空中分解2 #2952の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
〜未だディズニーランドにだけは行こうとしないRちゃんに敬意を表して〜 「今度こそ彼氏と行くんだもん」と言いながら肝心の彼氏が出来なかったけれ どディズニーランドには行きたかったので、アヤノちゃんは高校の先輩だった 桃子を“夜行ポルカドット号ディズニーランド&東京フリータイムパック”に 誘った。長い名前で申し訳ない。桃子はミッキーマウスに凝ったことがないう え、今時の女の子にしては珍しくディズニーランドに行ったことのない人だっ たが「一度くらいは行ってもいいかな」ということでアヤノちゃんの誘いを軽 く受けた。アヤノちゃんと桃子はバスツアーだったから入場制限に引っ掛かる という最悪な事態は免れたが、それでもまず結論を言ってしまうのなら、日曜 日にディズニーランドに行く奴は馬鹿だ。 ふたりは入場と同時にとりあえずスペースマウンテン目指して駆けだした。普 段はボーリングくらいしか運動らしい運動をしない人達がこんなに走ることな んてめったにないのだが、走った甲斐あってたいして待つことなく乗ることが できた。実はそういう奴はたくさんいて、通勤アワーの駆け込みを彷彿させる 眺めだったりする。 その次に並んだのが、このビッグサンダーマウンテンの行列である。このビッ グサンダーマウンテン、すでに新着乗り物ではないが、未だ人気は高い。ふた りが列についたときにはすでにうねる大蛇のような行列であった。列は50メ ートル毎にうねり、その直径は大体四人分。ただし四人という単位については 入り口に差しかかるまではイイカゲンである。長さは見えるだけで十数回近く うねってあまりに長いので、アヤノちゃんと桃子には最後尾がどこなのかすで に見えなくなっていた。ちなみに二人はそのころ、ようやく列の三分の一ほど 進んだあたりに位置していた。ディズニーランド歴三回のアヤノちゃんの情報 によると、入り口から先のあの建物のなかでもあと六回ほどうねって、ようや く乗り物にたどり着けるという話であった。それを覚悟の上で来たアヤノちゃ んが先程から音を上げているのだから、覚悟して来たわけではない桃子はとう の昔に堪忍袋の緒も切れて、もうずっと黙ってうねる大蛇のような行列の先の ほうを見つめている。 先程からあまり列が進んでいかないのだ。それにしてはどの顔も案外堪えてな いようだった。アヤノちゃんと桃子の手前に位置する、餓鬼四人連れは座り込 んでゲームボーイに興じている。うしろに立っているミッキーマウスの耳つき 帽子をかぶった女の子とアライグマの毛皮(フェイクファー)の帽子をかぶっ た男の子の、高校生みたいなカップルが何かしゃべっていてときどき大きな笑 い声をあげる。いらいらしているのはアヤノちゃんと桃子くらいだった。どの 顔もこの炎天下に何だか楽しそうである。笑顔のうねる大蛇のような列はビッ グサンダーマウンテンだけで先程記したような有り様だった。ディズニーラン ドのあちこちでこの行列は存在するのだ。新しい乗り物スプラッシュシマウン テンとかスターツアーズなんて十キロくらいの長い長い行列になるらしいと、 風の噂で聞いたことがある。桃子はあれこれ考えているうちに気持ち悪くなっ てきた。それに比べるとアヤノちゃんはまだまだ元気で、後方のアベックが食 べているアイスキャンディーを見て 「そういえばおなかも空いたねえ。もうお昼になるよ」 と財布をもって随分遠くに走り去っていった。 5分ほどしてアイスキャンディーを両手にもちながら走ってきたアヤノちゃん に、前方を睨んでいた桃子が大きな声をだした。 「うわー・・・・ちょっとちょっと、アヤノちゃん、ま、前・・・」 「なによー恥ずかしいから大声出さないでよー」 アヤノちゃんが桃子の指さす方を見ると斜め前方の列の足元で、顔までは見え ないが抱き合っている裸の男女がいた。周りの人間はときどき「よくやるよな」 というような目をしたけれど関係ないようで相変わらず談笑していた。ぶつか らないようにさりげなくスペースが空けてあるものの、情事はクライマックス を迎えているようだった。子供連れのパパやママはさりげなく別方向のポップ コーン売りに、我が子の注意を向けさせたりしている。ざわめきと共に喘ぎ声 を聞きながら、桃子はぼんやりと呟いた。 「あ〜〜あ。あんな地べたでセックスしちゃって、背中擦りむくぞー、日に焼 けるぞー」 「やっぱしこーゆートコロはアベックで来るべきよね」 「・・・・そーゆー問題じゃないよーな気が・・・」 「ねえ、次はカリブの海賊に乗ろうか」 ふたりはなんとなく目を背けて、アイスキャンディーの包みをぴりぴりと破い て列の外に放り投げた。その瞬間“カタン”という小さな音がして、そちらを 向くと清掃要員のオバサンがキビキビと背中を向けて去って行く姿があった。 アイスキャンディーの包みはオバサンのチリトリに収まったのだが、アヤノちゃ んと桃子の目にはとまらないほどの素早い動きであった。