空中分解2 #3020の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
山 田 村 夫 登場人物 杉山剛 (二) 目の前に小学校を見下ろす小高い岡の上。通称を団子山と呼んで、小学校の 頃、剛達が遊んだ場所である。中央に大きな松が二本、秋の午後の日差しは柔 らかく暖かである。 剛が辺りを見回しながら、ゆっくり登って来て、二本松の下に立って見上げる 片手に竹棒、片手に包みを下げている。 剛 おい、お前、そのわりに、大きくならんなあ?(包みを足許に置いて、松の木を根 元から峯迄調べる眼差しで、右に寄り左に寄りして)でも元気そうは元気そうだな。 お前の元気な姿を見て、俺は嬉しい。先生には、いま逢ってきたが土のしただ。何故 いま少し早く尋ねて来なかったか、それが悔やまれる。先生と、今一度話を、ゆっく りしたかった。(と、両手を広げて松を抱いてみて、首を傾げながら離れ、見上げ) あれ、お前少しも太らんばかりか、痩せるなんて、そんな馬鹿なこと? うん、ない よなァ。(と、両手を広げて考え込み、松に視線を移す。)あれ、あの瘤がこんなに 下がっちゃった。この瘤は、間違いねえ俺の鼻先にきて、何時もこの瘤を先生の頭と 思って叩き返したんだから、先生が俺の頭を二つ叩けば四つ、三つ叩けば六つ、ちゃ んと間違い無く竹棒をここに隠しておいて叩き返していたんだから、其の瘤が下がる なんて。小学校の四五年の頃か、(しゃがみこみ、松の根方の瘤をさする。暫らくし て、急に立ち上がり。)あ、そうか、アッ、ハ、ハ、ハ、ハ、・・・小学校の頃はチ ビだったから、そう、こんなもの、(手を腰の辺りから松に向かって動かすと瘤の辺 りにいく。)やはり、やはり俺は馬鹿じゃあないと思うが? そんな程度かな? 先生は、旨いこと言ったよ。まいっちゃう、五十年余振りに尋ねてきて自分の背が 伸びたのをすっかり忘れて、自分中心なんだから。何時になっても自分が基準で、お 前が可笑しいなんて、そりゃあ無いよなァ。でも、解ればいいよ、解れば、ねえ、先 生。(松の瘤を平手でさする。)俺は何時もそうだった、人より一テンポ遅れてた。 先生の頭は、ごつごつして堅い感じだ。が、これ、俺が竹棒で叩いた、その傷か? その傷が残ってたなんて、嬉しい。 剛 竹棒を持ちなおして、竹棒を其の瘤に向かって打ち下ろす、幾度となく。 剛 先生。先生に竹棒で叩かれる度に、此処まで登ってきて、叩き返さなくちゃあいけ ないんだから、忙しかった。だから時々授業の始まるのに間に合わなくて。そんな時 は、途中で教室へ入っていくのは迷惑と思って外で、遊んでいた。それに先生が叩い た数の倍、正確に、この瘤を叩くのは大変だった。間違えないょうに数えていると、 先生が口をはさむ。こんな事をして良いと思うか悪いと思うか、黙っていると直ぐ叩 かれる。良いと思うなんて言えない、分からないと言ったら、そんな事が分からんか と、続けざまに二つ叩かれる。悪いと思います、と答えれば、悪いと思って何故やっ た!先生の手に力が入るが、一回で、それで終わる。そうだったよ、ねえ。 あァー、これでよかった。先生に逢えて、ゆっくり話ながら煎餅を食べましょう。 剛、松の木の瘤の前で包みを解き、紙の上に煎餅を山盛りにしながら。 剛 先生、食べて下さいよ、俺が買ってきた煎餅なんだから、この煎餅、先生へのお返 しだ。気にする事はない、どしどし食べてよ。これ、先生の抽出しから失敬したその 分。こればかりじゃ足りないかなァ、でも、先生も、悪いよ。教室の、教壇の上の先 生の机の抽出へ菓子を隠しておくんだもの。先生は、俺達にお菓子類は学校へ持って はいけないと、言ってたよねェ。 ア、俺も一枚もらいます。 剛 手を伸ばし、煎餅を摘んで食べながら。 また、先生と、自分の仕草を交互に真似ながら。 剛 そう、あの時は、どうして教室へ戻ったか? 覚えていないが? たしか、教室の掃除が終えて、先生の点検がすんで校門を出ててから、俺、一人で 教室へ引き返した。