空中分解2 #2984の修正
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(すぐ前の「掲示板(BBS)最高傑作集31」からの続き) あきらめてロビーに戻ると、ユースホステルの職員が怒りの表情を浮かべなが ら王冠が欠けたキングのそばに立っていました。そして、私を見るやいきなり、 「おまえがやったんだな。ユースの備品を壊しやがって。どうしてくれるんだ!」 と怒鳴り始めました。 私一人だけに責任を押し付けられるのは納得がいかなかったので、「オースト リアのおじさんがチェスで反則をしたからこうなった。」と王冠が壊れた原因を 第3次世界大戦の話も交えて詳しく説明したのですが、その職員は私の言い分を まったくわかってくれませんでした。 やがて私とこの職員は口論を始めました。外国語に対する天性の才能を身につ けたこの私が、たとえ外人と外国語で言い争ったとしても、普段は絶対に負ける わけはありません。しかし、このときの相手はとにかく口が回るのが早く、その うえ声が大きいので完全に圧倒されてしまいました。この人は口の中に拡声器を 隠しているのではないかと疑ってしまうほどの声が馬鹿でかいのです。欠けた王 冠は、接着剤でくっつければすぐ直るというのに、なぜこんな超大声で怒鳴り飛 ばされなければならないのでしょうか。 しばらくすると、私の耳の中で「パリパリパリ・・・」と音がして、鼓膜が破 れかけてきたのがわかりました。このままでは自分の耳が危ないと思い、相手に 声を小さくするようお願いしました。 しかし、彼は私の頼みなど聞こうとせずに怒鳴り続けたのです。 やがて脳にすきま風が当たり始め、もう鼓膜は完全にやばいと感じた私は、怒 鳴り狂う彼を黙らせるためには暴力に訴えるしかないと判断し、拳を握りしめた のです。 顔面におもいっきりパンチをぶちかましてやろうとしたその瞬間、私たちを見 ていて心配になった別の職員がやってきて、私に接着剤を差し出しました。 今まで私を怒鳴り飛ばしていた職員は、私が接着剤を受け取ってキャップを外 したのを見て納得したのか、急にわめくのを止めました。 私はチューブの先から接着剤の中味を少し出し、いままで怒鳴ってうるさかっ た人の上唇、続いて下唇に薄く塗りました。そして、3分ほど待ってから唇に塗 られた接着剤の表面に指で軽く触れ、べとつかなくなったことを確認し、「もう そろそろいいだろう。」とつぶやいて彼の上下の唇を指で合わせようとしたとき、 「違うだろ!」と唇に接着剤を塗られた人がクレームをつけたのです。 彼は、「おまえが接着剤でくっつけるのはキングの王冠だろ!」と私の勘違い を指摘してくれました。その時の彼のドイツ語は、口を閉じることができなかっ たため、ネイティブとはとうてい思えない発音でした。 ユースの職員とのいざこざも何とか解決し、ロビーでくつろいでいると、外人 が私に話しかけてきました。その人はモロッコ人で、2週間の休暇でヨーロッパ に遊びに来ているということでした。 彼はヨーロッパにいる他の北アフリカ人がそうであるように多数の言葉を話す ことができました。いちばんうまくしゃべれるのが母国語であるアラビア語とフ ランス語で、英語、イタリア語はほぼ完璧だが、ドイツ語はあまりうまくないと 言っていました。でも彼がドイツ人と話していたのを知っていますが、彼のドイ ツ語はかなりのものです。彼は私がフランス語を話すのを知り、興味を持ってき たのでした。 しばらく雑談した後、そのモロッコ人は「腹が減ってないか。」と私に尋ねて きました。私はパンとソーセージでサンドイッチを作って食べようと思っていた ので、「じゃあ、キッチンに行って何か食べよう。」と彼に提案しました。 すると、彼は「せっかくスイスにいるのだから地元のレストランに行こうよ。」 と言ってきました。 「でも、ここのレストランはみんな高そうだから。」と私が言うと、彼は「そ んなことはない。観光客用のレストランが高いだけさ。」と、しきりに私を説得 してくるのです。 流暢なドイツ語を話し、ヨーロッパにはちょくちょく来ているという彼ならス イスの事情にもかなり精通していると私は考え、結局は一緒にレストランに行く ことにしました。 ユースホステルを出ると、モロッコ人の彼は「安いレストランはどこかにない ですか?」と、通りがかりの人みんなに声を掛け始めました。 数人と話した後、この近くには安いレストランがなく、少しバスに乗らなけれ ばならないことがわかりました。 そこで私は「じゃあ、バスに乗ろう。」と言ったのですが、彼は「ヒッチハイ クしよう。」と言うのです。 私はヨーロッパに着いた2日後に、スイスのバーゼルでヒッチハイクを試みた のですが、3時間待っても誰も止まってくれなかったという苦い経験がありまし た。だから、スイスではヒッチハイクは無理だと思っていましたので、「不可能 だよ。」と彼に言ってやりました。 しかし、モロッコ人の彼は道端に立って通りがかりの車に向かって手を上げ始 めました。すると、数分後に地元の青年が止まってくれたのです。 私たちを乗せてくれたスイス青年は、帰りは送ってあげられないから、どこそ こにあるバス停から何番のバスに乗ればユースホステルに帰れると車内で親切に 私たちに教えてくれました。 私たちが着いたレストランは、外から見ると普通の家と見間違うほど質素な建 物で、いかにも家庭的という感じがしました。中に入ると、席は20席くらいし かなく、かなり混んでいました。 1つのテーブルも空いてなかったので、お店の人が「相席でいいか。」と私た ちに聞いてきました。私はチューリッヒの地元の人と話ができるのではないかと 考え、むしろそっちのほうがいいと思いました。モロッコ人の彼も気にしなかっ たので、私たちは若いアベックの前に座りました。 店員からメニューを渡されたのですが、何が何だかさっぱりわかりません。ド イツ語が流暢なモロッコ人の彼も料理名だけはわかりませんでした。仕方がない ので、私たちは「10フランくらいでうまいもの食べさせて。」と、いい加減な 注文をしました。 外国人がこんな小さなレストランに来るのは珍しかったらしく、料理を待つ間、 前に座っていたアベックは私たちにいろいろ尋ねてきました。 スイスではドイツ語、フランス語、イタリア語の3つの言葉を国民が話すと思 っている人が日本には多いのですが、実際には、上記の3つの言葉以外にロマン シュ語も話されています。しかし、スイス人全員がこれら4つの言葉を話せるわ けではありません。スイスのドイツ語地域の人はドイツ語だけ、フランス語地域 の人はフランス語だけというように地元の言葉しか話せない人がほとんどです。 2カ国語を話せるスイス人もたくさんいますが、そういう人は地元の言葉と英語 を話すという場合が多いのです。 私たちに話しかけてきたアベックもドイツ語しか話せませんでした。おまけに そのアベックはスイスなまりが非常に強いため、私は何を言っているのかよくわ かりませんでした。 やがて、私たちの料理が運ばれてきました。肉と野菜はわかるのですが、他の ものは何だかよくわかりません。味はまあまあで、1000円くらいにしてはか なりおいしいものをたくさん食べることができました。 30分ほどの時間をかけて食事をした後、時間も遅いのでユースホステルへ帰 ることにしました。 車でレストランまで送ってくれたスイス青年の教えどおりのバス停で待ってい ると、私たちの乗るべきバスがすぐにやってきました。バスは2車両連結されて いるため、非常に長いものでした。私はこのような連結バスに乗ったことがなか ったため、非常に珍しく感じました。 私はモロッコ人の彼より先にバスに乗り、連結部を通って2車両目の1番後ろ の2人がけの席に座りました。これほど大きいバスなのですが、乗客は誰も乗っ ていませんでした。 やがてモロッコ人の彼が来たのですが、こんなに席が空いているというのに彼 はわざわざ私のとなりに座ってきたのです。 まあ、話しやすいからこれでもいいかと思った瞬間、彼は私の股間に手を伸ば してきました。 私はびっくりして「何をするんだ!」と叫びながら、彼の手を払いのけました。 普通の日本人のホモなら、「おまえはこういうのが嫌いなのか。わかった。私 が悪かった。」と素直に反省してくれるのでしょうが、モロッコ人の彼は、私が 手を払いのけて拒否したことに対して、私が触られてびっくりした以上にびっく りしてました。 これは一体なんなのでしょうか。 この人は今までヨーロッパ人やアフリカ人の男性の下半身に急に手を伸ばして、 抵抗されたことはなかったのでしょうか。 ヨーロッパにはホモが非常に多いというのは日本を出発する前から聞いていま した。しかし、私は長いヨーロッパ旅行中、そのような人とは1度も出くわした ことがなかったため、そのころはすっかり忘れていたのです。 私はその時、もしかするとヨーロッパ人はこのように、同性からのお誘いに対 して、お言葉に甘える(この場合、より正確に言うと「お手に甘える」)という 習慣があるのではないかと思えてきました。 「そうだ。そうに違いない。じゃなかったらこのモロッコ人は、私が拒否した ことに対してあんなにびっくりするはずはない。ヨーロッパでは同性からの誘い でも断らないんだ。」 やがて、私の頭に浮かんだのは次の諺でした。 " When in Rome, do as the Romans do. " (郷に入っては郷に従え。) こんなときにとんでもない諺が頭に浮かんできてしまったものです。 私は今、ヨーロッパにいるのだから、「郷に入っては」は「ヨーロッパに入っ ては」となる。また、「郷に従え」とは「その土地の人が行うようにしろ」とい う意味だから、「ヨーロッパ人が行うようにしろ」ということになる。すなわち、 この場合は「同性の誘でも断るな。」という意味になる。 性に対する私の信念がグラッと傾きかけてきたとき、隣のモロッコ人はいきな り、「おまえはSEXが好きか?」と私に尋ねてきました。 ここでもし私が「そんな質問に答える義務はない!」だとか「ご想像におまか せします。」などと答えようものなら、「日本人はいつもこうなんだ。物事をは っきり言わないのは、日本人同士では通用しても、外国人にはまったく通用しな いんだぞ!」と世界じゅうからの非難が集中したことでしょう。 私自身も、このように曖昧な表現でごまかすといった伝統的日本の悪習にうん ざりしていたのと、私はそのような低レベルの日本人とは違うんだということを わかってもらうため、私はきっぱりと「超大好きです。」と言ってやりました。 すると、彼は「では、なぜ私の誘いを拒んだ?」と追求してきました。 私は答えに窮してしまい、「女性ならともかく、男とは・・・」と言ったきり 何も言えず、超日本的曖昧な歯切れの悪い表現でお茶を濁してしまいました。 すると、彼は「おまえはキリスト教を信じるか?」と、今度は突拍子もない質 問を私に浴びせかけてきました。 「私はキリスト教徒ではない。」と私が答えると、彼は 「それでは、おまえはキリスト教の教えを否定するのか。」と言ってきました。 私は「キリスト教の教え」とは何のことだかわからなかったので、「それは何 だ。まあ、そんなことどうでもいいけど何でそんな話をするんだ。」と逆に質問 してやりました。 彼は、教会で司祭が信者に説教をしている時のような厳かな口調で私に語りか けました。 「いいか。よく聞き給え。キリスト教では『万人を愛せ』と説いている。ここで 言っていることは『人種、性、身分などにより人を差別せず、あらゆる人を愛せ』 ということだ。つまり、私がアフリカ人であろうが、ヨーロッパ人であろうが、 日本人であろうが、男性であろうが、女性であろうが、そんなこと気にせずに愛 せということに他ならない。」 私は、「ちょっと違うんじゃないか。」と思いながらも、決定的な反論をする ことができず、私の心の中では、彼の話がだんだんと「神の御言葉」として受け 入れられていくのがはっきりとわかりました。 さらに彼はこう言って追い打ちをかけてきました。 「さらに、キリスト教では『隣人を愛せ』と説いている。つまり、バスの中でお まえの隣に座っている人、すなわち『私を愛せ』ということに他ならない。」 その時は完全に彼の理論に納得してしまったのか、私の右手は無意識のうちに 自分のチャックを下げていました。 (すぐ次の「掲示板(BBS)最高傑作集33」へ続く)
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