さすがはディズニー ランド。先程のカップルはもうすでに衣服をつけて、周りと同じように談笑し ている。前にも後ろにも限りなく人が並んでいるから、アヤノちゃんと桃子は 列のどの辺りに位置しているのかだんだん分からなくなってきていた。しばら くしてからビッグサンダーマウンテンへ続く列は三歩ほど前進した。アイスキャ ンディーを食べながら、アヤノちゃんと桃子はてれてれと歩いて前へつめた。 そこへ彼がやって来たのだ。さざ波のように嬌声があがった。 「ミッキーマウスよっ!」 「うそおっ?!」 「ミッキーが来たみたいよ?」 「撮りたい、撮りた〜い。一緒に撮って〜」 「小崎クーン、カメラ、カメラ!!」 それを聞いたアヤノちゃんはぴょんぴょんと背伸びをして、かろうじて人に揉 みくちゃになっているミッキーマウスを見ることかできた。 「あーん、いいなあ、私もミッキーと撮りたいな〜・・・桃子はどうする?」 「私いい。でも、なんか取り囲まれてるみたいだよ」 ビッグサンダーマウンテンの列に引っ張りこまれたミッキーマウスはぬいぐる みの大きな頭を振りながら逃げている。必死だが表情のないミッキーマウスを 子供と若い女の子が取り囲んで我先に隣をキープしようとする。三編みをした 女の子が並んでピースをキメた。と思った瞬間、彼女は横にいたオバサンから 腕を引っ張られてバランスを失って頭から倒れた。ぎゃあっと物凄い悲鳴は桃 子の耳にもとどいた。先程女の子を倒したオバサンがカメラを構えて大きな声 をで言った。「はいっ、チーズっ!!」ミッキーマウスの両隣に子供が割り込 んで、タキシード模様の体にガシリとしがみつき、ニカッとスマイルをした。 揉みくちゃにされながらもミッキーの左腕のあたりを掴んでいた小学生の女の 子は力みすぎたのか、ベリリと彼の衣装を破いてしまい慌てている。破れた左 腕から人間の肌が見えてはいるがとにかく彼はミッキーマウスであるので、そ の間にもかなり醜い争奪戦は続いていた。 という細かい事情はアヤノちゃんと桃子には見えず、ただときどきミッキーマ ウスの大きな耳が列の中で翻弄されているのが見えていただけだった。 「いーなあ、私も撮りたい。ミッキーマウスってさぁ、人気あるからなかなか 会えないんだよー。前回行ったときは逃げられたもん。でもその前2回は一緒 に写真とった」 「アヤノちゃん、さっきドナルドダックと撮ってたじゃないの」 桃子は少し呆れて言った。アヤノちゃんは“分かってないなあ”という顔をし て外人のように大袈裟に首をすくめてみせた。揉みくちゃにされているミッキ ーマウスを眺めながら桃子はいった。 「私実は前にあのぬいぐるみ(かぶりもの)ミッキーマウスに追いかけられる 夢みてさ、それっきり苦手なんだよね。」 アヤノちゃんはくすくすと笑った。「変なの」 「それがさ、そのぬいぐるみミッキーマウスの群れが視界一杯にいるの。怖い よー、表情ないしさ。小さいさいころ流行ったYMOのLPジャケットみたい になって“ミッキ・マウス・ミッキ・マウス”って歌いながら、行列組んでく るの」 「ふぅん・・・・怖いかなぁ、それ・・・」 少し離れたポップコーン売りの機械の前で「白雪姫」の2番目の小人と「三匹 のこぶた」の頭の悪そうなのが少し寂しそうに立ちすくんで、ミッキーマウス の争奪戦を眺めていた。 それから列は十歩くらい進んだ。先ほどまで人込みに翻弄されていたミッキー マウスがアヤノちゃんと桃子たちのそばを逃げるように走り抜けようとした。 「あっあっ、ミッキー!!! 桃子っ、カメラ、カメラ。撮って撮って!!」 いきなり舞い上がったアヤノちゃんはムンズとぼろぼろになったミッキーマウ スの右手をとるとブイサインをきめた。私も私もと修学旅行らしきセーラー服 の中学生が左手をからめとる。またもビッグサンダーマウンテンの行列に囲み こまれたミッキーマウスは無表情なまま狂乱の渦に巻き込まれていくのだった。 ミッキーとの写真を三ショットもとれてすっかり気の済んだアヤノちゃんと桃 子は、列の中の騒ぎを少し避けて人ごとのように見つめていた。確かに人ごと だ。かんかんと照りつける太陽が人々の脳天を直撃している。ふたりはようや く行列の真ん中あたりに位置していた。アヤノちゃんがぽつりと呟く。 「ビッグサンダーマウンテンなんて乗っちゃえば十五分もないのにね」 桃子はうんざりして叫んだ。 「ひ〜。そうなの〜? 六時間も並んでるのに・・・」 嘘である。いや、アヤノちゃんはそうだと思っていたらしいが・・・・じつは このビッグサンダーマウンテン、たった四分のことなのである。ディズニーラ ンドに限らず、遊園地の乗り物とはそういったものである。まだまだ先は長い。 やはり日曜に来るようなところではないようだ。だが人生、結果ではないぞ。 完 死闘おみやげ編につづく というわけでRちゃん、毛嫌いにずに一度はいくべきよ。ディズニーランド フィクションだってば
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