空中分解2 #3027の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
*登場人物 高村利子(たかむらとしこ) 高村五郎(たかむらごろう) 石尾研二(いしおけんじ) 大磯篤志(おおいそあつし) 坂上伊代(さかがみいよ) ブライアンロック アルセーヌ金沢剛(かなざわたけし) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「嵐になってきたよ」 私は愚痴をこぼした。 「日本の天気は、イギリスほど変わり易くはないはずなんだけどね」 相棒の金沢は、苦笑しつつ、タバコを灰皿に押し付けた。 「それとも、ちょっと日本に御無沙汰している間に、天気予報の質が低下した かな。まあ、もうすぐ目的地だ。何とかなるでしょう」 彼はのんきなことを言っているが、私はもともと船が苦手なのだ。船に乗っ た記憶といえば、イギリスからフランスへ渡ったときくらいのものだ。 と、突然、身体のバランスを崩した。 大きな波にでも出くわしたのか、船体が大きく傾いて行く。座っている姿勢 のまま、ずるずると壁に引き寄せられる。 「ロック、大丈夫か?」 「何とか……。しかし、本当に大丈夫かい?」 「責任持てなくなったよ。だが、万が一のときは、僕が親に頼んでやる。腐っ ても貴族だから、賠償はたっぷりと取れるさ」 「冗談じゃない」 金沢は、自分の母親のことを言っているのだろうが、自分が死んでしまって はどうしようもない。ちなみに彼の母親はフランス人、父親は日本人で大使館 員だ。 「とにかく、暇でしょうがない。この揺れじゃあ、眠ろうにも眠れないし」 あまりに船が揺れるので、予定されていたショーは早々と切り上げられてし まっていた。 「そうだ、あの女優に会いに行ってみよう。お部屋を訪ねてくださいって言っ ていた」 私は船に乗った直後の出会いを思い出していた。 私と金沢が乗船して部屋を探していると、華やかな女性に出くわした。眼鏡 をかけたその人は何かを落として探している様子で、往生していたから、英国 紳士をもって鳴らす私としては、声をかけずにはいられなかった。 「どうなさったのですか?」 だが女性は英語が分からないらしく、困惑の表情をし、これ以上厄介事を持 ち込まないでという顔になった。 仕方がないので、私は金沢に通訳してもらう。 「どうなさったのですか?」 「あの、ちょっと落し物を……。コンタクトですの。それも二つとも」 「そいつはお困りでしょう。手伝います」 と言った瞬間、金沢の手が、女性の肩に伸びた。落としたと思われたコンタ クトレンズは、彼女の肩に引っかかっていたのだ。 「一つはここにありましたよ。どうぞ」 「ああ、ありがとうございます」 女性は外見の割には甲高い声で礼を言ったようだ。 「こんなところにあるなんて……。本当に、すみません。今日、コンタクトに かえたばかりで、勝手が分からないんです」 そうしていると、廊下の向こうから一人の若い男がやって来る。どうやら日 本人らしい。 「高村さん。どうしたんですか。突然、いなくなって」 「コンタクトレンズを落として探していたら、あなたが先に行ってしまうから よ。この方達が探してくださって」 「それは失礼しました! あの、ご足労ありがとうございます。これからは私 が探しますので」 男は私達の方に向き直り、深々とお辞儀をした。 「じゃあ、私達はこれで。よいご旅行を」 と、私が言うと、女性の方が呼び止めた。 「あ、こうなりましたのも、何かの縁ですわ。よろしければお名前にご職業、 お聞かせ願えませんかしら」 「それもいいですね。僕は金沢、こちらはブライアンロック。イギリスの人で す。仕事は何と言いますか、探偵業を」 金沢に紹介されたと分かるや、私は大きくお辞儀をした。日本に来てまで手 の甲に口づけはすまい。 「まあ、金沢さんにロックさん。探偵を。では、こちらへは何かの調査で?」 「いえいえ、単なる観光です」 「はあ、そうですか。あ、私、高村利子と言います。お恥ずかしいんですが、 女優をやっております」 「女優さんでしたか。これは失礼を。日本のテレビからは遠ざかっていますの で、気付きませんで」 「いいええ、構いませんでしてよ。その内に、もっと有名になってみせますわ」 「それで、こちらは?」 あとから来た男を見て、私が聞くと、高村利子は 「私のマネージャーですの。気のきかない者でして」 と、小さいが叱りつけるような声で言った。 「ところで金沢さんは、イギリスと日本の混血なんですの?」 意外とずけずけと聞いてくるので、金沢は面食らったようだったが、すぐに 笑顔で答えた。 「いえ、フランスと日本、です」 「まあ、フランスですか。いいですわねえ」 イギリスがフランスに劣るとは思っていないが、私はこの思いを口に出さず に我慢した。 「そうだ、母は日本の女優に興味があるようでしたから、サインを頂けません か」 金沢が言った。 「ええ、よろしいですわよ」 色紙があるはずもないので、金沢は大きめの手帳を懐から取り出し、それを 相手に渡す。 高村は眼鏡を掛け直し、 「これでよろしいかしら?」 返ってきた手帳には、私には判読不明の東洋の文字が並んでいた。 「あっと、ローマ字でもお願いします。あの、読み方が分かる程度に」 「そうですわね」 高村はTOSIKO−TAKAMURAと付け加えた。 「高村さんはお仕事の関係で旅行ですか?」 と聞くと、マネージャーが答える。 「いえ、休暇です。他に高村さんのご子息も」 「余計なことは言わなくていいのよ」 マネージャーをとがめる風の高村。