空中分解2 #3014の修正
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* それは、すべすべした白い石でした。お父さんの親指ぐらいの大きさです。陽 にかざしてみると、すこし赤みがかっているようにも見えました。手のひらにの せると、思ったほど重くありません。それに、じっと見ていると、ぴくりぴくり と動いているように見えましたが、それは、まなぶの手のひらを流れている血が 、どっくどっくいっているせいかも知れません。 まなぶは、学校の帰りに道ばたでひろったそれをポケットにしまうと、かけだ しました。 * その夜、まなぶの家の人がみんなねてしまったといのうに、まなぶの部屋でな にか音がします。耳をすますと、それは、どうやらまなぶの机のひきだしの中か ら聞こえてくるようです。 「かさかさ、かりかり」 変な音です。その音は、10分ぐらい続いたあと、ぴたりとやみました。そし て、5分もすると、 「るぴぴぃ、るぴぴぃ」 というきみょうな音が聞こえだしました。それは、とても小さかったので、よ ほど耳をすまさなければ聞こえないほどでしたから、まなぶの家の人がだれも気 づかなかったのは無理もありませんでした。 その音は、明け方まで続いていました。 * 次の日の朝のことです。 「あれっ」 まなぶは、首をかしげました。机のひきだしに入れておいた匂いつきのえんぴ つが1本なくなっているのです。 「ねえ、お母さん。えんぴつしらない、ほら、イチゴのにおいのついたやつ」 まなぶは、ひきだしをぬいて、机の上に置き、がらがらひっかきまわしました。 でも、どこにもありません。 「ねえったら、ないよう」 まなぶは、口をとんがらかしました。となりのせきの、ゆかちゃんに「あした もってきてあげるね」とやくそくしてあったのです。 「おねいちゃんでしょ、かえしてよ」 まなぶの声は、泣き声になっています。 「しらないわよ。わたしはひとのものを勝手に使うようなことはしませんからね ーだ。あんたこそ、わたしの机を勝手にあけないでよね」 となりの部屋から、とんでもないというように、お姉ちゃんのユキ子の声がか えってきました。 「ちゃんとさがしなさい。だから、いつもいってるでしょうが、きれいにかたづ けておきなさいって」 お母さんは、まなぶが一生けんめいさがしているのも見ないで、台所で大きな 声をあげました。 「ほら、もうみんながまってるよ。早くしな」 お姉ちゃんの声が続きます。 わかってるよ、まなぶは、口のなかでいいながら、もういっぺん、がらがらと 大きな音をたててひきだしの中をかきまぜ、そして、どん、と机をたたきました。 もういいや、べつのにする、まなぶは、短気をおこすと、えんぴつをなん本かつ かみました。そして、ランドセルをがたがたいわせながら玄関にはしりました。 * 学校から帰ると、まなぶは、もう一度ひきだしの中をしらべました。 ゆかちゃんは、まなぶが心配しているのも知らずに、どれもかわいいね、とい って、きのうのやくそくなどわすれてしまっているようでした。まなぶは、えん ぴつを2本もあげてしまいました。その2本は、ほんとうは、まなぶのお気にい りでした。たとえゆかちゅんにだってあげるのは、おしいくらいだったのです。 イチゴの匂いのついたえんぴつさえ見つかっていれば、それをあげなくてすんだ はず、そう思うと、まなぶは、くやしくてなりませんでした。それで、学校から 帰るとすぐに、ひきだしをしらべはじめたのです。 「あれ」 まなぶは、えんぴつをかぞえながら、首をかしげました。また1本なくなって いるのです。それも、三ばんめにお気にいりのやつが。 「へんだなあ」 まなぶは、ひとりごとをいいながら、机のまわりをさがしました。朝、ひっか きまわしたので、そのときにどっかにころがったのかと思い、机の下にももぐり こんでみたのですが、どこにも見あたりません。 「へんだなあ」 まなぶは、もう一度えんぴつをかぞえなおしてみました。まちがいありません。 たしかに1本たりません。 「えっ」 まなぶは、のどのおくで、声をあげました。 ド、ドロボー? そう思ったとたん、心臓がぎゅっとちぢむのがわかりました。まなぶは、そっ とあたりを見まわしました。そのとき、まどがガタッ、と風になりました。 * まなぶは、朝、ひきだしを机の上に出したままでしたから、もしドロボーが入 ってきたら、かんたんにえんぴつをぬすむことができてことでしょう。やっぱり きちんとかたづけておけばよかった、そうすれば、ドロボーは、えんぴつのこと に気がつかずにべつのものを持っていったはずだから。まなぶは、ああ、あ、と ためいきをもらしました。 でも、変です。イチゴの匂いつきのえんぴつがなくなったのもドロボーのしわ ざだとすると、まなぶたちがねているあいだにぬすまれたことになります。朝、 お父さんも、お母さんも、そしてお姉ちゃんも、ドロボーのことなどひとことも いいませんでした。ということは、ドロボーは、夜中にまなぶのえんぴつを1本 だけぬすんで、そして、みんながでかけたあとにまたやってきて、もう1本えん ぴつをぬすんでいったことになります。それとも、ドロボーは、どこかにかくれ ていたのでしょうか。 まなぶは、ごくりと、のどをならすと、もういちど部屋の中を見まわしました。 ふわり、とカーテンが風にゆれました。 * あれえ。まなぶは、ひきだしの中に変なものを見つけました。シャープペンの 芯をポキポキこまかく折ったようなものが、いくつも落っこちているのです。な んでしょう。 「なんだろう」 まなぶは、その黒っぽいものに顔を近づけると、じっと見つめましたが、なん だかよくわかりませんでした。 とにかく、ひきだしの中をかたづけ、机の中にしまっておけば、もう安心。ま なぶは、ついでに、机の上もかたづけることにしました。 それからしばらくして、かたづけにもあきて、マンガ本を読んでいると、 「かさかさ、かりかり」 変な音が聞こえました。 おや、と思って耳をすますと、 「かりかり、かりかり」 たしかに、音がしています。どうやら、ひきだしの中のようです。 なんだろ。まなぶは、ためらわずに、さっ、とひきだしをひっぱりました。 「・・・」 こんなにおどろいたことはありません。「それ」は、いたずらを見つけられた 子どもがそうするように、「てへへへ」と、ごまかし笑いをしたのです。「それ 」は、きのう、まなぶが道ばたでひろった石ころでした。音の正体もわかりまし た。石ころが、えんぴつをたべている音だったのです。 「ともだちになろう、ね」 石ころが、とつぜんいいました。 「あ、あ」 まなぶは、目をまんまるにしているだけです。 「きまったね。よかった。ああ、あー。おながいっぱいになったら、ねむくなっ ちゃった」 石ころは、そういうと、大きなあくびをしました。そして、まなぶの見ている 前で、 「るぴぴぃ、るぴぴぃ」 小さな小さないびきをかきはじめたのです。 * これが、まなぶのひろった白い石が、まなぶの家族の一員になったはじまりの 、おはなしです。 −おわり− 3/20
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