空中分解2 #3038の修正
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第25章 『最後の演説』 『みなさん、私は、ヘンリー・C・クリストファーソンというものです。私の、突 然のメッセージに驚かれたかもしれません。しかし、このメッセージは、みなさん の将来と、人類の未来に関わる重大なことなので、どうか聞いてください。私がこ れから、話すことは、ふだんは、誰も、気に留めないことです。しかし、とても、 重要なことです。 我々は、なぜ、生きているのでしょう? 我々は、なんのために、生きているの でしょうか? その問いに対して、ある人は、【それは、人間の本能だ】と答えて、 また、ある人は、【それは、本人の意志だ】と答えるかもしれません。しかし、そ れは、真実ではありません。たしかに、一部には、そういう人間もいるはずです。 しかし、その一部以外の、大多数の人々は、自分の意志で、生きているのではなく、 遺伝子によって、生かされているのです。現実は、とても辛く厳しいものなのです。 私たちは、遺伝子を子孫に伝えるために、子供を生み、育て、そして、老いてゆき ます。いわゆる、老化現象です。しかし、最近の研究では、新陳代謝の鈍化の指令 が、遺伝子から発せられないかぎり、私たち人間が、何百年でも、生きていられる ということが、わかりました。つまり、私たちが、毎日、生きている生活、すなわ ち、文化や娯楽や労働などの生命活動は、生きる目的ではないのです。我々は、遺 伝子によって、生きる期間を、何百年も、不当に狭められているのです。あなたが た、一人一人に、私は問います。自分が、本当に、この世に、生きているだけの価 値のある人間だと、思いますか? 本当に生きている価値のある人間があるのは、 ごく一部の人間で、あとの人々には、生きている価値がないとは、思いませんか? その残りの、生きている価値のない人々は、自分の遺伝子を後世に残すためにの み、生きているミジンコのような人達ではないのでしょうか? 私の話を聞いて、 人間とミジンコでは、生きる目的も、生きてゆく手段も、何もかも違うという人も いるかもしれません。しかし、考えてもみてください。極端な話、遺伝子の増殖は、 ミジンコの単純な増殖か、それ以下のもので、足りるはずです。しかし、ミジンコ に、生きる目的や、生活があるでしょうか? そのような単細胞生物でも、黙々と、 生きて、仲間を増やしているのです。人間のみが、例外でしょうか? 我々の生き ているという目的や、必要なはずの娯楽やその他のものを、ミジンコが必要として いるでしょうか? 現実に、生きているという行動は、本能からもたらされる成果 であって、その他のなんらかの理由によってではないのです。人間は、万物の霊長 といっても、結局は、人間は、ミジンコと同じような方法で、遺伝子のコピーを後 世に残すために、利用されているに過ぎないのです。しかし、まったく、希望がな いというわけではありません。それは、我々の持つ、愛という感情は、まったく、 無意味ではないからです。単純な性欲と、純粋な愛とは、違うはずです。本能的な 性欲とは、遺伝子が個々のコピーを、少しでも多く残そうという生存欲を転化した だけのものなのです。しかし、単純な性欲とは、切り離された、愛という感情こそ が、我々が、遺伝子の指令以外に持ち得ている感情なのです。この、愛と、それに 類似した感情こそが、我々人類を救うための大切なキーワードになるのです。 さて、次に、皆さんの運命にかかわる大事な本題に入ります。皆さんは、あと何 時間かたつと、発作に襲われます。神の正体が、遺伝子と知った人間は、自分の遺 伝子に精神を攻撃されます。それは、攻撃というよりも、違った性質の飢餓感とで もいったものです。普段の、我々の感情は、遺伝子によって、修正・補足されてい るのです。それが、いきなり、消えてしまう寂しさ、孤独感は、とても苦しいもの です。それに耐え切れない者は、死ぬことになります。その苦しみの試練に耐え、 生き残った者のみが、遺伝子の命令を拒否し得る人間になれるのです。今のところ、 寿命が延びるかどうかまでは、確認ができていません。しかし、私は、そのことに よって、遺伝子の邪悪な部分を克服し、不必要に攻撃的でない、利己的ではない、 人間らしさを取り戻すことができると思います。ちょうど、バビロン計画で、創り 出された人間のようにです。必ずしも、善人が残るとはかぎりません。異常なほど の闘争心を持った、利己的で、攻撃的な人間であっても、苦痛に耐えられるほど強 靭な意志を持っていれば、生き残ることが、可能です。また、合理的なロジックか ら、悪がもたらされることもあるのです。遺伝子の攻撃という試練に耐えて、生き 残った者のなかにも、『多数の利益は、少数の利益に優先する』などという意見を 持ったものも、かつて、いました。バベル博士の研究では、95%以上の確率で、 基本的に、優れた良心を持った人間が生き残るはずです。 これから、数刻後、皆さんの身に、発作が起こります。これは、運命で、もはや、 避けられぬことなのです。恐れずに、勇気を持って、立ち向かってください。逃げ ることも、後戻りすることも、もう、できないのです。昔からの、多くの預言書、 預言者が、述べてきたように、生き残った者だけが、天国の楽園を味わうことがで きるはずなのです。 バベル博士の理念としては、生きている価値のない人間が死に至り、生きている 価値がある人間は死なず、生き残るこということなのですが、しかし、これは、科 学的な実験や、客観的な理論を元にした結論ではなく、博士が過去の書物などを紐 解いて、導き出した結論です。従って、必ずしも、正しいというわけではないので すが、私、そして、博士は、その推察を正しい結論であると、確信しています。 何度も、繰り返すようですが、これから、皆さんに、発作が起こります。これは、 架空のフィクションではなく、リアルな現実の事実なのです。私は、その苦難から、 皆さんを救うことはできません。皆さんを苦難から救うことはできませんが、アド バイスすること、導くことはできます。いまからでも、改心して、自分自身を変え てください。そうすれば、きっと、生き残ることができるはずです。他人に対する 憎しみを捨ててください。悪を憎み、正義を行うのは、人間が持ち合わせている、 正しい本能です。ただ、その本能が、感情として、具現化される過程で、遺伝子に 操作され、誤った卑賎な衝動がもたらされてしまうのです。事象の、その真実を見 据えて、客観的な正しい判断をしてください。正義の本能から芽生えぬ憎しみが、 何を、生み出すでしょうか? そのような感情は、遺伝子が指令し、作り出した幻 想なのです。 遺伝子単体レベルでいえば、直系の親と子、そして、子を生産するために睦み合 う配偶者だけを守れば、あとの人間はどうなろうが、それでいいのです。考えても みてください、なぜ、家族単位、つがい単位で、私たちは、生活するのでしょう? なぜ、他人といっしょに生活するときも『家族のように』などと、思い込んで暮 らす習慣があるのでしょう? それは、単なる本能か、人間が生きてゆくうえでの、 必然的な帰結だという意見を持たれる人もいるかもしれません。ですが、人間の心 の奥底には、悪意で利用するとき以外は、人類すべてに対して、等しく、愛を持た ねばならないという本能があります。これは、暗黙の大前提です。殺人や虐殺も、 ストレスの解消や、欲望を満たすため、誤った社会システムのために、必然として、 行われる行為であって、別な方法で、その目的が達成し得るなら、意味もなく、人 が殺されることは、まず、ありません。それに、陰で、そういう野蛮な行為をして いても、表面上は、善良を装うのが、この世の常です。餓死寸前のときに、自分の 料理を作ってくれているコックを誰が殺すでしょうか? それ以外の、様々な物事についても、そうです。人は、善を知りながら、ほとん どの人が、なぜ、それをしないのでしょうか? 最初から、善良な行いをしないの であれば、善の心は、その意識下の存在すら、無くてもいいはずなのに。 遺伝子の中に、神を名乗る、実は、邪悪な者がいます。人間が元々、悪なのでは なく、善良なのです。その邪悪な者が、人間に利己心や、敵対心を植え付けている のです。その遺伝子の悪の部分は、かなり、狡猾で冷酷です。たとえば、宗教が、 そうです。多くの宗教が、その聖職者に、妻帯を禁じてきました。信者には、禁じ ていないのにもかかわらずです。何千年の歴史の中で、多くの聖職者たちの子孫が、 それによって、絶たれてきました。遺伝子の悪の部分に、打ち勝つことのできそう な、聖職者たちは、その完璧な遺伝子としての、その有望な素質を、子孫に伝える ことなく、滅んできました。彼ら聖職者が、まともに子孫を残し、遺伝子を後世に 伝えておれば、時とともに、自然な淘汰という形で、遺伝子の邪悪な部分は排除さ れていたかもしれないのです。もちろん、そのような素質を持つ人間は、聖職者の みではなく、一般の人にも、数多く、いましたが・・・。遺伝子のことや、陰謀の 影響は考慮しないとしても、我々人類は、年々、残忍になり、凶暴化していく一方 でした。そして、最後には、結局、出生率の激減です。これは、遺伝子が、最後の 淘汰で、悪の部分を持っていない遺伝子の抹殺を目論んでいるとしか、私には、思 えません。この遺伝子と人間との闘いに、人間が負けたときこそ、我々の人間性が、 消滅するときです。そのときこそ、遺伝子の悪が、本性を現すときです。遺伝子は 我々に対する干渉を少しずつ強めてゆき、長い年月を経て、最終的には、我々は、 遺伝子に完璧に支配され、遺伝子の本能に赴くままに、殺しあい、直系の子孫の数 のみを競うようになるでしょう。つまりは、遺伝子そのものが、人間になり、我々 は完璧に自分の体を乗っ取られてしまうのです。脳は、遺伝子の指令を、直接を受 けるだけの器官になり、その思考能力を完全に失うでしょう。 皆さん、遺伝子の、このような陰謀に負けてはなりません。遺伝子の悪の力は、 強固で、排除しようとすれば、本体の我々をも、道連れにしようとするでしょう。 しかし、その力は、絶対的なものではなく、みなさんの強固な意志を持ってすれば、 その邪悪な部分を取り除き、克服することが可能です。そうすることで、初めて、 遺伝子が完璧になり、人間と遺伝子の関係が、正常になることができるのです。そ うすることによって、皆さんのうちの殆どの人が、天使のような優しさを持つこと が、できるはずなのです。どうか、勇気を持って、それに立ち向かってください。 そして、遺伝子の邪悪な部分に勝ち、それを克服してください。これは、個人個人 の問題で、誰も、あなたに、手助けは、できないのです。私も、ここまでしか、皆 さんに手助けできません。後の人類が、滅びないように、そして、皆さん、一人一 人の幸運を、私は、心から、祈っています。 それでは、放送を終わります。さようなら、ほんとうに、GOOD LUCK!』 私は、すべてのスイッチを切った。私の演説は終わった。これで、私の使命も終 わった。使命と信じてはいたが、私は、随分と、無責任な演説をしてしまった。こ れで、人類は、破滅に近い打撃を受けるだろう。しかも、どういう種類の人間が、 生き残るかは、私の想像にしか過ぎないのだ。 私は、急にEVEのことで、胸騒ぎを感じた。彼女のもとへと、私は、急いだ。
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