばかりを心配して、不安に陥る事が多い。これは、親父が工場を 経営していてい、年がら年中、資金繰りに追われているせいもあるかも知れないの だが、しかし、先行き不安感は、経済の事だけではなくて、ついこの前には、抜け 毛の事が異常に気になって、その時には、ペンタデカンが発売中止になると聞いて 、あれが無くなったら絶対に困る、と、非常に不安になって、市内の薬屋から化粧 品屋からディスカウントショップから、二十本以上のペンタデカンを買い占めたの だ。それだけでも十分に異常だと自分でも解っているのだが、更に異常な事には、 毛生え薬を頭皮に十分に浸透させる為に、俺は五歩刈りにしてしまったのだ。その 時にも、宮本さんが、助けてくれた。 「そんなのおかしいよ、そうやって、一生五歩刈りにしているのだったら、今、禿 げているのと同じじゃない。先の事なんて考えて今を台無しにするなんて馬鹿だよ 。『今に生きる』だよ」 宮本さんは、『今に生きる』を、俺がプレゼントしたタダ券で観たのだ。風呂屋を やっている小林から、俺の所に、大量のタダ券が回ってくる。そんな事はどうでも いいのだが、とにかく、それ以来、ずっと気楽になって、抜け毛も減ったのだった。 俺は、感謝の気持ちで一杯で、宮本さんの方を見やった。宮本さんは、うつむいて 、巾着みたいな、タバコ入れの紐を、指に巻き付けて遊んでいる。 彼女みたいに励ましてくれる人とずっと一緒にい(ら)れたら、おきらくごくらく なのになあ。彼女が独身だったら、こんな人と結婚したら楽しだろうなあ。だけれ ども、いい人は、みんなさっさと結婚してしまうのだ。彼女には、もう旦那さんが いるのだ・・・・と思った所で、気が付いた。 宮本は、家に帰れば、旦那さんがいて、旦那さんは、大手の電気会社のエンジニア だと言っていた。宮本は、生活が不規則にならない為だけに働いているだけだ、と 言っていた。俺と宮本とは立場が違う。宮本は、ちゃんと、人生の青写真を持って いるのだ。 思い出してみれば、俺が抜け毛を気にしている時だって、そうだった。宮本は、俺 を慰める振りをして、「私の友達でも、みんなシャワーなんて浴びた後には、髪の 毛がぺったんこになって、ドライヤーで誤魔化しているよ」などと言って、俺も、 よせばいいのに、ついつい受けよう根性が出てしまって、「へえー、そんなに沢山 の人の裸を知っているの」などと言ってしまったおかげで、一週間も口をきいてく れなかったのだ。 別に、股を開かない限り心も開いた事にはならない、なんて思わないけれども、旦 那さんとはセッスクもする癖に、俺とだったら、『女性セブン』レベルの会話もし てくれないのだ。 糞!綺麗な瓜実顔も、憎憎しく感じられる。俺に見られている事を知っている癖に 、横顔に自信があるので、平気なのだ。そんなソバカスはみんな皮膚癌になってし まえばいいのだ、と思ったが、呪わば穴二つなので、頭の中で、取り消した。 この女、今夜、旦那さんと二人で、俺の悩みを肴に、酒を飲むんじゃないのか?そ れとも、俺の事なんて、話題にもならないで、旦那さんのボーナスの使い道を考え るのか? とにかく、危うく騙される所だった。この女も演技をしていたのだ。どいつもこい つも演技をしてる。俺以外の残りの人類は俳優だ!
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