その顔つきが柔らかくなると、私達の方 に振り向いた。 「それでは、この辺で失礼します。本当にありがとうございました。もし時間 があれば、お部屋を訪ねてくださらないかしら」 そう言って部屋番号のメモを渡してくれた高村は、マネージャーと一緒にも う片方のコンタクトレンズを捜し始めた。 私達の背中の方から、いらついたようなマネージャーの小声が聞こえた。 「どうしてルームナンバーを教えたんですか?」 「女優って高村利子かい? あの言葉は礼儀というものだから、まともに受け 取るもんじゃないよ。日本だけの習慣じゃないだろ」 「それにしても退屈だよ」 「……分かった、じゃあ、行ってみよう」 やっとのことで、金沢を承知させた私は、実は職業的興味もあったのだ。私 は昔、歌手(売れない)だったものだから、そんな業界にいる人には、興味が 湧く。 「あの部屋らしいね……。おっと、誰か先客がいるみたいだ」 金沢が言った通り、部屋が見通せる位置に来た私達が身を隠すと、高村の部 屋から出て来る人影があった。男だ。 「ほんとに金がいるんだよ。一週間以内に返さないと、俺、やばいんだよ」 人影はドアの所で振り返ると、最後のあがきらしき物を見せた。 「二週間ぶりにあってみると、こんな用件とは、あきれるわね。どうしたって 言うの、それが。もうあなたも成人してます。そんなもめ事は自分で処理なさ い。同じ屋根の下に住まないようになってから、何年経つと思っているの」 オンザロックの氷のように冷やかな高村の声。 「ちぇ!」 表現しにくい舌打ちをして、男は私達が隠れているのとは反対の方向に去っ て行った。 「……何だったのかね、今のは?」 私が言うと、顔を見合わせるように金沢が答えた。 「さあ……。で、どうする? 今、訪ねる?」 「まずいかもね……あ、また来客らしいぞ」 私達はまた身を潜めた。 高村の部屋への新たな客は、女だった。背が高く、好奇心の強そうな目つき だ。 「高村さん、お約束のインタビューに来ました。週刊**の坂上です」 「え? 聞いてないわよ」 高村がドアを開けつつ、不審そうな顔を覗かせる。見ると、眼鏡を掛けてい た。結局、もう一つのコンタクトレンズは見つからなかったらしい。 「おかしいですわね。マネージャーの石尾さんに話を通していたんですが」 「そんな話、知りません。お引き取り願います」 「そんなあ! このためだけに、あなたをつけてまでして、この船に潜りこん だんですよ、こっちは。お話をうかがうまで、帰りませんから」 「冗談じゃないわ。今、マネージャーがいないからよく知らないけど、とにか く今はだめ。お断りよ」 「少しだけです。お子さんが、金銭面のいざこざで、ある女性と関係がもつれ ているとか、工業師の男ともめているとか聞いているんですが、それについて」 「私には関係ないことです! 帰って下さい!」 そう言うが早いか、高村利子はバンとドアを閉めた。 「っもう! あきらめないですからね」 坂上とかいう女性週刊誌記者は、捨てぜりふを残して、もと来た道へ戻って 行った。 「……驚いたな。マスコミの渦中に入りつつある女優だったんだな、高村利子 って」 金沢の通訳を聞いてから、私は、何故だかわくわくしながらこう言った。 「しかし、これは退屈しないですむなあ。これだけ面白い話が聞けると」 そう金沢が言った途端、床がぐらっと傾いた。 「うわっ! ……こいつは天罰てきめんてとこかな」 私の知らない諺を口にした彼は、軽く笑う。 「あ、また誰か来たみたいだ。どんな話が聞けるか、楽しみだな」 しかし、今度は話は聞けなかった。やって来た男がドアを「トントトトン」 という調子でノックすると、高村利子は黙ってドアを開け、「待っていたわ。 一ヶ月ぶりかしら」と薄笑いを浮かべながら、男を招き入れたからだ。 そしてドアは閉じられた。 「ふん、どうやらあの女優も、スキャンダルを気にしてるようだねえ」 「そのようだ。とにかく、もう、これでは訪問できないな。部屋に帰ろう」 「ああ、彼女の言葉が、本当に”綾”に過ぎないことも分かったしね」 金沢は小さく笑って、歩き出した。 船が目的地に着くまで、まだあった。が、船の揺れは相変わらずである。一 夜明けてみれば海の中、なんてことになっていなければよいが……。 一夜明けてみれば、殺人が起こっていた。高村利子が、自室で刺殺されたの だ。 遠巻きに眺めていると、開け放たれたドアから会話が聞こえてくる。 二等客室から、個室の高村利子を呼びに行った彼女のマネージャーが、第一 発見者のようである。 「では、石尾さん、あなたは昨日の夜から、この部屋に入っていないと」 船の事務長が、高村利子の部屋で、マネージャーに聞いている。遺体には毛 布が掛けられ、血溜りができていた。が、凶器はどこにも見あたらない。 「そうです。自分はゴロ寝でしたから、乗船してから、彼女の用を聞き終わる と、さっさと部屋を離れました」 「見つけたときのままの状態ですね?」 「ええ。どこにも触ってません」 「じゃあ、**港に着いたら、このまま警察に来てもらいます。お時間を取ら れることになると思いますが……」 「今の内に、向こうさんに電話をかけておけば、大丈夫でしょう」 「あと、高村利子さんと何か関係のある人物は、足止めしておくのが警察の希 望にかなうと思いますので、頼みますよ」 「はあ。やってみます」 そんなことを話して、事務長と石尾マネージャーは部屋を出た。 「血の臭い、もう大丈夫だから、閉めとこう」 とか言って、事務長はドアを閉めた。 −2に続く
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