空中分解2 #2982の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「・・これは・・背後に加賀の殿と早坂がいるようですね・・」 宗春が消えいりそうな声でつぶやく。 被沙がそれを受けて答えた。 「でなければ、こんなに簡単に事が進みやしないだろう」 「・・仰せのとおりです」 宗春の様子に妙なものを感じて、被可は声をかけた。 「どうした?宗春」 「あ、いいえ・・」 書面には加賀の情勢が事細かに記されていた。 加賀国内でも優秀な若き軍師・藤本が、早坂明の手で殺されたこと。 早坂明は正式に自害の宣告をうけることになっていた前日に姿をくらましたこと。 以後、早坂は、養子・義郎を後継ぎとすること・・。 「加賀のやつ、そうとうな悪党だね。これはどう見ても、でっちあげだ」 智可はうんざりとしたように続ける。 「加賀の殿さんの行動に関しては、僕には嫉み以外なにも見えやしない。 自分の世継 が有名なお馬鹿さんだからさ、出来の良すぎる藤本と早坂が目障りだったんだろうな。 だから、藤本は刺客に殺させて、あとの早坂には『藤本殺し』の罪人に仕立てあげたん だ。つくづく嫌気のさすやつだね」 「悪党ならまだいるんじゃないか?」 被沙の問いに智可はますます美貌をゆがめた。 「・・早坂の親だろ?あれは『嫌気のさすやつ』を通りこしてもう『鬼』だ」 書面には綴られていないもうひとつの事実に、さすがに智可は気づいていた。 『早坂』の両親、即ち、早坂明の両親には、二人の子がいた。ひとりは言うまでもな く早坂明。いまひとりは、明の生まれる数年前に親戚筋からもらわれてきた義郎。明に くらべてこの義郎はすべてにおいて劣っていたが、それでも親の愛情はこの義郎に向い ていた。実子の明より義郎のほうをいとおしく思っていた両親には、明は邪魔な存在だ った。実子を差し置いて養子に家督を継がせることはできない・・。 ところが主君の加賀どのも明をよく思ってはいなかった。自分の世継が、明と藤本の引 き立て役をやらされているように、彼にはうつっていたのだ。 このことは、早坂の親にとっては願ってもないことだった。明の父・早坂友頼と加賀ど のはそれとなくこのふたりの殺害を画策し、それを実行した・・。 明が疎まれていることを以前から間者を通じて知っていた智可には、何となくこうな ってしまうのではないかと気に掛けているふしがあった。 自分も嫡男である兄の双子の弟ゆえに疎まれてきた過去があったからこそ、明の存在 が気掛かりでもあり、何となく身近に感じられたのかもしれない。 この事実を知って、一番気分を害されたのは智可かもしれなかった。 「宗春」 しばらくの沈黙のあと、口を開いたのは智可だった。 「本当のことを教えてほしい」 「二の君?」 「あの雨の日の客人の着物には、桐の紋がはいってた。もしや、あの人があの早坂明な のではないのか」 智可の言葉に被可と被沙は一斉に宗春に目を向けた。 「まことか?宗春」 「桐の紋をもった者を客人としてむかえたのか?」 宗春は暫くの間沈黙を守っていたが、やがて、静かに口を開いた。 「二の君さまの仰せの通りにございます。私の屋敷に早坂明どのはおられます」 智可と宗春以外のふたりがわずかに息を飲んだ。 そんななかで宗春は毅然として顔をあげると、真摯な瞳で主君をみた。 「そこで殿にお願いがございます」 わずかな動揺をはらんで被可は宗春を見つめ返す。 「私には子がありませぬゆえ、明どのを養子に迎えたいのですが、よろしいでしょうか 」 被可はわずかに目をみひらいた。ついで、暖かい笑みを口元に浮かべると、いつもの穏 やかな口調で宗春の問いに答えた。 「明が承知したらそれもよいのではないか、宗春」 「有り難き幸せ」 宗春はふかくふかく頭をさげた。 ☆ 宗春が屋敷にもどる頃には、もう夜の帳が空を包んでいた。 侍女に明の居場所を聞くと、彼は庭にいるとのことだった。 宗春は養子の件を承諾してもらうため、城にあがった時の直垂の装束のまま庭にむかっ た。 明は庭で星をながめている最中だった。宗春の姿に気づくと、軽く会釈して、ほんの りと微笑んでみせた。 「神月どの、今お帰りになられましたか」 「ええ。たった今」 宗春は微笑みながら続ける。 「貴方にどうしても承諾していただきたいことがあって参りました」 「私に・・?」 訝しむ明に宗春は率直にきりだした。 「私の後継ぎとして、これからは神月を名乗ってほしいのです」 突然のことに、明は大きく目を見開いた。 「・・何と、おっしゃいました・・?」 予想どおりの反応に、宗春はおもわず微笑んだ。 「ですから、私の子になっていただきたいのです」 明は戸惑うように視線を泳がせた。 「・・しかし・・私は・・」 「貴方のことは・・」 明の戸惑いを断つように宗春は口を開いた。 「すべて存じあげております。無実の罪を被せられていらっしゃることは勿論のこと」 明はハッと顔をあげた。 「なぜ・・?」 このひとは無実の罪だとこうもはっきり言い切ってくれるのか。 その思いを読み取ったらしい。 宗春は包みこむような暖かい微笑をうかべて明をみた。 「簡単なことです。目をみれば、わかります」 宗春は続ける。 「貴方は加害者どころか、むしろ傷ついておられた。主君の裏切りと両親の陰謀に」 「神月どの・・」 「私は貴方を裏切るような真似はしませんから。貴方に寂しい思いなんてさせませんか ら。信じられないと言われるなら信じてもらえるまで何度でも言いましょう。明どの、 私は・・」 「もう・・」 明の言葉が宗春をさえぎった。真摯な瞳が明をのぞきこむ。 「明どの?」 「もう、十分です」 明の頬を涙がつたった。 主君や両親にまで疎まれ続けた自分を欲しいといってくれるひとがいた。それだけで、 明には十分だった。 「もう、私には十分なんです。ほんとに・・・なんです」 明はかすれた声に精一杯の誠意をこめて次の言葉を紡いだ。 「神月どのの・・御意のままに・・」 最後は言葉にならなかった。 93・3・13 AM3:10 *「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「 * この物語はあくまでも私の空想の世界の歴史で、実際の日本史と似て異なる点が 多々あります。口語調の台詞が多いのもそのひとつです。悪しからず。 月境
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「空中分解2」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE