空中分解2 #3039の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
第26章 『旅立ち』 人が、大勢死ぬはずだった。だが、不思議なことに、胸の痛みがなかった。それ どころか、何かの呪縛から、解き放たれたような解放感があった。私は、運命に従 い、自分に与えられた使命を果たした。人類を、救済不可能といわれていた矛盾に 満ちた苦悩から、救ったのだ。それに、私も、いままで、自分が闘っていたものに、 とうとう、勝った。勝ったのだ。そのうえ、過去に打ち破れなかった呪縛から、人 類を救ったのだ。なんという、輝かしい栄光であろうか? 誰にも知られなくても いいが、私は嬉しかった。私は、大佐の邪悪な野望から生み出された計画を打ち砕 き、人類を正しい方向に引き戻したのだ。これで、人類の不要な部分は切り捨てら れ、生き残った人々が、新しい人類の歴史をつくるのだろう。 私は、EVEの顔をのぞき込んだ。EVEの顔は、相変わらず、真っ白だった。 だが、DOGによれば、EVEは快方に向かっているらしい。DOGが、思いもよ らない朗報をもたらした。 『イー・ブイ・イー ハ ニンシン シテイマス』 私は喜んだ。『俺の子か』 だが、DOGが、余計な水を差した。 『マダ チチオヤ ハ フメイ』 私は、DOGを蹴飛ばして、倒した。 私は、コクピットに行き、宇宙に旅立つ準備を始めた。もう、ここにいる必要も、 いるつもりもなかった。人のほとんどいない空間に、目的地を決め、あと何分かで、 オート・パイロットで発進するようにしてから、私は、EVEの元に戻った。 EVEは、うっすらと、目覚めていた。そして、私を横目で見ながら、たどたど しい言葉で、話しかけた。 『エー・ディー・エー・エムは、もう、死んでしまったの?』 『ああ、そうだ』 と、私は答えた。私が、ADAMの処刑のボタンを押したとは、とてもじゃない が、言えそうもなかった。 『かわいそう』 EVEは泣きそうな顔をした。 『死んだ人間は、もう、還ってこない。過ぎ去った過去は、もう、取り戻せない。 私が、それを乗り越えたように、EVEも、それを乗り越えるんだ』 『わかった。でも、つらい』 EVEの目は、小さな子供が流すような、涙をこぼした。 『これから、また、宇宙に旅立つんだ。私の役目は、もう終わった。もう、ここに は、二度と、還ってこない』 『もう、還らないの?』と、EVEは、私に聞いた。 『もう、還らない。いままで、出会った奴で、まともな奴は、ただの一人もいなかっ た。みんな、他人に、どんなひどいことをしても、その事にすら、気付かないよう な奴ばかりだ。俺は、独りでいい。EVEさえ、いてくれれば、それでいい』 『何処に行くの?』 『誰もいないところに行くんだ』 『何をするの?』 『好きなことに打ち込むさ。時間旅行の研究にでもやるさ』 DOG制御の、オート・パイロットで、船が動き出した。 『時を超えて、僕たち二人の魂が、全宇宙を包むんだ』 『まあ、素敵ね!』 EVEは微笑んだ。 私たち二人は、もう、ノア6号が、時を超えているような、錯覚に陥っていた。 船内に、きらびやかな、点灯火が点いた。私の目に、窓の外の暗く冷たい宇宙の景 色が、入ってきた。 【 ぶら下がった眼球 】【 了 】
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「空中分解2」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE