空中分解2 #3034の修正
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序章 どこで見た空だったのか、思い出せない。その空を想って、泣いた事があった。 一章 少女は空を眺めている。 東京郊外のその空は、けれど、彼女の望む青をしていない。少女はそれに気付 いて居ながら尚、漠然と空を眺める。季節は遅い春、倦怠がそこここに訪れる頃。 少女に見える彼女は十八。 箱庭の様な構内。植え込みの背に、ぼんやりと立つ。誰かが通り掛かる事を、 待っている。何かが起きる事を、待っている。昨日も一昨日も、待っていた。そ うして時間を、やり過ごす。 大学に入って三ヶ月、そろそろ退屈しても致し方ない。決められたカリキュラ ムの合間に出来た虚ろな時間を持て余す。こうして、ただ、立ちつくす。ふと、 街娼、という言葉を思い出す。苦笑して、図書館に向かう。 図書館へ続く石段を、出来るだけゆっくり登る。一段登って振り返る、誰かに 呼ばれたかの様に。ゆっくり登って、振り返る。ゆっくり登って、また、振り返 る。誰一人、居ない。誰一人、通らない。 閑散とした図書館で、ようやく知った人を見る。貧相な身体で眼鏡を掛けた、 同じ学年の占い師。本を小脇にゆるりと笑い、近寄ってくる。 占ってあげましょうか、タロットで。 御願いします。 図書館のロビーでカードを広げる。混ぜて、伏せて、開いてゆく。 誰かを待っているでしょう。でも、待っているだけではいけない。自分から掴 む事。獲得する事。 有難う。これ、お代ね。 へへへ、おおきに。 二章 今日も植え込みを背に、彼女は立っている。ふと、目の端に、動くもの。箱庭 の端から自転車がやってくる。黒い姿が近付いてくる。あれは、オトコノヒトだ。 自転車から人が降りてくる。せかせか歩いて目の前に来るのは学科が違って滅多 に会えない、彼女の『第一志望』。占い師の言葉を思い出し、声を掛けてみる。 いい退屈しのぎになるかもしれない。 こんにちは。 ああ、この間のコンパは、どうも。こんな所で何をしてるんですか。 話をしていたの。 誰と。 木と。 背にしていた植え込みの葉に、指を絡ませ、微笑んでみる、あざとさ。彼女の 微笑みに気押されて、ためらう彼。 これからどうするんですか。僕は掲示板を見て帰るところ。 何も。二コマまるまる空いていて。あと三時間、暇。 よかったら、僕のアパートでハーブティーでも飲みませんか。近くですよ。 その時、二人の前を自転車が通り抜ける、知った顔、彼女は顔を曇らせる。 どうしたんですか、急に。 なんでもない。ドッペルゲンガーよ。 彼女を振った男だ、等と説明する筈もない。憂鬱の種。そんな事で大学をさぼ りがちになった等と、思い出したくもない。見られたのが二人で居た所で良かっ た。この人と一緒の所で、本当に良かった。そう思って、彼女は目の前の青年に 微笑む。 ハーブティー、お言葉に、甘えて。 三章 アパートに向かう道すがら、彼女は景色を見ていた。傍らの自転車を押して進 む青年の顔を見るのは、何だか妙に気恥しく、その為、景色を見る。 この景色、こんなに瑞々しかったかしら。心からそう思い、そして空を見上げ た。いつもと変わらない空。彼女は、ふと、思う。望んでいた空の色、あれは何 処で見たのだろう。もしかしてそんなもの、始めからなかったのかもしれない。 それに、この空もあながち悪くない。立ち止まる。 どうかしましたか。 こういう景色を見ていると、私、死にたくなるわ。 不安気な青年の顔を見て、彼女は満足する、そういう方法でしか彼女は、確か める事が出来ない。 きれいな空。 終章 本当の色をした空が一つだけある訳ではない。 くぐもった空でいい、それがきれいと思えるのならば。 終 1989.1.31,2.1 1993.4.1.29:00
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