空中分解2 #3040の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
アイリーン。聞いているか。お前に捧げる鎮魂歌を。 お前に初めて出会ったときのことは、今でもおれの心の中で鮮明な輝きを放つ記憶 だ。キャンパスの2年上級だったお前は、まるでシバの女王のように、無数の男に囲 まれていた。その透き通るような青い瞳は、どんな空も海もかなわないほど、きらめ いていた。 誰が気付いただろう。お前が男どもに投げかける微笑が、実は巧妙に隠された嘲笑 であることを。お前の優しい声が、蔑みを含んでいることを。時折、触れる白い指が 峻烈な拒絶をこめていることを。 そんなお前が、貧しい家庭の出身で、奨学金と借金で法律を学ぶ一人の学生に興味 を示したのは、きっと気まぐれ以上のなにものでもなかったに違いない。だが、若か った、あの頃のおれには人生で最初で最後の激しい恋だと、哀れにも思いこむだけの 純真さがあったんだ。 お前はあの頃を憶えているか?自由にできる金などほとんどないにもかかわらず、 お前に高価なプレゼントを送ったおれのことを。友人を拝み倒して、やっと借りたジ ャガーにお前を乗せて、夕陽の沈む海岸沿いを走ったときのことを。 おれは心の底からお前を愛した。お前もおれを愛してくれたのだと思った。 だが、ある日お前は言った。あたしはあんたを愛していないわ、と。 おれは泣いた。泣きながらお前に訊いた。誰か愛する人間がいるのか? お前はおれを魅了したあの微笑みを浮かべながら、おれを見た。その瞳はおれを突 き抜けて、空に向けられていた。 あの時の空はとても綺麗だった。 今は誰も愛していないわ。お前はスフィンクスのように誇らしげな表情を浮かべて 言い放った。いつか、きっと真にあたしにふさわしい誰かが現れるわ。 どんな人間がふさわしいかって?そうね、あたしのためなら何でもしてくれる人ね。 おれはお前のためなら何でもする!約束する! あんたに何ができるのよ。むしろ優しさすらこめてお前はおれを突き刺した。安物 のネックレスや、借り物のスポーツカーであたしを手に入れようと思ったの? あたしにはふさわしいのわね、あたしが望めば青空を一瞬に真っ赤にしてくれるよ うな、そんな人なのよ。 身のほどをわきまえなさいね。 絶望に全身を打ち砕かれて、おれはお前の前から消えた。お前を憎もうと思った。 だが、それはできなかった。それでもなお、おれはお前を愛していた。お前を手に入 れたかった。 おれは法律を必死で勉強した。カレッジを首席で卒業した。上院議員に立候補し、 ついにこの国の最高権力者の椅子を手にいれた。 全てお前のためだ。 お前の望みをかなえるためだ。 1分前に、おれはこの日のために慎重に計画し、極秘で設置したスイッチを入れた。 もはや誰にも止める事はできない。 冷戦終結と軍備削減のためにその数を減じたというものの、おれが発射した核ミサ イルは、この国を軽く10回はフライにできるほどの量が残っている。いや、残って いた。 アイリーン。キャンパスで別れて以来会っていないが、お前のことは全て調査させ てある。今どこに住んでいるのかもね。最初のミサイルはうまくいけば、お前の住む アパートを中心に半径30キロの円を描くように着弾するはずだ。 その瞬間、空は深紅に染め上がるだろう。 ドアを叩く音がする。執務室のドアは今にも破られそうだ。恐らくおれは射殺され るだろう。よかろう。悔いはない。 ただ、お前に面と向かって、こう言ってやれないのが残念だ。 どうだ!青空を真っ赤にしてみせたぞ! 1992.4.2
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