これも俺の習性か、教室へ入る前に、ガラス戸の角からそっと中 を覗いた、そしたら、先生が煎餅を食べているんだから、びっくりした。 先生、美味そうに食べてた。先生の、あの時の顔、好かったなァ、あんな眼で見て くれたら、俺、きっと好い子になれてた。それで済めばよかつたが、食べ終わると、 抽出を開けて、奥から紙袋を引き出し、中から煎餅を三枚摘み出してノートの上に置 くと、じっと袋の中を覗いていてから、袋の口を丁寧に畳んで、また抽出の奥へ押し 込んだ。それを見たからいけない、俺の頭の中は、その煎餅をちょろまかしてやろう と、それだけで一杯、あとのことは総て吹飛じゃった。それからさ、先生の隙を狙つ たのは。 俺が大丈夫だと思って眼を付けたのは、先生達が放課後、職員室へ集まる日、その 日は何となく判るんだ、掃除をしていても普通の日なら、「お前達、角から角までき れいに掃除するんだぞ、終わったら職員室に居るから言ってこい」。 ところが、職員会のある日は、違うんだ。 剛 立ち上がり、先生と、自分の素振りを交互に真似ながら。 剛 先生は教壇の上に立って。こら、箒をかついで歩いていてそれで掃除になるか! 大声を張り上げて、俺を指差す。また、竹の指揮棒で机の上をパン、パン、と叩く、 剛。雑巾は机の上を拭くものだ、お前みたいに、ただ吊して歩いている奴が何処に居 る。俺が好きじゃ無い掃除をするような格好をしていると、先生は教壇の上で高田踊 りをはじめる。それは、たぶん先生の気分の好いときだ。先生の体はリズムに乗って 弾む、両手でズボンを摘んで引き上げながらピョンと爪先立ちすると、その後は授業 時間中とかわる。左足で二拍子、右足に移して二拍子のリズムを踏みながら教壇の上 で先生はリズミカルに弾む。 テカテカ頭の丸坊主、笑顔が奥に見えるような得意顔 で踊っている。音楽に乗って弾んでいる。そう思える。俺は横目でそれを見ながら、 怠けずに掃除をしているような格好をして動いていると、先生は、ヨーシ、今日は皆 よくやつた。きれいになった帰ってよし。 そんな日は安全だ。鞄を抱えて教室を跳びだす、そして用務員のお爺さんの処へ顔 を出す。用事なんてありゃあしない、用務員のお爺さんは言う、どうした? 俺がに こっとして首をすくめると。悪戯するんじゃあ無いぞ、と、俺の顔にそんな事が書い てあるのかと首を傾げたくなる。何を言われても、聞かれても、にこっと首をすくめ て見せるだけで用務員の爺さんの動くのを見ている。用務員の爺さんは言う、こんな 処であぶらうってちゃあいかんぞ、早く帰って家の手伝いしろ、勉強しなきゃあ駄目 だ、みちくさくってちゃあいかん。どうして、大人って皆同じようなことを言うか、 油売るだの、道の草なんか食うはずないのに。それでもにこって首をすくめてやる。 そうしていると女の先生が顔を出して、用務員の爺さんが用意してあったお茶道具を 持って行く。決まって女の先生は二人で来る。そして言う事も決まっている。剛君、 もう皆帰ったよ、こんな処で何してるの。それでくるりと背を向けて駆け出して、下 駄箱で履き替えて校門を駆け出してから、この団子山の草薮へ鞄を押し込んで、今度 は、見つからないようにそっと引返して、教室へ忍び込んで先生の抽出を開ける。一 番初めの時は焦った、抽出の中は紙屑だけ、そんな、そんな、と、奥を探すと、一番 奥に煎餅の袋が隠してあった嬉しかった。ヤッターと口から出そうになって、慌てて 口を押さえた。でも俺、一回に一枚しか貰わなかった。ところが敏之に気取られて、 後を付けられていたのを教室へ忍び込むまで気付かなかつたからいけない。現場を押 さえられて、仲間にするより仕方なくなって、そしたら敏之の奴、無茶なんだ、煎餅 を一掴みもポケットへねじ込んじゃって、俺、慌てたなァ。処が敏之ときたら、何言 てるんだと、相手にしなくて先に跳びだしちゃった。仕様なく、何時ものように注意 して元通りに戻して、教室から抜け出したものの、煎餅が半分にも減ったんだから、 これで、気付かなければ、先生も間抜けだし、敏之も敏之だ。お前、それじゃあ泥棒 だ!と、跡を追って捕まえて怒鳴ったら、じゃあ、お前のやつてたこと泥棒じゃあ無 いのか?ときたから、言ってやつた、俺んのは智恵競べだって。 次の日から、俺は、ドキ、ドキして先生の様子を見ていたが、何時もと少しも変ら ない、敏之は、そら見ろ、気にすること無いに、と、けろりとしている。そればかり か、その日が来たら、今日だろう、やろう。と、声を掛けてきたが、俺は、気が進ま ないまま放課後になった。その日は俺は掃除当番ではなくて敏之の組が当っていた。 おい、何時もの所で待ってろ、と言われて、俺は団子山の登り口で草の上に仰向けに ひっくり返って待っていた。あれは夏だったか、秋に近かったか、そんな頃だ、綺麗 な青空をちぎって投げたような雲がゆっくり動いてて、その雲を見ていたら、もう、 やる気が無くなった。あれ程に、真剣になれたのが嘘みたいに気が抜けてしまった。 敏之が駆けてきた。行くぞ、と、声を掛けられても、起上がれなかつた。もう止め、 と言つら、馬鹿野郎!怖気付いて、なら俺一人でやる、待ってろ、と、鞄を俺に投付 けて駆け出した。 俺は何時か眠ってしまった、揺り起こされた、目の前に敏之の顔 があって、今日はすごく珍しい菓子があったぞ、だから袋さら貰ってきた。俺は驚い たな、そして、こんな奴とは一緒に何も出来ないと思った。 敏之の奴、袋の中から一糎程の白い四角のお菓子を二つ取り出して、一だけお前に やる、少ないからなあ、と、俺の掌に乗せて、他の一つを口に放り込んだ、一噛みし て首を傾けて顔をしかめたかと思うと、菓子をいきなり吐き出して、悲鳴をあげて跳 び跳ねながら、ペ、ペ、と、唾を吐き続ける。俺には何の事か判らない、掌の菓子を 握つてみると、すべすべしている、匂いを嗅いでみると、覚えのある匂いだ、何だろ う、そうだ風呂へはいった時の、俺は吹出した、敏之は川へ向かって駆け出した。 翌朝、敏之と顔を合わせると、まだ口の中が可笑しいと言って口をこすっている。 授業が始まつて何の時間かその覚えはない、間もなくだったと思う。先生は、敏之、 どうした。口ばかこすって、朝なにか美味いもの食べてきたか、先生の言うことをち ゃんと聞いてなくちゃあ駄目だ、と、竹の指揮棒で、ピシャリ、と頭を叩いて、何だ い、その顔、泡を吹いたような顔をして、と、きた、続いて俺の所へまわっ来て、 剛、今日はえらくおとなしいな。と、言って、先生はあの大きな手を鷲のように、か っ、と開いて俺の頭を力まかせに鷲掴みにした、痛かったなァ。 それっきり、あと先生は知らん顔。その学校が、 剛 団子山から学校を見るように立って、指差しながら。 剛 あんなクリーム色の綺麗な学校に変っちゃって、校庭は其のままだけど、中庭に立 派な校舎が、そして大きなプール、学校の周囲の家々も、赤、青、白と、綺麗に。木 造平屋トタン葺きの校舎、近くの茅葺きの家、それは無い。先生、白樺だけが残って いる。先生、見えるかい、あの頃と、世の中はすっかり変わっちゃつた。先生をてこ ずらせた教え子が、晴れ姿を視てもらおうと逢いにきたんだ。是だけは胸を張って言 う、人より字は下手、歌は下手でも先生の顔を汚すようなことはしてない。自慢して も好い教え子だ。自慢できる生徒じゃあ無かったけど。 剛 足を踏張り、腰に両手を当て突っ立ち、暫らく頭を垂れていてから。 毅然と顔を起こて。 剛 高田和尚! 高田先生。 よく見てくれ、これが、杉山剛の晴れ姿。精一杯生きた証の土俵入りだ。 剛 ズボンを両手でバンドの上から摘み、背伸びするかにツンと引き上げ、爪 先立ちして、右に左にリズムカルに弾む。高田踊り。 小学唱歌 動物園 のリズムが流れる。 溶暗 シルエット 映し出される。松の瘤を叩いている剛。 高田踊りに変る。 シルエット交互に変り、溶暗。 幕
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